教養基礎科目「文化と社会」 後期 水曜1・2限目 認知と行動 Cognition and

脳外科研修医レクチャー
失語症
Aphasia
2006年3月17日
喜多 洋輔
人がことばを
失ってしまうとき

脳卒中,頭部外傷などで脳に損傷を受け
ると,日常当たり前にできている機能がい
ろいろな組合せで障害される.中でも、意
思を表現・伝達・理解する言語などを司る
「高次脳機能」についてフォーカスする。
今日はこれをお話しします…

左右大脳半球:運動・感覚機能の担当
 高次脳機能の役割分担
 「失語」の型と診断
 失語リハビリ
基本的運動・感覚機能

交叉があるとはいえ、左右の大脳半球が
対等な役割を担う
高次脳機能に関しては
左右の大脳半球の役割には大きな違いがある。
脳卒中や頭部外傷によって左半球が損傷され
ると、言語の障害が起こることが少なくない。
 失語が起こった患者さんが右利きの場合には、
九分九厘、左半球が壊れている
 右手(上肢)の運動と感覚を司っているのは左
半球。「優位半球」という言葉がある。左大脳半
球は、言語と利き手について優位である

左利きの人はどうか?
◆ やはり約2/3において左半球が言語の機能において重
要な役割を果たしている。
◆ 言語に関わる脳の領域は、左大脳半球の表面。中央付
近に比較的広く分布しており、右の手足の運動をコント
ロールする部分と隣接している。脳卒中ではこの領域が
損傷されやすく,右半身の運動麻痺(右片麻痺)と言語
の障害がしばしば合併して起こる。
失語とは?
言いたい言葉が言えない・出てこない症
状と他人の話が理解できない症状
 読み書きも話し言葉と同様に障害され、
筆談もうまくできない。つまり、音声として
現れる話しことばのやりとりだけでなく、頭
の中で言語を操る能力も障害されている。

失語の型
失語の原因
失語をきたす疾患

話す能力(表出能力)の障害
 ことばがなくなってしまう
 言いたいときに言えない
 間違ったことを言ってしまう
 同じことを言ってしまう
 ことばが繋がらない
 発音できない
 プロソディ(韻律)がおかしい

聞き取る能力(受容能力)の障害
「聞き取る」こと(受容)の異常
ことばを正しく聞き取り,聞き取った
内容を理解する能力の障害






ことばが聞き取れない
単語の意味が分からない
単語の意味がゴチャゴチャになる
センテンスの意味が分からない
分かることばが減ってしまった
分かったり分からなかったり
左大脳半球の機能と失語

左大脳半球の中でも,言語にかかわる領域の
役割分担が決まっている。主に、前頭葉が言語
の表出に、側頭葉が理解にかかわる。前頭葉と
側頭葉は中心溝という溝で隔てられており、中
心溝の前に手足の運動を制御する領域と、口
や喉の運動を操って言葉の音を実現する領域
がある。このため前頭葉を中心とする大きな脳
梗塞や、同様の部分を壊す脳出血によって,右
片麻痺と失語が起こる。
話すのが大変(ブローカ失語)


左前頭葉を中心に比較的広い範囲の脳が損傷されると
このタイプの失語が起こる.
言いたいことばを発するのが大変であり,意志を表現す
るのが難しいタイプ。言語の理解は比較的良好。1つ1
つの単語の意味がわかり,「馬は犬よりも大きい?」の
ような質問にも大体正しく答えられる。そこで,患者さん
の様子や状況からしん酌して,簡単な質問をして「はい
/いいえ」またはうなずき/首振りで応答してもらう

一方、側頭葉を中心とした脳梗塞や脳出
血では、言語の理解が悪い失語が起こる
が、運動と関連した領域を損傷せず運動
麻痺を伴わないことが少なくない
話せるが人の話が分からない
(ウェルニッケ失語)
人の話を理解することが難しいことを基本とす
る失語が,左側頭葉を中心とした病巣で起こる
 滑らかに比較的たくさん喋るが,状況に合った
内容ではない.しかも,出てくる語彙が乏しい場
合,話しの筋道に合わない単語が混じる場合,
日本語とは考えられない意味不明の単語が出
てくる場合など,
 手足の運動麻痺を伴わないことが多い

診断のポイント①自発発話:
例えば「どうしましたか」,「今日の気分はどうですか」な
どの患者の答えを引き出すような質問をする.できるだ
け患者に話させることが大事である.話される内容と,
流暢か非流暢かの判定をする.
 いくつかの物品を見せ,その物品の名前を言わせて,
錯語の有無などについて調べる.錯語とは音の置換に
よる誤りを指す.錯語は2つに分けられる.例えばとけい
を“めがね”と呼ぶような,語を他の語に誤る場合を語性
錯語と呼ぶ.また,音を他の音に誤る場合を字性錯語と
呼ぶ(例:えんぴつを“けんぴつ”と誤る).このとき,名前
の言えなかった物品については,その使いかたを示せ
るかも調べる.

診断のポイント②話言葉の理解

まず「左の人さし指で右の耳に触って下さ
い」などと命令してみる.この命令に応じ
られなければ,もっと簡単な“はい”あるい
は“いいえ”で答える質問をする(例:「犬
は4本足ですか」,「あなたはお医者さんで
すか」など).
診断のポイント③復唱

簡単な単語(例:リンゴ・すべりだい)を検
査者が言い,そのままオウム返しに答え
させる.このとき,何音節ぐらいまで復唱
できるのか,また錯語の有無などをチェッ
クする.こういった単語の復唱が正しく行
える場合には,文章(例:「今日は雨が
降っています」)をオウム返しに言わせる.
診断のポイント④読解と音読

例えば「目を閉じて下さい」と書かれた文章を音
読させてみる.このとき,「ここに書かれたことを
実際に行ってみて下さい」と言って患者にその
実行を促すと,患者が読解できているかも調べ
られる.もし文章を読むことができなければ,単
語(例:時計)を音読させる.いくつかの単語(時
計・新聞など)をあらかじめ書いておいて,それ
を患者に見せ,一方では実物の時計を見せて
「このいくつかの単語の中にこの物はあります
か」とマッチングさせて読解を調べる
診断のポイント⑤書字

自発書字は,住所を書かせたり,今困っている
ことを書かせたりする.かなり重度の失語が
あっても自分の名だけは書けることが多い.そ
こで例えば「時計」と書かせるなどの書取りも必
要である.もし右手に麻痺があれば左手で書か
せる.失語患者は,書字の脱落や字の置換を
左手の書字で示す(この字の置換の誤りを錯書
と呼ぶ).健常者は,今までに左手で書いた経験
がなくても左手で正しく書字できる.
失語の型
失語症リハビリテーション
(a)刺激法
(b)実用コミュニケーションの促進法
(c)認知神経心理学的方法
(d)失語症の回復に残された右半球を利用
しようとする方法:MIT(melodic intonation
therapy)
失語症の回復

その原因疾患,脳血管障害の損傷部位,
最初の症状の重症度,失語症のタイプな
どによるといわれる。リハビリテーションは
発症後かなりたってからでも効果がある
が,早く始めればそれだけ早く改善すると
いう原則は必ずしも当てはまらず,長く経
過した例においても試みた方がよいとい
われる.
Fin
参考文献
UpToDate14.1
今日の診療
ベッドサイド神経の見方
ステップ神経内科

3週間ありがとうございました!
 喜多洋輔