パイエルス位相について

パイエルス位相について
永井佑紀
平成 23 年 7 月 11 日
tight-binding 模型で磁場を取り扱う際に出てくる Peierls 位相についてまとめた。ただし、この理解が正しいか
とうかはわからないので注意すること。
1
強束縛模型
tight-binding 模型とは、第一原理計算などで得られる現実の物質の性質(バンド等)を再現するように作られ
ˆ はある基底 |R を用いて
た模型である。あるハミルトニアン H
ˆ =
H
∑
|R
ˆ
R |H|R
R|
(1)
CR |R
(2)
R,R
と書ける。このとき、固有状態 |ψ は
|ψ =
∑
R
と書くことができる。ここで R は状態を特徴づけるラベルである。
次に、基底として空間的に局在した関数を用いることにする。つまり、基底 |R はサイト i に局在した状態であ
るとし、固有状態を
|ψ =
∑
Ci |Ri
(3)
ˆ j Rj |
|Ri Ri |H|R
(4)
i
ˆは
と書く。このとき、ハミルトニアン H
ˆ =
H
∑
ij
ˆ j と置き、 Ri | を消滅演算子 ci で置き換えれば、
である。さらに、tij ≡ Ri |H|R
ˆ =
H
∑
c†j tij ci
(5)
ij
ˆ j は i と j が近い場合のみ値を持つと近似できれば、扱いやすい強束縛模型ができあ
となる。ここで、 Ri |H|R
がる。
なお、局在した関数を w(Ri , r) とおくと、
∫
ˆ j =
Ri |H|R
ˆ
drw∗ (Ri , r)Hw(R
j , r)
である。
1
(6)
ベクトルポテンシャル
2
ˆ にどのようにベクトルポテンシャルが考慮され
ベクトルポテンシャルを強束縛模型で取り扱うには、演算子 H
ていたかを考えればよい。ベクトルポテンシャル A を取り扱う場合、運動量演算子 Pˆ を Pˆ + eA/c と置きかれば
ˆ 0 、置き換え後の磁場中のハミルトニアンを H
ˆ とする。この置
よい。置き換え前の無磁場のハミルトニアンを H
き換えがどのような影響を及ぼすかを追いかけることで強束縛模型にベクトルポテンシャルをどのように入れれ
ばよいかがわかる。
2.1
具体例
ベクトルポテンシャルを A = (0, x, 0)B と置く。運動量演算子は −i¯
h∇ であるので、置き換えは
e
−i¯h∇ → −i¯h∇ + A
c
(7)
と書ける。
基底として空間的に局在した状態 |R を考える。このとき、r 表示した固有状態はこの基底を用いて
ψ(r) = r|ψ
∑
=
Ci r|Ri
(8)
(9)
i
=
∑
Ci w(Ri , r)
(10)
i
と書ける。さて、ここで、新しい基底 |R を考えることにしよう。この基底は
w (Ri , r) ≡ e−ieyBRx /¯hc w(Ri , r)
と定義されているとする。ここで Rx は Ri の x 成分である。このとき、固有状態 ψ(r) は
∑
ψ(r) =
Ci e−ieyBRx /¯hc w(Ri , r)
(11)
(12)
i
となる。
この基底に運動量演算子を作用させると
(
)
−i¯
h∇w (Ri , r) = −i¯
h∇ e−ieyBRx /¯hc w(Ri , r)
= (0, −eBRx e−ieyBRx /¯hc /c, 0)w(Ri , r) + e−ieyBRx /¯hc (−i¯h∇w(Ri , r))
となるので、−i¯
h∇ + ec A を作用させると
(
e )
−i¯h∇ + A w (Ri , r) = (0, −eB(Rx − rx )e−ieyBRx /¯hc /c, 0)w(Ri , r) + e−ieyBRx /¯hc (−i¯h∇w(Ri , r))
c
となる。ベクトルポテンシャルが Ri の近傍でほとんど変化しない仮定とすると、r が Ri に近いときには
(
e )
−i¯
h∇ + A w (Ri , r) = e−ieyBRx /¯hc (−i¯h∇w(Ri , r))
c
(13)
(14)
(15)
(16)
と近似でき、さらに、原子スケールでベクトルポテンシャルが滑らかであると仮定すれば運動量演算子とベクト
ルポテンシャルが可換であると近似できる。このとき、
(
)
ˆ 0 w(Ri , r)
ˆ (Ri , r) = e−ieyBRx /¯hc H
Hw
(17)
である。w(Ri , r) は Ri まわりに局在しているので
(
)
ˆ 0 w(Ri , r)
ˆ (Ri , r) = e−ieRy BRx /¯hc H
Hw
2
(18)
となる。
この基底でハミルトニアン H を表すと、
∫
ˆ j = drw ∗ (Ri , r)Hw
ˆ (Rj , r)
Ri | H|R
∫
(
)
i
i
j
j
ˆ 0 w(Rj , r)
= dreieRy BRx /¯hc w∗ (Ri , r)e−ieRy BRx /¯hc H
∫
i
i
j
j
ˆ 0 w(Rj , r)
= eieRy BRx /¯hc e−ieRy BRx /¯hc drw∗ (Ri , r)H
ˆ 0 |Rj
= eie(Ry Rx −Ry Rx )B/¯hc Ri |H
i
i
j
j
(19)
(20)
(21)
(22)
となる。つまり、強束縛模型では
ˆ =
H
∑
|Ri t˜ij Rj |
(23)
ij
となり、状態 |Ri を消滅させる演算子を ci と定義すれば、
∑
ˆ =
H
t˜ij ci† cj
(24)
ij
と書ける。ここで、行列要素は
t˜ij ≡ eie(Ry Rx −Ry Rx )B/¯hc tij
i
i
j
j
(25)
である。
これでベクトルポテンシャルの情報を強束縛模型に取りいれることができた。注意すべきことは、磁場下で用
いている基底は、無磁場の基底に局所的に異なる位相を加えたものである、ということである。そして、この表
式は原子スケールでベクトルポテンシャルが滑らかであるという仮定を使うことで導出されている。
2.2
一般化
より一般的には、運動量演算子 Pˆ を Pˆ + eA/c と置きかえたときに、
e
−i¯
h∇eF (r) + A(r)eF (r) = 0
c
(26)
となるような F (r) を見つければよい。よって、
e
−i¯h∇F (r) + A(r) = 0
c
(27)
を解くと、
e
F (r) = −i
¯hc
∫
r
A(r) · dr
(28)
0
となる。このとき、強束縛模型での行列要素 t˜ij は
t˜ij = exp [−F (Ri ) + F (Rj )] tij
]
[
∫ Rj
e
A(r) · dr tij
= exp −i
¯hc Ri
となる。これがパイエルス位相である。
参考文献
Michael P. Marder Condensed Matter Physics, Wiley-Interscience
3
(29)
(30)