胡蝶夢に鬼となる。 トムの電球研究室 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので す。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を 超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。 ︻あらすじ︼ 生前はとことん幸薄な少女。 見かねた神様が言いました。﹁来世の生まれを選ばせてやろう。﹂、と。 少女は答えました。﹁東方Projectがいい。とびきり強くて、美しい妖怪に生 まれたい。﹂、と。 これは鬼に転生した少女が幸福を探す物語。 話 ││││││││││││ 1 目 次 第 1 第 話 てぇ・・・。 に ぶ り だ ろ う か 唐 揚 げ を 焼 い て く れ て、感 動 で む せ び 泣 き そ う に な る。故郷 へ 帰 り く 今日は正気であるらしく、わたしの進学祝いを兼ねてご馳走をふるまった。母がいつ 世話は必要なかったため、母を厳重に家の中に閉じ込めることでやり過ごしてきた。 うことで、このいびつな親子関係を10年以上も続けてこれたのだ。幸いなことに下の チが入ったように正気に戻るのだ。その度に互いの傷をなめあい、親子の絆を確かめ合 母は、たいていぼけた老人みたいに3歳のわたしを探したりしているが、時折スイッ わたしはいま18で苦学してそれなりの大学に入ることができた。 けた。 父方の叔父が金銭面から、何から何まで世話を焼いてくれたので、何とか母とやってい たしがうんと小さな時に父親が死んじまって。母も精神をやってしまったことだけだ。 のだ。いや、巻き込まれたのかもしれない。母は多くを語らなかった。確かなのは、わ ウチは母子家庭だ。というのも、両親と3人で富士山へ行った帰りに事故を起こした 1 ﹁本当にごめんねぇ、ももちゃん。﹂ 1 ﹁大丈夫。全然大丈夫だから・・・。お母さんをどこにも行かせやしないよ。﹂ ﹁意地張んなくていいの。ちゃんとした施設だってあるし、お金のことなら・・・。なに か焦げ臭いわね。﹂ ウチは木造のアパートで、築年数もかなりいっている。叔父はそこそこの資産家では こんな時間に ﹂ あるが、扶助するにも限度があるわけだ。当たり前である。 ﹁また、野焼きしてんのかね ? ﹂ ﹂ ﹁大丈夫 ﹁熱っ 居間から共同廊下に面したキッチンの窓を開けようと手をかける。 燃やすのは日常茶飯事である。 いし、治安もよろしくない。ベランダで焼き芋するバカがいるくらいだ。庭先でゴミを 時計を見れば、既に10時である。この辺の地区は安い公営住宅が多く、変な奴も多 ? ﹂ すぐにわかった。空襲だ ! わたしは側の壁に画鋲でかけてあるミトンをとると、窓を開け放った。途端に外に吸 ! ・・・て、ふざけてる場合じゃないな。 窓の外はオレンジ色に光っていた。曇りガラス越しのぼやけた光だが、それが何かは 母が這いずるようにコタツから出てくる。 !? !! ﹁火事だ 第1話 2 い出されるような風が吹くと、引いた波が戻ってくるように熱風と煙が吹き込んでき て、わたしは慌てて窓を閉めた。 ﹂ !! ﹂ !! わたしは土煙で視界の悪い中駆け寄って、すぐに母の手を握った。母はうつ伏せに倒 ﹁お母さん のか後ろから突き飛ばされた。後ろには母がいるはずである。 わたしは一瞬何が起こったのかわからなかったが、落ちてきた瓦礫の破片が当たった 轟音 連れてではどうにも速くは動けない。 わたしは女性としてはかなり長身で170cmもあるが、自分で歩こうとしない母を 下はいっそう狭く、脱出にもたついてしまう。 も、どの住人も考えなしに洗濯機やら、粗大ゴミやらを通路に積んでいたので、狭い廊 共同廊下は狭く、わたしたちの部屋は1回の突き当たりで、4件先が公道である。で た。 わたしは母を引きずるように、その手を引いて、シンクのすぐ左の玄関から飛び出し ﹁こっちきて 母は恐怖に固まって動けなくなっている。 ﹁ああ・・・あ﹂ 3 れている。どうしようどうしよう ﹁もも、逃げな・・・﹂ ﹁絶対、どこにも行かない 気ばかりが焦って、何も考えることができない。 ずっと一緒って言っ てっきり死んじゃったものだと思っていたわたしは、いっそう手を強く握った。 !! ﹁ここは ﹂ ほどの轟音とともに、わたしの意識は暗転した。 近くでガスボンベでも破裂したのだろうか。爆弾でも炸裂したんじゃないかと思う !! かいて座っている。 目の前には卑弥呼みたいな恰好をした美しい女性が、大きな水晶の台座の上に胡座を 主は朕の最後の信者なのだから。﹂ ﹁お主は死んだ。朕がお主の魂を預かった。安心せい、彼岸の連中には私はせんよ。お ちん 気がつくとわたしは精神と時の部屋みたいな真っ白な空間に座っていた。 ? ﹂ わたしはこの人を知っている。 ? 何で分かったのか・・・もちろんこの辺な空間のせいもある。しかし、わたしにそれ ﹁神様 第1話 4 を気付かせたのは彼女の座る水晶の石である。 この水晶は普通の灰色の石の中に水晶の結晶が析出している綺麗な石で、わたしが 昔、海岸で拾ったものだ。何やら名前のようなものが彫ってあったので、わたしはなん となく神様石って呼んでいた。 ところお主が拾ったのだ。﹂ ﹁わたし、そんなに信じてなかったけど・・・。﹂ ﹁年に2∼3度拝んでいただろう ﹂ を拾うことができた。﹂ ﹁お母さんは それで十分延命できた。だからこうしてお主の死魂 ? 母を救ってくれないのか しがいけなかったのだ。 なじ そう詰ってやりたいが、救えなかったのはわたしだ。わた ? ﹁そう・・・。やっぱり死んだんだ。﹂ ﹁死んだよ。朕に残された神力ではお主一人を飛ばすだけで精一杯だからな。﹂ ? しにだま るその石が流されてしまってな。消滅の危機に瀕して、これも運命とあきらめかかった 着神となった。挙句、21世紀にもなると誰も社を管理しないものだから、ご神体であ までだがな。そのあとは帝と仏教の権威が強くなってきて細々と信仰されるだけの土 ﹁朕はこれでも昔は一国を納めるほどの神だったのだ。お主で言う所の12世紀くらい 5 ﹂ ﹁お主の母は救われたよ。﹂ ﹁ ﹁わたし、わたしはっ ﹂ ﹂ ? 人の心くらいは分かる。最後にお主が母 画家志望のみっちゃんが教えてくれたあの世界がいい。 ! ﹂ お主はい ままで幸薄かったのだから、とびきりいい思いをさせてやろう。これが最後の大仕事 !! しょ らわたし、幻想郷で妖怪に生まれたい。とびきり強くて、美しいのがいい。できるんで どんな世界でもできるんでしょう だった の理と全く異なった異世界。ウチは貧しくてあまりゲームや漫画を持っていないが、漫 わたしの頭に浮かんだのはアニメやゲームみたいなファンタジーの世界だ。この世 ろう。お主は何になりたい 人種、時代、性別、地位。子は親を選べないというが、朕が特別にお主に選ぶ権利をや ﹁お主は十分頑張った。今度はお主が救われる番だ。希望を言え。どんな世界、どんな !! た。﹂ の手を握った時、そして母を離さないと宣言した時、確かにお主の母は救われておっ ﹁よくわからないといった顔だな。朕は神ぞ ! ? ﹁東方、東方Projectの世界がいい ? ! ? ﹁欲張りだのう・・・。だが、いままで我慢してばかりだったしな。よろしい 第1話 6 7 とく 朕の偉大さを篤と見よ ﹂ といい夢を見よう。おやすみお母さん。さようなら。 まばゆい後光が辺り一面をより白く染めて、わたしの意識はまた夢心地。今度はきっ !!
© Copyright 2024 ExpyDoc