レポート本編はコチラ

2016/04/26
江守 哲 氏 相場展望レポート(
相場展望レポート(2016 年 5 月)
ドル円(108~116 円)
ドル円は日米の金融政策と原油価格の動向がポイントになろう。
日銀のマイナス金利の導入効果に対する市場の評価が低かったことが、これまでのドル円の上値
を抑えてきた。しかし、28 日の日銀金融政策決定を受けて、ドル円が上昇するようであれば、そ
れまでの円高基調に歯止めがかかり、一旦は上値を試す可能性も出てこよう。
113.80 円にある直近高値を上抜くと、上昇への勢いがさらに強まるものと思われる。ただし、中
長期的には 114 円台半ばから 115 円台半ばに重要なトレンド転換のポイントがあり、これを上抜
けることができるかが、その後のトレンドを見極める上で注目している。
5 月の米雇用統計は、引き続き堅調な内容になることが想定される。その場合、米連邦準備制度
理事会(FRB)が利上げを行う可能性が高まるかに注目することになろう。
これまでイエレン FRB 議長は、拙速な利上げ観測をけん制する発言を繰り返しており、利上げは
かなり慎重に決定される見通しである。これらの発言がこれまでのドルの上昇を抑制してきたが、
原油価格の上昇傾向が明確になれば、インフレ傾向が強まる可能性がある。
その場合には、
「雇用の拡大とインフレの抑制」という「デュアルマンデート」を遂行するために、
利上げを視野に入れざるを得なくなる。インフレ率が上昇に転じれば、FRB としても利上げのタ
イミングを真剣に議論せざるを得なくなろう。
日米の実質金利差からみたドル円の水準は、2 月の消費者物価指数(CPI)をもとに計算すると、
概ね 108 円程度である。最近は米国債利回りが上昇気味であり、CPI が伸び悩むようだと、米国
の実質金利は上昇し、ドル円に上昇圧力が掛かることが想定される。
また、株価上昇を背景にリスクオンの動きが強まれば、米国債を売る動きが強まり、日米の実質
金利差は拡大することで、ドル円の上昇が想定される。米利上げ後にはドル円は下落する傾向に
あるが、過去の平均的な動きからみると、108 円程度が概ね底値になる計算であることも、ドル
円の下値を支える可能性がある。
逆に、リスクオフの動きになれば、ドル円は理論的には下げやすくなる。また、最近は米国株が
原油価格動向に左右される傾向が強まっている。日米の金融政策動向も重要だが、原油価格の動
向をよく見ておくことが肝要である。
ただし、ドル円は 3 年間の上昇相場を終え、中長期的には円高方向に進んでいるものと思われる。
115 円を超えられないようであれば、その後の反動は非常に大きなものになり、再び 107 円半ば
を試す可能性も否定できない。一方で、115 円を超えた場合でも、米国がドル安志向を強めてい
ることを考慮すれば、120 円を超えるような円安は許容されないだろう。
5 月は「Sell in May」の格言があるように、株価が大きく変動しやすい。その動きに歩調を合わ
せるように、ドル円も大きく変動するものと思われる。急騰・急落両方のリスクを念頭に入れて
おきたい。
ユーロ円(122~128 円)
ユーロ円はドル円とユーロドルの影響を受けることになるが、5 月はドル円の動向の影響をより
受けることになるだろう。
上記の通り、日米の金融政策の方向性次第では、ドル円が大幅に上昇する可能性がある。その場
合でも、米国のドル安に変更はないと考えられ、ユーロドルが底堅く推移する一方で、ドル円が
大きく落ちなければ、相対的にユーロ円の下限は見えてくるだろう。ただし、ドル円が急落する
ような事態になれば、再び 122 円を試す可能性も否定できない。
上値は 127 円から 128 円が重要である。これを抜けると、長期トレンドが位置する 129 円まで上
昇し、さらにこれを超えると昨年 12 月以来の 131 円台が視野に入るだろう。ただし、125.50 円
を上抜けられないようであれば、上値は相当重いと認識せざるを得ない。その場合には、再び 122
円の安値を試すことになろうが、その可能性はドル円の見通しからかなり低いと考えてよいだろ
う。
ユーロドル(1.1125 ドル~1.1500 ドル)
ユーロドルは底堅く推移しよう。ユーロ圏を取り巻く環境は芳しくないものの、弱気材料への過
度な反応が後退しつつある。またコモディティ価格の上昇で、ドルが下落しやすいこともユーロ
相場を支えるだろう。
市場の関心は、米欧の金融政策の方向性の違いにある。FRB は近い将来の利上げを想定している
一方で、ECB は景気動向次第では、追加緩和の可能性を示唆している。また、3 月のユーロ圏消
費者物価指数(HIPC)が前年同月比マイナス 0.1%となるなど、デフレ傾向が続いていることも、
追加緩和策への期待を高めるとみられている。
これらから、市場ではドル高・ユーロ安基調につながるとの見方が多い。ECB 理事会では、新た
な政策導入は見送られた。ドラギ ECB 総裁は、必要であれば追加緩和を実施するとのメッセージ
を発し続けているが、市場では、今後も新たな政策導入は難しいとみている。
これを受けて、ユーロの上値は限界的になるとの見方が支配的である。しかし、中国経済への懸
念が後退する中、ユーロ域内の経済が安定すれば、ECB による追加的な政策導入の必要性が低下
することで、ユーロの下値は限定的となるだろう。また、ギリシャ向けの金融支援に関して、大
幅な減免措置が取られるなど、財政危機の再燃に対する懸念が後退すれば、ユーロは対ドルで上
昇する可能性がある。
一方、英国の欧州連合(EU)離脱のリスクには注意が必要である。英国では、EU 離脱の是非を
問う国民投票が 6 月 23 日に実施される予定である。離脱賛成派がやや後退しているが、米国がこ
のリスクに配慮し、6 月利上げを見送る可能性もある。また、オバマ米大統領が英国を訪問し、
EU 離脱のリスクについて言及し、離脱阻止に向けた圧力を掛けたとの報道もある。
結果的に、EU 離脱は見送られ、ポンドの下落が避けられることで、ユーロも対ドルで堅調に推
移するだろう。米国がドル安を志向していることもユーロの下値を支えるものと思われ、1.11 ド
ルを下回ることは想定しづらい。
豪ドル円(84.50 円~90 円)
豪ドル円は 86 円を維持し、上昇基調が継続すると考える。
豪ドルを見る上で最大の関心事である中国経済への懸念が和らいでおり、コモディティ価格も反
発・上昇基調に入りつつある。この動きを先取りする形で、豪ドルは対ドルで上昇し始めている。
一方、これまでのコモディティ安や景気下支えのため、中銀は通貨安誘導・低金利政策を続けて
きた。豪州準備銀行(RBA)は 4 月 5 日の金融政策会合で政策金利を 2.00%に据え置いた。
RBA は「国内実体経済は底堅い」とする一方、「豪ドルの上昇が現在進行している経済の調整を
複雑化しうる」と指摘している。これは、RBA が通貨高を懸念していることを示している。その
ため、市場では 5 月に 0.25%ポイントの利下げが実施されるとの指摘もある。しかし、コモディ
ティ価格が本格的に上昇し、景気回復期待が強まるようであれば、これらの政策は見直しを迫ら
れることも考えられる。その意味でも、リスク要因はコモディティ安や中国経済の失速となろう。
ただし、これらの傾向が明確にならなければ、現在の豪ドルの対ドルでの上昇基調は継続しよう。
1 豪ドル=0.79 ドルを明確に超えると、長期トレンドが上向き、その結果、豪ドルも 86 円の重要
なサポート水準を維持し、昨年 12 月につけた 90 円の節目を試す可能性があろう。
江守 哲(えもり てつ)氏 プロフィール
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は 25 年超。
現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草出版)
■ご留意いただきたい事項
マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証するも
のではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を
推奨し、勧誘するものではございません。当社が有価証券の価格の上昇又は下落について断定的判断を提供するこ
とはありません。
本レポートに掲載される内容は、コメント執筆時における筆者の見解・予測であり、当社の意見や予測をあらわすもの
ではありません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがござ
います。
当画面でご案内している内容は、当社でお取扱している商品・サービス等に関連する場合がありますが、投資判断の
参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。
当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかか
る最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。
本レポートの内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布
することはできません。
当社でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等に
は価格の変動・金利の変動・為替の変動等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。また、発行
者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそ
れがあります。信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠
金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が
生じるおそれがあります。
なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」
をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。
マネックス証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第165号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会