君と僕だけの物語 ID:88419

君と僕だけの物語
深黒の枝垂桜
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︻あらすじ︼
昔、多くの国を従える大国があった。その国が力をつけたのは、神
と会話できる一人のシャーマンの働きが大きかった。そのシャーマ
ンが、とある集落にてこんなことを言い出した。﹁その赤子は、神の目
を欺いて生まれた鬼の子だ。絶対に殺すな、死よりも重い罰を与え
よ。自殺できぬように舌を引き抜いてしまえ﹂誰も彼の言葉を疑わな
かった。
目 次 君と僕だけの物語 ││││││││││││││││││││
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君と僕だけの物語
蹴り飛ばされて目が覚めた。
﹁やっと起きたかよ﹂
今日の相手は僕が一番嫌いな奴だ。二十代前半の筋肉質な大男、こ
いつはいつも木刀を持ってくる。こいつの〝罰〟は一番痛い。
﹁早く立て﹂
僕に拒否権はない。怒鳴られると、僕はすぐに立ち上がる。大男が
木刀を振り上げる。僕は目をつぶった。頭の中に音が響くと、足がふ
らつき崩れ落ちた。
﹁なにしてる、早く立て﹂
僕がやっとの思いで立ち上がると、今度は腹を木刀で殴られ、その
まま吹き飛んで壁に叩きつけられた。二分ぐらい続くと、僕は血を吐
いた。
﹁もう終わりか﹂
大男は立ち去って行った。血を吐いたら終わり、みんなは僕を殺す
つもりはないらしい。食事はきちんと与えてもらえる。でも、僕は何
のために生きているんだろう。
ある晴れた日の夕方、僕は外を眺めていた。夕日の中で、僕と同じ
ぐらいの年の子供が遊んでいた。この部屋から出てみたい、そんなこ
とを思っていると、いきなりその子が涙を浮かべて尻餅をついた。と
ても怯えている。疑問に思っていると、小屋の壁が壊されて、熊が姿
を見せた。僕は近くに転がった木の板を熊に投げつけた。熊は僕に
襲い掛かってきた。抵抗もできぬまま熊に遊ばれ、僕は動けなくなっ
て小屋から引きずり出された。熊が僕の脇腹に噛みついた。生まれ
て初めての痛みを感じ、僕は声にならない叫び声をあげる。村の人た
ちが弓矢を持ってやってきた。彼らが矢を放つと熊は逃げていった。
﹁鬼の子のくせに熊にも勝てないのかよ﹂
﹁ほんと、情けないな、こいつ﹂
﹁まったく、何の役にも立たないくせに、なんで助けなきゃいけないん
だろうな﹂
1
村人が僕を罵った。僕には彼らの言葉は痛くもなんともない。
夕日の中に冷たい雨が降り出した。空から降り注ぐ水滴が、赤い光
を受けて美しい虹を生み出した。泣いている男の子の所へ母親らし
き女性がやってきて言った。
﹁もう大丈夫だからね﹂
男の子は母親に手を引かれて帰って行った。
﹁ほら、早く立てよ﹂
無理だ、体が動かない。僕は村人達に縄で引きずられながら、新た
な部屋へと向かった。初めて心の痛みを感じた。
毎日毎日続く暴力の日々。なんで僕は死なない、どうして僕は死ね
ない、死なせてくれない。気が付けば、そんなことばかりを思うよう
になっていた。空を覆う雲が途切れて、部屋の中へとまぶしい光が
入ってくる。映り込んだ影が、誰かが窓から部屋の中をのぞいている
ことを教えてくれた。僕は上を見上げる。そこには長い髪の女の子
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が立っていた。
﹁えっと、ごめんなさい﹂
傷だらけだよ﹂
僕に謝る人間がこの村にいるとは思わなかった。少女は僕のこと
を見て言った。
﹁どうしたの、だいじょうぶ
﹁鬼の子と奴隷、なかなかお似合いかもな﹂
﹁まったく、次またこんなことしたら殺すぞ﹂
アイは村人に怒鳴られると、強引に連れていかれた。
﹁おい、アイ。お前はこんな所にいたのか﹂
んてないし、君と話すための舌もないんだ。
僕はある日、アイにこんなことを言われた。ごめん、僕には名前な
﹁ねえ、そろそろ君の名前を教えて﹂
ができてすごく嬉しかった。
いう名前らしい。僕はアイからいろいろな話を聞いた。初めて友達
それから、時々あの子は僕に会いに来てくれた。彼女は〝アイ〟と
て走って行ってしまった。またあの子に会いたいな。
初めて誰かに心配された。その女の子は﹁早く戻らないと﹂と言っ
?
村人たちは、一人は怒りながら、一人は笑いながら僕のところから
アイを連れて行った。
半年ぐらいが過ぎた。アイとはあれから一度も会っていない。今
日は朝から土砂降りの雨が降っている。こういう日は誰も罰に来な
いから大好きだ。
ドアが開いた。僕はとっさに身構えた。入ってきたのはアイだっ
た。
﹁一緒に逃げよ﹂
アイはそう言うと、僕の手を引いて走り出した。雨の中を二人でた
だひたすらに走って、森の中に逃げ込んだ。
﹁今日は雨だから、きっと犬が追ってこれないよ﹂
アイは何で僕を連れてきたのだろう。見つかったら殺されてしま
うはずなのに、わざわざ見つかる危険を増やしてまで僕を連れてきた
理由がわからなかった。
僕とアイは雨降る夜道をひたすら歩く。アイはこの先にある小さ
な国から連れてこられたそうだ。森を抜けて、川を渡って、岩山を歩
いた。雨はいつの間にか止んで、朝日が昇っていた。
僕とアイはさびれた村に到着した。
﹁おまえ、アイか﹂
一人の男性が家から出てきた。その男性はアイに近づいて、
﹁なんで戻って来たんだよ、この馬鹿娘が﹂
アイに怒鳴り散らすと、いきなり殴った。
﹁お前が戻ってきたら、俺たちはあの国から食料の援助が受けられな
くなるだろうが。ふざけんなよ、穀潰しのくせに﹂
﹁なんで・・・﹂
﹁なんでじゃねえよ﹂
泣 き 出 し た ア イ に そ の 男 は さ ら に 暴 行 し た。ア イ が 気 を 失 っ た。
僕はその男に飛び乗って、背中側から首を絞めた。
﹁なっ、放せ、糞餓鬼﹂
その男は僕を殴ったりして放させようとした。ほかの村人たちも
出てきて、僕を殴ったり蹴ったりした。痛くはなかった、いつもの罰
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に比べたら、アイを守るためなら。やがてアイを殴った男は死んだ。
他の村人たちは、僕のことを取り押さえようとした。殴り合いになっ
た。彼 ら は 力 は 弱 か っ た。僕 は ひ た す ら に 彼 ら を 殴 っ た。こ ん な 奴
らは、僕とアイのことを苦しめる奴らは、みんないなくなればいいん
だ。
気が付けば、そこに立っているのは僕一人だった。アイ、この世界
で僕らのことを邪魔する奴らはいなくなったよ。もし舌があれば、君
に好きって言えるのに。
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