銀狐の短編小説集 銀狐@Agitsune ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ ││ねえ、どうして人はこんなにも醜いのかな。身内でケンカなん てしてさ。 ││さあね。でも、人は神様から作られた神聖な存在なんだって。 ││そっか、じゃあ神様が醜かったんだね。 ││わん。⋮⋮こうやって従順にしてれば、苦労しないで生きられ るのにね∼。 ││とある飼い犬たちの会話より。 目 次 第三次世界大戦 │││││││││││││││││││││ 1 第三次世界大戦 ││おめでとうございます、と老いぼれた大統領は言った。 これで、第三次世界大戦は終わりです││とも。 世界中の人は歓喜に震えた。ようやく終わってくれたのか、と。 世界中の人は深く悲しんだ、哀しんだ。いったいどれだけの人々が 死んできたのだろう、と。 世界中の人は、静かに黙祷した。長く、長く││ 数百年にわたる大戦争で、幾つもの国が巻き込まれ、滅びた。 きっかけは些細なことだった。記録には残ってないので、もう誰も 覚えていない。 まず、人工知能を積んだ無人の戦闘機や、遠隔操作できる戦艦、戦 車などが戦場へと向かった。 戦場は、昼も夜も、分からないような明るさで、それが1年ほど続 いた。 ││レアメタルが、世界から消えた。 戦場に送り込まれた多くの機械は、火に包まれて消えた。残った機 械も、戦地へ回収しに行くリスクを恐れて誰かが取りに行くことは、 ついに無かった。 遠隔操作していた支部や基地は、敵国から遠隔爆撃されて地図から 消えた。 人工知能が作れなくなり、今度は人間が戦場へ向かった。 世界各地で徴兵が行われ、昼も夜もひっきりなしに戦場へと向かっ ていった。 空も、海も、陸さえも、戦車や戦闘機、戦艦などで埋め尽くされた。 今度は鉄がもったいないと、スカスカの戦闘機や、錆びかけた戦艦 が生み出され続けた。 それが100年ほど続いた。 1 ついに、世界中全ての天然資源が尽きた。 石油が無くなって車は動かなくなり、飛行機は空を飛ばず、船も海 を渡らなくなった。 ソーラーパネルを作れるだけの鉄が、この世界から消えた。電気が 使えなくなった。 余った車や飛行機や船はバラバラに解体され、歪んだ形の剣や、ボ ルトや穴が目立つ鎧へと変わった。 ある時ばかな政治家が、鉄の船を作ろうといった。 海の向こうの悪人どもを、一人残らず滅ぼすために。 ⋮⋮それも全部、水深何千メートルもある海の底に消えた。 全ての鉄が、人間の手から失われた。 最後の最後の最後には、大量の核兵器まで持ち出され、多くの人が それを担ぎながら戦地へ特攻した。 相手の国は滅びた。 だが、国内が喜びに沸くことはなかった。 今度は内戦が起こった。 主導者は、スラムの青年。 鉄がないので石や、削り出した木を手に戦った。 それが200年続いた。 スラムの人を皮切りに、国内の人々がこれ見よがしに国王へと反逆 していった。 恨みだった。戦争を引き起こした、王族への純粋な恨みだった。 数年後に主導者が死んでしまったので、内戦を止める事も出来なく なっていた。 王族は滅びた。 今度は代わりに大統領ができた。 初代大統領は、政治が上手かった。 多くの人々が大統領を支持して、国内は平和になった。 戦争は終わった 2 と、誰もがそう思った。 今度は国外から攻めこまれた。 人々は木の剣や石の斧を手にボロボロの身体で戦った。 相手の国も鉄の武器を持っているわけではなかった。 どうやら、昔滅ぼした国の生き残りの子孫たちが、徒党を組んで攻 めてきたらしい。 他に人がいないということは、世界の他の人も滅んだのだろう。 ││愚かな人たちだ。 人々はそう思った。 攻めてきた敵は、国内の人々の半分を犠牲に、なんとか鎮圧した。 捕らえた捕虜たちは、後日、人々の前で石を投げつけられながら死 んでいった。 楽に死なないように、紐で縛って焼いた石の板の上に転がした。 最後は沸騰した水の中に入れて殺した。 はじめてのおにくだった。 10年後、食糧が尽きそうになった。 人々はみんな国の外へ出たがらなかった。 そとはこわい。 もしかしたら、てきがいるかもしれない。 人々は争った。第二の内戦だ。 人が人を食べることも時にはあった。地面の草や、たまに罠に引っ かかるニンゲン、その手の中にあったタベモノを、誰かに奪われない か、ガタガタと震えながら食べた。 3 この時、初代大統領が死んだ。誰も気にしなかった。 二代目の大統領ができた。 人々は何も思わなかったし、その大統領も、自分で勝手に名乗って いるだけだった。 ただ、なんで太っているのかが気になった。 たべたらうまそうだ。 二代目大統領は、自分の農地を持っていた。 人々は思った。 なんでこんな簡単なことに気がつかなかったのだろう、と。 さっそく二代目大統領を殺して、農地の食べ物を残さず食べ尽くし た。 みんなでやりましょう、なんてよく言えたな。 自分1人で毎日太るまでいっぱい食べていたくせに。 内戦が、起こった。 きっかけは三代目大統領。 産み捨てられた子供を育てて自分の兵士とし、人々を蹂躙した。 内戦は、数週間で終わった。 人々は全滅した。 兵士と三代目大統領は農地を作り、残っていた種を蒔き、苔だらけ の川から水を引いて畑を作った。 平和になった。 だけど、問題が起こった。 兵士たちのなかに、女がいなかった。 誰もかれもが男だけだった。 三代目大統領が死んだ。死因は老衰だった。 兵士たちの中で、最も若い兵士が、四代目大統領になった。 やがて10年経ち、20年、30年と経つうちに、兵士たちは数を 減らしていき、やがて四代目大統領ただ1人になった。 4 ││おめでとうございます、と老いぼれた大統領は言った。 たったひとりの彼 これで、第三次世界大戦は終わりです││とも。 たったひとりの彼 世界中の人は歓喜に震えた。ようやく終わってくれたのか、と。 世界中の人は深く悲しんだ、哀しんだ。いったいどれだけの人々が たったひとりの彼 死んできたのだろう、と。 世界中の人は、静かに黙祷した。長く、長く││ そして、2度と目を開けることは無かった。 世界から人間が消えた。 誰も、何も、思わなかった。 5
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