12月12日の講義ノート

§9. 正則函数の性質
以下,D を領域,函数 f は D で正則とする.
定理 9.1
(1) f は D で何回でも複素微分可能である.
:閉円板,C : の周である円周を反時計回りに 1 周する路
Z
f (⇣)
n!
(n)
=) f (z) =
d⇣ (8z 2 Int( )).
2⇡i C (⇣ z)n+1
(2) D
証明 (1) と (2) を帰納法で示そう.n = 0 のときは (2) は Cauchy の積分公式.さて
f は n 回まで複素微分可能でその n に対して (2) が成り立つと仮定する.このとき
Z
f (n) (z + h) f (n) (z)
(n + 1)!
f (⇣)
d⇣
z
2⇡i
z)n+2
C (⇣
⇢h ⇣
Z
⌘i
n!
1
1
1
n+1
=
f (⇣)
d⇣. · · · 1
n+1
n+1
2⇡i C
h (⇣ z h)
(⇣ z)
(⇣ z)n+2
n
n
P
P
ここで,An+1 B n+1 = (A B)
An k B k = (A B)
Ak B n k · · · · · · 2 より
1
h
⇣
ゆえに,
k=0
1
(⇣
(⇣
n
n
X
k=0
z
h)n+1
(⇣
1
z)n+1
n+1
を n + 1 個の
z)n+2
(⇣
1
(⇣
n k+1
z
=
h)
n
X
(⇣
k=0
=h
z)n
(⇣ z
n X
n k
X
k=0 j=0
9 > 0 s.t. ⇣
(⇣
⌘
z)k+1
k+1
=
n
X
k=0
k=0
1
(⇣
1
と見ると,
z)n+2
o
1
(⇣ z)n+2
(⇣
z
n k+1
h)
(⇣
z
j+1
h)
(⇣
1
k+1
(⇣
z)k+1
.
の { } 内は,
h)n k+1
z)n+2
1
(⇣
h)n
z
z)n+2
j
(再び
2
を用いた).
z = 2 (for 8⇣ 2 C) となっているので, h < のとき,
⇣ z h = ⇣ z
h =
(8⇣ 2 C).
M := sup f (z) とし,r を C の半径とすると,
z2
1
n n k
n
n!M r h X X j
n!M r h X n
の右辺 5 n+2 n+3
2 < n+1 n+3
2
2
2
k=0 j=0
k=0
ゆえに,h ! 0 のときに
1
k
r h.
< n!M
n+3
の左辺も 0 に収束し,f は n + 1 回微分可能であって,(2)
の公式が n + 1 のときにも成り立つ.以上で帰納法が完成した.
1
⇤
系 9.2
z = r とすると, f (n) (z) 5 n!n kf kC .
r
z 2 D ,D(z, r) ⇢ D ,C : ⇣
ただし kf kC := sup f (⇣) .
⇣2C
証明 定理 9.1 より
f
(n)
(z) 5 n!
2⇡
Z
f (⇣)
⇣ z0
C
n+1
kf k
d⇣ = n! · n+1C · 2⇡r = n!n kf kC .
2⇡ r
r
⇤
定理 9.3
z0 2 D ,D(z0 , r) ⇢ D =) f (z) =
1
P
an (z
n=0
z0 )n (8z 2 D(z0 , r)).
f (n) (z0 )
しかも an =
(8n).(正則函数 f (z) の z = z0 での Taylor 級数展開).
n!
証明
8z 2 D(z0 , r):given.そして r0 > 0 をとって z
z0 < r0 としておくと
1
1
r0 < r .
.このとき,C : ⇣
z0 = r とすると,Cauchy の積分公式より
Z
f (⇣)
1
f (z) =
d⇣. · · · · · · 3
2⇡i C ⇣ z
さて
⇣
z
=
⇣
z0
1
(z
z0 )
=
1
⇣
z0 1
1
z
⇣
z0 = ⇣
z0
z0
1 ⇣
X
z
n=0
⇣
z0
z0
⌘n
z z0
r
< 0 < 1 ゆえ,右端の無限級数は ⇣ 2 C につい
⇣ z0
r
て一様に収束する.ゆえに積分との順序交換ができて,定理 9.1 より
◆
1 ✓Z
1
X
X
f (⇣)
f (n) (z0 )
1
n
f (z) =
d⇣
(z
z
)
=
(z z0 )n .
⇤
0
n+1
2⇡i
n!
(⇣
z
)
0
C
において,⇣ 2 C のとき
n=0
注意 9.4
n=0
一様収束が心許ない人は,教科書の命題 3.15,命題 3.16 を参照のこと.
• 全平面 C で正則な函数を整函数 (entire function) という1.たとえば,ez ,sin z ,
cos z など.もちろん,tan z は整函数ではない.
定理 9.5 Liouville の定理)
有界な整函数は定数函数に限る.
1高校数学で,整式(多項式)で書ける函数を整函数と呼ぶ輩がいる.複素函数論をまともに勉強
した事がない連中と思われる.
2
M > 0 をとって, f (z) 5 M (8z 2 C) とする.系 9.2 より, f 0 (z) 5 M
r
が 8r > 0 で成立する.ここで r ! +1 とすると f 0 (z) = 0 を得る.そして z 2 C は
証明
⇤
任意ゆえ,f 0 は零函数.したがって f は定数函数である.
Liouville の定理を用いて,次の代数学の基本定理を証明してみよう.
定理 9.6 代数学の基本定理)
定数でない多項式は C で根を持つ2.
証明 p(z) は C で零点を持たない n 次多項式とする (n = 1).このとき, p(z) は C
1
で最小値 m > 0 を持つ(演習問題 [4.11] 参照)ので
5 1 (8z 2 C).Liouville
p(z)
m
1 は定数函数.したがって p(z) も定数函数.
の定理から
⇤
p(z)
定理 9.7
1
P
f (z) :=
an z n :収束ベキ級数(収束半径を ⇢ とする),
n=0
⇢0 := sup{R > 0 ; f (z) は z < R で 正則な函数に拡張できる }
このとき ⇢0 = ⇢ が成り立つ.
証明 f (z) は z < ⇢ で正則ゆえ,⇢0 = ⇢ である.逆に f (z) が z < R で正則な函
数に拡張できたとする.8" > 0 に対して D(0, R
f (z) は D(0, R
えに ⇢ = R
") ⇢ D(0, R) ゆえ,定理 9.3 より
") でベキ級数に展開できて,それは元のベキ級数に一致する.ゆ
".ここで " > 0 は任意ゆえ ⇢ = R.よって ⇢ = ⇢0 でもある.
⇤
系 9.8
整函数の原点での Taylor 級数展開(Maclaurin 展開)の収束半径は 1.
z
とする.分母を見ると,ez = 1 () z 2 2⇡iZ であり,
ez 1
f (0) = 1 であるから,f (z) は z < 2⇡ で正則である.
例 9.9
f (z) =
2⇡i+h
e
h
1 = e
1
X
hn
1 5
= e|h|
n!
1
n=1
2⇡i + h
! +1 (h ! 0).ゆえに R > 2⇡ のとき f (z) は
e|h| 1
z < R で正則ではない.よって f (z) のベキ級数表示の収束半径は 2⇡ である.
より, f (2⇡i + h) =
例 9.10
教科書の例 4.12 は自習.
2因数定理と多項式の次数に関する帰納法より,n
3
次多項式は重複を込めて C に n 個の根を持つ.
定理 9.11 (最大絶対値の原理)
9a 2 D s.t. f (a) = f (z) (8z 2 D) =) f (z) は定数函数.
証明
> 0 をとって D(a, ) ⇢ D とする.このとき,0 < 8r < に対して,Cauchy
Z
f (⇣)
1
の積分表示式より f (a) =
d⇣ .ここで ⇣ = a + rei✓ (0 5 ✓ 5 2⇡)
2⇡i |⇣ a|=r ⇣ a
Z 2⇡
1
とおくと,f (a) =
f (a + rei✓ ) d✓ と書き換えられる3.ゆえに
2⇡ 0
Z 2⇡
1
f (a) 5
f (a + rei✓ ) d✓ 5 f (a) .
2⇡ 0
よって f (a + rei✓ ) = f (a) (8✓).ここで r <
も任意であったから, f (z) は
D(a, ) 上で定数.ゆえに f (z) は D(a, ) で定数(演習問題 [6.10] 参照).一致の定
⇤
理より f (z) は D で定数である.
系 9.12
D :有界領域,f (z):D で正則,D の閉包 D で連続,定数函数ではない
=) f (z) の最大値は境界 @D 上でのみとる.
定理 9.13 (Morera の定理)
D :領域,f は D で連続,D
=) f は D で正則.
T :8 三角形閉路に対して
Z
f (z) dz = 0
T
証明 8a 2 D をとる.r > 0 をとって,D(a, r) ⇢ D とする.f は凸領域 D(a, r) で
正則な原始函数 F を持つ:F 0 (z) = f (z) (8z 2 D(a, r)).F は正則ゆえ,F 0 は複素
微分可能.ゆえに f も D(a, r) で正則.a 2 D は任意ゆえ,f は D で正則.
⇤
定理 9.14
fn :領域 D で正則 (n = 1, 2, . . . ) で,D の任意の compact 集合上で函数 f に
一様収束 =) f は D で正則.
証明 8a 2 D をとる.r > 0 をとって,D(a, r) ⇢ D とする.T:三角形閉路 ⇢ D(a, r)
Z
とすると, fn (z) dz = 0.ここで fn は D(a, r) 上 f に一様収束しているので,f は
T
Z
連続であって, f (z) dz = 0.Morera の定理から,f は D(a, r) で正則.a 2 D は
T
⇤
任意であったから,f は D で正則.
3この等式を正則函数の平均値の性質と呼ぶ.
4