ブラジル政治動向の整理と大統領弾劾の行方

2016年4月1日
ブラジル政治動向の整理と大統領弾劾の行方
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2016年2月下旬以降、ルセフ大統領弾劾に向けた政治情勢の進展から、レアル相場やブラジル株式が回復基調に。
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ルーラ前大統領の官房長官任命問題などから政権批判が強まる。下院は3月17日より大統領の弾劾審議を開始。
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ブラジル民主運動党(PMDB)の連立離脱が少数与党の離脱に拡がれば、大統領弾劾の動きが加速する可能性。
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リオ五輪前までに弾劾問題が決着するかが当面の焦点。選挙裁判所の判断次第では、やり直し選挙の可能性も。
政治情勢の進展からレアル相場が回復基調に
2016年2月下旬以降、ルセフ大統領の弾劾に向けた政
治情勢の進展を背景に、レアル相場が回復基調にありま
図1:ブラジル・レアルの対円・対米ドル相場
(円)
(レアル)
40
2.5
2016年2月下旬以降
政治情勢に進展
す。年明け以降は1米ドル=4レアル前後で推移してきた
レアルの対米ドル相場は、足元では1米ドル=3.6レアル前
後へ持ち直しており、レアルの対円相場も1レアル=30円
35
3.0
対円相場(左軸)
台の水準を回復しています(図1)。
ブラジル株式市場でも回復傾向が鮮明となりつつあり、
30
3.5
主要株価指数のボベスパ指数は1月26日に付けた年初
来安値(37,497ポイント)から3月31日(50,055ポイント)
まで33.5%の大幅な上昇を示しました。
レアル高
25
ルセフ大統領の弾劾が実現すれば、市場に友好的な経
済改革を志向する新政権が誕生するとの期待感から、2
月以降は海外投資家はブラジル株の買い越しに転じ、3
4.0
対米ドル相場(右軸)
レアル安
20
15年7月
4.5
15年9月
15年11月
16年1月
16年3月
月の累計買越額は3月29日時点で77億レアル(約2,300 (出所)ブルームバーグ (期間)2015年7月1日~2016年3月31日
億円*)へ拡大しています(図2)。
図2:海外投資家によるブラジル株の投資フロー
2月下旬以降、ルセフ政権への批判が強まる傾向
2016年2月下旬以降のブラジルの主な政治動向を振り
返ると(2頁図3)、3月上旬にはルーラ氏(前大統領)に対
する警察・検察当局による汚職追及圧力が高まり、3月13
日に実施された大統領の弾劾を求める全国的な抗議デ
モは参加者が推定360万人へ拡大した模様です。
3月17日にはルーラ氏の官房長官への任命が実行され
たものの、パラナ州地裁によるルーラ氏の盗聴記録の公
開などによって同人事が汚職捜査の回避を目的としたも
のであるとの疑惑が浮上し、ルセフ政権を批判する世論が
一段と強まる結果となりました(現在、ルーラ氏の官房長
官就任は最高裁による最終判断待ちの状態)。
これと並行して、3月17日に下院がルセフ大統領の弾劾
請求受諾の是非を判断する特別委員会を設置し、議会
での大統領の弾劾審議が開始されることとなりました。
(*)換算レート:1レアル=30円
60,000
55,000
ボベスパ指数(株価指数)
50,000
45,000
40,000
35,000
10
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
(10億レアル)
買い越し
海外投資家による
ブラジル株の投資フロー(月間)
売り越し
15年1月
15年4月
15年7月
15年10月
16年1月
(出所)ブルームバーグ (期間)2015年1月1日~2016年3月31日
(注)海外投資家の投資フローは2016年3月29日まで。
●当資料は、説明資料としてレッグ・メイソン・アセット・マネジメント株式会社(以下「当社」)が作成した資料です。●当資料は、当社が各種
データに基づいて作成したものですが、その情報の確実性、完結性を保証するものではありません。●当資料に記載された過去の成績は、
将来の成績を予測あるいは保証するものではありません。また記載されている見解、目標等は、将来の成果を保証するものではなく、また予
告なく変更されることがあります。●この書面及びここに記載された情報・商品に関する権利は当社に帰属します。したがって、当社の書面に
よる同意なくして、その全部もしくは一部を複製し又その他の方法で配布することはご遠慮ください。●当資料は情報提供を目的としてのみ作
成されたもので、証券の売買の勧誘を目的としたものではありません。
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2016年4月1日
図3:2016年2月下旬以降のブラジル政治に関わる主な出来事
日付
主な出来事
2月23日 連邦警察は労働者党(PT)の選挙参謀を務めたジョアン・サンターナ氏を収賄容疑で逮捕。
2月27日 ルセフ大統領は外遊を延期し、労働者党(PT)結党36周年記念式典を欠席。
2月28日 連邦警察を管轄下に置くジョゼ・エドゥアルド・カルドーゾ法相が辞任。
3月3日 最高裁がエドゥアルド・クーニャ下院議長に対する汚職容疑の起訴状の受理を決定。
3月3日 アマラル上院議員(労働者党)が、ペトロブラスの汚職問題に関して司法取引(報奨付証言)に応じる。
3月4日 連邦警察がルーラ前大統領を一時拘束し、事情聴取と自宅の家宅捜索を実施。
3月9日 サンパウロ州検察局がルーラ前大統領を資金洗浄容疑などで起訴。
3月10日 サンパウロ州検察局がルーラ前大統領に対する逮捕請求をサンパウロ州地裁へ提出。
3月13日 ルセフ大統領の罷免を求める全国規模のデモが発生(参加者は全国で推定36 0万人)。
3月14日
サンパウロ州地裁がルーラ前大統領への逮捕請求に関する判断を、ラバ・ジャット作戦(汚職捜査)を管轄するパラナ州地裁へ移すこと
を決定。
3月14日 法務大臣に連邦検察庁副長官のエウジェニオ・アラゴン氏が就任。
3月15日 アマラル上院議員の報奨付供述が公開され、ルセフ大統領・ルーラ前大統領の汚職への関与が示唆される。
3月16日 ルーラ前大統領がルセフ大統領との会合で官房長官への就任を内諾。
3月16日 パラナ州地裁のモロ判事がルーラ前大統領の盗聴記録を公開。
3月16日 ブラジル共和党(PRB)が連立与党からの離脱を決定。
3月17日 ルセフ大統領が官房長官にルーラ前大統領を任命。
3月17日 ルセフ大統領は成長加速プログラム(PAC)の管轄権限を企画予算管理省から官房長官府へ移す決定を下す。
3月17日 下院がルセフ大統領の罷免請求受諾の是非を判断する特別委員会を設置し、弾劾審議が開始される。
3月18日 最高裁のメンデス判事がルーラ前大統領の官房長官就任を差し止める暫定令を出す。
3月21日 バルボサ財務相は、景気低迷時にインフラ投資計画など重要案件を予算削減の対象から外す金融特別対策制度を提案。
3月22日
最高裁のサヴァスキ判事は、ルーラ前大統領の捜査権をパラナ州地裁から最高裁へ移す命令を下す。
ルーラ前大統領の官房長官就任の件は、最高裁の判断が下るまで棚上げ状態に。
3月22日 建設大手オデブレヒト社のマルセロ・オデブレヒト前社長が、同社の汚職問題に関して司法取引に応じる。
3月23日 バルボサ財務相は2016年の財政見通しの修正提案を公表。
3月29日 ブラジル民主運動党(PMDB)が党大会で連立与党からの離脱を決定。
(出所)各種報道
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2016年4月1日
議会での大統領の弾劾手続きの行方
ブラジル議会での大統領の弾劾手続きは図4の通りです。
3月17日に設置された下院特別委員会では、今後、ルセ
フ大統領が弁明する公聴会などが予定され、4月後半ま
でには下院本会議での決議(②)が採られる可能性が高
いとみられています。下院議員の3分の2(342議席)以上
図4:ブラジル議会での大統領の弾劾手続き
①下院特別委員会を設置 (2016年3月17日)
公聴会を実施し、弾劾裁判実施を求める意見書を下院へ提出
②下院の3分の2以上の賛成で審議を上院へ送付
の賛成で弾劾審議は上院へ送られ、上院の過半数の賛
③上院の過半数の賛成で弾劾法廷を設置
成で弾劾法廷が設置されます(③)。最終的には、上院決
議で3分の2以上の賛成があれば大統領は失職し、副大
公判中、大統領は最大180日間停職となり、副大統領が職務代行
統領が大統領へ昇格することとなります(④)。
PMDBの離脱により与党連合の基盤は不安定化
今後は、与党連合が下院・上院の3分の1以上の賛同
票を確保し、弾劾を回避できるかが焦点となります。3月
④上院決議:3分の2以上の賛成で大統領は失職
副大統領が大統領へ正式に昇格(弾劾回避の場合は大統領が復帰)。
(出所)各種情報よりレッグ・メイソン・アセット・マネジメント作成
図5:ブラジルの下院・上院の議席配分
16日のブラジル共和党の連立離脱に続いて、3月29日に
下院
は最大政党でテメル副大統領が党首を務めるブラジル民
主運動党(PMDB)が連立与党からの離脱を表明しました。
PMDBとPRBの二党を除いても、与党連合は下院で236
議席数
与党連合
上院
構成比
議席数
構成比
326
63.5%
53
65.4%
議席、上院で34議席と3分の1以上の議席を有しているも
労働者党(PT)
58
11.3%
13
16.0%
のの、PMDBの連立離脱がその他少数与党へ波及すれば、
ブラジル民主運動党(PMDB)※
68
13.3%
18
22.2%
大統領弾劾の動きが加速する可能性があります(図5)。
進歩党(PP)
49
9.6%
6
7.4%
実際、連立与党の中では、進歩党(PP)、共和党(PR)、
共和党(PR)
40
7.8%
4
4.9%
社会民主党(PSD)などが連立離脱を検討している模様で、
社会民主党(PSD)
32
6.2%
4
4.9%
当面の政治情勢は予断を許さない状況が続きそうです。
ブラジル共和党(PRB)※
22
4.3%
1
1.2%
リオ五輪前までに弾劾問題が決着するかが注目
民主労働党(PDT)
20
3.9%
3
3.7%
ブラジル労働党(PTB)
19
3.7%
3
3.7%
ブラジル共産党(PCdoB)
13
2.5%
1
1.2%
社会秩序共和党(PROS)
5
1.0%
0
0.0%
187
36.5%
28
34.6%
ブラジル社会民主党(PSDB)
50
9.7%
11
13.6%
ブラジル社会党(PSB)
31
6.0%
7
8.6%
民主党(DEM)
28
5.5%
4
4.9%
その他
78
15.2%
6
7.4%
総議席
513
100.0%
81
100.0%
与党連合(除くPMDB、PRB)
236
46.0%
34
42.0%
野党(含むPMDB、PRB)
277
54.0%
47
58.0%
大統領の弾劾阻止に必要な議席数
171
33.3%
27
33.3%
ブラジルでは今後、リオ五輪(8月5日~21日)、リオ・パ
ラリンピック(9月7日~18日)、地方選挙(10月)と重要イ
ベントが予定されています。コロル大統領の弾劾に至った
1992年の事例では、下院の弾劾審議開始から上院の最
終決議まで約4ヵ月間で弾劾手続きが完了しており、
2016年8月のリオ五輪開催前までに大統領の弾劾問題
が決着するかが注目点となると考えられます。
選挙裁の判断次第でやり直し選挙の可能性も
野党
一方、議会での弾劾審議と同時並行で、選挙高等裁判
所(TSE)が2014年10月の大統領選挙でのルセフ陣営の
不正資金使用疑惑を審議しています。仮にTSEが大統領
選挙の無効判決を下せば、大統領選挙のやり直しとなる
可能性がある点にも留意が必要です。
(出所)ブラジル議会 (注)※は連立与党からの離脱を表明した政党。
●当資料は、説明資料としてレッグ・メイソン・アセット・マネジメント株式会社(以下「当社」)が作成した資料です。●当資料は、当社が各種
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