ダウンロード 流れ学 I (12/21/2012, 誤植修正)

流れ学
同志社大学工学部
水島二郎
¾¼½¾ 年 ½¼ 月 ¾ 日
まえがき
流体の運動に関する知識は,機械工学における機器設計・開発に必要な基本
的な知識であるばかりでなく,航空工学・化学工学など幅広い分野においても
重要である.流れ学は,これら科学技術開発・産業分野での応用に必要な流体
力学や流体工学の基礎をなすものであり,機器の設計や土木・建築などにおけ
る流量評価・流体による力の大きさの推定などに応用することを目指している
ため,厳密な理論ではない.流れ学では,実際の応用面で役立つように実験や
観察結果を適切に近似する式を導く.したがって,これらの式の導出には深い
経験と洞察力が必要とされる.また,その式の中には実験や観察から求められ
た係数が含まれていることが多い.より厳密な理論は流体力学において流体運
動の基礎方程式を解くことにより導かれる.
¾¼¼
年
½¼
月 著者
目次
第 ½ 章 流体の基本的性質
流体の分類と連続体近似
½º½
½º½º½
流体の定義
流体の分類
½º½º¾
½º¾
単位と次元
½º¾º½
ËÁ 単位系
½º¾º¾
次元
½º¿
流体の基本的性質
密度
½º¿º½
½º¿º¾
応力と圧力
½º¿º¿
粘性とせん断応力
½º¿º
表面張力
½º¿º
気体の状態方程式
½º¿º
圧縮性と体積弾性係数
第 ¾ 章 流体の静力学
¾º½
静止流体の力学
圧力と投影面積
¾º½º½
静止液体中の圧力
¾º½º¾
¾º½º¿
圧力の表し方と単位
¾º½º
気体の断熱変化とポリトロープ変化
¾º½º
大気中の鉛直圧力分布
壁面に働く流体力と圧力の中心
¾º¾
¾º¾º½
平面壁に働く流体力と作用線
¾º¾º¾
曲面壁に働く流体力
浮力
¾º¿
¾º
パスカルの原理
液体の自由表面
¾º
½
½
½
¿
½¾
½
½
¾¼
¾¼
¾¼
¾¿
¾
¾
¾
¿½
¿½
¿
¼
¿
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¿º½
流れの分類
定常流と非定常流
¿º½º½
層流と乱流
¿º½º¾
非圧縮性流れと非圧縮性流れ
¿º½º¿
流れの表現
¿º¾
¿º¾º½
流れの記述
¿º¾º¾
流線と流管
連続の式
¿º¿
質量の保存則と連続の式
¿º¿º½
¿º
ベルヌーイの定理
ベルヌーイの式
¿º º½
¿º
流速と流量の測定
ピトー管
¿º º½
¿º º¾
ベンチュリ管
オリフィス板
¿º º¿
¿º º
水槽オリフィス
¿º º
せき
¿º
運動量および角運動量と流体力
¿º º½
運動量保存の法則
角運動量保存の法則
¿º º¾
第
第
¼
¼
½
½
¾
¼
½
¿
章 粘性流ß層流と乱流ß
運動している流体中に働く力
º½
º½º½
圧力とせん断応力
º¾
定常平行流中の圧力と粘性力のつり合い
º¾º½
2次元平行流
º¾º¾
3次元平行流
º¾º¿
軸対称流
º¾º
乱流の構造と渦粘性
章 管路流れと潤滑理論
º½
2平板間流れ
º½º½
2平板間流れの流速分布
º½º¾
2平板間流れにおける力のつり合い
潤滑理論
º¾
º¿
円管内流れ
¼
¼
¾
¿
½¼¼
½¼¼
½¼¼
½¼½
½¼¿
½¼
Ú
円管内流れの流速分布
º¿º¾
円管内流れにおける力のつり合い
円管内乱流の流速分布
º¿º¿
管路における圧力損失
管壁における摩擦応力による圧力損失
º º½
円管流入部における圧力減少
º º¾
º º¿
急拡大部における圧力損失
開水路流れ
º¿º½
º
º
第
第
第
第
½¼
½¼
½½¼
½½¿
½½¿
½½
½½
½½
章 物体表面に沿う流れ
º½
境界層
境界層の生成と性質
º½º½
º½º¾
境界層の遷移
º¾
平板境界層
º¾º½
境界層厚さの定義
境界層における質量の保存則と運動量の保存則
º¾º¾
º¾º¿
速度相似則と近似計算
º¾º
ブラジウス境界層
º¿
乱流境界層
½¾
章 流れと物体の相互作用
º½
流れの中の物体に働く力
º½º½
抗力と揚力
º½º¾
圧力と粘性摩擦力
º½º¿
運動量の保存則と物体に働く力
½¿
章 次元解析と相似則
次元解析
º½
バッキンガムの 定理
º¾
º¿
流れの相似則
½
章 流量と流速の測定法
オリフィス
º½
º¾
ノズル
º¿
せき
º
ピトー管
熱線流速計
º
½
½¾
½¾
½¾
½¾
½¾
½¾
½¾
½¿½
½¿¿
½¿
½¿
½¿
½¿
½
½
½
½
½
½
½
½
Ú
º
º
レーザードップラー流速計
ÈÁÎ 法 ´画像処理法µ
½
½
第 ½¼ 章 非粘性流
½¼º½ ラグランジュの方法とオイラーの方法
½¼º¾ 連続の式
½¼º¿ 非粘性流の運動方程式
½¼º¿º½ オイラー方程式
½¼º¿º¾ ベルヌーイの式
渦度と循環
½¼º
½¼º º½ 渦度
½¼º º¾ 循環
½¼º º¿ 渦度方程式とラグランジュの渦定理
½¼º
ポテンシャル流
½¼º º½ 速度ポテンシャル
½¼º º¾ 簡単なポテンシャル流
½¼º
¾ 次元非圧縮性渦なし流れと複素関数
½¼º º½ 複素速度ポテンシャル
½¼º º¾ 速度ポテンシャルと流れ関数の性質
½¼º º¿ 簡単な ¾ 次元ポテンシャル流れの例
½¼º
円柱周りの流れとダランベールのパラドックス
½¼º º½ 円柱周りの流れ
½¼º º¾ 物体に働く力とトルク ´ブラジウスの公式µ
½¼º º¿ 円柱周りに循環がある流れ
½¼º
等角写像
½¼º º½ 等角写像とは
½¼º º¾ ジューコフスキー変換
½¼º º¿ 平板を過ぎる流れ
½¼º º
ジューコフスキー翼
½ ¼
第 ½½ 章 渦
½½º½ 非粘性流体中の渦
½½º¾ ビオ・サバールの式
½½º¿ ¾ 次元渦糸
½½º
渦層とケルビン・ヘルムホルツ不安定
¾½½
½ ¼
½
½ ¼
½ ¾
½
½
½
½ ½
½
½
½
½
½ ½
½ ½
½
½
½ ¿
½ ¿
½
½
¾¼½
¾¼½
¾¼
¾¼
¾¼
¾½½
¾½¾
¾½
¾½
Ú
第 ½¾ 章 粘性流体
½¾º½ 粘性と応力テンソル
½¾º¾ ナビエ・ストークス方程式
½¾º¿ ナビエ・ストークス方程式の代表的な解
½¾º¿º½ 平面クェット流
½¾º¿º¾ 平面ポアズイユ流
½¾º¿º¿ レイリーの流れ
½¾º¿º
円筒間クェット流
円管ポアズイユ流
½¾º¿º
矩形管を流れる粘性流
½¾º¿º
½¾º
レイノルズの相似則無次元化
粘性流中の運動量の保存則と物体に働く力
½¾º
¾½
第 ½¿ 章 低・中程度レイノルズ数の流れ
½¿º½ ¾ 次元粘性流と流れ関数
½¿º¾ 低レイノルズ数の円柱を過ぎる流れ
½¿º¿ 中程度のレイノルズ数の円柱を過ぎる流れ
½¿º¿º½ 双子渦
½¿º¿º¾ カルマン渦列
½¿º
トロイダル・ポロイダル分解
½¿º
低レイノルズ数の球を過ぎる流れ
½¿º º½ 剛体球の場合
½¿º º¾ 気泡の場合
中程度のレイノルズ数の球を過ぎる流れ
½¿º
½¿º
一様流中に置かれた球に働く力
¾
第 ½ 章 境界層
½ º½ 境界層流
½ º¾ 平板境界層
½ º¿ 物体周りの境界層
½ º
回転円盤の境界層
エンストロフィーと渦度の保存則
½ º
½ º º½ 固体境界におけるエンストロフィー生成
½ º º¾ ¾ 次元流における循環の保存則
¾
¾½
¾¾¿
¾¾
¾¾
¾¾
¾¾
¾¿¾
¾¿¿
¾¿
¾¿
¾¿
¾
¾
¾
¾
¾
¾
¾ ¼
¾ ¼
¾
¾
¾
¾
¾
¾
¾ ¼
¾ ¾
¾ ¾
¾
Ú
第 ½ 章 流れの安定性
½ º½ 流れの不安定性と層流から乱流への遷移
½ º¾ レイリー・ベナール対流
½ º¾º½ 基礎方程式
½ º¾º¾ 線形安定性
½ º¾º¿ 弱非線形安定性
½ º¿ 解の分岐
½ º
一様流中に置かれた円柱を過ぎる流れの安定性
最近の円柱後流の安定性理論
½ º
分岐の分類
½ º
½ º
流れの安定性研究の今後の課題
¾
第 ½ 章 遷移と乱流
½ º½ 平面ポワズイユ流の遷移
½ º¾ 円管ポワズイユ流の遷移
½ º¿ 乱流の表現とレイノルズ応力
½ º
管内乱流の現象論
¿¼¿
第 ½ 章 付録
½ º½ 円筒座標系でのナビエ・ストークス方程式
½ º¾ 球座標系でのナビエ・ストークス方程式
¿¼
付録
ベクトル解析の公式
ベクトル演算子の定義とベクトル解析の公式
直角座標系
º¾º½
直角座標系でのベクトル演算の基本
º¾º¾
直角座標系でのナビエ・ストークス方程式
円柱座標系
円柱座標系でのベクトル演算の基本
º¿º½
º¿º¾
円柱座標系での連続の式とナビエストークス方程式
球座標系 ´極座標系µ
º º½
球座標系でのベクトル演算の基本
º º¾
球座標系での連続の式とナビエストークス方程式
¿¼
フーリエ級数展開
¿½
º½
º¾
º¿
º
付録
¾
¾
¾ ½
¾ ¿
¾
¾
¾
¾
¿¼¼
¿¼¾
¿¼¿
¿¼¿
¿¼¿
¿¼¿
¿¼
¿¼
¿¼
¿½¼
¿½¼
¿½½
¿½¾
¿½¾
¿½¿
¿½
¿½
¿½
½
第 ½ 章 流体の基本的性質
½º½ 流体の分類と連続体近似
気体と液体を総称して流体と呼び,その運動を調べる学問を流れ学または
流体力学という.液体と気体はいろいろな点で異なる物理的性質ももつが,
それらの運動を調べるときにはこれらを区別する必要はほとんどない.流
体力学では流れの場をできる限り厳密に調べようとするのに対して,流れ
学では工学への応用を目指す立場から複雑な流れの問題を実験や現象論を
用いて取り扱う.
½º½º½
流体の定義
物質の状態は固体・液体・気体の3つの相に分けられる。気体は電気的に中
立な分子からなっているときは単に気体というが,正の電荷をもつイオンと負
の電荷をもつ電子とに分離しているときはプラズマ と呼ぶ.液体と気体は小
さい力が加わっても容易に変形をする.これらの物質を容器に入れると容器と
同じ形に変形をする.容器の一部にあるときには,流れて,容器と同じ形にな
ろうとする.このため,液体と気体をまとめて,流体と呼ぶ.これに対して,
固体は小さい力を加えても容易には変形しない.
´ µ
´ µ
図
½º½
物質の3態の概念図.´
´ µ
µ
固体.´
µ
液体.´
µ
気体.
第 ½ 章 流体の基本的性質
¾
液体と気体の1番大きな違いは圧縮性である.液体は大きな力を加えてもそ
の体積はほとんど変化しないが,気体は比較的小さな力でも体積が変化する.
一般には,液体は圧縮されにくく,気体は圧縮されやすい.しかし,次に説明
するように,液体や気体の運動を調べるときには気体でもその圧縮性を無視す
ることができる場合や,液体でも圧縮性を考慮に入れなければならない場合も
ある.
流体の運動を調べるときには,連続体近似を用いる.連続体近似は固体の弾
性変形½ を考えるときにもしばしば用いられる.実際には,気体に限らず物質は
原子あるいは分子から成り立っている.固体の分子間距離は ¾ ¿ ½¼ ½¼ Ñ
であり,液体の分子間距離は,標準状態 ´½ ØѸ ¾¼Æ µ でおよそ ¾
¾
¿
½¼Ñ ¾ ¿ である.また,気体の例として空気を考えると,空気に
¿
½¼
½¼Ñ ¿
含まれている酸素や窒素の分子間距離は,標準状態でおよそ ¿
½¼
である.これらの分子間距離は工学で対象とする現象の長さスケールに比べ
て極めて小さい.したがって,分子や原子間距離に比べて非常に大きなスケー
ルの現象を取り扱うときには,連続体近似を用いることができる.この近似を
用いることを連続体仮説というº
連続体近似という考え方は,どのように小さなスケールの変形や運動を考え
るときにも,原子や分子のような物質を構成する要素を無視して,それらを平
均化した均一の物質がどんなに小さいスケールでも存在することを仮定してい
る.このことは,たとえば物質の密度を定義するときなどでも問題となる.物
質が存在している空間の微小体積 ÆÎ に含まれている物質の質量を ÆÅ とす
れば,その密度は
¢
¢
¢
Ð Ñ
ÆÎ
¼
ÆÅ
ÆÎ
´½º½µ
で定義されるが,この定義でも ÆÎ が非常に小さくなる極限を考える.このよ
うな極限では現実には原子や分子間距離だけでなく,原子よりも小さな長さス
ケールを取り扱うことになるが,連続体近似ではこのような小さなスケールで
も原子や分子を考慮しないことを意味している.
固体や液体の場合には,ほとんど常に隣合う分子間で相互作用が行われて
おり,運動量やエネルギーが均一になろうとしているが,気体の場合には,分
子はほとんどの時間はそれぞれ独立に自由に運動しており,衝突するときにの
み相互作用を行う.1度衝突してから次に衝突するまでに分子が進む距離を平
均自由行程と呼び,この衝突により,分子間の運動量やエネルギーが交換され
る.したがって,気体の運動の代表的な長さスケールは平均分子間距離ではな
く,平均自由行程である.気体の場合には,平均自由行程を ,流れの代表的
½ 固体に力を加えて変形したのち,力を取り除くと固体が変形する前の形にもどるとき,そ
の変形を弾性変形という.
第 ½ 章 流体の基本的性質
スケールを
Ä
¿
とすれば,その比
ÃÒ
´½º¾µ
Ä
をクヌーセン数と呼び,Ã Ò
¼ の極限で連続体近似が成り立つ.標準状態の
Ñ ほどであり,Ã Ò ½ でも連続体近似
空気で,平均自由行程は
½¼
が成り立つことが分かっているので,およそ ¿¼ ½¼ Ñ ¼ ¿ Ñ の小さな空
間スケールの運動でも連続体近似が正しいことになる.
連続体近似がなりたつとき,その考察の対象を連続体と呼ぶ.連続体とは,
流体のように微視的に見ると粒子の集まりであり,おのおの粒子が運動するこ
とで巨視的に空間構造が変形するものである. 一般に,弾性体と流体を連続
体と呼び,その力学を連続体の力学と呼ぶ.
¢
¢
¢
問 ½º½ 標準状態 ´¼ Æ ,½ 気圧µ における空気分子の平均自由行程は ¿ ¼
½¼
Ñ である.直径 ½ Ñ の円柱を過ぎる空気の流れを調べるとき,連続体
近似を用いることができるか.
½º½º¾
流体の分類
流体の運動を調べるときには,流体の性質によって調べ方が異なるので,流
体を分類することが重要である.ここで,流体の分類というときには,物質と
しての流体を分類しようとしているのではなく,流体の運動を分類しようとし
ているのである.その意味については,それぞれの分類について詳しく説明を
していこう.
一般に液体は圧縮するのに非常に大きな力が必要であり,気体は小さな力で
も圧縮できる.したがって,液体は非圧縮性流体であるといい,その運動を調
べるときには,圧力変化による体積の変化を無視することができる.また,気
体は 圧縮性流体であり,圧力変化による体積の変化を無視することができな
い.しかし,液体の運動であっても,非常に高速の運動を考えるときや音波の
伝播を調べるときには圧縮性流体として取り扱う必要がある.逆に,気体の運
動においても遅い流れを調べるときは圧縮性を無視することができる.圧縮性
を考慮に入れないといけないときの条件については次章で説明する.
流体が流れるとき,流れの場の中に速度の違いがあれば速度の違いを小さく
する方向に力を受ける.この力が粘性力であり,流体中で粘性力が働く性質を
粘性と呼ぶ.通常の流体には必ず粘性があり,その運動は粘性力の影響を受け
るが,流体が高速運動をしており,物体がまわりにないときは粘性力の影響が
第 ½ 章 流体の基本的性質
小さい¾ .そのような流体運動をするとき,その流体を完全流体または理想流
体と呼ぶ.これに対して,通常の流体を粘性流体粘性流体という.粘性流体は
ニュートン流体と非ニュートン流体に分類できるが,その違いについては後に
説明する.流れ学の範囲では流体運動を非粘性流れと仮定して,考えることも
多い.ただし,物体に働く抵抗や管路内流れの圧力降下を議論するときには粘
性の影響を考慮する.したがって,流れ学を学ぶときには,場合に応じて仮定
が異なっていることも多いので,そのことを十分注意する必要がある.
表
量 力
圧 力
エネルギー,仕事,熱量
仕 事 率
½º½
ËÁ
単位系
ËÁ 組立単位 Æ ´ニュートンµ
È ´パスカルµ
 ´ジュールµ
Ï ´ワットµ
基本単位表示
Ñ
¡
¾
»×
¾
Æ»Ñ
¡
Æ Ñ
»×
問 ½º¾ 流体と固体の性質で一番大きな違いは何か.また,液体と気体を区別す
る性質の違いは何か.
½º¾ 単位と次元
現在,科学・工学・技術・産業分野では広く ËÁ´国際µ 単位系が使われてい
る.また,単位と深くかかわった概念として次元という概念があり,いく
つかの物理量の間の関係や法則あるいは方程式を考えるときに大切な概念
である.
½º¾º½
ËÁ 単位系
すべての物理量は単位をもつ.過去には¸ これらの単位として,長さ・重量・
時間の基本単位に Ñ・ ・× を用いる × 単位系や Ñ・ ・× を用いる ÅÃË 単
位系または ÅÃË 単位系に電流 ´ µ を加えた ÅÃË 単位系も混在して使われ
¾ 液体ヘリウムは超流動性をもつ場合がある.このときは液体ヘリウムの粘性は ¼
である.
第 ½ 章 流体の基本的性質
た.現在では,科学・技術・教育・産業分野において広く ËÁ 単位系が使われ
ている.ËÁ とは国際単位系 ´Ä ËÝ×Ø Ñ ÁÒØ ÖÒ Ø ÓÒ Ð ³ÍÒ Ø ×µ の略称であり,
ËÁ 単位系は ÅÃË
単位系を拡張した単位系である.
ËÁ 単位系では,長さを表すメートル ´Ñµ¸ 重さのキログラム ´
µ¸ 時間の秒
´×µ¸ 電流のアンペア ´ µ¸ 温度のケルビン ´Ãµ¸ 物理量のモル ´ÑÓе¸ 光度のカン
デラ ´ µ の つの単位を基本単位として,すべての物理量はこれらの基本単
位または基本単位の組み合わせ ´組立単位µ で表現される.表 ½º½ はいくつかの
組立単位の例である.たとえば,力の単位は Æ ´ニュートンµ という組立単位
であるが,基本単位で表すと Ñ »×¾ となる.
¡
表
倍 数
½¼
½¼
¿
½¼
¾
½¼
½
½¼
接頭語 ギ ガ
メ ガ
キ ロ
ヘクト
デ カ
½º¾
ËÁ
記 号
Å
接頭語
倍 数
½
½¼
¾
½¼
¿
½¼
½¼
½¼
接頭語 デ シ
センチ
ミ リ
マイクロ
ナ ノ
記 号
Ñ
Ò
物理量を ËÁ 単位系で表したとき,その数字が大きな数字であったり,小さな
数字であったりするが,人間に理解しやすい大きさの数字で表したいときには,
ËÁ 接頭語 ´表 ½º¾µ を用いる.ËÁ 接頭語を用いる表示は数学における浮動小数点
表示 ´½¼½¿º¾ ½º¼½¿¾ ½¼¿µ とよく似ている.たとえば,1気圧 ´½ Øѵ はし
ばしば ½¼½¿º¾ È と表される.これは以前には1気圧を ½¼½¿º¾
Ö ´½
Ö
½
È µ と表していたときと同じ数字になるように工夫した表現法である.
¢
½º¾º¾
次元
次元と単位とはしばしば混同される概念である.ある物理量 をいくつか
« ¬ ­
の基本的な物理量 ¸ ¸ ¸
の組み合わせで,
´
は定
数µ と表せるとき,«,¬ ,­ ,
を の次元と呼ぶ.このとき,物理量 の
«
¬
­
«
¬
­
次元を
と表し,
となる.たとえば,
ある式
¡¡¡
¡¡¡
¡¡¡
¡¡¡
½
¡¡¡
¾·
¿
´½º¿µ
において,左辺の ½ も右辺の ¾ と ¿ も同じ次元をもつことはいうまでも
ない.一般に物理法則は式で表される.式には加減乗除の演算記号が含まれる
第 ½ 章 流体の基本的性質
が,同じ次元の量同士でなければ加減算を行うことはできないから,式の左辺
と右辺や,それぞれの項は同じ次元でなければならない.これを次元の斉次性
の原理,あるいは同次元の法則と呼ぶ.このことを利用して,いろいろな物理
量が他の物理量とどのような関係をもつか推定したり,あるいは決定できるこ
とがある.これを次元解析という.
力学や流体力学などでは,基本的な物理量として,質量 Å と長さ Ä と時
間 Ì の3つの基本量を用いる.このとき,たとえば,速さまたは速度 Ú は長
さ Ä と時間 Ì により
Ú
ÄÌ
½
Ä
´½º µ
Ì
¿
のように表される.流れ学や流体力学でよく使われる物理量には密度
Ȅ
¿ µ,温度
´
ÅÄ
à ´
à ,このように温度を基本物理量に用
¾
½ Ì ½ µ,運動量 ÄÑ Ñ »×
いることもあるµ,圧力 È Æ»Ñ ´ È
ÅÄ
½ µ,角運動量 ÅÑ Ñ¾ »× ´ ÅÑ
¾ ½
´ ÄÑ
Å ÄÌ
ÅÄ Ì
µ などがある.
これらの物理量については次節以降で詳しく説明する.
次元解析の例として,水中にある物体に働く浮力がどのような式で表される
か調べてみよう.水中の物体に働く浮力 はその質量には無関係で体積 Î と
水の密度 および重力加速度 によって決まると考えられる.浮力の次元は
¾ であり, Î
¿
¿ ,
¾ なので,これ
Å ÄÌ
Ä ,
ÅÄ
ÄÌ
らの物理量の間に関係
¡
¡
« ¬
があるとすれば,
Å ÄÌ
¾
Î
­
´½º µ
¿ µ« ´ÄÌ ¾ µ¬ ´Ä¿ µ­
´Å Ä
´½º µ
が成り立つので,Å ,Ä,Ì の各次元が等しいとおくと,«
½ , ¾¬
¾ が得られる.これらの式を連立して解くと,«
となり,関係
»
½
, ¿« · ¿­ · ¬
½,¬
½,­
½
´½º µ
Î
が求められる.
問 ½º¿ エネルギーの単位は Â(ジュールµ で表されるが,½
を示せ.
Â
の定義とその次元
問 ½º
速さ ¾¼ Ñ»× で飛んできた質量 ¾
の物体に ¼ ½ × 間力を加えることで
静止させるにはどのくらいの大きさの力を要するか.
問 ½º
水平面内を速さ ½¾¼ Ñ»× で半径 ¿ Ñ の円運動をしている質量 ¿
体がもつ円の中心点まわりの角運動量はいくらか.
の物
第 ½ 章 流体の基本的性質
½º¿ 流体の基本的性質
流体がもつ基本的物理量には,密度・圧力・温度・速度などがある.流体
内部のある点に働く力を考えるときは,その点を含む適当な面をとり,面
内の単位面積あたりに働く力を調べる.これを応力と呼ぶ.応力は圧力と
せん断応力に分解することができる.このときのせん断応力は粘性力であ
る.異なる2種の流体の界面には表面張力が働く.
½º¿º½
密度
単位体積中に含まれる物質の質量を密度といい,その単位は »Ñ¿ である.
標準大気圧 ½ ØÑ ´½ ¼½¿ ½¼ È µ においては,水の密度 は Æ ´¾ õ
で最大であり,½¼¼¼ »Ñ¿ である.現在使用されている の単位は元来, Æ
¿
における ½
´
Ñ µ の水の質量を ½
として決められたのである.表 ½º¿º½
のように,水の密度は温度が変わってもあまり変化することはなく,沸騰する
¿
Æ における密度との差
寸前の ½¼¼Æ
´¿ ¿ õ でも
»Ñ であり,
はおよそ ± である.単位質量の物質が占める体積を比体積といい, Ú ½
¿
Ñ »
で表わす.すなわち,密度と比体積とは互いに逆数の関係にある.
¢
表
温 度
Ȅ
問 ½º
¿
½º¿
水と空気の密度(標準気圧
℃ 水 空 気
¼
½¼
º
½º¾ ¿
½
º
½º¾
½º¿º¾
¾¼
º½
½º¾¾
標準気圧 ´½¼½¿ È µ において,½ Æ
その体積の増加率を求めよ.
½¼½¿
º¾
½º¾¼
の水
½
È
¼
¼
¼
½¼¼
¾º¾
¿º¾
½º
º
½º½¾
を
)
½º¼ ¼
Æ
¼
½º¼¼¼
¼º
に暖めるとき,
応力と圧力
流体に限らず連続体の内部あるいは境界面に働く力について考える.連続体
内部のある点に働く力を調べるときにはその点を通る面を考える.面積 Ë の
第 ½ 章 流体の基本的性質
小さな面に働く力の大きさを
とするとき,単位面積に働く力
´½º µ
Ë
を応力といい,その単位は È ´ ƻѾ ,パスカルµ である.もう少し正確に
説明しよう.小さな面の単位法線ベクトル Ò を定義し,ベクトル Ò の始点側
をこの面の裏と呼び,終点の側を表と呼ぶ ´図 ½º¾µ.この面に働く力 とは表
側の物体 ´または流体µ が裏側の物体に及ぼす力を意味する.面内のある1点
に働く応力を厳密に定義するときは,
Ð Ñ
Ë ¼
´½º µ
Ë
のように,面積 Ë を小さくしたときの,比
Ë の極限を応力とみなす.
応力はベクトルであり,面に垂直な方向成分である法線応力
と面に平行
な方向成分である接線応力
に分解することができる.図 ½º¾ のように,力
を
Ò · Ø のように分解すると,
Ë,
Ë である.
一般に,1つの点であっても,応力は面の方向と向きによって異なる.
Ò
Ë
Ø
図 ½º¾ 応力の定義.垂直応力
Ë ¸ 接線応力
の単位法線ベクトル.Ø は単位接線ベクトル.
Ë
.Ò は面
Ë
静止した流体の場合には,面に垂直に働く力は面を挟んで押し合う力のみ
である.したがって,静止流体中での垂直応力は圧力と呼ばれ,その大きさ
は面の方向と向きによらない.したがって,静止流体中の圧力を Ô とすると,
¿
Ô である .静止流体中では,接線応力は働かないが,運動している流
体中では接線応力も生じる.接線応力は流体が粘性をもっていることと,流体
運動に速度の勾配があることによって生じる.
静止流体中では,ある面を挟んで互いに押し合う力は圧力のみであり,図 ½º¾
において
は負の量であるから,È
と表して,これを面 Ë に働く全
¿ ある面に働く垂直応力
は面の表側の流体が裏側の流体に及ぼす力の法線方向成分
と面積 Ë の比であり,面の表側の流体が裏側の流体に引っ張り力を加えるとき,正 ´
¼µ
としていることに注意.
第 ½ 章 流体の基本的性質
圧力と呼ぶ.したがって,圧力 Ô と全圧力 È との関係は Ô È Ë である.全
¾ である.また,
圧力の単位は力と同じ Æ であり,その次元は È
Å ÄÌ
圧力の単位は ƻѾ であり,次元は Å Ä ½ Ì ¾ である.
問 ½º
あるビルの屋上の広さは ¾¼¼ Ѿ であり,大気圧が働いている.この屋
上に働く大気圧の合力を求めよ.また,この力は何
の物体に働く重
力に相当するか.
½º¿º¿
粘性とせん断応力
流体運動が速度勾配をもつときには,流体がもつ粘性という性質によって応
力が生じ,これを粘性力と呼ぶ.粘性力は摩擦力であり,流体運動を空間的に
一様な運動にする方向に働くので,せん断応力ともいう.粘性力はベクトルで
あり,面に接線方向だけでなく,垂直方向成分ももつ.また,その大きさは考
える面の方向によって異なる.
´ µ
´ µ
Ý
Ý
Í
Í
Ù´Ý µ
Ù´Ý ·
ݵ
Ù´Ý µ
図
½º¿
Ü
Ç
Ü
Ç
流れ場と接線応力.´
µ
2平板間流れ.´
Ü
µ
境界層流れ.
ここでは,最も簡単な場合について考えてみよう.図 ½º¿´ µ のように,間隔
Ñ 離れた2枚の平行平板間に流体が満たされている.上の平板を下の平板
に平行に速度 Í Ñ»× で動かす.図のように座標をとると,流体の流速 Ù´Ý µ
Ñ»× は
Ù´Ý µ
Í
Ý
´½º½¼µ
となって,その速度分布は Ý について線形である.平板に平行な任意の面に
ついて,せん断応力
È
は速度勾配 に比例しており,
Í
´½º½½µ
のように表すことができる.ここで, は比例定数であり,粘性係数または粘
度と呼ばれる.この場合には,速度勾配は座標 Ý によらず一定なので,せん
第 ½ 章 流体の基本的性質
½¼
断応力も一定である.流体内で平板に平行な面をとればその面の上側の流体が
下側の流体に及ぼすせん断応力は式 ´½º½½µ で表される であり,逆に下側の
流体が上側の流体に及ぼすせん断応力は
である.また,平板境界面での速
度勾配も Í なので,流体が下側の平板に及ぼすせん断応力は であり,上
側の平板に及ぼすせん断応力は
である.
表
温度
水
空気
水と空気の粘性係数
½º
℃ È
¡
×
¾
Ñ »×
È
¡
×
¾
Ñ »×
¼
¿
½º
¾¢½¼
½º
¢½¼ ½ º¾¿¢½¼
½¿º¿¿¢½¼
と動粘性係数
½¼
¿
½º¿¼ ¢½¼
½º¿½¼¢½¼
½ º ¾¢½¼
½ º¾½¢½¼
¾¼
の値 ´標準気圧µ
¿
½º¼¼ ¢½¼
½º¼½¼¢½¼
½ º¾½¢½¼
½ º½¾¢½¼
¿¼
¿
¼º ¼¼¢½¼
¼º ¼ ¢½¼
½ º
¢½¼ ½ º¼ ¢½¼
¼
¼º
¼º
½ º½
½ º
もう少し一般的な場合として,流速が線形速度分布をしていない場合を考え
よう.図 ½º¿ ´ µ は1枚の平板を過ぎる流れである.この場合には,平板上で
流速が ¼ であり,ごく薄い層の外側では流速は Í である.このような薄い層
を境界層と呼ぶ.流れはほぼ平板に平行で,流速の Ý 成分 Ú は小さい.流速
の Ü 成分 Ù は Ü と Ý の関数であり Ù´Ü Ý µ と表されるが,ある Ü Ü½ での
断面を考えると Ù は ٴܽ Ý µ Ù´Ý µ と表せる.このとき,平板に平行な面に
働くせん断応力 は速度勾配 Ù Ý に比例して
Ù
´½º½¾µ
Ý
となる.平板上における速度勾配を ´ Ù Ý µ¼ と表すと,平板が流体に及ぼす
せん断応力は
´ Ù
Ý µ¼ となる.もちろん,流速が式 ´½º½¼µ のように線
形であるときはこの式を式 ´½º½¾µ に代入すると,せん断応力は式 ´½º½½µ のよう
になる.式 ´½º µ のようにせん断応力と速度勾配が比例する流体をニュートン
流体と呼び, それ以外の流体を非ニュートン流体という.
粘性係数 の単位は Æ ×»Ñ¾ ,すなわち È × である.これを × 単位系
になおすと »´ Ñ ×µ となるが, ½ »´ Ñ ×µ を ½ È ´ポワズµ ともいう.すな
わち,½ È ¼ ½ È × である.粘性係数の大きさは流体の粘りの強さを表して
いるが,今後,流体運動を調べるときには,粘性係数よりも動粘性係数の方が
重要となる.動粘性係数 は粘性係数 と密度 の比であり,
¡
¡
¡
¡
¢
¢
¢
¢
¿
¡
´½º½¿µ
¿
½¼
½¼
½¼
½¼
第 ½ 章 流体の基本的性質
½½
´ µ
´ µ
¢
½¼
¢
¿
¾
½¼
¿
½
¾
½
Ç
¾¼
¼
Ì
図
Æ
¼
¼
½¼¼
Ç
¾¼
¼
Ì
Æ
¼
¼
½¼¼
粘性係数の温度依存性 ´水と空気µ.標準気圧.
½º
で表わされる.動粘性係数は流れの中で物体が運動するときに,物体が流体か
ら受ける粘性の影響の大きさを表している.動粘性係数 の単位は Ѿ »× で
ある.表 ½º は標準気圧 ´1気圧,½¼½¿º¾ È µ における水と空気の粘性係数と
¿
動粘性係数の値である.この表で,¾¼Æ における水の粘性係数
½ ¼
½¼
を比べてみると水の粘性係数の方が空気よりも約 ¼
と空気の
½
½¼
倍大きいが,動粘性係数は水の方が空気よりも小さく,約 ½»½ である.した
がって,空気中を飛ぶ鳥や昆虫は水の中を動く動物よりも粘性の影響をより大
きく受けることになる.
¢
¢
´ µ
´ µ
図
½º
粘性力の起源.´
µ
液体.´
µ
気体.
図 ½º から分かるように,空気の粘性係数は温度が高くなるとほぼ線形に大
きくなるが,水の粘性係数は,温度の上昇とともに小さくなる.これら2つの
物質で粘性係数の性質の違うのは空気と水では粘性が生じる原因が異なるから
である.空気の場合には,衝突時を除けば分子が自由に運動をしており,分子
間相互作用が無視できるため,ある平面におけるせん断応力は分子の移動に伴
第 ½ 章 流体の基本的性質
½¾
う運動量の交換に起因して粘性が現れる.すなわち,分子が熱運動によって平
面の一方から他方に入ってくるとき,その平面を境に平均流速が異なっていれ
ば,運動量の交換が起こる.単位時間あたりに受け取る運動量は力に等しく,
これが粘性力である.一方,液体の場合には,分子は常に引き合う力を及ぼし
合っており,ある平面を境に流速が異なるときには,この引き合う力が粘性と
なって現れる.
問 ½º
半径 Ö½ の金属製の回転軸が,半径 Ö¾ の円筒状の軸受けの中で角速度
で回転しており,その間には粘性率 の潤滑油が満たされている.静止
している軸受けの中で金属製の軸を回転するのに必要なトルクと仕事率
を求めよ.ただし,軸受けと軸とが接している部分の長さは であると
し,軸と軸受けの間隙 Ö¾ Ö½ は Ö½ に比べて非常に小さく,流体の周速
度
½º¿º
Ú
は近似的に Ú
Ö½
½
¾
Ö
Ö
Ö½
Ö½
と表すことができる.
表面張力
水をガラス板の上に静かに垂らすと,水滴は球面に近づこうとする.特に,
水滴が自由落下するときには球に近い形となる.また,水を入れたシャーレー
に細いガラス管を立てるとガラス管内の水面は外の面よりも高くなる現象が
ある.これを毛細管現象という.これらの現象は,図 ½º のように,水などの
液体が気体と接している面において長さ の線分を考えたとき,この線分の
両側からお互いに引き合う力 が働いていると考えるとうまく説明ができる.
このとき,単位長さあたりに引き合う力
を表面張力という.したがって,
その単位は Æ»Ñ である.
図
½º
表面張力.液体の表面に働く単位長さあたりの力.
表面張力が生じる原因の説明は簡単ではない.液体の分子間には引き合う力
´凝縮力µ が働いており,その表面積を小さくする傾向がある.これが表面張力
の起源であり,液体内部では分子間力は四方八方に働いていて,それらが釣り
合っているが,表面近くの分子は内部からは引っ張り力が働くが,表面より外
第 ½ 章 流体の基本的性質
½¿
側からは引っ張り力が働かない.分子がお互いに引き合っているとき,エネル
ギーは低い状態にあるが,液体表面では片側しか引き合う力がないのでエネル
ギーが高い状態にある.液体はなるべくエネルギーの小さな状態になろうとす
る.このときに発生する力が表面張力である.
図
½º
表面張力.液体の表面を広げるのに必要な力.
思考実験を行ってみよう.思考実験とは高度な技術や特殊な条件を必要とし
て現実に行うのには困難を伴う実験である.図 ½º のように, コ³ の字形の針
金の平行な2辺の上を端辺と平行に滑らかに動く細い棒をつけて,できた長方
形の領域に液体の膜を作る.この細い棒を引っ張るのに必要な力の大きさ は
表面張力を Ì Æ»Ñ とし,棒の長さを すると
¾ Ì と表せる.ここで,
係数 ¾ は液体表面は膜の表と裏に2面あることによる.また,この棒を距離 ×
だけ引っ張るのに要する仕事は Ï
¾ ×Ì である.このように,表面張力に逆
らって仕事をしたときは,流体の表面にエネルギーが蓄えられることになる.
水滴は球形になったときにその面積がもっとも小さくなる.力が加わって球形
からゆがむと,表面積が増えるのでその分だけのエネルギーが増加する.実際
に表面張力の大きさを測るときは細い管からゆっくりと液体を押し出して,液
滴が管から離れるときの液滴の半径から表面張力の大きさを計算する.表面張
力の大きさは表 ½º のように,水が空気と接しているときで Ì
¼ ¼ ¾ Æ»Ñ
である.
液体の表面が曲率をもつときは,表面張力が現象として現れる.身近に見ら
れる表面張力に関係した現象に毛細管現象がある.図 ½º のように液体中に細
い管を鉛直に立てると液体は管の中を上昇または下降する.これを毛細管現
象という.空気中でガラス管と水を用いた実験では,液体は管の中を上昇し,
その表面は中央で低く,ガラス管の管壁で高くなる.このときの管内の水面の
形をメニスカス ´凹面µ という.
毛細管現象 ´図 ½º µ における液の高さ は 表面張力の引張力 ¾ ÖÌ Ó× と
液体に働く重力 Ö ¾
のつりあいを考えると
Ö
¾
¾
ÖÌ
Ó×
´½º½ µ
第 ½ 章 流体の基本的性質
½
¾Ö
図
½º
Ì
毛細管現象.液柱に働く重力と表面張力が釣り合う.
となる.ここで,Ö は管の半径,Ì は表面張力, は接触角である.したがっ
て,液の高さ は
¾Ì
Ó×
´½º½ µ
Ö
と表される.水やアルコールが空気中でガラス管と接するとき,接触角 はほぼ
Æ
¼ である.水銀が空気中でガラス管に接する場合には接触角が
½¿¼
½ ¼
なので,水銀はガラス管の中を下降する.
Í´
µ
Í
Í
Ç
ͼ
· ÍÌ
¼
ÍÌ
図 ½º 水がもつポテンシャルエネルギー.Í は重力によるポテンシャルエネ
ルギー.ÍÌ は表面張力によるポテンシャルエネルギー.
容器中の水に細いガラス管を差すとガラス管内部を水が上昇する.なぜ,水
は重力に逆らって上昇するのだろうか.水がもつポテンシャルエネルギーを評
価することにより,その機構について考えてみよう.ガラス管を水面に差し込
んだ直後は,図 ½º の はゼロである.このときに水がもつポテンシャルエネ
ルギー Í を基準として Í ¼ とおく.水がもつポテンシャルエネルギー Í は
第 ½ 章 流体の基本的性質
½
重力によるポテンシャルエネルギー Í と表面張力によるポテンシャルエネル
ギー ÍÌ の和である.ガラス管の半径は Ö で,水の密度は であるとすると,
ガラス管内の水面が となったときに水がもつ重力によるポテンシャルエネ
¾ ¾
ルギー Í は水柱の重心が ¾ の高さにあることを考えると,Í
Ö
¾
となる.また,表面張力は重力とは逆に鉛直上向きに働くので だけ水面が
上昇するとき,¾ ÖÌ の仕事をするので,ポテンシャルエネルギー ÍÌ は負の
値をもち,ÍÌ
¾ ÖÌ
と表される.したがって,水がもつポテンシャルエ
ネルギー Í は
Í´
µ
Í
· ÍÌ
½
Ö
¾
¾ ¾
¾
ÖÌ
Ó×
´½º½ µ
となる.このときの,水面の高さ とポテンシャルエネルギーの関係を図に
すると,図 ½º のようになる.Í ´ µ が最小値をもつのは Í ´ µ
¼ のと
きなので,Í ´ µ を で微分して,
Í´
µ
Ö
¾
¾
ÖÌ
Ó×
´½º½ µ
となり, Í
¼ より,式 ´½º½ µ が導かれる.すなわち,この式で表され
る水面の高さが水のもつポテンシャルエネルギー最小の位置であり,最も安定
な位置である.
表
½º
液体の表面張力(¾¼ ℃)
液 体 水
水 銀
水 銀
メチルアルコール
問 ½º
表面流体
空 気
空 気
水
空 気
Æ»Ñ
¼º¼ ¾
¼º
¼º¿ ¾
¼º¼¾¾
図 ½º のように,水の入った器に半径 ¾ ÑÑ のガラス製の細管を立てる
と,ガラス管内の水面は外部の面よりもどれだけ高くなるか調べよ.た
だし,ガラスと水面の接触角は ¼Æ とし,表面張力の大きさ Ì は ¼ ¼ ¾
Æ»Ñ とする.
問 ½º½¼ 空気中を落下している液滴あるいは浮遊している液滴はその表面積 Ë と
表面張力 Ì との積の大きさのポテンシャルエネルギーをもっていると考
第 ½ 章 流体の基本的性質
½
えることができる.液滴の形が回転楕円体であると仮定して,液滴がも
つ表面張力によるポテンシャルエネルギーが最小値をもつ条件を求めよ.
ただし,液滴の体積 Î が一定の条件のもとで調べること.
½º¿º
気体の状態方程式
極端に高圧の気体や低温の気体を除く通常の気体ではボイルの法則とシャル
ルの法則が良い近似で成り立つ.温度が一定のとき,気体の体積 Î は圧力 Ô
に反比例し,その積は一定であるというのがボイルの法則である.すなわち,
一定の温度 Ì Ã のもとで,圧力 Ô½ のとき気体の体積が ν で,圧力を Ô¾
にしたとき体積が ξ になれば,Ô½ Î ½ Ô¾ ξ の関係がある.シャルルの法則
は圧力一定のもとでは,気体の体積は絶対温度に比例することを表している .
すなわち,一定の圧力 Ô に保って温度 ̽ の気体を温度 ̾ にしたとき,その
体積が ν から ξ に変化したとすれば,ν ̽
ξ ̾ の関係がある.これ
らのボイルの法則とシャルルの法則をまとめて,ボイル・シャルルの法則とい
い,この法則に厳密に従う理想的な気体を考えて,これを理想気体と呼ぶ.す
なわち,Ò モルの理想気体の体積を Î Ñ¿ ,圧力を Ô È ,温度を Ì Ã と
すれば,
ÔÎ
´½º½ µ
ÒÊÌ
の関係がある.ここで,Ê は気体の種類によらず一定で,その値は Ê
¿½
»´ÑÓРõ である.式 ´½º½ µ で Ô と Ì は気体のモル数あるいは量に関係しな
い物理量で,このような物理量は示強変数とも呼ばれる.一方,Î はモル数あ
るいは量に正比例する物理量で,示量変数と呼ばれる.したがって,式 ´½º½ µ
の左辺はモル数に比例した物理量である.流れ学では,Ò モルの気体を考える
代わりに ½
の気体を考えることが多くまた便利でもある.そのときには,½
あたりの体積すなわち比体積 Ú Ñ¿ »
を用いて,ボイル・シャルルの法
則を
¡
ÔÚ
´½º½ µ
ÊÌ
¡
と表わす.ここで,½ あたりの気体定数 Ê Â»´ õ は物質により異なる
値をとる.ここで,Ê と Ê の関係を求めておこう.分子量 Å の気体 ½ ÑÓÐ
の質量は Å
なので,½
の気体は ½¼¼¼ Å ÑÓÐ である.また,その体積
¿
は Ú Ñ であるから,これらを状態方程式に代入し ÔÚ ´½¼¼¼ Å µÊÌ を得
る.この式と式 ´½º½ µ を比較すると,Ê Ê ½¼¼¼ Å の関係が導かれる.空
気は単一の種類の分子から成る気体ではないが,その組成から換算すると分子
¢
絶対温度 Ì Ã と摂氏温度 Ø
Æ
との間には Ì
Ø · ¾ ¿ ½ の関係がある.
第 ½ 章 流体の基本的性質
量
õ
½
の分子に相当する.したがって,空気の気体定数 Ê はおよそ ¾
となる.
¾
»´
問 ½º½½ 空気は主に分子量 ¾ の窒素 ƾ と分子量 ¿¾ の酸素 Ǿ から成り,その
Æ の空気の比体
比率はおよそ
½ である.標準気圧 ´½ Øѵ での ¾¼
積 Ú を求めよ.
½º¿º
圧縮性と体積弾性係数
圧力 Ô において体積 Î である流体にさらに圧力を加えて Ô · ¡Ô としたと
き,流体の体積が Î · ¡Î ´¡Î
¼µ となったとするとき,圧力の増加 ¡Ô が
Ô に比べて小さければ,体積変化率
¡Î Î は ¡Ô に比例すると考えられる.
その比例間関係を
¡Ô
Ã
¡Î
Î
´½º¾¼µ
と表すとき,比例係数 Ã È を体積弾性係数と呼ぶ.また,その逆数 ½ Ã を
¿
圧縮率という.¾¼ Æ ,½ ØÑ における水の体積弾性係数は Ã ¾ ¼
½¼
ÅÈ
である.すなわち,1気圧の水を加圧して2気圧にしたとき,その体積
変化率 ¡Î Î は ¼ ¼ ± である.このように水は圧力が変化しても体積はほと
んど変化しない.したがって,圧縮性がない流体すなわち非圧縮性流体として
近似的に取り扱われることが多い.ただし,圧縮性がいかに小さくてもその効
果を考慮しなければならない現象もある.たとえば,水中を伝わる音を考える
ときには圧縮性を考慮に入れる必要がある.
気体の体積弾性係数は圧縮するときの条件により大きく異なる.気体の量を
どのように選んでも体積弾性係数は同じなので,1モルの気体について考え
よう.気体を圧縮する速さが非常にゆっくりとしているときは,考える1モル
の気体全体にわたって温度が一定で,しかもまわりの温度 ´外気µ と同じ一定
の温度に保たれることがある.このように温度を一定にして気体の状態変化
を考えるとき,定温変化と呼ぶ.定温変化では,式 ´½º½ µ で Ò ½ とおいて
ÔÎ
ÊÌ
´ は定数µ である.ここで Î は気体1モルの体積である.これ
とは逆に,圧縮変化が一瞬で終わるようなときは,いかに容器が熱伝導性の良
い材質でできていても気体はまわりと熱を交換する時間がないので,まわりと
気体との熱の交換がないと近似できる.このような変化を断熱変化と呼ぶ.断
熱変化においては,ÔÎ ­
´ は定数,­ は定圧比熱 Ô と定積比熱 Ú の比,
すなわち,­
Ô Ú µ の関係がある .一般には,気体の状態変化はこの両極
¢
1原子分子理想気体では ­
¿ であり,2原子分子理想気体では ­
である.
第 ½ 章 流体の基本的性質
½
端の場合の中間にあるとして ÔÎ Ò
と仮定する.このような変化はポリト
ロープ変化と呼ばれる.
1モルの気体の体積 Î を用いて,式 ´½º¾¼µ を微分形で
Ã
と書く.気体の圧力と体積の関係を
ると,
Ô
Î
Ô
Î
Ô
Ò Î
´½º¾½µ
Î
Î
Ò ½
Ò と表して,これを
Ò
Î
で微分す
Ô
Î
となる.この式を式 ´½º¾½µ に代入して,
Ã
ÒÔ
´½º¾¾µ
が得られる.すなわち,理想気体を温度一定にして圧縮するとき ´Ò ½µ の体
積弾性係数は Ã Ô であり,断熱条件のもとで圧縮するときは Ã ­Ô であ
る.いずれの場合も体積弾性係数は圧力に比例する.たとえば,1気圧で気体
の体積が Î であったとき,温度一定のもとで ½ ½ 気圧にすると体積はおよそ
½¼± 減少する.
問 ½º½¾ 圧力 Ô È の気体の温度が Ì Ã のとき体積 Î Ñ¿ であった.この気
体の体積を急に ½ ¾ に圧縮する.このときの気体の圧力と温度を求めよ.
また,気体を圧縮するするときに気体に行った仕事はどのようなエネル
ギーとなったのか調べよ.
第 ½ 章 流体の基本的性質
½
第 1 章 演 習 問 題
問題1 物質が固体から液体,液体から気体に変化することを相転移と呼び,そ
のときの温度と圧力を転移点という.水の相転移を表す状態図 ´相図µ の
概略を描け.
その次元は何か.
問題2 気体の圧力
Ô
と体積
Î
の積
ÔÎ
の次元を書け.
離れて置かれた面積 ½ Ѿ の平行平板間に水 ´¾¼ Æ ,標準気圧
½ Øѵ を満たす.片方の平板を ½ Ñ»× で平行にずらすときに必要な力
と仕事率を求めよ.
問題3
½ ÑÑ
問題4 流体の粘性が生じる原因について物理的な機構を説明せよ.
問題5 水中に直径 ½¼ ÑÑ のガラス管を立てたとき,毛細管現象により昇る
液柱の高さ はいくらか.ただし,水の温度を ¾¼ Æ ,大気圧を ½ 気圧
とする.また,液体を持ち上げるのに必要な仕事 ´エネルギーµ はどこか
ら来るのか説明せよ.
問題6 ボイル・シャルルの式は ÔÚ ÊÌ で表される.標準状態 ´¼ Æ ,1気
圧µ での1 ÑÓÐ の気体の体積が ¾¾º
であることから,空気のガス定
数 Ê を求めよ.その単位は何か.
問題7 水 ´¾¼ Æ ,1気圧µ および空気 ´¾¼ Æ ,1気圧µ 中を伝わる音速はい
くらか.ただし,なるべく式を用いて説明すること.
¾¼
第 ¾ 章 流体の静力学
¾º½ 静止流体の力学
静止流体中では粘性の影響が現れず,流体内の任意の面に働く力はその面
に垂直に作用する圧力のみである.ある点を通る任意の面に働く圧力は,
面の向きに関係なく同じ大きさである.ただし,点が異なると一般には圧
力の大きさは異なる.流体中にある物体は圧力の合力として力を受ける.
この力はあるときには浮力となる.この節では静止流体中での圧力の性質
と物体が受ける流体力について考える.
¾º½º½
圧力と投影面積
圧力は流体中の面に働く応力の垂直成分であり,静止した流体中では応力は
垂直成分のみをもち,接線成分であるせん断応力は ¼ である ´½º¿º¾ 節参照µ.し
かも,静止流体中では,ある1点における圧力は面の取り方によらずに一定で
ある.図 ¾º½ のように,ある1点を中心とする小さな面 Ë を考えると,この面に
働く圧力は面の単位法線ベクトル Ò の方向によらず一定である.ここで,単位
方向ベクトルとは面に垂直な単位ベクトルであり,その成分は Ì ´ÒÜ ÒÝ ÒÞ µ
Ì ´ Ó× « Ó× ¬ Ó× ­ µ のように表される½ .
ある点での圧力を Ô È とすると,その点を中心とする微小面積 Ë Ñ¾ に
働く力 の大きさ は ÔË Æ である.また,力
を成分表示すると,
Ì ´ÔË
Ó× « ÔË
Ó× ¬ ÔË
Ó× ­ µ
´¾º½µ
となる.この力について詳しく調べるために,もう少し単純な面について考え
よう.図 ¾º¾´ µ で描かれている面 Ë は Ý 軸に平行であり,その単位法線ベク
トル Ò は ´ Ó× « ¼ × Ò «µ である.このとき,図 ¾º¾´ µ からわかるように,面
½Ì ´
Ü Ý
ルを表す.
Þ µ は横ベクトル ´ Ü
Ý
Þ µ の転置を意味し,これらの3成分をもつ縦ベクト
第 ¾ 章 流体の静力学
¾½
Þ
図
¾º½
単位法線ベクトル
Ò
´ µ
Ò
­
Ë
¬
«
Ý
Ü
によって定義される面
Ë
とその面に働く圧力.
´ µ
Þ
Þ
Ý
Ò
Ò
ËÜ
ËÞ
ËÜ
«
Ë
«
«
Ë
Ü
Ü
ËÞ
図 ¾º¾ 単位法線ベクトル Ò によって定義される面
向への投影面積.´ µ 鳥瞰図¸ ´ µ 断面図.
Ë
の
Ü
軸方向と
Þ
軸方
積 Ë Ñ¾ を Ü 軸に垂直な ÝÞ 平面に投影した面の面積 ËÜ Ñ¾ は Ë Ó× « と
表せる.また,ËÞ Ñ¾ は Ë × Ò « Ë Ó×´ ¾ «µ となる.Ý 軸に平行ではな
い一般の面についてもその面の単位法線ベクトルを Ì ´ Ó× « Ó× ¬ Ó× ­ µ とす
れば,面積 Ë の Ü 軸,Ý 軸,Þ 軸への投影面の面積はそれぞれ
ËÜ
Ë
Ó× «
ËÝ
Ë
Ó× ¬
ËÞ
Ë
Ó× ­
´¾º¾µ
と表せる.式 ´¾º¾µ を式 ´¾º½µ に代入すれば,
Ì
´ÔËÜ ÔËÝ ÔËÞ µ
´¾º¿µ
が得られる.この式は,ある一定の圧力 Ô が微小でないある曲面に働いたとき
にも,曲面全体に働く力 の Ü 成分 Ü は曲面を Ü と垂直な ÝÞ 面に投影し
た面積 ×Ü を用いて,ÔËÜ と表せることを意味している.もちろん, Ý と Þ
も同様にして,それぞれ ÔËÝ ,ÔËÞ のように表すことができる.
この結果を応用すると,液体中に浮かぶ気泡や,気体中の液滴の内部圧力を
評価することができる.液体中の小さな気泡や気体中の小さな液滴の表面には
第 ¾ 章 流体の静力学
¾¾
表面張力が働くので,その内部の圧力は外部よりも高くなる.気泡や液滴が球
形であると仮定して,その内部の圧力を見積もってみよう.ここでは,液体中
に浮かぶ半径 Ö の気泡を考える.気泡は小さいのでその内部では圧力は一定
であるとみなせる.このとき,球形の気泡を仮に上下2つに分割して2つの半
球がくっついていると考えると考えやすい.内部の圧力が外部より ¡Ô だけ高
いとすると,内部の圧力により上の半球には Ö ¾ ¡Ô の大きさの力が上方に働
き,同様に下の半球には下向きに働くので,2つの半球はお互いに引き離され
るように力がかかっている.これを止めているのが,球の表面に働く表面張力
¾ ÖÌ である.ここで,Ì は液体と気体の表面に働く表面張力である.式で表
すと,
Ö ¾ ¡Ô ¾ ÖÌ
´¾º µ
となり,これを
¡Ô
について表すと
¡Ô
¾Ì
´¾º µ
Ö
が得られる.例として,水中に ½ Ñ の半径の空気の気泡があるとき,式 ´¾º µ
より,¡Ô ½
½¼ È となるので,気泡の中は約 ½
気圧も圧力が高い
ことがわかる.
¢
ȼ · ¡È
Ì
Ö
図
¾º¿
ȼ
液体中に含まれる小さな気泡.
別の例として,金属製の圧力容器に高圧ガスが充填されているときの容器の
壁面に働く応力を評価してみよう.厚さ の金属板でできた球形容器に気体が
圧力 Ô½ で充填されている.外部の気体の圧力を Ô¼ とするとし,球形容器の
半径を Ê とする.気泡の場合と同様に,球形容器を上下2つの半球がくっつ
いていると考えると,上下2つの半球はそれぞれ ´Ô½ Ô¼ µ Ö ¾ の大きさの力で
上下方向に引っ張られている.この力につり合っているのが,金属容器の壁面
内での引っ張り応力 による力であり,その合力の大きさは
¾
Ö
´¾º µ
第 ¾ 章 流体の静力学
である.
´Ô½
Ô¼ µ
¾¿
Ö
¾
とおくと,金属容器の壁面内の応力が
¾
Ö ´Ô½
´¾º µ
Ô¼ µ
と求められる.
締め具
Ô
図
¾º
高圧の気体が入った容器.
【例題 ¾º½】 半球状のふたの付いた円筒形容器に圧力 Ô È の気体が入って
いる.ふたの一端はちょうつがいで円筒形の下部とつながれており,反対側の
一端は締め金具で止められている.容器外部の圧力は Ô¼ È ´Ô¼ Ôµ であり,
円筒形容器断面の半径は Ê Ñ である.ふたの締め金具にかかる力を求めよ.
[解答] 円筒形容器の中心軸方向へのふたの投影面積 ʾ であり,容器内外
の気体からふたが受ける力は ´Ô Ô¼ µ ʾ である.この力の作用線は容器の
中心軸に沿っているので,ちょうつがいのまわりのトルクは ´Ô Ô¼ µ Ê¿ と
なる.一方,ちょうつがいと締め金具の間の距離は ¾Ê である.締め金具が
ふたに及ぼす力
は容器の中心軸に平行な方向に働くので,そのトルクは
¾Ê
と表せるのでこれらのトルクを等しいとおくと,ちょうつがいに働く力
¾
は
¾´Ô
Ô¼ µ Ê
Æ と求められる.
問 ¾º½ 図 ¾º のようなひょうたん形の容器内に圧力 Ô È の高圧気体が入って
いる.外部の圧力は Ô¼ である.この容器を2つの部分 と に分けて
考えるとき, と が受ける気体による圧力の合力をそれぞれ求めよ.
ただし,容器の形は回転対称であり,その最小半径は Ö½ ,最大半径は Ö¾
である.
¾º½º¾
静止液体中の圧力
世紀初頭には汲み上げしきポンプでは水を
½¼ Ñ の高さまでしか上げ
られないことが知られていた ´図 ¾º ´ µµ.汲み上げしきポンプで水が押し上げ
½
第 ¾ 章 流体の静力学
¾
Ö½
図
¾º
Ö¾
ひょうたん形の容器に働く圧力.
´ µ
´ µ
Ô¼
Ô¼
図
くみ上げポンプと大気圧.´ µ 汲み上げポンプ.汲み上げポンプでは
½¼ Ñ の高さまでしか水が上がらない.´ µ トリチェリの実験.大気圧で
水銀柱は ¼ ÑÑ À の高さまで上がる.
¾º
られるのはおそらく大気が水を押しているからだろうということは想像されて
いた.しかし,実際にこのことを実験で確かめたのはトリチェリである.トリ
チェリは水の代わりに水銀を使って実験を行った ´図 ¾º ´ µµ.一端を閉じた約
½ Ñ のガラス管に水銀を入れて逆さまに立てたところ,水銀柱は約
¼ ÑÑ
の高さで静止した.このとき,水銀上部のガラス管の中はほぼ真空であると考
えられる.真空では圧力が ¼ È であり,水銀に働く重力と水銀を下から押す
大気圧が釣り合っている.水銀柱を下から押す圧力は図 ¾º ´ µ の 点で大気
圧と同じ Ô ¼ である.ガラス管の断面積は一定で Ë Ñ¾ であるとし,水銀
¿
¾
の密度を
»Ñ ,水銀柱の高さを
Ñ ,重力加速度の大きさを
Ñ»×
とすると,水銀柱に働く重力の大きさは
Ë Æ である.これが下から押す
大気の圧力 Ô¼ Ë Æ と釣り合うので,大気圧 Ô¼ ƻѾ の大きさは
Ô¼
´¾º µ
第 ¾ 章 流体の静力学
¾
と求められる.この大気圧の原因は地球を取り囲む空気に働く重力である.地
球の周りにはおよそ ½¼¼ Ñ の高さまで空気が存在し,その空気が受ける重力
が地表にある物体を押している.これが大気圧の起源である.もちろん,真空
においては圧力は ¼ である.
´ µ
´ µ
Ü
Ô¼
Ô¼
Ë
Ë
Ý
Ç
Ô
Ô
Þ
Þ
図 ¾º 水面下 Þ
平面の断面図.
Ý
Ç
Ñ
における圧力
Ô
È
,
Ô
Ô¼ ·
Þ
.´
µ
鳥瞰図¸
´ µ ÝÞ
次に,地表におかれた水槽や海などの水中における圧力の分布について調べ
てみよう ´図 ¾º µ.図 ¾º ´ µ で,座標軸の原点を水面にとる.Ü 軸と Ý 軸を水
平面内にとり,鉛直下向きに Þ 軸をとる.図のように,水中に断面積 Ë の柱
状の体積を考える.図 ¾º ´ µ はこの柱状体積の中心を通る ÝÞ 平面の断面図で
ある.点 と はそれぞれこの体積の上面と下面の中心である.点 の上部
は大気であり,そこでの圧力は Ô¼ である.したがって,上面に働く力は Ô¼ Ë
である.点 の水面からの深さを Þ とし,その点での圧力を Ô´Þ µ とする.下
面に働く力は上向きに Ô´Þ µË である.また,柱状体積 Ë Þ の水に働く重力の大
きさは水の密度を とすると,柱状体積 Ë Þ の水に働く重力の大きさは Ë Þ
である.水は静止しているとすれば,柱状体積の水に働くこれら3つの力は釣
り合っているので,Ô¼ Ë · Ë Þ Ô´Þ µË が成り立つ.これより,水面からの
深さ Þ における水中での圧力は
Ô
と表せる.
Ô¼ ·
Þ
´¾º µ
第 ¾ 章 流体の静力学
¾º½º¿
¾
圧力の表し方と単位
これまで学んできたように圧力は応力の1種なので,単位面積あたりに働く
力であり,その単位は ƻѾ でこれを È ´パスカルµ と呼んだ.これは ËÁ 単
位系であり,科学の分野ではこの単位を用いるが,工業や実用上ではさまざま
¾
な単位が使われる.重力単位系では È の代わりに
» Ñ ´キログラム重毎
平方センチメートルµ を使ったり,水銀柱や水中の高さによる測り方,ÑÑ À
や ÑÑ À¾ Ç ´または ÑÑ Õµ も使われる.また,標準大気圧 ´½ ¼½¿ ½¼ È µ
を ½ ØÑ として, ØÑ が単位として使われることもある.
標準大気圧 ½ ØÑ は高さ ¼ ÑÑ の水銀柱による圧力に等しく,また高さ
½¼ Ñ の水柱による圧力 ½ ¼
½¼ ÑÑ À¾ Ç に等しい.他の単位も含めて ½ ØÑ
の表し方をまとめると,
¢
¢
½
ØÑ
¼ÑÑ À
½ ¼½¿
¢
½¼
½¼ È
¢
½¼ ÑÑ À¾ Ç
½ ¼¿¿
¾
Ñ
´¾º½¼µ
¾
となる.また,½
» Ñ を工学気圧 ´ ص と呼ぶこともある.工学上では大
気圧を基準として圧力を測定することがあり,これをゲージ圧といい,真空を
基準に測定した圧力を絶対圧と呼んで区別することがあるが,科学の分野では
圧力といえば絶対圧を指す.
¾º½º
気体の断熱変化とポリトロープ変化
気体が状態変化するときの,圧力 Ô と体積 Î の関係については ½º¿ 節で学
んだが,もう1度整理しておこう.Ò モルの気体を考えてその体積を Î ,圧
力を Ô,温度を Ì ,内部エネルギーを Í とする.この気体が断熱変化をして,
体積が Î · Î ,圧力が Ô · Ô となって,温度と内部エネルギーがそれぞれ
Ì · Ì および Í · Í になったとする.このとき,理想気体の状態方程式
ÔÎ
ÒÊÌ より,関係式
Ô Î · Î
Ô
ÒÊ Ì
´¾º½½µ
が成り立つ.1モルあたりの定積比熱 Ú と温度の変化 Ì との積は気体の内
部エネルギーの増加 Í に等しいので Ú Ì
Í であり,式 ´¾º½½µ の右辺は
ÒÊ Ì
Ò Í
Ú と表せる.また,熱力学の第1法則より,流体に流入する熱
量 É,内部エネルギーの増加 Í ,体積変化 Î の間には
É
Í · Ô Î
´¾º½¾µ
第 ¾ 章 流体の静力学
¾
の関係があるが,ここでは断熱変化を考えているので, É
Ô Î が成り立つ.したがって,ÒÊ Ì
Ò Í
ÒÔ Î
Ú
を式 ´¾º½½µ に代入して整理すると,
Ô
となる.式 ´¾º½¿µ の両辺を
½·
½·
ÔÎ
Ê
Ú
Ê
Î · Î
Ú
であり, Í
Ú となり,これ
¼
¼
Ô
´¾º½¿µ
で割って,両辺を積分すると
ÐÓ
となって,断熱変化における圧力
Î · ÐÓ
Ô
と体積
­
ÔÎ
Ô
Î
´
一定µ
´¾º½ µ
の関係
一定µ
´
´¾º½ µ
が得られる.ただし,­
´ Ú · ʵ
Ô Ú
Ú である.ここでは,定圧モル比
熱 Ô と定積モル比熱 Ú の間の関係式 Ô
Ú · Ê を用いた.
等温変化における圧力 Ô と体積 Î の関係は理想気体の状態方程式から直接
ÔÎ
´
一定µ
´¾º½ µ
であることが分かる.断熱変化と等温変化はどちらも理想的な状況であり,一
般の状態変化は ポリトロープ変化と呼んで,そのときの圧力 Ô と体積 Î の関
係を
Ò
ÔÎ
´一定µ
´¾º½ µ
と表す.ここで,Ò をポリトロープ指数といい,½
Ò
­
である.
問 ¾º¾ 温度 ̽ à の理想気体がピストンのついた容器内入っている.気体の体
積は ν Ñ¿ で圧力は容器は Ô½ È である.熱伝導性の良い材料でで
きており,容器内は常に外部の気温 ̽ à と同じに保たれている.ピス
トンを静かに押してこの気体の体積を ξ Ñ¿ ´Ô¾ Ô½ µ とするときに必
要な仕事,外部から容器内の気体に入る熱量,容器内の気体が得た内部
エネルギーをそれぞれ求め,それらの関係を示せ.
¾º½º
大気中の鉛直圧力分布
地球大気中の圧力はどのように分布するのか考えてみよう.大気の圧力は
地表から上にいくほど小さく,気体は圧縮性が大きいので,その密度は高さに
よって変化する.そのときの大気の圧力と体積の関係をポリトロープ変化にお
第 ¾ 章 流体の静力学
¾
ける関係 ´¾º½ µ で近似する.式 ´¾º½ µ を単位質量あたりの体積 ´比体積µ Ú を
用いて書いても同じであり,ただ右辺の定数が異なるだけである.すなわち,
ÔÚ
である.比体積
Ú
は密度
Ò
一定µ
´
を用いて
Ô
´
Ò
と表せるので,式 ´¾º½
½
Ú
´¾º½ µ
一定µ
µ
より
´¾º½ µ
となる.地表を原点としてから鉛直上方に Þ 軸をとり,地表 ´Þ
¼µ におけ
る大気の圧力と密度を Ô¼ および ¼ とし,上空 ´高度 Þ µ における圧力と密度
をそれぞれ Ô´Þ µ および ´Þ µ とすると,式 ´¾º½ µ より,
Ô¼
Ô
となる.一方,圧力
Ô
の高度
Þ
´¾º¾¼µ
Ò
Ò
¼
による微分
Ô
Þ
と密度の間には
Ô
Þ
´¾º¾½µ
の関係があるので,この式の右辺に式 ´¾º¾¼µ を代入して
Þ
½
Ô
´½ Òµ
½ Ô¼
¼
´½
Ô
Òµ
Ô
½ Ô¼
Ô¼
¼
Ô
´½ Òµ
Ô
Ô¼
´¾º¾¾µ
が得られる.式 ´¾º¾¾µ の両辺を積分し,Ô について整理すると,
Ô¼
Ô
½
Ò
½
¼
Ô¼
Ò
となる.式 ´¾º¾¿µ に式 ´¾º¾¼µ を代入して,
¼
½
Ò
½
Ò
Ò ´Ò ½µ
´¾º¾¿µ
Þ
について表すと
¼
Ô¼
½ ´Ò ½µ
´¾º¾ µ
Þ
となる.
高度 Þ と大気の温度 Ì との関係を求めるためには,地表での温度を ̼ と
し,理想気体の方程式から得られる関係,Ô ´ Ì µ Ô¼ ´ ¼ ̼ µ Ê を式 ´¾º¾ µ
に代入して,
Ì
̼
½
Ò
Ò
½
¼
Ô¼
Þ
´¾º¾ µ
第 ¾ 章 流体の静力学
が得られる.式 ´¾º¾
µ
¾
の両辺を
Ì
Þ
Þ
で微分すると,
Ò
½
¼
Ô¼
Ò
̼
Ò
Ò
½
Ê
´¾º¾ µ
¢
¾ ,すなわち,½¼¼ Ñ 高度が上がる
となる.対流圏では Ì Þ
¼
½¼
¾
¾
¾
と温度は約 ¼
à 下がることと,
Ñ»× ,Ê
¾
½ Ñ »´× õ を式
´¾º¾ µ に代入して,Ò を評価すると,Ò
½ ¾ が求められる.空気 ´2原子分
子µ の比熱比は ­
½ ¼ であり,これよりも小さい Ò の値が得られたことに
なる.
問 ¾º¿ 地上の対流圏の高度はおよそ ½¼ Ñ までとされている.地上 ½¼ Ñ の
高度での空気の温度,密度,圧力をそれぞれ求めよ.対流圏では気体の
ポリトロープ係数は Ò ½ ¾ であるとすること.
圧力の測定
圧力を測る計器として,流体の種類や目的などに応じていろいろな種類の圧
力計がある.一般に容器内の流体の圧力を測定する装置はマノメータと呼ばれ
る.圧力容器内の流体の圧力を常にモニターする目的ではバネの弾性を用いた
弾性式圧力計やブルドン管がある.ブルドン管の主要部品は円弧状に曲げられ
た楕円断面をもつ金属製の管である.この管は圧力が大きくなると断面がよ
り円形に近くなり,円弧の半径が大きくなってまっすぐに延びようとする.こ
のときの円弧の先端部分の変位を機械的に増幅することによって圧力を測定す
る.最近では圧力計に限らずほとんどの計器が電気式となり,圧力計も電気式
のものが主流となっている.電気式の圧力計には,圧力が加わったときに生じ
るひずみによる電気抵抗の変化 ´ピエゾ抵抗効果µ から圧力を求めるものと素
子に圧力が加わると圧力に応じて電圧が生じる ´ピエゾ圧電効果µ ことを利用
する圧電素子が主流である.
ここでは,簡単に圧力差を目視で確認できる示差圧力計 ´示差マノメーターµ
を見てみよう.示差マノメーターは Í 字管の中に液体が入れられたものであ
り,図 ¾º のような形状である.この図では Í 字管の両側の管の上部に気体
が入るものと考えているが,Í 字管内の液体と混じりにくい液体であってもよ
い.圧力を測定する流体が気体であれば,ほとんどの気体の密度は液体の密度
に比べて非常に小さいので,その質量を無視できる.このとき,図 ¾º のよう
に左側の気体の圧力を Ô½ ,右側の圧力を Ô¾ とし,それぞれの液面の Í 字管
の最下部からの高さを Þ½ および Þ¾ とすると,
Ô¼
Ô½ ·
Þ½
Ô¼
Ô¾ ·
Þ¾
´¾º¾ µ
第 ¾ 章 流体の静力学
¿¼
であり,これより,圧力差
Ô½
Ô½
Ô¾
は
´Þ¾
Ô¾
Þ½ µ
´¾º¾ µ
À
のように求められる.ここで, は Í 字管内の流体密度であり,Ô¼ は Í 字管
最下部での圧力である.Í 字管の一方の管,たとえば右側の管には何もつなが
ずに大気に開放するときは Ô¾ として大気圧をとる.このときは流れの中の圧
力と大気圧との差 ´ゲージ圧µ が測定できる.
マノメータ上部の流体が液体であるときには,その質量も考慮する必要があ
る.圧力を測定する点を Í 字管の両側で同じ高さにとり,その高さを Þ とす
る.上部液体の密度は同じであると仮定し, とおくと,高さ Þ における左
側の液体の圧力 Ô½ と右側の圧力を Ô¾ はそれぞれ
Ô¼
Ô½ ·
´Þ
Þ½ µ ·
であり,これより,圧力差
Ô½
Ô¾
Ô½
´
Þ½
Ô¾
Ô¾ ·
Ô¼
´Þ
Þ¾ µ ·
Þ¾
´¾º¾ µ
は
µ ´Þ¾
Þ½ µ
´
µ À
´¾º¿¼µ
のように求められる.
Ô½
Ô¾
Þ
À
図
¾º
示差マノメータ.
流速が小さいときや流速の差が小さいときは圧力差も小さくなり,Í 字管示
差マノメーターでは液面高さの差 À が小さくて精度よくその差を測定するこ
とができない.このような場合には図 ¾º のようにガラス管を斜めに傾けて液
面長さの差を大きく増幅する.このときも,圧力を測定する対象となる流体を
気体としてその密度を無視する.液面高さの基準面を傾斜マノメータの液層の
底面 ´圧力は Ô¼ µ にとり,底面からの液層内の液面の高さを Þ½ とし,傾斜ガラ
ス管における Þ½ の高さの点から液面までの長さを Ä とすると,
Ô¼
Ô½ ·
Þ½
Ô¼
Ô¾ ·
´Þ ½ · Ä × Ò « µ
´¾º¿½µ
第 ¾ 章 流体の静力学
となる.これより,圧力差
¿½
Ô½
Ô½
Ô¾
が
Ä× Ò«
Ô¾
´¾º¿¾µ
のように求められる.
Ô½
Ô¾
Ä
«
図
¾º
傾斜マノメータ.
¾º¾ 壁面に働く流体力と圧力の中心
静止流体中の物体に働く流体力は物体の表面における圧力の総和である.
したがって,その力を評価するためには,物体表面を小さな面積に分割し,
その面積に働く力の合力を求めればよい.その合力の作用点を求めるため
には,小さな面積に働く各力が物体に及ぼす力のモーメントの和が,合力
のモーメントに等しくなるという条件から作用点が計算できる.ただし,
物体が剛体であると仮定するときには力の移動法則により,作用点には物
理的意味はなく,作用線のみが意味をもっている.
¾º¾º½
平面壁に働く流体力と作用線
静止している流体が物体に及ぼす力は全圧力と呼ばれる.ここで,全圧力の
次元は ÅÄÌ ¾ であり,その単位は Æ である.したがって,全圧力は力であ
り,単位面積あたりの力である圧力とは次元が異なることに注意しておこう.
全圧力を求めるには物体表面を小さな面積に分割し,その面積に働く力の合力
を求める.また,その合力の作用線を求めるには力のモーメントを計算する必
要がある.
第 ¾ 章 流体の静力学
¿¾
水面
Ç
Ý
Ý ·
Ý
Ü
Ü ·
Ý
図
Ü
Ü
¾º½¼
平面壁に働く流体力 ´全圧力µ.
図 ¾º½¼ のように静止した水中に平板がある場合を考えて,全圧力とその作
用線を求めてみよう.この図では,水面と角度 をなす壁があり,壁にある
形をした平板が取り付けられている.この図では平板は円形をしているが,ど
のような形でもよく,その面を Ë とし,面積を Ë とおく.壁断面と水面に垂
直な方向には一様であるとする.水面と壁断面の交点を原点 Ç として,壁断
面に沿って Ý 軸をとり,水面と Ý 軸に垂直に Ü 軸をとる.すなわち,図 ¾º½¼
の ÜÝ 平面は壁を正面から見た図である.このとき,2通りの場合が考えられ
る.1つは平板の後方に大気があるとき,もう1つは平板が隙間なく壁に接し
ている場合である.いずれの場合にも平板は流体力と壁からの抗力を受けて,
それらの力のつり合いにより静止している.
ここでは,平板の後方は大気であり,圧力は大気圧 Ô¼ であるとする.面 Ë を
微小面積 Ë
Ü Ý に分割し,その微小面積の座標を ´Ü Ý µ とする.微小面積
Ë は水面から Ý × Ò
下方にあるので,その点での圧力 Ô は Ô Ô¼ · Ý × Ò
であり,Ô Ë の力を受ける.しかし,その面の反対側から Ô¼ の圧力を受けて
おり,Ô¼ Ë の力が作用している.したがって,この平板が受ける流体力は差
し引き, Ý × Ò Ë であり,この平板に働く流体力 È は
Ý× Ò
È
´¾º¿¿µ
Ë
Ë
と表せる.ここで,面
Ë
の図形の中心
Ý
Ê
Ë
Ý
の座標を
Ê
Ë
Ë
Ü
Ë
´Ü
Ý
µ
として,
Ü Ë
Ë
´¾º¿ µ
と定義すれば,式 ´¾º¿¿µ は
È
Ý
× Ò
Ë
´¾º¿ µ
第 ¾ 章 流体の静力学
¿¿
となる.ここで,Ý の水面からの深さ
を
È
Ý
× Ò
と定義すると,
´¾º¿ µ
Ë
と表せる.この式は,全圧力は面 Ë に働く全圧力は図形の中心 の位置にお
ける圧力と面積との積で表せることを示している.
つぎに,全圧力の作用点を考える.剛体にいくつかの力が働くとき,それら
の力と同じ働きをする力を合力と呼ぶ.力には物体を並進運動させる作用と自
転運動をさせる作用があるので,合力は物体に働く力のベクトル和で表され,
その作用点は合力がもつモーメントとそれぞれの力のモーメントの和が等しく
なるように決める.ただし,剛体に働く力には力の移動の法則があり,その力
を作用線に沿って移動してもその作用は同じである.したがって,作用点には
意味がなく,作用線のみが意味をもつ.ただし,ここでは簡便に作用点という
言葉を用いる.再び,物体の表面積を微小面積 Ë に分割して考える.この微
小面積に働く力の Ü 軸まわりのモーメント ÅÜ は ÔÝ Ë である.これを面 Ë
について積分すると,Ü 軸まわりのモーメント ÅÜ は
ÅÜ
Ý
である.式 ´¾º¿
µ
と
´¾º¿ µ
× Ò
´¾º¿ µ
Ë
Ë
と表せる.一方,全圧力の作用点を
のモーメントは
ÅÜ
¾
´Ü
ÈÝ
とおくと,全圧力の
Ý
µ
Ý
× Ò
Ü
軸まわり
´¾º¿ µ
ËÝ
より,
½
Ý
Ý
Ý
Ë
¾
´¾º¿ µ
Ë
Ë
が得られる.ここで,
ÁÜÜ
とおいて,これを
用いて,
Ü
Ý
¾
´¾º ¼µ
Ë
Ë
軸まわりの慣性モーメントと呼ぶと,式 ´¾º¿
½
Ý
と書ける.ここで,Ý
Ý
ÁÜÜ
Ý
Ë
ÁÜÜ
と表し,式 ´¾º
·
Ý
Ë
¾
Ë
Ý
µ
は ÁÜÜ を
´¾º ½µ
¼µ
に代入すると,
¾
Ë ·
Ë
Ë
´¾º ¾µ
第 ¾ 章 流体の静力学
¿
Ê
Ê
が得られる.ただし,この式を導く過程で, Ë Ë ¼ を用いた. Ë ¾ Ë は
図形中心 を通り Ü 軸に平行な直線のまわりの慣性モーメント Á ÜÜ なので,
ÁÜÜ
の関係がある.これを用いると式 ´¾º
Ý
と書くこともできる.
一方,全圧力の作用点の Ü 座標
ントを ÅÝ 計算する.ÅÝ は
Ý
´¾º ¿µ
は
½µ
½
Ý
·
Ü
を求めるには,Ý 軸まわりの力のモーメ
ÅÝ
であり,全圧力の
ÜÜ
Ë · Á
Ý
Ý
Ë
Á
ÜÜ
ÜÝ × Ò
Ë
´¾º
µ
´¾º
µ
´¾º
µ
´¾º
µ
´¾º
µ
´¾º
µ
Ë
軸まわりのモーメントは
ÅÝ
ÈÜ
× Ò
Ý
ËÜ
なので,これらの式より,
½
Ü
Ý
ÜÝ
Ë
Ë
Ë
となる.ここで,
ÁÜÝ
ÜÝ
Ë
Ë
とおくと,
Ü
と書ける.ÁÜÝ は
Ü
軸と
Ý
½
Ý
Ë
ÁÜÝ
軸に関する慣性乗積と呼ばれる.
【例題 ¾º¾】 図 ¾º½½ のように,貯水槽に深さ · Ñ まで密度 の水が満
たされている.貯水槽の右側には壁があり,その下部に高さ Ñ ,幅 Û Ñ
の取水口が設けられてる.取水口は鉄板でふたがされており,鉄板のふたは点
É にあるちょうつがいを軸にまわり,開け閉めすることができる.このふたに
かかる力とその力による点 É のまわりのトルクを求めよ.ただし,重力によ
る加速度を とすること.
[解答] 水面を原点にして鉛直下向きに座標 Þ をとる.水面下 Þ における圧
第 ¾ 章 流体の静力学
¿
Ô¼
É
Ô¼
図
¾º½½
貯水槽の取水口にかかる水圧.
力 Ô は Ô Ô¼ · Þ と表せる.鉄板の反対側は大気圧 Ô¼ なので,位置 Þ で
は鉄板は Ô Ô¼
Þ の水圧を受ける.鉄板の幅は Û で,高さは
なので,
鉄板が受ける力 は
·
Û
Þ
Þ
Þ
Û
¾
·
·
Û
¾
¾
と求められる.これは鉄板の中心 Þ
·´
¾µ における水圧
鉄板の面積 Û との積である.また,点 É まわりのトルク Ì は
·
Ì
Û
Þ ´Þ
µ Þ
Û
Þ
¿
¿
Þ
¾
¾
·
Û
½
¾
·´
¾
·
½
¾µ
と
¿
¿
となる.
【例題 ¾º¿】 例題 ¾º¾ と同様に,貯水槽に深さ · Ñ まで密度 の水が満
たされている.ただし,図 ¾º½¾ のように,右側の壁の下部には長さ ¾ Ñ ,
Æ の角度で設けられてる.取水口のふたは
幅 Û Ñ の取水口が鉛直面と
鉄板であり,点 É にあるちょうつがいを軸にまわることにより開け閉めする
ことができる.このふたにかかる力の鉛直成分と水平成分を求めよ.ただし,
重力による加速度を とすること.
Ô
[解答] 例題 ¾º¾ を解いたときと同様に,水面を原点にして鉛直下向きに座標
Þ をとる.ここでは,水平右向きに Ü 軸をとる.この問題も鉄板の下は大気
圧なので,水圧のみを考慮すれば良い.図 ¾º½¾ のように,幅 Û をもつ検査面
ËÉÊ を考え,この体積の流体に働く力のつり合いを考える.まず,この体積
の流体に働く鉛直下向きの力は面 ËÉ に働く全圧力 Û ´Ô¼ ·
µ とこの体積
¾
中の流体に働く重力 Û
¾ であり,上向きの力は鉄板から受ける抗力 ÆÞ で
第 ¾ 章 流体の静力学
¿
Ô¼
É
Ë
Ô¼
Ê
図
¾º½¾
貯水槽の取水口にかかる水圧.
ある.これらの力がつり合うので,
ÆÞ
Û
Ô¼ ·
·
½
¾
が成り立つ.鉄板が水から受ける力はこの抗力と同じ大きさで反対向き ´鉛直
下向きµ の力とその下面からの大気圧 Û Ô¼ なので,鉄板には差し引き
Þ
·
Û
½
¾
の力が鉛直下向きに働く.また,面 ËÊ に働く力は例題 ¾º¾ で求めたように
Û ´
·
¾µ であり,これが鉄板から流体に働く抗力の Ü 成分とつり合う
ので,
ÆÜ
Û
·
¾
となる.鉄板が水から受ける力の水平方向成分 Ü の大きさは
·
ÆÞ
Û
Þ
Þ
Ô¼ ·
´
·
½
¾
ÆÜ
に等しい.
µ
【問 ¾º 】 例題 ¾º¿ では,図 ¾º½¾ の右側壁下部にある取水口のふたに働く力
を求めたが,この力の作用点または作用線のいずれかを求めよ.水の密度は
であり,重力による加速度を とする.
【問 ¾º 】 図 ¾º½¿ のように,深さ の水面下の点 É を軸にまわることので
きる長さ ¾ の く³ の字形の取水口のふたに働く力とその作用点または作用線
のいずれかを求めよ.ただし,水の密度は であり,重力による加速度を
とする.
第 ¾ 章 流体の静力学
¿
Ô¼
É
Ô¼
図
¾º¾º¾
¾º½¿
貯水槽の取水口にかかる水圧と力の作用線.
曲面壁に働く流体力
流体中の曲面壁に働く全圧力を評価する方法は前項で説明した平面壁の場合
とほぼ同様であるが,曲面壁の場合には面の各点で,法線が鉛直線となす角度
が異なることに注意して計算をする必要がある.ここでは,図 ¾º½ において,
断面が曲線
で示されるような曲面に働く流体力とその作用線を求めてみ
よう.計算を簡単にするために,図中の Ü 座標と Ý 座標に直交する方向,す
なわち紙面に垂直な方向 ´Þ 方向µ には一様でありその方向には幅 の面につ
いて考える.平面壁の場合と同様に,この曲面を微小面積 Ë に分割し, Ë
の中心点の座標を ´Ü Ý µ とする.また,この微小面の法線は水平面と角 を
なしており,その面を Ü 方向に射影した ÝÞ 面への投影面積を ËÜ とし,Ý
方向への射影面積を ËÝ とする¾ .この微小面積にかかる圧力 Ô による力を
È ´ ÈÜ ÈÝ µ とすると, ÈÜ と ÈÝ は
ÈÜ
Ô
Ó×
Ô ËÜ
Ë
ÈÝ
Ô× Ò
Ô ËÝ
Ë
´¾º ¼µ
となる.ただし,ここでも曲板 ´曲面壁µ の背後は大気圧 Ô¼ であるとした.曲
面板全体にかかる力は ÈÜ と ÈÝ を曲面 Ë 全体について積分して,
ÈÜ
ÈÝ
Ë
Ë
Ý
Ý× Ò
Ó×
Ë
Ë
ËÜ
ËÝ
Ý
Ý
ËÝ
ËÜ
´½ ËÜ µ
Ý
¾ 微小面と鉛直方向とのなす角は
.
ËÜ
Ý
ËÜ
ËÜ
´¾º ½µ
Î
と求められる.ここで,Ý は投影面 ËÜ の図形の中心の
Ý
Ý
座標であり,
´¾º ¾µ
第 ¾ 章 流体の静力学
¿
で定義される.また,Î は面 Ë の上方にある領域 Ç
の体積である.図
¾º½ の場合には投影面 ËÜ はその断面が
で表される幅 の長方形である.
したがって,その図形の中心は辺
の上から ¾»¿ の位置にあり,幅 の中
央である.また,全圧力の Ü 成分 ÈÜ と図中の Ü とがつり合っている.全圧
力 ÈÝ とつり合う力は Ý と
の内部の流体に働く重力との和である.
水面
Ü
Ç
Ý
Ý È
È
Ü
Ë
ÈÜ
Ý
図
曲面板に働く流体力 ´全圧力µ.
¾º½
次に,全圧力 È の作用線の方程式を求めよう.作用線上の任意の点の座標
を ´Ü Ý µ とおく.微小面積 Ë に働く力 È
´Ô ËÜ Ô ËÝ µ の原点 ´Þ 軸µ ま
わりのモーメント ÅÞ は
ÅÞ
であるから,これを面積
ÅÞ
ËÜ
ÔÝ
ËÜ ·
となる.一方,全圧力
Ë
ÈÝ Ü
µ
ËÜ · ÔÜ ËÝ
´¾º ¿µ
について積分して,モーメント
ËÝ
È
ÔÜ ËÝ
と ´¾º
· ÈÜ Ý
µ
Ý
ËÜ
¾
ËÜ ·
ÈÜ Ý
ÅÞ
ÜÝ
ËÝ
を用いてモーメント
´ÈÜ ÈÝ µ
ÅÞ
となるので,式 ´¾º
係が
ÔÝ
ÅÞ
は
ËÝ
· ÈÝ Ü
Ý
¾
ËÜ ·
´¾º
ËÝ
ÜÝ
ËÝ
µ
を表せば,
を等しいとおいて,整理すると Ý と
ËÜ
´¾º
Ü
µ
の関
´¾º
µ
第 ¾ 章 流体の静力学
¿
のように求められる.力の移動法則によって,作用点は一意的には定まらず,
作用線の方程式が Ý と Ü の関係式が式 ´¾º µ のように求められた.
【例題 ¾º 】 図 ¾º½ のように,水面から深さ À の点を中心とする半径 Ê の
½» 円を断面とする曲面壁がある.この壁は奥行き
の幅をもっており,その
外側は水面より上方と同じ大きさの大気圧である.この壁面にかかる全圧力と
その作用点を求めよ.ただし,水の密度を ,重力による加速度を とする.
[解答] 式 ´¾º ½µ に従って全圧力 È の Ü 成分 ÈÜ と Ý 成分 ÈÝ を計算する.
水面
Ü
Ç
À
Ê
Ý
図
円弧状断面をもつ曲面板に働く流体力 ´全圧力µ.
¾º½
図 ¾º½ のように角
ÈÜ
ÈÝ
をとると,
¾
´À · Ê × Ò
µ Ê
Ó×
¼
¾
´À · Ê × Ò
µ Ê× Ò
Ê´À · Ê ¾µ
Ê´À ·
Ê
µ
¼
となる.もちろん, ÈÜ は図 ¾º½ で分かるように, Ü
ÈÜ
À ·Ê
À
Ý
Ý
ÈÜ
の関係より,
Ê´À · Ê ¾µ
としても同じ結果である.同様に,ÈÝ は Ý
À と ½»
円弧断面の筒状
¾
の流体にかかる重力
Ê
との和としても計算できる.
第 ¾ 章 流体の静力学
次に,圧力による
¼
Ç
点まわりの力のモーメント
ÅÞ
を計算しよう.ÅÞ は
¾
ÅÞ
¼
´À · Ê × Ò
µ Ê
´À · Ê × Ò
µ Ê× Ò
¾
¾
´À · Ê × Ò
¾
·
¼
Ê´À
Ê´À
· ÀÊ · Ê
¾
ÅÞ
Ý
Ý
Ê
µ
Ó×
µ
¾
Ê ´À ¾ ·
¾
と
Ê
Ê ¿µ
µ
ÈÝ
および作用線上の任意の点の座
ÈÝ
Ê´À · Ê ¾µ · Ü
Ý
ÅÞ
Ê
ÈÜ
ÈÜ · Ü
´Ê
¿µ ·
· ¿À Ê ¾ ·
のように求められる.一方,ÅÞ を
標 ´Ü Ý µ を用いて表すと,
となる.これらの
Ó×
Ê´
µ
Ê
の2つの式を等しいとおき,Ý について表すと,
À ·
Ê
À · ¾Ê
Ü
·
À
¾
·
ÀÊ ·
Ê
¾
À · ¾Ê
のように,作用線の方程式が得られる.作用線は
容易に確かめられる.
点
´Ê À µ
を通ることが
¾º¿ 浮力
重力場においては,水や空気などの流体中にある物体は浮力を受けることが
ある.ここでは,図 ¾º½ のように,静止した水の中にある柱状物体に働く浮
力について考える.柱状物体は一様な断面積 Ë をもち,その長さは である
とする.水面 における圧力は大気圧であり,Ô¼ と表す.水面からの深さ
の点 にある柱状物体の上面での圧力は Ô½ Ô¼ ·
であり,下面 での
圧力は Ô¾ Ô¼ · ´ · µ と表せる.したがって,この柱状物体が水から鉛
直上向きに受ける力 は
Ë
Ô¼ ·
´
·
µ
Ô¼ ·
Ë
Î
´¾º
µ
となる.ここで,Î
Ë は柱状物体の体積である.式 ´¾º
µ は「水の中で物
体が受ける浮力の大きさはその物体が押しのけた水と同じ体積の水に働く重力
の大きさに等しい」ことを表している.これをアルキメデスの原理という.い
くつかの注意をしておこう.物体が浮力を受けるのは必ずしも水の中だけでな
第 ¾ 章 流体の静力学
½
く,空中においても物体は浮力を受ける.気球は空気から浮力を受けて空に浮
かぶことができる.また,図 ¾º½ の柱状物体の上下面は水平面と平行であっ
たが,物体の上下面が水平面に平行でないときにも式 ´¾º µ は成り立つ.この
ことは,¾º½º½ 節で説明した投影面積を考えれば理解できる.
Ü
Ô¼
Ý
Ç
Ô½
Ô¾
Þ
図
¾º½
柱状の物体に働く浮力.
【例題 ¾º 】 氷山の一角というように,海面の上に出た部分は小さくても海
中の部分は大変大きい.図 ¾º½ のように,海に浮かんでいる氷山の海面より
上の部分の体積 Ú は全体の体積 Î の約何パーセントか調べよ.ただし,氷の
密度 ½ を ¼ ¾,海水の密度 ¼ を ½ ¼¾ とする.また,重力による加速度を
とする.
[解答] 氷の質量は Î ½ であり,氷にかかる重力は Î ½ である.また,
Ú
Î
氷に働く浮力は
´Î
Úµ
図
¾º½
海に浮かぶ流氷.
¼
であり,これらの浮力と重力を等しいとおいて,
第 ¾ 章 流体の静力学
Î
½
´Î
Úµ
¼
¾
より,
¼
Ú
½ ¼¾
½
となり,氷山の全体積の約
¼
¾
½ ¼¾
¼
Î
½¼ ±
³
¼ ½¼
が海面より上に出ている.
Ô¼
½
¾
図
¾º½
水中にコップを沈める.
【例題 ¾º 】 図 ¾º½ の左上のようなコップを逆さまにして,密度 の水の
入った水槽に浸けたところ,この図の右側のように,底の部分が水面から少し
出て浮かんだ.このとき,水面よりコップの底までの高さは ½ で,コップの
中の水面から外の水面までの高さは ¾ であった.底を静かに押すとコップは
浮き上がろうとするが,ある深さ のところでは力を入れなくてもコップは
静止し,それ以上押すとコップは自然に沈んでいった.このときの深さ を
求めよ.ただし,空気の体積は圧力に反比例することを用いよ.また,重力に
よる加速度を とすること.
[解答] 浮かんでいるコップに働く力のつり合いを考える.コップに働く重
力はコップの質量を Å とすると,Å である.コップの断面積を Ë とすると
浮力は Ë ¾ である.深さ においてもこれらがつり合っているので,この
ときの空気の層の高さも ¾ である.コップが浮いているときと,深さ にあ
るときの空気の体積の比を ν ξ とすれば,
ν
ξ
Ë´
½ · ¾µ
Ë
¾
½· ¾
¾
第 ¾ 章 流体の静力学
¿
であり,それぞれの空気の圧力の比 Ô½
Ô¼ ·
Ô½
Ô¾
は
Ô¾
Ô¼ ·
¾
´
¾·
µ
となる.空気の体積と圧力は反比例するので,
ν
Ô¾
ξ
Ô½
が成り立ち,この式より
½· ¾
Ô¼ ·
´
¾·
Ô¼ ·
¾
µ
¾
の関係が得られ,これより,
Ô¼
½
¾
·
½
と求められる.
の気球に, Ñ¿ のヘリウムガスを充填したのち,係
【問 ¾º 】 重量 ¾
留していたロープを離すと気球は静かに上昇をしていった.上空では空気の密
度が小さくなるので、気球に働く浮力が小さくなってやがてある高度のところ
で上昇も下降もしなくなると考えることができる。その高度を求めよ.ただ
し,気球内のヘリウムの密度は一定で,¼ ½¿ »Ñ¿ であり,空気の密度は地
上 ´Þ
¼µ で
½ ¿
,地上 Þ Ñ では
½ ¼
½¼
¼
¼ ÜÔ´ «Þ µ,«
½»Ñ であるとする.
¾º
¢
パスカルの原理
密閉容器中に流体が満たされて静止しているとき,ある面に力を加えて流体
中の圧力を大きくすると,流体中のどの点においても圧力は同じだけ増加する
´図 ¾º½ µ.流体が静止していても,圧力 Ô は場所によって異なる大きさをもっ
ている.図 ¾º½ のように,この流体のある面 ´面積 Ë µ に力
を加えてその
面に接している部分の圧力を ¡Ô
Ë だけ大きくすると,この容器の流体
中のどの部分においても圧力が ¡Ô だけ大きくなるのである.すなわち,いく
つかの容器が連結しているとき,1つの容器中の圧力を大きくすると,連結さ
れたすべての容器中の圧力が大きくなる.圧力を加える容器の断面積が小さく
て,連結された容器の断面積が大きいときには小さな力を加えるだけで,大き
第 ¾ 章 流体の静力学
Ë
Ô
図 ¾º½ 密閉された容器内の流体に圧力を加えるとどの点においても流体の圧
力は同じだけ増加する ´パスカルの原理µ.
な力を生み出すことができる.これをパスカルの原理という.この原理は容器
中の流体が液体の場合だけでなく,気体の場合や気体と液体が共存している場
合にも成り立つ.
この原理は自動車のブレーキや油圧機械の動作させるのに使われている.ジ
ャッキなどの油圧機器や圧搾機などの原理について考えよう.図 ¾º¾¼ は断面積
が ˽ の容器と断面積が ˾ ´ ˽ µ の容器が細い管でつながった油圧機器であ
る.断面積 ˽ の容器の上にあるピストンを力 ½ で押すと容器内部の流体の
圧力は ¡Ô
½ ˽ だけ増加し,この圧力の増加分は細い連結管を通して大き
な断面積 ˾ をもつ容器中の流体に伝えられる.その結果,この容器の上部に
あるピストンは, ¾
½ ˾ ˽ の力が働く.もし,断面積の比 ˾ ˽ が ½¼¼
であれば,½¼¼ 倍の力が大きな断面積のピストンに働くのである.これにより,
たとえば,約 ½ ØÓÒ の車を ½¼
の重量の物体をもつのと同じ位の力でもちあ
げることができる.ただし, ½ ØÓÒ の物体を ½ Ñ もち上げるには ½
Æ
の力で ½¼¼ Ñ の距離に相当する長さだけ押す必要がある.このような機器に
は主に機械油が使われている.空気などの気体を使用しない理由は,その圧縮
性にある.気体は圧縮性が大きいため,その分だけ力を加える距離が長くなっ
てしまうからである.
【問 ¾º 】 図 ¾º¾¼ のような油圧器により,質量 ½¼¼
の物体を ¼ ¼ Ñ 持
ち上げるためには断面積 ˽ の容器のピストンにどれだけの力を加えればよい
か調べよ.また,その力を加えてピストンを押す距離を答えよ.ただし,それ
ぞれの容器の断面積は ˽ ¼ ¼½ Ѿ ,˾ ¼ Ѿ であるとする.
第 ¾ 章 流体の静力学
½
˽
Ƚ · ¡Ô
Å
Ⱦ · ¡Ô
˾
¾
図
¾º
¾º¾¼
油圧機器 ´ジャッキµ.パスカルの原理の応用.
液体の自由表面
液体が気体に接している面を自由表面という.自由表面上の各点では,その
点の流体に働く力は自由表面に垂直である.重力は鉛直方向に働いているので,
日常生活でよく見るように洗面器に入れた水の面は重力と垂直であり水平であ
る.地球を取り囲む海の面はほぼ球形に近い.これも,海面近くの流体に働く
力が地球の中心を向いているからである.ただし,地球の自転の影響や月から
の万有引力の影響で真円からはずれがあり,潮の満ち引きにも関係している.
自由表面が平面でないときの例として,一定の角速度 ª で回転している容
器中の液体の表面について考えてみよう.図 ¾º¾½ のように,容器が Þ 軸のまわ
りに角速度 ª で回転しているとき容器の中心が液体表面の最下点となる.こ
の点を原点にして Ö 軸をとる.容器が一定角速度で回転しているときは,十
分時間が経った後には液体のどの点も一定角速度で回転するとみなすことがで
きる.このとき,同じ角速度で回転する座標系からこの現象をみると,流体は
静止していることになる.ただし,見かけの力として遠心力が働いている.し
たがって,回転軸から Ö の位置での液体の表面近くの流体には単位体積あた
り, の重力と Ö ª¾ の遠心力が働く.それらの合力が鉛直下向きの方向と
¾
なす角を とすれば,Ø Ò
Öª
の関係がある.この点で液面は水平面と
の角をなしているので,水面の高さ Þ は
Öª
Þ
¾
Ö
の両辺を
Ö
で積分して
Þ
ª
¾
¾
Ö
¾
´¾º
µ
´¾º
µ
第 ¾ 章 流体の静力学
と求められ,液面はその最下点を原点とする回転放物面となっていることがわ
かる.また,回転放物面の最下点での圧力 ´大気圧µ を Ô¼ とすると,最下点を
通る水平面内での半径 Ö 方向の圧力分布 Ô´Ö µ は
¾
Ô´Ö µ
Ô¼ ·
¾
Ö ª
Ô
¾
Ö
¾
Öª
´¾º ¼µ
である.
Þ
ª
¾
Öª
Ö
図
¾º¾½
回転している容器中の液体表面.
第 ¾ 章 流体の静力学
第 2 章 演 習 問 題
問題1 静止流体中では圧力は方向によらず一定であることを示せ.
標準状態 ´¼ Æ ,1気圧µ での大気圧 ´標準気圧µ は何 È か.その次元
は何か.
問題2 海面下 ½¼¼¼ Ñ における圧力はおよそいくらか.ただし¸ 海水の密度
を ½º¼¿ » Ñ¿ とするº また,海面での気圧は ½ 気圧であるとする.
問題3 静止大気の温度が上空でも一定 ´¼Æ µ であるとき,地上 ½¼¼¼ Ñ にお
ける圧力はおよそいくらか.ただし¸ 地上では標準気圧であり,空気の分
子量を ¾ とする ´空気 ½ ÑÓÐ の質量は ¾
であるµ.
½ ¾¿ のポリトロープ変化をするとき,地上 ½¼¼¼ Ñ
問題4 静止大気が Ò
における圧力はおよそいくらか.ただし¸ 地上では標準状態 ´¼Æ ¸ 1気
圧µ であり,空気の分子量を ¾ とする ´空気 ½ ÑÓÐ の質量は ¾
であ
るµ.
問題5 半径 ½¼ Ñ の球が深さ ½ Ñ の水底に置かれている.この球に働く
流体力を求めよ.ただし,水の温度を ¾¼Æ とし,水面では ½ 気圧である
とする.
問題6
つの半球からなる半径 ¼ Ñ の球状容器がある.この容器中に ½¼
ØÑ のガスを充満したとき,各半球に働く力はいくらか.ただし,容
器のまわりの気圧は ½ 気圧であるとする.
¾
問題7 半径 ¿ Ñ の球状の気球の中に ½ ØÑ のヘリウムガスが充満してい
るとき,気球に働く力はいくらか.ただし ¾¼ ℃,½ ØÑ で空気,ヘリ
¿
¿
ウムの密度はそれぞれ ½º¾
»Ñ ¸ ¼º½
Ȅ
とする.
問題8 海に浮かぶ流氷はその体積のおよそ何パーセントが海面より上にでて
いるか.ただし¸ 海水の密度を ½º¼¿ » Ñ¿ ¸ 氷の密度を ¼º ¾ » Ñ¿ と
第 ¾ 章 流体の静力学
するº
問題9 図 ¾º¾¼ で,˽ ½¼¼ Ѿ , ˾ ¾ ¼¼ Ѿ であるとする.面積 ˽
に ½ ¾ Æ の力を加えたとき,それにつり合う ˾ 側の力はいくらか.
問題10 半径 ¼ Ñ の円筒形容器中に水を入れ回転したら,水面の最高部
と最低部の差は ½¼ Ñ となった.このときの回転数はいくらか.ただ
し,水の温度を ¾¼Æ であるとする.
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¿º½ 流れの分類
流れの形態は多種・多様であり,あるときには単純な流れのパターンをも
つが,一般には時間的にも空間的にも複雑な性質をもつ場合もある.それ
ぞれの流れの特徴にあわせてその取り扱い方法は異なる.したがって,流
れを適切に分類することが重要となる.この節では流体運動を分類する方
法について学ぶ.
¿º½º½
定常流と非定常流
流れの状態を表す物理量は,速度・圧力・密度・温度などであり,これらの
物理量は一般には時間と空間座標の関数であり,それぞれ Ù´Ü Øµ, Ô´Ü Øµ,
´Ü ص, Ì ´Ü ص などと表される.空間変数 Ü を指定するとその点での物理量
が決まるとき,そのような空間を場と呼ぶ.この場合は流れ場と呼ばれ,その
中でも速度については速度場,圧力については圧力場というように,各物理量
についても場という言葉を用いる.この中で,速度はベクトル量なので,速度
場はベクトル場であるといわれ,圧力などのスカラー量の場はスカラー場とい
われる.
ある物理量 ´Ü ص が空間変数 Ü だけの関数であり,時間 Ø に依存しないと
き,定常流という.したがって,定常流を空間内のある1点で観測すると時間
的に一定である.ただし,一般には点が異なると速度も異なることには注意し
ておこう.
流れの中のある点やある領域または全領域で,速度・圧力・密度・温度など
物理量が時間的に変化するとき,その流れを非定常流という.この章では特に
断らない限り,定常流を考える.定常流を調べることは非定常流に比べて比較
的容易である.
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¿º½º¾
¼
層流と乱流
一般に,遅い流れでは近接した2点から染料を流すとその染料は2筋の線を
描き,流れは層状のパターンを形成する.ところが,流速が速い流れは複雑に
混じり合い,不規則なパターンとなる.このとき,空間の各点における流速が
予測不可能となり,流速は確率的にしか予測できなくなる.前者のように流れ
が層状の速度分布で規則的な流れを 層流といい,後者のような不規則で乱れ
た流れを乱流という.
流れには層流と乱流の2つの状態があることは古くから知られていたが,そ
れらの2つの状態を区別する条件を調べたのは,レイノルズ ´Ê ÝÒÓР׸ ½ ¿µ
である.レイノルズは円形断面の管内流について,いろいろな直径や流速で実
験を行い,流れが層流から乱流に遷移する条件は管直径 ,流速 Í ,粘度 ,
流体密度 からなる無次元数
Ê
Í
´¿º½µ
により決まることが明らかにした.現在ではこの無次元数 Ê をレイノルズ
数と呼んでいる.流れの境界が同じ形であり,しかもレイノルズ数が同じであ
る2つの流れ場は相似的であることが分かっている.これをレイノルズの相似
則という.このレイノルズ数を用いて層流と乱流の区別を表現すれば,レイノ
ルズ数がある値より小さいときは層流であり,大きいときは乱流であるという
ことができる.ただし,現在までの研究では,定常な流れが振動流へ遷移する
臨界点 ´臨界レイノルズ数µ は知られていることが多いが,層流が乱流に遷移
するときの臨界点については明確な定義もその値も見いだされていない.
レイノルズが実験を行った円管内流れは円管ポワズイユ流とも呼ばれる.こ
の流れが層流から乱流に遷移する臨界レイノルズ数 Ê は理論的にはまだ十
分に明らかにはなっていないが,実験によるとおよそ ½¿¼¼¼ であり,乱流状
態にある流れの流速を小さくしていくと,レイノルズ数が約 ¾¿¼¼ より小さく
なると逆に層流へ遷移する.
¿º½º¿
非圧縮性流れと非圧縮性流れ
第 ½º¿º 節で説明したように静止した液体を圧縮するのには大きな圧力を必
要とする.それに比べると気体を圧縮するのは容易である.このように,圧縮
されにくい液体のような流体を非圧縮性流体と呼び,圧縮されやすい流体を
圧縮性流体と呼ぶこともある.
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
½
流れている流体に対しては,流れの代表流速と流体中を伝わる音速との比の
大きさによって圧縮性の影響を考慮すべきかどうかが決まる.流れの代表的な
流速 ´最大流速を代表流速にとることもできるµ を Í とし,流体中を伝わる音
速を とおいて,その比
Å
Í
´¿º¾µ
を マッハ数 Å と呼ぶ.マッハ数 Å が約 ¼ ¿ くらいまでは流体の密度変化
の影響があまり大きくなく,非圧縮流として取り扱うことができる.ここで,
Æ の大気中を伝わる音速 は約
½ 気圧のとき,½
¿ ¼ Ñ»× である.ま
Æ
Æ
た,水中を伝わる音速は温度 ¾¿
¾
の範囲でおよそ
½ ¼¼ Ñ»× であ
る.マッハ数が ¼ ¿ 程度より大きいときは流体の圧縮性を考慮に入れる必要が
あり,そのような流れを圧縮性流れという.
¿º¾ 流れの表現
初等力学で学ぶ質点や剛体の運動を調べるときには,調べる対象である物
体を容易に識別することができ,その物体の重心の位置や自転の速度を時
間的に追う方法を用いてその運動を調べた.しかし,流体の運動を調べる
とき¸ ある時刻において閉曲面 Ë に囲まれた領域にある体積 Î の流体は
時間と共にその形と位置が変化し¸ 周りの流体と閉曲面 Ë 内の流体との区
別が難しいº そのため¸ 流体力学ではある閉曲面内の流体の運動を追わず
に流れ場の中に固定された点での流体運動を調べることもあるº
¿º¾º½
流れの記述
流体の運動を記述する方法は2つの方法がある.1つはラグランジュ記述で
あり,これまで力学などで物体の運動を調べたように,ある時刻に閉曲面 Ë
に囲まれた一定質量の流体の運動を追いかけながら調べる方法である.このと
きには,流体の位置と速度は時間 Ø と流体を識別する変数 との関数であり,
Ü´Ø µ,Ù´Ø µ のように表せる.
もう1つの記述法は,オイラー記述と呼ばれる方法であり,空間に固定した
体積 Î 内の流体速度などを調べる方法である.このときには,体積 Î 内の
流体は時々刻々と異なる流体が流出入することになり,流速は位置 Ü と時間
Ø との関数で Ù´Ü Øµ のように表される.このように位置は従属変数ではなく,
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¾
独立変数であり,電磁気学で磁場や電場を取り扱ったときと同様に流れを場と
して考える.
ȼ
図
¿º¾º¾
¿º½
速度ベクトル場と流線.
流線と流管
オイラー記述によって流れを考えるときには,速度は空間の各点に付随して
いるものであり,ある瞬間においては空間座標が与えられると各点に速度ベク
トル Ù が定まる.図 ¿º½ は格子状にとった各点での速度のベクトルを表した
図である.このベクトルを滑らかにつないだ線を流線と呼ぶ.すなわち,流線
上の各点での接線はその点での速度と同じ方向を向いている.図 ¿º½ の実線は
空間内のある点 ȼ を通る流線である.点 ȼ 以外の他の点をとれば異なる流
線が得られる.一般には流れは非定常なので,流線は時間と共に変化する.流
線を実験により可視化する場合には,流体の中に光を反射する浮遊物を混入す
る.水の場合にはアルミ粉末などを混入する.カメラのシャッター速度を比較
的短く設定して写真を撮ると,流れ場の各点でアルミ粉末が短い距離だけ尾を
引くように写される.こうして写る短い線分がつながるように目で補正しなが
ら眺めると流線のようになる.
流線はある時刻 ؽ の速度場 Ù´Ü Ø½ µ と空間内のある1点を決めれば一意
的に決めることができる.流線に沿ってとった長さを × とし,流線を Ü
´Ü´×µ Ý ´×µ Þ ´×µµ と表す.また,速度を Ù
´Ù´×µ Ú ´×µ Û ´×µµ とすれば,流線
上の各点で
Ü
Ù
Ý
Ú
Þ
Û
´¿º¿µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¿
の関係がある.
流れの中に任意の閉曲線をとり,この閉曲線上の各点を通る流線を考えると,
流線により取り囲まれた管状の曲面を定義できる.これを流管と呼ぶ.
流線によく似た概念に流跡線と流脈線がある.流跡線はある時刻 ؽ にある
1点 ܽ ܴؽ µ ´Ü´Ø½ µ Ý ´Ø½ µ Þ ´Ø½ µµ にあった流体が時間の経過と共に描く線
である.この線を ܴص ´Ü´Øµ Ý ´Øµ Þ ´Øµµ と表すと,流跡線は
Ü
Ü´ µ
Ù´
Ø
Ý
Ü´ µ
ص
Ú´
Ø
Þ
Ü´ µ
ص
Û´
Ø
ص
Ø
´¿º µ
と表される.式 ´¿º¿µ では,各辺の分母 Ù, Ú , Û はある瞬間における流線上
の各点での速度であるのに対して,式 ´¿º µ では,流体粒子が運動して点 Ü に
到達したときのその点での流速である.実験で流跡線を可視化するには流体内
に光を反射する粒子を混入し,それらの粒子を長時間露光で写真撮影をする.
流脈線とは,空間内のある1点を次々と通過した流体粒子のある瞬間の位置
をつないだ線である.煙突から出る煙をある瞬間に眺めたときに見えるのが流
脈線であり,実験で可視化するには,流れの1点から染料を注入し,その染料
の描く線をある瞬間に撮影する.流脈線を,Ü´Ø Ø½ µ ´Ü´Ø ؽ µ Ý ´Ø ؽ µ Þ ´Ø ؽ µµ
と表すと,流脈線を表す方程式は式 ´¿º µ と同じである.ただし,流跡線が満
たすべき条件は,ܽ
ܴؽ µ であり,線を表すパラメータが Ø であったのに
対して,流脈線は,条件 ܽ ܴؽ ؽ µ を満たす.ある時刻 Ø における流脈線
を表すパラメータは ؽ である.この条件は,流脈線を形成する流体粒子は ´時
刻 ؽ にµ 定点 ܽ を通るという条件である.なお,定常流においては流線と流
跡線および流脈線は一致する.
【例題 ¿º½】 2次元流を考える.時刻 Ø における流速が空間座標 Ü に依らず
一定で,´Ù Ú µ ´½ Ó× Øµ と表されるとき,流線・流跡線・流脈線のそれぞ
れを求めよ.
[解答] 流速は座標 Ü に依らず一定である.したがって,流線は直線となる.
時刻 Ø ¼ では速度は ´Ù Ú µ ´½ ½µ なので,Ü 軸および Ý 軸と Æ をなす直
線がすべて流線である.時刻 ½ ¾ では ´Ù Ú µ ´½ ¼µ なので Ü 軸に平行な直
線が流線である.流跡線と流脈線を求めるために,微分方程式
Ü
½
を解く,解は Ü
Ø · ܼ ,Ý
るため,流体粒子は時刻 Ø
り, Ü
Ø,Ý
´½
µ× Ò
Ó×
Ø
Ø
と表される.流跡線を求め
¼ に原点を通過したと仮定する.この条件よ
となり,流跡線が,Ý
´½
µ × Ò Ü と求め
´½
Ø
Ý
µ× Ò
Ø · ݼ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
られる.流跡線は正弦関数で与えられる.流体粒子が初期に存在した位置に
よって流跡線は異なるが,問題ではその位置が明記されていないので,適当
にその位置を選んだ.流脈線を求めるときには,定点を決めなくてはならな
いので,その位置を ´Ü Ý µ ´¼ ¼µ とする.時刻 ؽ に ´¼ ¼µ を通過するとい
う条件より,ܼ
ؽ ,ݼ
´½
µ × Ò Ø½ と求められ,解は Ü
Ø
ؽ ,
Ý
´½
µ× Ò Ø
´½
µ × Ò Ø½ となる.これらの式より ؽ を消去して,時刻
Ø における流脈線の方程式 Ý
´½
µ× Ò Ø
´½
µ × Ò ´Ø
ܵ が得られる.
¿º¿ 連続の式
本来は3次元的な運動である流れを流線に沿って流れる1次元運動と見な
して解析する流れ学の方法は機械設計などで簡便に流速あるいは流量の推
定を行うための重要な手段である.このときに用いる法則が連続の式とベ
ルヌーイの式および状態方程式であるが,非圧縮性流れでは連続の式とベ
ルヌーイの式のみから流速と流量の式を導くことができる.その式と実験
結果とを比較することにより,式に修正を加えて流速と流量を評価するた
めの経験則を導く.
¿º¿º½
質量の保存則と連続の式
連続の式は流れの中で流体の質量が保存することから導かれる式であり,流
速や流量を求める際に非常に重要な式である.ある領域に含まれている流体を
考えるとき,流れによってその領域は変形し体積は変化する可能性はあるが,
その領域から流体が流れ出さない限りその質量は保存している.質量の保存則
から連続の式を導く方法には流れと共に変形し移動していくある決められた領
域内の流体を追跡するラグランジュ的方法と空間に固定されたある領域に流入
および流出する流量を評価するオイラー的方法がある.ここでは,まずラグラ
ンジュ的な方法により連続の式を導こう.
この節のみならず,この章を通して図 ¿º¾ のような断面 と に挟まれた
流管の一部に含まれる流体を考える.流管の中心を通る線に沿って座標軸 × を
とる.流管が曲がっているときは座標軸も曲線であり,座標 × はある点を原点
として中心線に沿って測った長さである.断面 は点 È を中心として × の
方向に垂直な面で,その面積は Ë であるとする.同様に,断面 は È を
中心とする × の方向に垂直な面で,その面積は Ë である.2つの断面 と
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
×
Þ
È
È
¡×
Ü
図
¿º¾
流管と流体運動.
のそれぞれの座標は × および × で,長さ ¡× だけ離れている.ある瞬間
に
間にあった流管内の流体は短い時間 ¡Ø 経過した後には,図 ¿º¿ のよう
¼
¼
に
へ移動している.この間に面 が移動した距離は点 È での流速 Ú
を用いて Ú ¡Ø と表され, 面 は 点 È での流速 Ú をとすると Ú ¡Ø だけ
¼ と ¼ の2つの部分に分割
移動する.断面 と の間の流体の体積を
¼ に分割して考える.ここで,流れは定常流で
し, ¼ ¼ の体積を ¼ と
あると仮定しよう.このときには ¼ に含まれる流体の量は
と ¼ ¼ で
共通である.したがって,初めに
に含まれていた流体がもっていた質量
は ¡Ø 時間の後に, Ë Ú ¡Ø だけ増加し, Ë Ú ¡Ø だけ減少したことにな
る.ただし, と
はそれぞれ点 È および È における流体の密度であ
る.しかし,
に含まれている流体はこの間に ¼ ¼ へ移動しただけであり,
その中に含まれている流体の質量は変化しない.したがって,質量の減少量と
増加量は等しいので,
Ë
Ú
Ë
Ú
´¿º µ
が成り立つ.また,断面 と の取り方は任意であるから,座標軸 × 上の任
意の点での流体の密度を ,流速を Ú ,流管の断面積を Ë とすると,流管に
沿っては
ËÚ
ÕÑ ´一定µ
´¿º µ
でなければならない.ここで,ÕÑ は流管断面を単位時間に通過する質量流量
である.この式が求める連続の式である.
同じことをオイラー的考察から導いてみよう.流管の中心線上で座標 × の
点での流管の断面積を Ë ´×µ,流体密度を ´×µ,流速を Ú ´×µ とすと,図 ¿º¾ の
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¼
Þ
×
¼
È
È
¼
¼
Ú
È
¡Ø
È
¡Ø
Ú
Ü
図
断面
と
ラグランジュ的流体運動.
¿º¿
の間に含まれている流体の質量
Ñ
は
×
×
×
で積分して
×
Ñ
×
Ë
´¿º µ
×
である.この部分に単位時間に流入する流体の質量は Ë
る質量は Ë Ú なので,質量 Ñ の時間変化 Ñ Ø は
Ñ
Ë
Ø
Ú
Ë
Ú
Ú
であり,流出す
´¿º µ
と表される.流れは定常であると仮定しているので, Ñ Ø ¼ である.これ
を式 ´¿º µ に代入すると式 ´¿º µ が導かれる.
ここで,式 ´¿º µ における Ú と Ú および
, について考察しておこ
う.これらは点 È または È における流速あるいは密度であると定義した.
図 ¿º¾ の流管について考えるときは細い流管の断面内で流速が一定であると仮
定できるが,この連続の式を金属製やガラス製の管路にも拡張して適用するこ
とがある.このような場合には管壁では流速は ¼ であり,管の中心部では流
速が大きい.このときには,これらの物理量を断面内での平均値であると解釈
する.たとえば,Ú は断面 における × 方向の流速 Ú の断面平均であると
考える.
圧力が変わっても密度が変化せずに一定である非圧縮性流れでは,式 ´¿º µ
で
とおき,両辺を で割ると,
Ë
Ú
Ë
Ú
一定µ
ÕÎ ´
´¿º µ
となる.ここで,ÕÎ は流管断面を単位時間に通過する体積流量である.式
´¿º µ も
ËÚ
ÕÎ ´一定µ
´¿º½¼µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
と簡単化される.
【例題 ¿º¾】 針の直径が ½ ÑÑ で胴の直径が ÑÑ の注射器がある.このピ
ストン部を ½ Ñ»× で押すとき,針の先から出る液体の流速はいくらか.ただ
し,注射器に満たされた液体は非圧縮流体とみなせるものとする.
¿ ¾µ¾ Ѿ,であり,ピストン直前
[解答] ピストン部の面積は Ë
´
½¼
¢
¢
¢
¾ Ñ»× である.また,針の穴の面積は Ë
¿ ¾µ¾
の流速は Ú
½
½¼
´½
½¼
¾
Ñ である.これらを式 ´¿º µ に代入して,Ú
¼ ¿ Ñ»× が針の先からでる液
体の流速である.
【問 ¿º½】 長さ方向に断面積が変化している円管内を水が流れている.ある
断面 では円管の断面積が ¾ Ѿ で流速は
Ñ»×,別の断面
では円管の
¾
断面積が ½ Ñ であったº 断面 での流速はいくらか.
【例題 ¿º¿】 長さ方向に断面積が変化している円管内を空気が流れているº
ある断面 では円管の断面積が ¾¼ Ѿ で流速は ¾¼¼ Ñ»× であり密度は ½º¾
¿
¾
»Ñ であった.また,別の断面
では円管の断面積が
Ñ で流速は ¿¼¼
Ñ»× であった.断面
での空気の密度はいくらか.
¾
¿
[解答] Ë
¾¼
½¼
Ñ ,Ú
¾¼¼ Ñ»×,
½ ¾
»Ñ ,Ë
½¼
¢
¾
,Ú
得る.
Ñ
¿º
¿¼¼ Ñ»×
を式 ´¿º
¢
µ
に代入して,断面
での密度
¿
Ȅ
を
ベルヌーイの定理
ベルヌーイの定理を表す式はベルヌーイの式と呼ばれ,流体の微小部分が
もつラグランジュ的なエネルギーの保存を表わしている.密度が一定の流
れでは,ベルヌーイの式と連続の式を組み合わせて解くことによりさまざ
まな流れの流速と流量を求めることができる.密度が変化する圧縮性流れ
ではこの他に状態方程式などの密度と圧力との関係式および断熱条件など
が必要になるº
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¿º º½
ベルヌーイの式
連続の式を導いたときと同様に,ここでも図 ¿º¾ のような流管を考え,断面
と の間にある流体がもつエネルギーを調べる.座標 × で表される点での
流体の密度を ´×µ,温度を Ì ´×µ,圧力を Ô´×µ,流速を Ú ´×µ とする.また,点
È
および È での流体の密度,温度,圧力,流速をそれぞれ添え字 と
をつけて, , ,Ì ,Ì ,Ô ,Ô ,Ú ,Ú のように表す.
初めに,ラグランジュ的考え方でベルヌーイの式を導いてみよう.座標 × で
単位体積あたりの流体がもつ運動エネルギーは
½
Ú
¾
¾
であり,基準点からその
点までの高さを Þ とすると位置エネルギーは Þ である.また,単位質量 ´½
µ あたりの定積比熱を Ú とすれば内部エネルギーは
Ú Ì である.図 ¿º¿ の
¼
¼
ように,ある時刻 Ø において,
にあった流体が
に移動したとする.
連続の式を導いたときと同様に考える.ただし,質量は流管の断面 と お
よび管壁を通して流入することがなかったが,エネルギーは断面 と を押
す圧力によって増減する可能性があり,流管の管壁からエネルギーが流入する
可能性もあるので,これらも考慮する必要がある.
流管の体積
に含まれる流体がもっていたエネルギーのうち,¡Ø 間に
¼ ¼ へ移動することにより減少したエネルギーは
¼ に含まれていたエネル
ギー ¡
Ë
½
¡Ø
Ú
¾
Ú
¾
·
Þ
であり,増加したエネルギーは
ÚÌ
·
¼ に含まれていたエネルギー ¡
Ë
Ú
½
¡Ø
¾
Ú
¾
·
·
Þ
ÚÌ
であ
る.したがって,時刻 Ø に
にあった流体がもつエネルギーは流体が ¼ ¼
に移って
だけ増加したことになる.この間に流体が受けた仕事は断面
¼
¼ µ で受ける Ô Ë Ú ¡Ø
´
µ で受ける圧力による仕事 Ô Ë Ú ¡Ø と断面
´
である.また,単位体積の流体が流管の管壁を通して × ¼ から × までの間
で受け取る熱エネルギーを とすると,¡Ø の間に管壁を通して
間にあ
る流体が受け取る熱エネルギーは Ë Ú ´
µ¡Ø および
Ë Ú
¡Ø
である.したがって,
Ë
Ú
¡Ø
Ô
Ë
Ú
½
¾
¡Ø
Ú
¾
·
Ô Ë
が成り立つ.ここで,ÕÑ
を書き改めて,整理すると
½
¾
Ú
¾
·
Þ
·
ÚÌ
·
Ô
·
Þ
Ú
¡Ø ·
Ë
ÚÌ
Ë
Ú
Ë
½
¾
Ú
¡Ø
Ú
Ë
¾
¡Ø
Ú
¾
Ú
Ë
¾
·
Ú
Þ
·
¡Ø
ÚÌ
´¿º½½µ
であることを用いて,式 ´¿º½½µ
Ú
·
½
Þ
·
ÚÌ
·
Ô
´¿º½¾µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
となる.
断面 と
の取り方が任意であったことから,管の任意の断面で,
½
¾
Ú
¾
·
ÚÌ
Þ ·
Ô
·
一定
´¿º½¿µ
となる.ここで,前にも説明したように は基準点 ´× ¼µ から × までの間で流
管の管壁を通して単位体積の流体に供給される熱量である.また,
Ú Ì ·Ô
は単位質量の流体がもつエンタルピーである.
断面
と
の間隔 ¡× が非常に小さいときには,すべての物理量の2点
È
と È での値の差が非常に小さい.すなわち,Ú
Ú
Ú,
,
Ô
Ô
Ô,Ì
Ì
Ì ,Þ
Þ
Þ,
はすべて小さい
と見なせる.したがって,式 ´¿º½¿µ を微分形で
Ú
Ú ·
Þ ·
Ú
Ô
Ì ·
½
·Ô
¼
´¿º½ µ
と表せる.流管内を流体が流れると粘性によって運動エネルギーが熱エネル
ギーに変化するが,その量は非常に小さくて多くの場合は無視できる.このと
き,熱力学の第1法則 ´¾º½¾µ を単位質量あたりについて書き改めると, É
Ú Ì · Ô ´½ µ となるので,これを式 ´¿º½ µ に代入すると,
Ú ·
Ú
となる.この式を
×
Ô
Þ ·
¼
´¿º½ µ
一定
´¿º½ µ
について積分すると,
½
¾
Ú
¾
Ô
·
Ô
Þ ·
¼
が得られる.これがベルヌーイの式であり,この式が表している保存則をベル
ヌーイの定理と呼ぶ.高速で流れる気体では密度の変化が大きいので圧力や温
度による密度変化を考慮する必要がある.音速 に比べてかなり遅い気体の
流れや液体の流れでは密度 が一定で変化しないと近似的に取り扱うことが
できる.そのときには,式 ´¿º½ µ は
½
¾
Ú
¾
·
Þ · Ô
一定
´¿º½ µ
となる.
次に,ベルヌーイの式をオイラー的方法で導出しよう.図 ¿º¾ で,断面
に挟まれた流管内に含まれる流体がもつ運動量 Å は
と
×
Å
×
ËÚ
×
´¿º½ µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¼
×
Þ
Ô
È
×
È
Ô
Ü
図
¿º
重力の方向と流れの方向.
である.断面 を通して流入する運動量は Ë Ú ¾ であり,断面 から流出
する運動量は Ë Ú ¾ である.流体は断面 に働く圧力 Ô により Ô Ë の
力を受ける.断面 では逆向きの力 Ô Ë が作用するが,ここで注意が必
要である.断面
と で断面積が異なっているときは側面は座標軸 × と必
ずしも平行ではなく,流管の側面に働く圧力は,× 軸と小さな角度をなしてい
る.したがって,側面に働く圧力が流体に軸方向の力を及ぼすのである.側面
での圧力の大きさはおよそ Ô と Ô の平均であると評価できる.また,側面
の面積の断面 または への投影面積は Ë
Ë
である.式 ´¾º¿µ より,側
壁の圧力が流体に及ぼす力の大きさは ´½ ¾µ´Ô · Ô µ Ë
Ë
であり,その
向きは断面 と の面積の小さな方から面積の大きな方に向いている.した
がって,両断面と側面に働く力の × 方向への合力は ´Ô
Ô µË
と表せる.た
だし,´½ ¾µ´Ô · Ô µ Ô ,Ë
Ë
と近似を行った.これらの近似が正し
いことは,図 ¿º¾ で ¡× が非常に小さいと仮定して,圧力と断面積を ¡× につ
いてテイラー展開し,¡× の1次の項のみをとることにより証明することがで
きるが,少し難しい計算となる.最終的に導かれるベルヌーイの式が正しいこ
とは,非粘性流体の運動方程式であるオイラー方程式からベルヌーイの式を導
くことで確認することができる.圧力の他に流体は重力を受けており,図 ¿º
のように重力の方向と × 軸の負方向とのなす角を とすると,流体に働く重
Ê×
Ê×
力の大きさは × Ë × であり,その × 方向の成分は
Ë
Ó×
× であ
×
る.運動量の時間変化率 ´ Šص はこの領域に流出入する運動量とこの部分
の流体に働く力の和に等しいので,
Å
Ø
となる.
Ë
Ú
¾
Ë Ú
¾
·Ô
Ë
Ô
Ë
×
×
Ë
Ó×
×
´¿º½ µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
½
定常な流れを考えているので,断面 と の間の流管に含まれる流体がも
つ運動量は一定であり,式 ´¿º½ µ で Å Ø
¼ である.また,断面
と
の間の長さ ¡× ×
×
は小さいと仮定して,これを × とおく.式 ´¿º½ µ
の右辺のすべての物理量を点 での値からのテイラー展開で表し, × につい
て1次の項のみを残し,2次以上の項を無視すると,
ËÚ
¾
Ô
× · Ë
×
× ·
×
Ë
Ó×
×
となる.式 ´¿º¾¼µ の右辺第1項は,連続の式より
とを用いると,
´ Ë Ú µÚ
ËÚ
×
×
Ú ·
ËÚ
Ú
´¿º¾¼µ
ÕÑ ´
ËÚ
ËÚ
×
¼
一定µ であるこ
Ú
´¿º¾½µ
×
となることに注意しておこう.この式を式 ´¿º¾¼µ に代入し,両辺を
割って,整理すると,
Ú
Ú
が得られる.式 ´¿º¾¾µ に
Ó×
½
¾
が導かれる.ただし,
×
·
½
Ú
½
Ô
×
Þ
¾
·
Ó×
×
で
´¿º¾¾µ
を代入し,× で積分すると
×
×
·
¼
Ë
Ô
Þ ·
一定
´¿º¾¿µ
¼
Ô
½
×
×
Ô
となることを用いた.この式は式
と同じである.
圧力が変化しても密度が変化しない非圧縮性流れでは式 ´¿º¾¿µ は式 ´¿º½
なわち
´¿º½ µ
½
¾
Ú
¾
·
Þ · Ô
一定
µ
す
´¿º¾ µ
となるが,この式の意味について少し検討してみよう.単位体積の流体がもつ
運動エネルギーと重力によるポテンシャルエネルギーがそれぞれ ´½ ¾µ Ú ¾ と
Þ であることは質点の場合と比較すれば容易に理解できるが, Ô がなぜエネ
ルギーなのだろうか.このことを考えるために,図 ¿º のように,ある面を境
にして左側の圧力が Ô½ であり,右側の圧力が Ô½ · ¡Ô であるとする.左側の領
域に断面積 Ë ,長さ
の筒状の領域をとり,その中の流体の圧力は Ô½ である
とする.この領域に含まれる流体をその左側から押して右半分の圧力 Ô½ · ¡Ô
の領域に押し込むのに必要な仕事を計算しよう.体積 Î
Ë
の流体を
¡Ô だけ高圧の領域に押し込むために必要な力は ¡ÔË であり,押す距離は
なので,全体積を押し込むのに必要な仕事 Ï は Ï
ÔË
Ô Î である.
したがって,圧力 Ô · ¡Ô のもとにある体積 Î の流体は圧力 Ô をもつ流体よ
¢
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¾
Ô½
Ô½ · ¡Ô
¡Ô
Ë
図
¿º
圧力は流体がもつエネルギーであることの説明.
りもエネルギーを Ô Î だけ余分にもっていることになり,単位体積あたりの
流体は Ô の圧力エネルギーをもっていることが分かる.
工学の分野では,式 ´¿º¾ µ の両辺を
で割って,
½
¾
Ú
¾
·Þ ·
Ô
一定µ
À ´
´¿º¾ µ
のように表すことが多い.これは圧力を測るのにガラス管でできたマノメー
ターを用いることに起因している.流体がもつエネルギーをこのように長さの
次元をもつ量で表して,式 ´¿º¾ µ の第1項 Ú ¾ ´¾ µ を速度ヘッド,第2項 Þ を
位置ヘッド位置ヘッド,第3項 Ô ´ µ を圧力ヘッドと呼び,その和 À を全
ヘッドと呼ぶ.このとき,ベルヌーイの定理は全ヘッドが保存することを表し
ている.このことを図で表すと,図 ¿º のようになる.この図で,点 Ⱦ は点
Ƚ よりも低い点なので流速 Ú¾ が Ú½ よりも大きくその分だけ大きな運動エネ
ルギーをもち,速度ヘッドが大きい.点 È¿ は点 È¿ と同じ高さにあるが,そ
こでの断面積が大きいので流速 Ú¿ が Ú¾ よりも小さくなり,速度ヘッドは小さ
くなる.全ヘッドは位置によらず À であり,一定である.これはエネルギー
保存則を表している.
まわりが流線からなる流管を流体が流れるときには,流体はエネルギーを
ほぼ保存するが,実際には金属やガラスあるいはコンクリートでできた管路
中を流体が流れる.そのようなときには,管壁からの摩擦により流体のエネル
ギーが減少する.エネルギーの減少をエネルギーヘッド により表現するとき
は,損失ヘッドと呼ぶ.損失ヘッド は流路に沿って測った長さ × の関数で
あり, ´×µ と表される.このとき,式 ´¿º¾ µ は
½
¾
と修正される.
Ú
¾
·Þ ·
Ô
À
´×µ
´¿º¾ µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¿
Þ
À
¾
Ú½
¾
Ú¿
¾
Ú¾
¾
¾
¾
Ô½
Ô¿
Ô¾
Þ½
Ƚ
Þ¾ · Þ¿
È¿
Ⱦ
Ü
Ç
図
¿º
流体がもつエネルギーのヘッド表現.À 全エネルギーヘッド.
Ô½
Ô¼
Ë
図
¿º
圧力容器中の小孔より噴出する液体.
¿
Ȅ
の液体が断面積 Ë Ñ¾
【例題 ¿º 】 圧力容器中に入っている密度
の小孔から大気中に噴出するときの流速 Ú Ñ»× と流量 É Ñ¿ »× を求めよ.
ただし,液体の圧力は Ô½ È であり,大気の圧力を Ô¼ È とする.
[解答] 小孔を挟んで容器の内部 ´点 Ƚ µ と外部 ´点 Ⱦ µ の間でベルヌーイの
公式を適用する.容器内の液体の圧力は一様で Ô½ であり,容器内では流速は
小さく Ú½ ¼ とする.地上からの高さは小孔の内外でほぼ同じ高さであると
し,Þ½ Þ¾ とする.また,液体の密度は一定であるとする.これらを式 ´¿º½ µ
に代入して,小孔から噴出する液体の流速 Ú は
×
Ú
¾´Ô½
Ô¼ µ
´¿º¾ µ
となる.ただし,実際には液体の粘性の影響や容器中の流体の流速が ¼ でな
い影響など多くの要因で式 ´¿º¾ µ は修正が必要となる.それらを考慮するた
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
めに,速度係数 Ú を導入し,この式を
×
Ú
Ú
¾´Ô½
Ô¼ µ
´¿º¾ µ
と表しておいて,実験を行うことにより適切な Ú の値を決める.ただし,容
易に実験を行う環境にないときは Ú
½ とする.また,流量 É は流速 Ú と
小孔の断面積 Ë との積で表されるが,実際に実験を行うと小孔から噴出する
ジェット状の液体断面は小孔の面積よりわずかに小さくなるので,ここでも収
縮係数 を導入して
×
É
ËÚ
のように表す.ここで,
ÚË
¾´Ô½
×
Ô¼ µ
Ë
¾´Ô½
Ô¼ µ
´¿º¾ µ
½
Ú は流量係数と呼ばれる .
【問 ¿º¾】 ½¼ 気圧の圧力容器内の水が半径 ¾ ÑÑ の小孔から大気中に噴出
するときの流速と流量を求めよ.ただし,水は ¾¼Æ で,大気の圧力は ½ 気
圧 ´½ Øѵ であるとする.速度係数,収縮係数は共に ½ とおくこと.
¿º
流速と流量の測定
ピトー管はベルヌーイの定理を用いた流速測定の器具であり,レーザー・
ドップラー流速計や熱線流速計が普及した現在でも最も基本的な流速計と
して使われている.この節ではベルヌーイの定理の応用という観点から,
流速測定と流量測定の方法であるピトー管・ベンチュリ管・オリフィス板・
水槽オリフィス・せきなどについてについて説明を行うが,現在の流速測
定の主流であるレーザー・ドップラー流速計・熱線流速計・ÈÁÎ 法につい
ても簡単に説明する.
¿º º½
ピトー管
流速を測るためのもっとも基本的な測定器具の1つがピトー管である.ピ
トー管はいろいろな流れの流速測定に使われているが,航空機の速度計の標準
½ 流量係数は流量を表す式が実験結果と一致するように補正するための係数であり,常に
Ú と表せるとは限らないことに注意すること.
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
的な器具である.ピトー管で流速を測る原理は図 ¿º の のような曲がった
ガラス管を考えるとよく理解できる.この図では流体は左から右へと流れてお
り,ガラス管 の上流での流速は Ú であり,大気に接している水面からの深
さ では圧力は Ô½ であるとする. のようにまっすぐなガラス管の真下で
は流速は上流の流速と同じで,Ú である.したがって,ベルヌーイの定理より,
その点での圧力は上流と同じ Ô½ である.水面が圧力 Ô¼ の大気に接している
ので,Ô½ Ô¼ ·
½ であり,表面張力の影響を無視すればガラス管内の水面
は外部と同じ高さである.一方, のような曲がったガラス管の直前では水
はガラス管内の水に遮られて下流に流れることができない.したがって,流れ
がせき止められ速度が ¼ となる.このように流速が ¼ となる点をよどみ点と
いい,この点の圧力を Ô¾ とすると,ベルヌーイの定理から,
Ú
¾
· Ô½
¾
となる.これより,流速
Ú
が圧力
Ô¾
×
Ú
の関係が導かれる.ここで,圧力差
水面との高さの差 À と
Ô¾
と
Ô½
の差で表されて,
¾´Ô¾
Ô½
Ô¾
Ô½
Ô½ µ
´¿º¿½µ
はガラス管
内の水面と外部の
´¿º¿¾µ
À
の関係があるので,これを式 ´¿º¿½µ に代入して,流速
Ú
´¿º¿¼µ
Ô¾
Ô
¾ À
Ú
が
´¿º¿¿µ
のように得られる.これが ピトー管による流速測定の原理である.式 ´¿º¿¼µ
において,左辺第1項の Ú ¾ ¾ を動圧,左辺第2項 Ô½ を静圧,右辺 Ô¾ を全
圧という.単に,圧力といえば静圧を意味する.
実際にピトー管を用いて流速測定を行うと,ピトー管の形状によるエネル
ギー損失や管壁での摩擦などの影響により,式 ´¿º¿¿µ からのずれが生じる.し
たがって,
Ú
Ú
Ô
¾ À
´¿º¿ µ
とおいて,他の方法で流速を測定し Ú の値をあらかじめ求めておく.このよ
うな操作を計算式あるいは測定装置の校正 ´キャリブレーションµ といい, Ú
を速度係数と呼ぶ.
ピトー管は図 ¿º のように,2重の円筒を曲げた形からなっている.空気の
流速を測定する場合を考えると,内側の円筒の先端では空気の流れがせき止め
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
Ô¼
Ô¼
À
Þ½
図
Ú
Ô½ Ô¾
½
Ô½
ピトー管による流速測定の原理.
¿º
られるよどみ点となり,この点での圧力は全圧と等しい.全圧は内側の円筒を
伝わり,Í 字管の一方と接続される.外側の中空円筒の側壁には小さな穴が開
いており,この穴付近の圧力は静圧である.静圧は中空の外側円筒の内部を伝
わり, Í 字管のもう一方の管と接続される.圧力差が小さいときは,Í 字管
の代わりに傾斜マノメータが用いられる.
全圧測定孔
静圧測定孔
À
図
¿º º¾
¿º
ピトー管の構造と流速測定.
ベンチュリ管
ベンチュリ管は気体や液体の輸送管の間に取り付けて管を通過する流体の流
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
量を測定するための装置であり,図 ¿º½¼ のように,流路を細く絞ったのちにゆ
るやかに広げた管である.流路が細くなると,そこでは流れの流速が大きくな
り,圧力が下がる.この圧力と上流部での圧力の差圧を測定することにより流
速を求めるのである.ここでは,管の中を液体が流れているとして,密度 が
一定であるとする.輸送管内を流れる液体の流量を É とする.図 ¿º½¼ で Ƚ
と Ⱦ で示される2点の上方にガラス管が取り付けられており,内部の液面を
観測することができる.点 Ƚ で示される断面における流速を Ú½ ,断面積を
˽ ,圧力を Ô½ とする.同様に断面 ¾ での流速,断面積,圧力をそれぞれ Ú¾ ,
˾ ,Ô½ とする.断面 ¾ はベンチュリ管の中で最も断面積が小さい面であり,そ
の面積と断面 ½ での面積 ˽ との比を絞り面積比と呼び,¬ ˾ ˽ で表す.
À
Ú
Ƚ
Ⱦ
×
図
ベンチュリ管による流量の測定原理.
¿º½¼
管内を流れる流量が一定であることより,連続の式から
˽ ڽ
É
が成り立つ.これより,Ú¾ は
Ú½
と
˽
Ú¾
˾
の関係があることが分かる.一方,点
ベルヌーイの式 ´¿º¾ µ は
½
¾
となる.式 ´¿º¿
すると,
µ
Ú½
に
Ú¾
と
×
Ú½
¾´Ô½
¾
´´Ë½
¾
Ú½ · Ô½
Ô¾ µ
¾
˾ µ
½µ
´¿º¿ µ
Ú½
Ƚ
½
¾
と
Ⱦ
が同じ高さにあるとすると,
¾
Ú¾ · Ô¾
の関係式 ´¿º¿
´¿º¿ µ
˾ ھ
µ
を代入して,Ú¾ を消去し,整理
Ô
×
¾´Ô½
¬
½
¾
¬
となる.ここで,点 Ƚ と Ⱦ における圧力 Ô½ と
の水面高さ ½ と ¾ を用いて,
Ô½
Ô¼ ·
½
Ô¾
´¿º¿ µ
Ô¼ ·
Ô¾
Ô¾ µ
´¿º¿ µ
はその点でのガラス管内
¾
´¿º¿ µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
と表される.ここで, Ô¼ は大気圧である.2点での水面高さの差を À
とおくと,これらの式より,
Ô½
と表される.式 ´¿º
を式 ´¿º¿
¼µ
×
と求められる.流量
¾
´´Ë½
É
は
ڽ ˽
É
¾
˾ µ
½µ
Ú½
に断面積
Ô
˽ ˾
¾
˽
Ô
Ô
˽
½
Ú½
¬
¾ À
¾
´¿º ½µ
をかけて,
Ô
¬
½
˾
¬
¾
˽
Ô
となる.ただし,ここでも実験により決定される流量係数
Ú
¾
が
Ô
¬
¾ À
¾
´¿º ¼µ
À
に代入して,流速
µ
¾ À
Ú½
Ô¾
½
¾ À
´¿º ¾µ
を導入した.
Ⱦ
Ƚ
×
À
ȼ
図
¿º½½
ベンチュリ管による気体流量の測定.
【例題 ¿º 】 ベンチュリ管を用いて気体の流量を測定するときには,図 ¿º½½
のように Í 字管マノメータと組み合わせて使用する.管路を流れる気体の密
度を ,Í 字管内の液体の密度を ,断面 Ƚ と Ⱦ での断面積をそれぞれ
˽ および ˾ として,管路を流れる気体の流量を求める計算式を導け.
[解答] 点 Ƚ および Ⱦ での流速をそれぞれ Ú½ ,Ú¾ とし,圧力を Ô½ ,Ô¾
とする.液体の場合と同様に,連続の式とベルヌーイの式より,Ú½ が
˽ ,˾ を用いて,式 ´¿º¿ µ すなわち,
×
Ú½
¾´Ô½
¾
´´Ë½
Ô¾ µ
¾
˾ µ
½µ
Ô
×
¾´Ô½
¬
½
¬
¾
Ô¾ µ
Ô½
,Ô¾ ,
´¿º ¿µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
と表される.圧力 Ô½ と Ô¾ は Í 字管の最下点 ȼ からの Í 字管内の水面高さ
をそれぞれ ½ および ¾ ,管路の中心線までの高さを ¼ とすると,
Ô½ ·
Ô¼
´
¼
½µ ·
½
Ô¾ ·
Ô¼
´
¼
¾µ ·
¾
´¿º
µ
と表される.ここで, Ô¼ は点 ȼ での圧力である.2点での水面高さの差を
À
½
¾ とおくと,これらの式より,
Ô½
となる.式 ´¿º
µ
を式 ´¿º¿
×
¾
´´Ë½
と求められる.流量
Ô
ڽ ˽
É
は
É
¾
µ À
¾
˾ µ
½µ
×
¾´
¾
×
Ô
µ À
˽ ˾
˽
´
Ô¾
に代入して,
¾´
Ú½
µ
½
¾´
¬
¬
¾
×
Ô
µ À
¬
½
˾
µ À
¬
¾
˽
¾´
´¿º
µ
´¿º
µ
µ À
´¿º
となる.一般に,気体の密度
は液体の密度
すれば,式 ´¿º µ と ´¿º µ はそれぞれ
×
¾
Ú½
É
ڽ ˽
À
¾
´´Ë½
Ô
¾
˾ µ
×
¾
˽ ˾
¾
˽
¾
˾
½µ
À
Ô
に比べて小さいので,無視
×
¾
¬
½
µ
Ô
¬
¾
´¿º
µ
´¿º
µ
×
¬
½
À
¬
¾
˽
¾
À
のように表される.
¢
¿
¼
½¼
【問 ¿º¿】 図 ¿º½½ のようなベンチュリ管を用いて断面積 ˽
¾
Ñ の管を流れる空気の流速と流量を計測した.ベンチュリ管の絞り面積比は
¾ Ñ であった.
¬
¼ ¾ であり,マノメータ両側の液面高さの差は ¾ ¼
½¼
この管を流れる空気の流速と流量を求めよ.ただし,空気の密度を
½ ¿
¿
¿
¿
»Ñ ,マノメータで用いるエチルアルコールの密度を
¼
½¼
Ȅ
とし,流量係数は
½ とする.
¢
¢
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
Ú
¼
Ƚ
Ⱦ
×
À
ȼ
図
¿º º¿
オリフィス板を用いた気体流量の測定.
¿º½¾
オリフィス板
オリフィスというのは「穴」という意味であり,管路の中に穴のあいた板 ´オ
リフィス板µ を設置して流体が流れる流路断面積を小さくする.断面積が小さ
くなると流速が大きくなり,オリフィスの上流と下流の間に流速の差が生じて,
圧力にも差が生じる.図 ¿º½¾ のように,この圧力差を Í 字管マノメータで測
定すると管を流れる流体の流速と流量が求まる.したがって,オリフィスを用
いた流量測定の原理はベンチュリ管の場合とほぼ同様であり,流路の断面積を
小さくする方法が異なるのみである.
流速と流量を求める方法はベンチュリ管の場合と同じなので,簡単に説明し
よう.流体の流れる管路断面積を ˽ とし,オリフィスの穴 ´開口部µ の断面積
を ˾ とする.ベンチュリ管のときとは異なり,流れはオリフィスの少し後流
側で流路断面積が最小になる.このような現象を縮流といい,他の流れでもよ
く観測される.このときの最小流路断面積 ´図 ¿º½¾ の Ƚ 点での流路面積µ は
˾ よりも少し小さく
˾ と表せる.ここで,
は収縮係数 と呼ばれる.ベン
チュリ管について定義したように,絞り面積比を ¬
˾ ˽ と定義する.こ
のとき,管路を流れる流体の流速 Ú½ は
×
Ú½
¾
Ú
¾
´´Ë½
À
¾Ë ¾µ
¾ ¾
½µ
Ú
Ô
×
¾
¬
½
À
´¿º ¼µ
¾¬¾
と表される.ここで, Ú は速度係数であり,式 ´¿º ¼µ が実験結果とよく一致
するように Ú の値を決める.
流量 É は Ú½ と管路の断面積 ˽ との積で求まり,
É
ڽ ˽
Ú
Ô
×
¾
˽ ˾
¾
˽
¾Ë¾
¾
À
Ú
Ô
×
¬
½
¾¬¾
˽
¾
À
´¿º ½µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
½
となる.
¿º º
水槽オリフィス
自由表面をもつ水槽の底面あるいは側面に設けられた小孔 ´オリフィスµ から
大気中に流出する水または液体の流量を求めてみよう.ここでは,図 ¿º½¾ の
ような水槽を考え,側面にある小孔から密度 の水が流出するとする.小孔
の位置に原点をとり,鉛直方向に Þ 軸をとる.水槽の断面積は高さ Þ によら
ず一定値 ˽ であり,小孔の面積を ˾ とする.前項で説明したオリフィスの
場合と同様に,小孔から流出する水の断面積は小孔の面積 ˾ より小さくなる
ので,その断面積を ˾ とおく.収縮係数は実験により定めるが, ½ より小
さく ¼ 程度の値も報告されている.
図 ¿º½¾ のように,小孔の少し内側に点 Ƚ をとり,外側の同じ高さの位置に
Ⱦ をとる.点 Ƚ および Ⱦ での流速をそれぞれ Ú½ および Ú¾ とし,圧力を
Ô½ ,Ô¾ とする.これら2点にベルヌーイの式 ´¿º½ µ を適用して,
½
¾
となる.ここで,圧力
を用いて,
Ô¾
¾
¾
Ú¾ · Ô¾
は大気圧に等しく
Ô¼ ·
Ô½
と表せる.これらを式 ´¿º
½
¾
Ú½ · Ô½
¾µ
Ô¾
´¿º ¾µ
Ô¼
であり,Ô½ は大気圧
Ô¼
´¿º ¿µ
À
に代入して,
×
¾
¾
Ú¾
À ·
Ú½
¾
´¿º
µ
が得られるが,点 Ƚ では水槽の断面積が大きいのでこの点での流速を近似的
¾
に ¼ とおくことができる ´À
´Ú½ ¾ µµ.このとき,小孔からの水の流出速度
Ú¾ は
Ô
¾ À
Ú¾
´¿º
µ
となり,理論的には水が À の高さの場所より自由落下したときの速度と等し
くなる.これをトリチェリの 定理という.しかし,実際には容器壁面摩擦な
どさまざまなエネルギー損失があり,それらを考慮するために,
Ú¾
Ú
Ô
¾ À
と表す. Ú は速度係数であり,実験で定める.その値は状況によるが
い場合が多い ´たとえば, Ú ¼ µ.
´¿º
½
µ
に近
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¾
小孔から流出する水の流量 É は流速 Ú¾ と噴流の断面積
られ,
Ô
Ô
となる.ここで,
Ú Ë¾
˾ ھ
É
Ú を
¾ À
˾
との積で求め
¾ À
˾
´¿º
µ
とおいた. は流量係数である.
Þ
À¼
Ⱦ
Ƚ
Ç
図
小孔からの水の流出.
¿º½¿
つぎに,水槽内の水面の降下時間を調べよう.水面の高さは時間 Ø の関数
であり, À ´Øµ と表す.時刻 Ø から微小時間 Ø の間に水面が À から À
˽ À であり,
´ À
¼µ だけ下がるとすると,容器内の水の減少量 ´体積µ は
これはこの間に小孔から流出した量 É
˾
¾
Ø に等しいので,
Ô
˽
˾
À
Ô
¾ À
が成り立つ.この式を変形したのち, Ø
積分すると,
À
Ô
À¼
½
となり,この式より,
À
Ô
À
が得られる.式 ´¿º
に要する時間 Ì が
¼µ
で
À
¼
¼ ´À
À
Ô
À¼
´¿º
Ø
Ø
¼
˾
¼µ
Ô
˽
˾
˽
¾
Ø
から
Ø ´À µ
µ
まで両辺を
´¿º
µ
Ö
¾
Ø
´¿º ¼µ
とおくと,水面が小孔と同じ高さになるまで
×
Ì
˽
˾
¾À¼
´¿º ½µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¿
と求められる.
側壁の上端
水面
À
図
¿º º
¿º½
せきの側面図.
せき
最近の日本では,ほとんどの川やダムなどの水については水利権が設定され
ている.特に,農業用水や工業用水を取水するときにはその取水量を管理する
必要がある.これらの用水路を流れる水の流量測定には,図 ¿º½ のように流
路の底部に金属板やコンクリート板の障壁を作り,その障壁を乗り越えて流れ
る水の高さ À を測定する.この障壁をせきと呼ぶ.このとき,小さい流量の
測定には,図 ¿º½ ´ µ のように,三角形にあけた狭い流路面積をもつ三角せき
を用いる.もう少し大きな流量を測定するときには,図 ¿º½ ´ µ のような四角
せきを用い,流量に応じて,その幅 Ï を大きくする.
せきの位置では,水面は上流に比べて少し低くなっている ´図 ¿º½ µ.水路
底面からせき開口部の下端までの高さを とし,せき開口部下端から上流で
の水面までの高さを À とする.上流における水面の位置を原点として,鉛直
下方に Þ 軸をとる.位置 Þ におけるせき開口部の幅を Û ´Þ µ とすると,Þ と
Þ · Þ の間の開口部の面積は Û ´Þ µ Þ と表される.せき上流の1点を Ƚ とし,
その点での流速を Ú½ とする.せきの開口部での位置 Þ に点 Ⱦ をとり,その
点での流速を Ú¾ とする.これら2点について,ベルヌーイの式を適用すると,
½
¾
¾
Ú½ · Ô¼ ·
´À ·
µ
½
¾
¾
Ú¾ · Ô¼ ·
´À ·
Þµ
´¿º ¾µ
となる.ここで, は水の密度,Ô¼ は大気圧である.また,式 ´¿º ¾µ を導くと
きに,せきの開口部においては流体内部の圧力は Ô¼ に等しく,位置 Þ にある
流体のもつ位置エネルギーは ´À ·
Þ µ であることを用いている.また,
上流では流体内部での圧力 Ô と位置エネルギー Í の和 Ô · Í
´À ·
µ で
ある.これより,位置 Þ での流速 Ú¾ は
Õ
Ú¾
¾
Ú½ · ¾ Þ
´¿º ¿µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
となるが,せきの最下部の高さ
が À に比べて大きいときは,流速 Ú½¾ が
¾ Þ に比べて小さく,これを無視することができる.このとき,式 ´¿º ¿µ は
Ú
Ú¾
Ô
¾ Þ
となる.ここで, Ú は流速係数である.Þ と
流体の流量 É は流速 Ú¾ とその断面積 Û ´Þ µ
て ¼ から À まで積分して,
À
Ú
É
´¿º
の間の開口部を通過する
の積であり,これを Þ につい
Þ ·
Þ
Ô
Þ
Ô
À
¾ ÞÛ ´Þ µ Þ
¾ ÞÛ ´Þ µ Þ
¼
µ
´¿º
µ
¼
となる.せき開口部における水面は上流における水面よりわずかに低いこと
と,せき開口部最下点でも流れが縮流となることを考慮して,式 ´¿º µ におい
て,縮流係数 を導入し,
Ú とおいた.
´ µ
´ µ
水面
Ç
水面
Ç
À
À
Ï
Þ
図
Þ
せきの正面図.´
¿º½
µ
三角せき.´
µ
四角せき.
三角せき
図 ¿º½ ´ µ のような三角形の切欠きをもつせきを三角せきという.三角形の
頂角を とし,水面を原点 Ç にして鉛直下向きに Þ 軸をとる.三角形の流路
断面において,位置 Þ での開口部の幅は
Û ´Þ µ
である.これを式 ´¿º
À
Ô
µ
¼
Þµ Ø Ò
¾
´¿º
µ
´¿º
µ
に代入して,
¾ Þ ¾´À
É
¾´À
Þµ Ø Ò
¾
Þ
Ô
½
¾
Ø Ò
¾
À
¾
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
を得る.流量係数 は実験結果とよく一致するように定める.実験式として
はレーボックの実験式¸ ストリックランドの実験式などが知られているが,お
よそ ¼
¼ ¾ の値である.
四角せき
せきの開口部が四角であるせきを四角せきと呼ぶ.開口部の幅
からの距離 Þ によらず一定で Û なので,流量は
À
Ô
¾ ÞÛ Þ
É
¼
と求められる.実験によれば,À
¼
¼
である.
¿º
½
¾
¿
Ô
¾
Û À
¿ ¾
の範囲で,流量係数
Û ´Þ µ
は水面
´¿º
µ
の値はおよそ
運動量および角運動量と流体力
流れの中にある物体が流体から受ける力や流れが管壁に及ぼす力を求める
ためには,壁面近傍での圧力を求め,物体表面や管壁面について積分を行
う必要がある.さらに,粘性を考慮に入れるときには,表面での粘性応力
を求めて積分をする必要がある.この章では主に非粘性流の場合について,
運動量の保存則より物体に働く力を求める方法と角運動量の保存則より,
物体に働くトルクを計算する方法を説明する.多くの場合,同様の議論は
粘性を考慮に入れても成り立つ.
¿º º½
運動量保存の法則
運動量の変化は力積に等しいことを力学で学んだ.ここでは,図 ¿º½ のよう
な管路流れを考える.この図で,
で表されているのは剛性をもつ管の一
部である.この管の一部と中を流れる流体との力の相互作用について調べてみ
よう.管の中心線に沿って座標 × をとり,管の両端はそれぞれ × ×½ および
×¾ で表されるとする.座標 × における管の断面積は Ë であり, ×½ では断面
積 ˽ , ×¾ では ˾ である.また,流体の密度は一定であるとし, とおく.単
位時間に管を流れる流体の流量 ´単位時間に管の各断面を通過する流体の体積µ
は É であるとする.座標 × での流速を Ú とし,速度ベクトルと Ü 軸となす角
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
度を
は
とおくと,この管の中を流れている流体がもつ運動量 Å
×¾
ÅÜ
´ÅÜ ÅÝ µ
×¾
Ú
×½
Ó×
Ë
×
ÅÝ
Ú× Ò
×½
Ë
´¿º
×
µ
と表される.また,断面 × ×½ と ×¾ での流速をそれぞれ Ú½ および Ú¾ とし,
それらが Ü 軸となす角度をそれぞれ ½ , ¾ とすれば,これらの断面から単位
時間あたり流入する Ü および Ý 方向の運動量 ÉÅܽ ,ÉÅݽ ,ÉÅܾ ,ÉÅݾ は
それぞれ,
ÉÅܽ
ÉÅܾ
ÉÚ½
Ó×
½
ÉÚ¾
Ó×
¾
ÉÅÝ ½
ÉÚ½ × Ò
ÉÅÝ ¾
½
ÉÚ¾ × Ò
´¿º ¼µ
¾
である.ここで,ÉÅܾ と ÉÅݾ に
符号がついているのは,流入する運動
量が負であること,すなわち,運動量が流出することを表している.
×
Ý
Ú¾
˾
¾
Ⱦ
Ú½
˽
½
Ƚ
¿
Ö
Ü
Ç
図
¿º½
運動量と角運動量の保存則.
一般に,運動量保存の法則は「運動量の変化は力積に等しい」ということが
できる.ただし,流れにこの法則を適用するときには注意が必要である.こ
こではオイラー記述を採用しているので,運動量の時間変化率は単位時間に
流入する運動量と力との和となる.流体に働く力は管壁から流体に及ぼす力
´
×½ と ×¾ の両断面に働く圧力による力 Ô½ ˽ と Ô¾ ˾
Ü
ݵ と ×
であるとし,重力などの体積力を無視する.このとき,運動量の保存則を式で
表すと,Ü 方向と Ý 方向のそれぞれについて,
ÅÜ
Ø
ÅÝ
Ø
´ÉÅܽ · ÉÅܾ µ · Ô½ ˽
Ó×
´ÉÅÝ ½ · ÉÅÝ ¾ µ · Ô½ ˽ × Ò
½
½
Ծ ˾
Ó×
Ô¾ ˾ × Ò
¾
¾
Ü
Ý
´¿º ½µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
となる.ここで,流れは定常的であると仮定し,管の中の流体がもつ運動量変
化 ÅÜ Ø および ÅÜ Ø をともに ¼ とおき,式 ´¿º ½µ に ´¿º ¼µ を代入し,
整理すると, Ü と Ý が
Ü
É´Ú½
Ý
Ó×
½
É´Ú½ × Ò
¾
½ ¾
Ó×
Ú
Ú
¾µ ·
× Ò
Խ ˽
¾µ ·
Ó×
½
Ô½ ˽ × Ò
¾ ¾
½ ¾ ¾
Ô Ë
Ô Ë
Ó×
× Ò
¾
¾
´¿º ¾µ
と表される.
【例題 ¿º 】 図 ¿º½ のようにノズルから流体が噴出して,流れと垂直な壁面
に衝突している.流れは壁面に衝突して,壁面に沿って流れており,紙面に垂
直な方向にはほぼ一様な2次元流でその奥行き幅は Û であるとする.ノズルか
ら噴出するジェットの幅は ½ ,流速は Ú¼ であり,その密度は である.ジェッ
トの周りは大気圧 Ô¼ であり,重力の影響を無視する.壁面が流体から受ける
力
の大きさを求めよ.
[解答] 重力の影響を無視しており,流れの内部においても圧力は常に Ô¼ で
¾
Ú¼
図
¿º½
½
Ç
壁面に衝突する噴出流.
あると考えることができるので,ベルヌーイの公式より,流速はいたるところ
で一定の値 Ú¼ である.問題の対称性より,流体力の作用線はジェットの中心
軸と一致しており,力はジェットの噴出する方向成分のみをもつ.ノズルから
単位時間に噴出する流体の質量は Ú¼ ½ Û であり,壁に沿って両側へ流れ出る
流体の質量は ¾ Ú¼ ¾ Û である.単位時間に噴出する質量と流れ出る質量が等
しい ´質量保存の法則µ ので, ¾
½ ¾ である.ジェットの噴き出る方向を Ü
方向と考えれば,流体が壁に及ぼす力の大きさ は式 ´¿º ¾µ の Ü 成分である
として,
ÉÅܽ Ú¼
¾
½ ÛÚ¼
´¿º ¿µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
と求めることができる.ここで,流出する流体は Ü 方向と垂直方向のみの速
度をもっているので, ¾
¾ である.また,壁面の後方からも大気圧が作
用しているので,大気圧の影響は相殺されることも用いている.
Ç
Ú¼
図
¿º½
Í
½
字型壁面に衝突する噴出流.
【問 ¿º 】 ノズルから噴出する流体が図 ¿º½ のような Í 字型の壁面に衝突
し,その流れの方向が ½ ¼Æ 曲げられて,衝突前と逆方向に流れている.ノズ
ル口を出た直後のジェット流の断面積を Ë ,流速を Ú¼ として流体が Í 字型壁
面に及ぼす力 の大きさを求めよ.ただし,流体の密度を とすること.
¿º º¾
角運動量保存の法則
角運動量の時間変化率はトルクに等しい.このことを用いて,流体が物体に
及ぼすトルクを評価することができる.物体にいくつかの力が働くとき,その
合力はそれぞれの力の和に等しく,合力が物体に及ぼすトルクはそれぞれの力
が及ぼすトルクの和に等しい.これより,合力の作用線を決めることができる.
再び,図 ¿º½ にもどって,管の一部である
内に含まれる流体がも
つ, 点 Ç まわりの角運動量とその時間変化について考えよう.ここでも,流
体の密度は で,一定であるとし,重力の影響は考慮しないこととする.単
位時間に管を流れる流体の流量は É である.運動量 Å を考えたときと同様
に,座標 × での流速を Ú とし,速度ベクトルと Ü 軸となす角度を とおく.
また,管の中央線に沿って座標 × で表される点の直角座標を ´Ü Ý µ とする.こ
のとき,この管の中を流れている流体がもつ角運動量 ª は
×¾
ª
×½
´ÝÚ
Ó×
ÜÚ × Ò
µË
×
´¿º
µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
と表される.また,断面 × ×½ と ×¾ の中心点の直角座標をそれぞれ ´Ü½ ݽ µ,
´Ü¾ ݾ µ とすると,これらの断面から単位時間に流入する角運動量はそれぞれ,
ɪ½
ɪ¾
ɴݽ ڽ
Ó×
ɴݾ ھ
½
Ó×
½½
¾ ¾ ¾
× Ò
Ü Ú
Ü Ú
½µ
× Ò
¾µ
´¿º
µ
となる.
角運動量の時間変化率は単位時間に流入する角運動量とトルクの和に等し
い.流体が管壁に及ぼす合力の作用点を ´Ü Ý µ とおくと,
ª
Ø
´Éª½
ɪ¾ µ·Ô½ ˽ ´Ý½
Ó×
½
ܽ × Ò
½µ
Ô¾ ˾ ´Ý¾
Ó×
¾
ܾ × Ò
¾µ
Ý
Ü ·Ü
´¿º
µ
が成り立つ.物体が流体から受けるトルク Æ は流体が物体から受けるトルク
に符号
をつけた量に等しく, Æ
Ý
Ü
Ü
Ý なので,流れが定常的で
あるとき,
´Éª½
Æ
ɪ¾ µ · Ô½ ˽ ´Ý½
ɴݽ ڽ
·
Ô½ ˽ ´Ý½
Ó×
Ó×
½ ½
Ó×
ܽ Ú½ × Ò
ܽ × Ò
½µ
½
ܽ × Ò
¾¾
¾ ¾ ¾
½
Ó×
Ý Ú
Ô Ë ´Ý
½µ
¾·
Ó×
¾
Ô¾ ˾ ´Ý¾
ܾ Ú¾ × Ò
ܾ × Ò
Ó×
¾
ܾ × Ò
¾µ
¾µ
¾µ
´¿º
µ
となる.
Ƚ
½
Ⱦ
Ú½
¾
Ú¾
Ö¾
Ç
図
¿º½
Ö½
羽根車に働くトルク.
流体が物体に及ぼすトルクを求める問題の一例として,図 ¿º½ のような羽
根車の場合を考えてみよう.羽根車の構造は,中央に穴の開いた2枚の円板と
Ý
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¼
その間に挟まれた羽根 ´ガイドµ からできている.2枚の円板の間隔は であ
り,その間に流れの方向を変えるための羽根 ´ガイドµ を取り付けられている.
この2枚の円板の間隙を流体が流れる.図 ¿º½ では,半径 Ö½ の円板の外周か
ら流体が流速 Ú½ で接線と角 ½ の向きに2円板間隙に流入し,半径 Ö¾ の内側
の穴から流速 Ú¾ で接線と角 ¾ の向きに流出している.内側の穴から流れ出
た流体はその穴に接続しているパイプを通して外部に流れ出る.流れは中心軸
Ç について軸対称であると仮定する.また,流れは非圧縮流であり,その密度
を とする.
まず,質量保存の法則より,2枚の円板の間隙に単位時間に流入する流体の
流量 É は ¾ Ö½ Ú½ × Ò ½ であり,密度が一定なので,流出する流量 ¾ Ö¾ Ú¾ × Ò ¾
に等しくなければならない.したがって,
Ö½ Ú½ × Ò
Ö¾ Ú ¾ × Ò
½
´¿º
¾
µ
でなければならない.2円板間隙に外周から流入する角運動量は ÉÖ½Ú½ Ó× ½
¾ ¾
¾
Ö½ Ú½ × Ò ½ Ó× ½ であり,中央の穴から流出する角運動量は ÉÖ¾ Ú¾ Ó× ¾
¾ ¾
¾
Ö¾ Ú¾ × Ò ¾ Ó× ¾ である.外周部においても内側の穴部分についても圧力
は半径の方向に働くので,2円板間の流体に及ぼすトルクは ¼ である.流体が
単位時間あたりに失った角運動量は流体が羽根車に加えるトルク Æ に等しい
ので,Æ は
Æ
É´Ö½ Ú½
Ó×
½
Ö ¾ Ú¾
Ó×
¾ ¾
¾µ
´Ö½ Ú½ × Ò ¾
½
¾ ¾
Ö¾ Ú ¾ × Ò ¾
¾µ
´¿º
µ
と求められる.
¾
Ú¼
½
Ç
Ü
¿
図
¿º¾¼
壁面に衝突する噴出流.
【例題 ¿º 】 図 ¿º¾¼ のようにノズルから噴出する流体が,壁面に斜めに衝突
する場合に,流体が壁面に及ぼす力とその作用点 ´Üµ を求めよ.ただし,壁面
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
½
は流れの方向と の角度をなしており,流れが壁面に衝突したのちは,壁面
に沿って流れるとする.また,紙面に垂直な方向にはほぼ一様な2次元流でそ
の奥行き幅は Û であるとする.ノズルから噴出するジェットの幅は ½ ,流速
は Ú¼ であり,その密度は である.ジェットの周りは大気圧 Ô¼ であり,重力
の影響を無視する.
[解答] 例題 ¿º と同様に,流れの内部においても圧力は常に Ô¼ であると考
えることができるので,ベルヌーイの公式より,流速はいたるところで一定の
値 Ú¼ である.図 ¿º¾¼ の右上への流れる流体の幅を ¾ とし,左下へ流れる流体
の幅を ¿ とする.これら3方向の流れと壁面を取り囲む検査面を考える.検
査面内に単位時間に流入する流体の質量は Ú¼ ½ Û であり,右上および左下に
流出する流体の質量はそれぞれ, Ú¼ ¾ Û および Ú¼ ¿ Û である.質量保存の
法則より,
¾· ¿
½
´¿º ¼µ
が成り立つ.次に,検査面に流入する流体がもつ壁に垂直な方向の運動量は
¾
½ ÛÚ¼ × Ò であり,検査面から出て行く流体はこの方向には運動量をもたな
い.したがって,流体が壁面に及ぼす力
の大きさは
¾
½ ÛÚ¼ × Ò
´¿º ½µ
である.また,平板に沿う方向には力は働かないので,検査面に流入するこの
¾
方向の運動量は ½ ÛÚ¼¾ Ó× であり,出て行く運動量は ¾ ÛÚ¼¾
¿ ÛÚ¼ であ
る.これらが等しいので,
½ Ó×
である.式 ´¿º
¼µ
¾
´¿º ¾µ
¿
と ´¿º½½µ より,
¾
½·
Ó×
¾
½
½
¿
Ó×
¾
½
´¿º ¿µ
となることが分かる.力
の作用点 ´作用線µ を求めるには,流体が壁面に及
ぼす,点 Ç まわりのモーメントと力
のモーメントが等しいことを用いる.
壁面の裏側にも大気圧 Ô¼ が働くとすれば,流体の圧力を考慮する必要がなく,
検査面に流入する角運動量と流出する角運動量の差が,流体が壁面に及ぼす
トルク Æ に等しい.ノズルから吹き出る流れの中央線と壁面との交点を点 Ç
としているので,流入する角運動量は ¼ である.また,流出する角運動量は
¾
¾
´ ¾ ¾µ
´ ¿ ¾µ
¾ ÛÚ¼
¿ ÛÚ¼ なので,トルク Æ は
Æ
¾
ÛÚ¼ ´
¾
¾
¾
¿µ ¾
´¿º
µ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
と表せる.一方,力
トは
¾
の作用点と点
Ç
Æ
Ü
の距離を
Ü
Ü
とすれば,そのモーメン
¾
½ ÛÚ¼ × Ò
である.ただし,力は壁面に垂直に働いていることを用いた.式 ´¿º
を等しいとおいて,
Ü
と求められる.この式で
¾
½
¾
ÓØ
½
とおくと,Ü
¼
µ
´¿º
µ
と ´¿º
µ
´¿º
µ
であることが確かめられる.
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
¿
第 3 章 演 習 問 題
問題1 実験により,流線・流脈線・流跡線を可視化し,写真に写すとき,可視
化粒子あるいは染料として何を選び,どのようにして粒子を注入し,カ
メラのシャッター速度をどの程度に設定すれば良いか.それぞれの場合
について詳しく述べよ.
問題2 水中を速度 ¾¼ Ñ» で航行している潜水艦のまわりの流れを解析する
場合,非圧縮性近似は妥当かどうか考えよ.また,この潜水艦から出る
音を解析する場合ではどうか.
問題3 直径 ¾ Ñ の電線に風が流速 ½¾ Ñ»× で吹きつける.この流れのレイ
ノルズ数を求めよ.ただし,空気の温度を ¾¼ Æ とする.
問題4 直径 ½¼ Ñ の円管内を水が流速 ½ Ñ»× で流れているとき,この流れは
層流であるか,乱流であるかどちらとみなせるか.その根拠も説明する
こと.ただし,水の温度を ¾¼ Æ とする.
問題5 流速 Ù が Ù ´Ù Ú µ ´ Ü ´Ü¾ · Ý ¾ µ Ý ´Ü¾ · Ý ¾ µµ と表わされる2
次元流れの流線・流跡線・流脈線の概図を描け.
´Ù Ú µ
´Ü
Ý µ で表わされる2次元流れについて,
問題6 流速 Ù が Ù
Ø
¼ における流線,Ø
¼ に ´Ü Ý µ
´¼ ¼µ を通過する流体粒子の流跡
線,´Ü Ý µ ´¼ ¼µ を通過する流体粒子の Ø
における流脈線の概図を
描け.
問題7 流速 Ù が Ù ´Ù Ú µ ´Í Î Ó× ªØµ,´Í ¾,Î
½,ª
½µ で表わ
される2次元流れについて,Ø ¼ における流線,Ø ¼ に ´Ü Ý µ ´¼ ¼µ
を通過する流体粒子の流跡線,´Ü Ý µ ´¼ ¼µ を通過する流体粒子の Ø
における流脈線の概図を描け.
問題8 流速 Ù が Ù ´Ù Ú µ ´Í Ó× ªØ Î
で表わされる2次元流れについて,Ø
,´Í
¾,Î
¼ における流線,Ø
× Ò ªØµ
,ª
¼ に ´Ü
¾
½µ
ݵ
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
´¼ ¼µ
の
Ø
を通過する流体粒子の流跡線,´Ü Ý µ
における流脈線の概図を描け.
´¼ ¼µ
を通過する流体粒子
問題9 2枚の円板の間隙を中心部から外周部に向かって流れる軸対称流につい
て,中心から半径 ¾ Ñ の位置 Ƚ で流速 Ú½ を測定したところ,Ú½ ½¼
Ñ»× であった.半径 ¾¼ Ñ の位置 Ⱦ におけう流速 Ú¾ を求めよ.
問題10 2枚の円板間隙を外周部から中心に向かって流れる空気の軸対称流
れを考える.中心から半径 ¿¼ Ñ の位置 Ƚ での流速は Ú½ ¾¼ Ñ»× で,
¿
密度は ½
½ ¾
»Ñ であった.半径
Ñ の位置 Ⱦ で,空気の密
¿
度が ¾ ½ ¼ »Ñ であるとき,この位置での空気の流速 Ú¾ はいくら
か.
問題11 断面積がなだらかに変化している縮小管流れにおいて,点 Ƚ での
¾
¾
管の断面積は ˽
Ñ ,点 Ⱦ では ˾
¾ Ñ であった.また,点
Ƚ と Ⱦ に立てた水柱の高さの差 À½
À¾ は
Ñ であった.点 Ƚ と
Ⱦ での流速 Ú½ と Ú¾ を求めよ.ただし,管は水平におかれており,2点
Æ とする.
Ƚ と Ⱦ は同じ高さである.また,水温を ¾¼
問題12 間隔 ½ Ñ だけ離しておかれた2枚の円板間を外周部に向けて流れ
る水の軸対称流れを考える.中心から半径 ¿ Ñ の点 Ƚ と半径
Ñ の
点 Ⱦ に立てたガラス管中の水面高さの差が
Ñ であった.点 Ƚ と
Ⱦ における流速 Ú½ と Ú¾ を求めよ.ただし,円板は水平におかれてい
るものとし,水の温度を ¾¼Æ とする.
問題13 断面積がゆるやかに変化する縮小管流れにおいて,点 Ƚ は基準面
¾
より高さ Þ½
¼ Ñ にあり,その点での管の断面積は ˽
¾¼ Ñ で
ある.また,点 Ⱦ は高さ Þ¾ ¿¼ Ñ の位置にあり,その点での管の断
面積は ˾ ¾ Ѿ である.点 Ƚ と Ⱦ に立てた水柱の高さの差を測定
したところ À½ À¾ ½¼ Ñ であった.各点での流速 Ú½ と Ú¾ を求め
よ. ただし,水の温度を ¾¼Æ とする.
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
問題14 ピトー管を用いて水の流れの流速測定を行ったところ,全圧 ´静圧と
動圧の和µ と動圧の差を示す2本のガラス管内の水面差は À
¿
Ñ
であった.このときの流速 Ú を求めよ. ただし,速度係数を Ú ½ と
し,水の温度を ¾¼Æ とする.
問題15 直径 ¼ Ñ の円形容器の最下部に断面積 ¾ Ѿ の小孔があけられ
ている.水位が À
¿¼ Ñ であるとき,小孔から流れ出る水の流量を
Æ とす
求めよ.ただし,流量係数を
½ とし,水の温度を ¾¼
Ú
る.
問題16 直径 ¼ Ѹ 高さ ¾¼ Ñ の円錐形の先端を ¾ Ñ 切り落とした容器
を逆さまにおき,その中に水を満たす.容器の最下部には直径 ¾ Ñ の
小孔があいている.はじめにこの逆円錐容器最上部 À ½ Ñ まであっ
た水が小孔からすべて流れ出るのに要する時間を求めよ.ただし,水の
温度を ¾¼Æ とし,流量係数を
½ とする.
Ú
問題17 直径 ¼ Ѹ 高さ ¿¼ Ñ の円筒形容器の底部に断面積 ¾ Ѿ の小孔
があけられている.はじめに容器中に高さ ¾ Ñ まで水が満たされてい
た.この水が小孔より流れ出て水深が Ñ になるまでに要する時間を
求めよ.ただし,水の温度を ¾¼Æ とし,流量係数を
½ とす
Ú
る.
問題18 全幅せきを用いて流路を流れる流量を測る.せきの開口部下端から
水面までの高さが À ½ ¼ Ñ であり¸ 開口部の幅が
½ ¾ Ñ であった
Æ と
とき,流量を求めよ.ただし,流量係数を
½ とし,水温を ¾¼
する.
Æ
問題19 三角せきを用いて流れの流量を測る.三角せきの頂角は
¼ で
ある.せきの最下部から水面までの高さが À
¾¼ Ñ のとき,流量を
Æ
求めよ.ただし,水の温度を ¾¼ とし,流量係数を
½ とする.
Ñ のオリフィスが
問題20 直径 ½¼ Ñ の円管の中に円形開口部の直径が
設けられ,この管内を水が流れている.オリフィス前後に立てたガラス
第 ¿ 章 流れの工学的取り扱い
管の水位差 À½
し,水の温度を
À¾
は
¿
Ñ
であった.このときの流量を求めよ. ただ
½ とする.
Ú
Æ とし,収縮係数と速度係数を
¾¼
Ñ の円形断面の水の噴流が ¾¼ Ñ»× で曲板に当たり,方向
問題21 直径
Æ
を ½ ¼ 変えるとき,曲板を静止させておくのに必要な力はいくらかº た
だし,水の温度を ¾¼Æ とする.
問題22 流量 ½ »× ,直径 ½¼ Ñ の円形断面をもつ水流が角度 ¿¼Æ で平板に
衝突している.平板を静止させておくのに必要な力はいくらか.また,流
れはどのような流量比で2方向に分かれるか.ただし,水の温度を ¾¼Æ
とする.