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2016/05/31
江守 哲 氏 相場展望レポート(
相場展望レポート(2016 年 6 月)
ドル円(108 円~112 円)
ドル円は膠着感の強い展開に移行する可能性が高い。日米の為替認識の違いもあり、市場には不
透明感が残るものの、米国がドル安政策に転換した可能性が高いことや、日本独自の判断で円売
り介入ができないことを考慮すれば、引き続きドル円は上値の重い展開が続くと考えるのが妥当
であろう。米連邦準備制度理事会(FRB)高官が頻繁に近い時期の利上げを示唆する発言を繰り
返していたが、その意味が 4 月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨の公表で明らかに
なった。つまり、FRB は市場関係者が考える以上に利上げに傾いていたということである。4 月
の FOMC の直前にも似たようなことがあった。FRB 高官が利上げの可能性を示唆するなど、き
わめてタカ派的な発言を繰り返していたが、その後、イエレン FRB 議長が利上げは慎重に行う旨
の発言を行い、早期利上げ観測を一蹴したことは記憶に新しい。今回も FRB 高官が同様の行動を
とっているが、6 月 14・15 日開催の FOMC までに、イエレン議長が再度それらを否定する発言
を行うか注目することになろう。米国経済指標では、特に雇用の数値に伸び悩みの兆しがみられ
る。そのため、利上げに踏み切るのは難しいようにも見える。しかし、FRB は商業用不動産ロー
ンの拡大を懸念している可能性がある。米国内の商業用不動産価格は、リーマンショック前の
2008 年 4 月から昨年末には 5 割近く上昇している。特に主要都市のオフィス価格が上昇した。昨
年末に利上げを実施した効果もあり、価格自体は 3 ヶ月連続で下落しているが、これが景気減速
や金融機関の融資基準の厳格化が背景にあるとすれば、あまりよくない状況にあるといえる。い
ずれにしても、バブルの膨張と崩壊だけは避けなければならず、FRB は広範囲のデータを重視し
ながらの慎重な判断を求められることになるだろう。一方、GDP 成長率は、第 1 四半期は前期比
0.5%増にとどまったが、第 2 四半期は同 1.5%超に拡大する見通しである。堅調な成長率が FRB
の政策判断に影響を与えるか、今後発表される経済指標と併せて注目しておきたい。
ドル円は今年に入ってすでに 15 円以上も下げているが、高値と安値の値幅をみると、すでに 16
円に達している。2001 年から 15 年までの平均がちょうど 16 円であることから、今年の高値と
安値はすでに確認した可能性もある。そうであれば、年末まではレンジ相場で推移すると考える
こともできるだろう。その場合、想定されるレンジは 105 円~115 円になろう。ただし、注意が
必要なのは上値が限界的になるという点である。115 円より少し下の水準には、筆者が考える重
要な長期トレンドラインが控えている。また、昨年の高値である 125 円と今年の安値である 105
円の半値が 115 円でもある。米国はすでにドル安政策に切り替えていると考えるのであれば、こ
の 115 円ラインを超えることはかなり困難と考えるのが妥当であろう。したがって、現実的には
114 円台半ばまで戻せば十分であろう。一方、下値も 105 円を割り込み、100 円の大台を下回る
可能性は低いのではないかと考えている。このように考えると、当面のドル円は 110 円を中心に
上下 2 円のレンジで推移するものと思われる。
ユーロ円(121.50 円~126 円)
ユーロ円はドル円とユーロドルの影響を受けることになるが、ユーロの底堅さとドル円のレンジ
相場での推移を背景に、堅調に推移すると考えられる。欧州中央銀行(ECB)がすでに動けない
状況になっており、マイナス金利の拡大は見込みづらい。また、量的緩和についても一方的な拡
大は見込みづらい状況にあり、ユーロが売られる可能性は大きく低下している。目先は 6 月 23
日実施の英国の EU 離脱に関する国民投票の結果次第だが、これを問題なく通過することができ
れば、ユーロドルの上昇を背景にユーロ円は上値を試すものと思われる。またドイツと日本の 2
年債利回り差とユーロの推移を比較すると、今年に入ってからは連動性が明確に薄れてきている。
利回り差のマイナス幅が縮小しているが、円高基調が強まったことで、ユーロ円と利回り差は連
動しなくなっている。この背景には、市場が金融政策や金利差を材料にしなくなっていることが
背景にある。つまり、政治的な材料への感応度が高まっている可能性があり、今後のトレンドを
見るうえで参考にしたい。
ユーロ円は 122 円前後を底値に 125 円程度まで反発する可能性がある。
ただし、ドル円の上値も重くなることから、126 円を大幅に超えるような動きにはならないもの
と思われる。
ユーロドル(1.11 ドル~1.16 ドル)
ユーロドルは引き続き底堅く推移するものと思われる。市場の関心が英国の EU 離脱に関する国
民投票の行方や、米国の早期利上げの可能性に向かっており、ユーロそのものの材料が不足して
いることもあり、ユーロは動きづらい展開が続いてきた。しかし、英国の EU 離脱が否決される
可能性が高いことや、米国の利上げが早期に織り込まれれば、ポンドの対ドルでの上昇につられ
る形でユーロも上昇に転じるものと思われる。中国景気の不安定さやギリシャの債務問題の再燃
など懸念材料もあるが、一時期な不透明感は払拭されつつあり、大きく売り込まれる地合いには
ないだろう。景気は引き続き低迷気味だが、底入れの兆しを指摘する声も聴かれる。第 2 四半期
GDP 成長率は減速するとみられているが、プラス成長は維持する見通しである。また物価は前年
比 0.1%のマイナスになるなど、依然としてインフレの懸念は低い状況にある。ただし、原油価格
の持ち直しでプラス圏に浮上すれば、これがユーロドルの底堅さにつながる可能性がある。追加
緩和の可能性は以前に比べて大きく後退しており、これもユーロの下値を支えるものと思われる。
一方、ドイツと米国の 2 年債利回り差とユーロドルの推移を比較すると、昨年後半から連動性が
明確に薄れている。特に今年に入ってからは、利回り差のマイナス幅の拡大にもかかわらず、ユ
ーロドルはむしろ上昇している。このように、市場は金融政策や金利差を材料にしなくなってお
り、政治的な材料への感応度が高まっている可能性がある。この点からも、英国の EU 離脱回避
がユーロドルの上昇の必要条件になるものと思われる。当面は 1.11 ドルを底値に、上値は 1.13
ドルから最大で 1.16 ドルのレンジを想定したい。
豪ドル円(78 円~82 円)
豪ドル円は上値の重い展開が続く可能性が高い。豪州の第 1 四半期の消費者物価(CPI)が下ぶ
れたことで、政策金利に変更が加わったことが市場を驚かせた。CPI の低調さを受けて急落し、
さらに豪州準備銀行(RBA)は低調な CPI を受けて、5 月 3 日に利下げを決定したことで、下落
基調への転換が決定的となっている。RBA が重視するコア CPI がインフレ目標を下回ったのは
初めてであり、市場に大きなショックがあったといえる。RBA は景気判断を後退させており、こ
れも豪ドルの上値を抑える可能性がある。また中国の経済動向への懸念も根強いことや、高金利
通貨であるがゆえに利下げ余地があるとの見方が上値を抑える可能性がある。市場では、鉄鉱石
価格の動向への関心を高めている。豪ドル/米ドルと鉄鉱石先物価格は非常に高い連動性を見せ
ており、市場参加者が鉄鉱石価格の動向を豪ドルの方向性を見るうえで参考にしている可能性が
高い。その鉄鉱石価格が低迷していることもあり、豪ドルがすぐに上向く可能性は低いように思
われる。ただし、米ドルの反発が利上げ織り込みで限界的になり、コモディティ価格の上昇が鮮
明になれば、これにつれて豪ドルも対ドルで反発する可能性がある。5 月末後半に維持してきた
サポートの 1 豪ドル=0.72 米ドルを維持できれば、反発に転じてもおかしくない。一方で基調反
転には 0.738 米ドルを超えることが必要と考える。豪ドル円は円相場次第の面があるものの、78
円台はかなり固くなりつつある。75 円が心理的な節目になろうが、ここまでの下落は想定しづら
いだろう。ただし、82 円はかなり重いレジスタンスになるだろう。
江守 哲(えもり てつ)氏 プロフィール
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は 25 年超。
現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)
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