EP方程式の定常解の存在と安定性

プラズマのモデル方程式の定常解の存在と漸近安定性
鈴木 政尋 (東京工業大学情報理工学研究科)
本講演では,一次元半空間 R+ := (0, ∞) 上でプラズマ中の正イオンの流れを記述
する方程式系
ρt + (ρu)x = 0,
(
)
(ρu)t + ρu2 + Kρ x = ρφx ,
φxx = ρ − e−φ
(1a)
(1b)
(1c)
の境界層の存在と漸近安定性について論じる.ここで,ρ, u, φ はそれぞれ,イオ
ン密度,流速,電位を表す未知関数である.また, K は正定数とする.方程式系
(1) に対して次の初期条件及び境界条件を課す.
(ρ, u)(0, x) = (ρ0 , u0 )(x),
(2)
φ(t, 0) = φb .
(3)
ただし,初期値 (ρ0 , u0 ) は
inf ρ0 (x) > 0,
x∈R+
lim (ρ0 , u0 )(x) = (ρ+ , u+ )
x→∞
(4)
を満たし,φb ,ρ+ ,u+ は与えられた定数とする.また,電位 φ の基準点は無限遠
方とする.すなわち,
lim φ(t, x) = 0.
x→∞
このとき,方程式 (1c) が古典な意味で可解となる為には,ρ+ = 1 が必要条件と
なる.
プラズマが接触する物体の表面に境界層(シース)が形成される条件として,プ
ラズマ物理では “Bohm 条件”
u+ < 0,
u2+ > K + 1
(5)
が知られているが (文献 [2] を参照),本研究はその数学的な検証を目的としてい
る.具体的には,Bohm 条件 (5) が定常解の存在の為の十分条件を与える事を示
˜ とは,境界条件 (3) を満たす方程式系 (1) の時間に
した.ここで,定常解 (˜
ρ, u˜, φ)
独立な解を意味する.
(
˜ 0) = φb ,
φ(t,
(˜
ρu˜)x = 0,
)
ρ˜u˜2 + K ρ˜ x = ρ˜φ˜x ,
˜
φ˜xx = ρ˜ − e−φ ,
˜
lim (˜
ρ, u˜, φ)(x)
= (1, u+ , 0).
x→∞
(6a)
(6b)
(6c)
(6d)
定常問題 (6) の可解性を議論する上で,Sagdeev ポテンシャル
∫ ξ
u2
u2
V (ξ) :=
f −1 (η) − e−η dη, φ˜ = f (˜
ρ) := K log ρ˜ + +2 − +
2
2˜
ρ
0
が重要な役割をはたす.u+ 6= 0 のとき,f の逆象は二価となるが,無限遠方の値
˜ = (1, 0) が含まれる枝を選び,f −1 (φ)
˜ を一価関数として定義する.
(˜
ρ, φ)
定理 1. i) 無限遠方の流速 u+ が u2+ ≤ K 又は K + 1 ≤ u2+ を満たすとする.この
˜ が一意的に存在する為の必要十分条件は,
とき,定常問題 (6) に単調な解 (˜
ρ, u˜, φ)
√
境界値 φb が V (φb ) ≥ 0 と φb ≥ f (|u+ |/ K) を満たす事である.
ii) 無限遠方の流速 u+ が K < u2+ < K + 1 を満たすとする.このとき,定常問
題 (6) には自明な解 (1, u+ , 0) 以外に解は存在しない.
Bohm 条件 (5) の下では,|u2+ − K + 1| 1 ならば非単調な定常解も構成でき
る.一方,物理実験で観測されるシース中のイオン密度は単調な関数である事か
ら,本講演では Bohm 条件 (5) を満たす単調な定常解をシースと呼ぶ.
方程式系 (1) を無限遠方の値 (1, u+ , 0) で線形化した方程式系のスペクトルの実
部は常に零となる為,時間大域的可解性を議論する事は一般には困難である.本
研究では,初期摂動に対して空間方向の減衰を仮定して,定理 1 で構成したシー
スの漸近安定性を示した.
定理 2. 無限遠方の流速 u+ が次の条件を満たすとする.
u+ < 0,
u2+ > (K + 1)2 /K.
(7)
このとき,ある正定数 ε0 が存在して,|φb | + k(ex/2 (ρ0 − ρ˜), ex/2 (u0 − u
˜))k2 ≤ ε0
ならば,初期値問題 (1)–(3) に
x/2
(e
(ρ − ρ˜), e
x/2
(u − u˜), e
x/2
˜ ∈
(φ − φ))
2
∩
C k ([0, ∞); H 2−k (R+ ))
k=0
を満たす解 (ρ, u, φ) が一意的に存在する.さらに, 指数的減衰評価
x/2
˜
k(ex/2 (ρ − ρ˜), ex/2 (u − u˜), ex/2 (φ − φ))(t)k
(ρ0 − ρ˜), ex/2 (u0 − u˜))k2 e−αt
2 ≤ Ck(e
が成立する.ここで, C と α は t によらない正定数である.
仮定 (7) は Bohm 条件より強い条件であり,この改良は現在考察中である.ま
た,定理 2 では初期摂動に対して指数的な減衰を仮定しているが,代数的な減衰
に対しても同様な結果が得られている.ただし,(7) より強い条件が必要となる.
記号 非負の定数 i ≥ 0 に対して, H i (R+ ) は i 次の Sobolev 空間であり,そのノル
ムを k · ki とする.
参考文献
[1] F. F. Chen, Introduction to Plasma Physics, Plenum, 1974.
[2] K.-U. Riemann, The Bohm criterion and sheath formation, J. Phys. D 24 (1991), 493–
518.