銀狐の短編小説集 ID:89532

銀狐の短編小説集
銀狐@Agitsune
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︻あらすじ︼
││ねえ、どうして人はこんなにも醜いのかな。身内でケンカなん
てしてさ。
││さあね。でも、人は神様から作られた神聖な存在なんだって。
││そっか、じゃあ神様が醜かったんだね。
││わん。⋮⋮こうやって従順にしてれば、苦労しないで生きられ
るのにね∼。
││とある飼い犬たちの会話より。
目 次 第三次世界大戦 │││││││││││││││││││││
1
第三次世界大戦
││おめでとうございます、と老いぼれた大統領は言った。
これで、第三次世界大戦は終わりです││とも。
世界中の人は歓喜に震えた。ようやく終わってくれたのか、と。
世界中の人は深く悲しんだ、哀しんだ。いったいどれだけの人々が
死んできたのだろう、と。
世界中の人は、静かに黙祷した。長く、長く││
数百年にわたる大戦争で、幾つもの国が巻き込まれ、滅びた。
きっかけは些細なことだった。記録には残ってないので、もう誰も
覚えていない。
まず、人工知能を積んだ無人の戦闘機や、遠隔操作できる戦艦、戦
車などが戦場へと向かった。
戦場は、昼も夜も、分からないような明るさで、それが1年ほど続
いた。
││レアメタルが、世界から消えた。
戦場に送り込まれた多くの機械は、火に包まれて消えた。残った機
械も、戦地へ回収しに行くリスクを恐れて誰かが取りに行くことは、
ついに無かった。
遠隔操作していた支部や基地は、敵国から遠隔爆撃されて地図から
消えた。
人工知能が作れなくなり、今度は人間が戦場へ向かった。
世界各地で徴兵が行われ、昼も夜もひっきりなしに戦場へと向かっ
ていった。
空も、海も、陸さえも、戦車や戦闘機、戦艦などで埋め尽くされた。
今度は鉄がもったいないと、スカスカの戦闘機や、錆びかけた戦艦
が生み出され続けた。
それが100年ほど続いた。
1
ついに、世界中全ての天然資源が尽きた。
石油が無くなって車は動かなくなり、飛行機は空を飛ばず、船も海
を渡らなくなった。
ソーラーパネルを作れるだけの鉄が、この世界から消えた。電気が
使えなくなった。
余った車や飛行機や船はバラバラに解体され、歪んだ形の剣や、ボ
ルトや穴が目立つ鎧へと変わった。
ある時ばかな政治家が、鉄の船を作ろうといった。
海の向こうの悪人どもを、一人残らず滅ぼすために。
⋮⋮それも全部、水深何千メートルもある海の底に消えた。
全ての鉄が、人間の手から失われた。
最後の最後の最後には、大量の核兵器まで持ち出され、多くの人が
それを担ぎながら戦地へ特攻した。
相手の国は滅びた。
だが、国内が喜びに沸くことはなかった。
今度は内戦が起こった。
主導者は、スラムの青年。
鉄がないので石や、削り出した木を手に戦った。
それが200年続いた。
スラムの人を皮切りに、国内の人々がこれ見よがしに国王へと反逆
していった。
恨みだった。戦争を引き起こした、王族への純粋な恨みだった。
数年後に主導者が死んでしまったので、内戦を止める事も出来なく
なっていた。
王族は滅びた。
今度は代わりに大統領ができた。
初代大統領は、政治が上手かった。
多くの人々が大統領を支持して、国内は平和になった。
戦争は終わった
2
と、誰もがそう思った。
今度は国外から攻めこまれた。
人々は木の剣や石の斧を手にボロボロの身体で戦った。
相手の国も鉄の武器を持っているわけではなかった。
どうやら、昔滅ぼした国の生き残りの子孫たちが、徒党を組んで攻
めてきたらしい。
他に人がいないということは、世界の他の人も滅んだのだろう。
││愚かな人たちだ。
人々はそう思った。
攻めてきた敵は、国内の人々の半分を犠牲に、なんとか鎮圧した。
捕らえた捕虜たちは、後日、人々の前で石を投げつけられながら死
んでいった。
楽に死なないように、紐で縛って焼いた石の板の上に転がした。
最後は沸騰した水の中に入れて殺した。
はじめてのおにくだった。
10年後、食糧が尽きそうになった。
人々はみんな国の外へ出たがらなかった。
そとはこわい。
もしかしたら、てきがいるかもしれない。
人々は争った。第二の内戦だ。
人が人を食べることも時にはあった。地面の草や、たまに罠に引っ
かかるニンゲン、その手の中にあったタベモノを、誰かに奪われない
か、ガタガタと震えながら食べた。
3
この時、初代大統領が死んだ。誰も気にしなかった。
二代目の大統領ができた。
人々は何も思わなかったし、その大統領も、自分で勝手に名乗って
いるだけだった。
ただ、なんで太っているのかが気になった。
たべたらうまそうだ。
二代目大統領は、自分の農地を持っていた。
人々は思った。
なんでこんな簡単なことに気がつかなかったのだろう、と。
さっそく二代目大統領を殺して、農地の食べ物を残さず食べ尽くし
た。
みんなでやりましょう、なんてよく言えたな。
自分1人で毎日太るまでいっぱい食べていたくせに。
内戦が、起こった。
きっかけは三代目大統領。
産み捨てられた子供を育てて自分の兵士とし、人々を蹂躙した。
内戦は、数週間で終わった。
人々は全滅した。
兵士と三代目大統領は農地を作り、残っていた種を蒔き、苔だらけ
の川から水を引いて畑を作った。
平和になった。
だけど、問題が起こった。
兵士たちのなかに、女がいなかった。
誰もかれもが男だけだった。
三代目大統領が死んだ。死因は老衰だった。
兵士たちの中で、最も若い兵士が、四代目大統領になった。
やがて10年経ち、20年、30年と経つうちに、兵士たちは数を
減らしていき、やがて四代目大統領ただ1人になった。
4
││おめでとうございます、と老いぼれた大統領は言った。
たったひとりの彼
これで、第三次世界大戦は終わりです││とも。
たったひとりの彼
世界中の人は歓喜に震えた。ようやく終わってくれたのか、と。
世界中の人は深く悲しんだ、哀しんだ。いったいどれだけの人々が
たったひとりの彼
死んできたのだろう、と。
世界中の人は、静かに黙祷した。長く、長く││
そして、2度と目を開けることは無かった。
世界から人間が消えた。
誰も、何も、思わなかった。
5