英国の欧州連合(EU)離脱問題の整理と今後の行方

2016年6月29日
英国の欧州連合(EU)離脱問題の整理と今後の行方
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英国国民投票ではEU離脱派が勝利。キャメロン首相は辞任を表明し、保守党は9月9日までに新首相を選出へ。
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英国政府はEUへの離脱通告を急がない姿勢を示す。新首相や議会の方針次第では、EU残留の可能性も残される。
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世界の金融市場に動揺拡がるも、短期金融市場は安定を維持。EU離脱問題が金融危機に発展する可能性は低い。
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2016~2017年は主要国の選挙への影響が注視される。スペインや豪州では政治基盤の安定を志向する兆し。
英国のEU離脱問題に投資家の注目集まる
6月24日に結果が判明した欧州連合(EU)離脱の是非
を問う英国の国民投票は、離脱派が1,741万票(51.9%)
を獲得し勝利しました。今後のEU離脱手続きの過程では、
なお紆余曲折が予想され、当面は英国の政治情勢に投
資家の注目が集まりそうです。
離脱派の勝利を受けて、6月24日にはキャメロン首相が
図1:英国のEU離脱/残留までの今後の手続き
(6月24日)英国国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利
(6月24日)キャメロン英首相が辞任を表明
(9月9日まで)保守党が新首相を選出(EU離脱派またはEU残留派)
辞任を表明しました。今後、保守党は9月9日までに新首
相を選出し、新首相の下でEUからの離脱(またはEUへの
(10月2~5日予定)保守党党大会
残留)に向けた手続きが進められることとなります(図1)。
英国政府はEU離脱の通告を急がない姿勢を示す
EU離脱派優勢の場合
EU残留派優勢の場合
具体的なEUとの離脱交渉は、英国政府がEUに対して離
脱を通告しなければ始まりません(EU基本条約50条の発
動)。EUへの通告後は、2年間を期限とした協議を通じて
EU脱退協定が締結されることになります。
もっとも、①離脱の通告後に英国が離脱方針を撤回す
ることは困難とみられること、②EU離脱後の新貿易協定の
議会が国民投票結果に反対表明
下院議員の3分の2以上の承認
議会が国民投票に法的
拘束力を付与せず、EU
への離脱通告を棚上げ
解散総選挙
EU離脱派政権
EU残留派政権
締結には不透明感が大きいことなどから、現時点で英国
政府はEUへの離脱通告を急がない姿勢を示しています。
残留
再国民投票
英国のEU残留
離脱
英国のEU残留の可能性も残されている
英政府がEUへ離脱を通告(EU基本条約50条の発動)
一方、英国がEUに残留する可能性も依然として残され
ていると考えられます。国民投票には法的拘束力がない
ため、議会決議で国民投票の結果を受け入れなければ、
EU脱退協定の交渉・締結
(2年間の交渉期限、延長可能)
離脱通告を棚上げとすることも可能との見方があります。
また、別の方策としては、改めてEU離脱の是非を問う解
散総選挙を実施し、再国民投票を行うことも選択肢として
英国議会はEU離脱に
必要な法改正を実施
新貿易協定の交渉・締結
(EU離脱後も交渉が続く可能性)
検討されている模様です。
今後、英国がEUからの離脱を進めるか、EU残留の道を
模索するか、いずれの方向に向かうかは、新首相や議会
英国のEU離脱
(出所)各種報道等よりレッグ・メイソン・アセット・マネジメント作成
の方針、世論の動向がカギを握っていると考えられます。
●当資料は、説明資料としてレッグ・メイソン・アセット・マネジメント株式会社(以下「当社」)が作成した資料です。●当資料は、当社が各種
データに基づいて作成したものですが、その情報の確実性、完結性を保証するものではありません。●当資料に記載された過去の成績は、
将来の成績を予測あるいは保証するものではありません。また記載されている見解、目標等は、将来の成果を保証するものではなく、また予
告なく変更されることがあります。●この書面及びここに記載された情報・商品に関する権利は当社に帰属します。したがって、当社の書面に
よる同意なくして、その全部もしくは一部を複製し又その他の方法で配布することはご遠慮ください。●当資料は情報提供を目的としてのみ作
成されたもので、証券の売買の勧誘を目的としたものではありません。
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英EU離脱が金融危機に発展する可能性は低い
図2:主要通貨のLibor-OISスプレッド(3ヵ月物)
英国国民投票の結果を受けて、世界の金融市場では動 (%ポイント)
揺が拡がっています。もっとも、世界的に株式や為替の変 4.0
動性が増しているものの、各国の短期金融市場は落ち着
3.5
きを維持しています(図2)。英国のEU離脱問題が直ちに
3.0
リーマン・ショックのような金融機関の破たん危機(金融シ
2.5
ステム危機)に発展する可能性は低いと考えられます。
2.0
信用リスク/流動性リスクの上昇
英ポンド
ユーロ
1.5
英中銀をはじめ、日米欧の主要中銀が必要に応じて流
欧州債務危機
米ドル
1.0
動性の供給を実施していることも、政策協調の面で短期
0.5
金融市場の安定を支える要因となっています。
ギリシャ危機と英国のEU離脱問題の違い
リーマン・ショック
0.0
-0.5
06
また、英国のEU離脱問題は、最近の例ではギリシャ危機
との類似性が連想されるものの、金融当局の政策対応力
に大きな違いがあります。ギリシャの問題はEUからの支援
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16 (年)
(出所)ブルームバーグ (期間)2016年1月2日~2016年6月27日
(注)Libor-OISスプレッド(3ヵ月物)は、主要通貨の短期金融市場にお
ける資金需給のひっ迫度合い(信用リスク/流動性リスク)を示す。
打ち切りによってギリシャの市中銀行が中銀から自国通貨 図3:世界/欧州連合に占める英国の名目GDPの比率
を調達できず、銀行の取り付け騒ぎが深刻化するリスクを
抱えていました。これに対して、英国の場合、仮にEUから
離脱したとしても、英国の市中銀行は英中銀からポンド建
てで流動性供給を受けることが可能であり、政策対応の余
地が大きく残されていると言えます。
世界経済への直接的影響は限定的とみられる
20%
14%
13.6%
12%
欧州連合(EU)の名目GDPに占める比率
10%
8%
2007年
りする懸念が増しつつあります。ただし、世界の名目GDPに
6%
5.1%
占める英国の比率は2015年で3.9%と必ずしも大きくはな
4%
限定的に留まると考えられます(図3)。
世界経済にとっては、今後の英国の政治動向の進展や
17.1%
16%
実体経済の面では、EU離脱によって英国が景気後退入
く、英国景気の低迷が世界経済に与える直接的な影響は
17.6%
16.8%
18%
2%
2015年
2020年
(予想)
3.9%
3.6%
世界の名目GDPに占める比率 3.9%
2009年
0%
90
95
00
05
10
15
20
(年)
(出所)ファクトセット
各国の政策対応によって投資家の不安心理が和らぎ、金 (期間)1990~2020年、2016~2020年はIMF予想(2016年4月時点)
融市場が落ち着きを取り戻すかが注目されます。
英国民投票の主要国選挙への影響が注視される
政治的には2016年から2017年にかけて、主要国で相
次いで選挙が予定されており、英国の国民投票が各国の
政治情勢に与える影響が注視されそうです(図4)。
英国の国民投票直後の6月26日に実施されたスペイン
(注)IMF公表の名目GDP(米ドル建て)。
図4:主要国の選挙予定(2016-2017年)
 2016年6月26日:スペイン総選挙
 2016年7月2日:豪州総選挙
 2016年11月8日:米大統領選挙
総選挙では、反EU派が伸び悩み、与党が議席を伸ばしま
 2017年3月:オランダ総選挙
した。また、豪州では7月2日の総選挙に向けて、世論調
 2017年4-5月:フランス大統領選挙
査では与党・保守連合への支持率上昇が示されています。
 2017年8-10月:ドイツ総選挙
国民投票に伴う英国の混乱を受けて、スペインや豪州で
は政治基盤の安定を志向する兆しがみられます。
(出所)各種報道・資料
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データに基づいて作成したものですが、その情報の確実性、完結性を保証するものではありません。●当資料に記載された過去の成績は、
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