レポート本編はコチラ

2016/08/30
江守 哲 氏 相場展望レポート(
相場展望レポート(2016 年 9 月)
ドル円(95 円~105 円)
ドル円は戻りを試す可能性があるものの、戻りは限定的となろう。イエレン FRB 議長は米ワイオ
ミング州ジャクソンホールでの講演で、
「追加利上げの根拠がこの数ヶ月で強まっている」と発言
し、9 月 20・21 日の FOMC での利上げ実施の可能性を示唆した。その後、フィッシャーFRB 副
議長が、
「経済データ次第」としつつも、9 月利上げの可能性を否定しなかったことから、市場で
は早期利上げ観測が急浮上している。またアトランタ連銀のロックハート総裁も年内 2 回の利上
げ可能性を排除しない考えを示している。これらを受けて、短期金利先物市場が織り込む利上げ
可能性は、26 日時点で 9 月が 36%(前日は 21%)
、年内は 62.9%(同 51.7%)に上昇した。イ
エレン FRB 議長の講演は予想外にかなり踏み込んだ格好となった。イエレン議長は「景気見通し
には不確実性がある」として、今後の経済情勢を見極めて判断する姿勢も併せて示し、さらに利
上げの時期についても明示していないが、金利の正常化に意欲を示しており、年内の利上げは確
実になった。早めに利上げすることで、従来のように、金利の上げ下げによって金融政策を調整
する金利主体の政策に戻すことができる。その意味でも、少なくとも年内に最低でも 1 回の利上
げが想定されよう。
FRB 内のコア 3 名のうち、最近になってタカ派色が強まっていたフィッシャーFRB 副議長は 26
日に、9 月を含めた年内の 2 回の利上げの可能性について「イエレン議長が講演で述べたことは
それを否定するものではない」としている。フィッシャー副議長は利上げの判断について「堅調
な雇用統計の結果が続いており、来週発表される 8 月の雇用統計が重要」としている。このよう
に考えると、これ以上雇用が強くなれば、利上げを見送る根拠はないということになる。インフ
レ上昇にも自信を示している。ここまで見れば、NY 連銀のダドリー総裁を含めたコア 3 名のす
べてが中立からややタカ派的になったことになる。他の FRB 関係者が利上げを支持すれば、9 月
利上げの可能性は一気に高まるだろう。しかし、パウエル FRB 理事は、
「海外の需要が低迷し、
他の中央銀行が利下げしている上、低インフレ、低成長が続く中では、利上げに対しては慎重で
いることが適切」との立場を示している。その上で、
「経済成長が 2%程度で、雇用の改善、物価
上昇が確認できれば、追加利上げが必要になる」との考えを示している。前のめりになる元ハト
派 3 名に対して、FRB 関係者の中には、まだ利上げに慎重な向きもいることが確かである。
一方、連銀総裁の中には、利上げ賛成派が多い。今年の FOMC の投票権を持つクリーブランド連
銀のメスター総裁は、「経済は良好に進んでいる」とし、「緩やかに利上げするのが適切」とし、
追加利上げについては、
「9 月の FOMC も検討の場になる」としている。同様に FOMC で投票権
を持つセントルイス連銀のブラード総裁も追加利上げについて、
「経済が強化されていると判断す
れば、いい機会かもしれない」とし、9 月の利上げ実施もあり得るとの考えを示している。ただ
し、ブラード総裁は今後 2 年半に利上げは 1 回にとどめるのが適切としている。いずれにしても、
9 月 2 日発表の 8 月の米雇用統計次第で、9 月利上げの可能性が一気に高まるだろう。今回の雇
用統計はこれまで以上に注目度が高まる。18 万人程度の雇用者増となれば、9 月利上げを織り込
むことになろう。ただし、利上げは債券売りを誘発する可能性が高く、その場合には株安につな
がることが考えられる。利上げが「株安・債券安・ドル高」というリスクオフの動きを強める可
能性がある。その場合には、結果的にクロス円が売られることで、ドル円は下落する可能性が高
い。
一方、黒田日銀総裁はジャクソンホールでの講演で、
「日本のマイナス金利水準である 0.1%は下
限にかなりの距離がある」とし、さらなる深掘り余地を示唆した。さらに「物価 2%目標の早期
実現に必要であれば、量・質・金利の 3 つの次元でちゅうちょなく追加緩和措置を講じる」とし、
いずれにも追加緩和余地があるとした。日銀は 9 月 20・21 日に金融政策決定会合を開催するが、
そこでマイナス金利付き量的・質的金融緩和(QQE)の「総括的な検証」を行う。黒田総裁は今
年 1 月に導入を決定したマイナス金利政策について、QQE と相まって金利が大幅に低下し、
「幅
広い借り入れ主体に恩恵を与えている」と評価しており、これまでの政策が奏功していると考え
ているようである。FRB が利上げに動く中、日銀が追加緩和を行うことで、為替相場を政府・日
銀が目論む円安方向に移行させることができると考えている節がある。しかし、円安がインフレ
につながらなかったこともあり、政策の考え方そのものには疑念も残る。今回の黒田総裁の発言
から、
「総括的検証」ではこれまでの政策を継続するだけにとどまる可能性が高く、結果的に株式・
ドル円の失望売りを誘うことになろう。
上記のような背景から、利上げを織り込むまではドル円は反発することが想定される。しかし、
利上げが米国株安を誘発することで、日本株にも売りが出る可能性が高い。結果的に円安方向に
は進みづらくなろう。ドル円は最大で 105 円半ばまでの上昇余地はあるものの、9 月の日米の金
融政策決定会合に向けて徐々に下落し、その後は再び円高圧力が強まることになろう。円高リス
クは依然として残っていると考えられる。
ユーロ円(111 円~116.50 円)
イエレン FRB 議長の米ワイオミング州ジャクソンホールでの講演における追加利上げ示唆を受
けてドルが買われている。その過程で、ユーロドルは下落したものの、ドル円が上昇しているこ
とから、全体的にユーロ円は円安方向に進んでいる。8 月は動きが小さい中で、ドル円が 100 円
の節目を辛うじて維持したことや、ユーロ円自体が徐々に下値が切り上がっていたこともあり、
いったんは上値を試しやすい可能性がある。日米の金融政策決定を背景に、ユーロ円も月内には
より明確な方向性が出てくるだろうが、目先のユーロドルの下落とドル円の上昇の力関係から、
最終的には下落に向かうことになろう。上昇基調に回帰するには 120 円を明確に超える必要があ
り、トレンドの転換は現時点では考えにくい。むしろ、116.50 円を超えられないと、戻り売り圧
力が強まり、再び 112 円を試すことになろう。
ユーロドル(1.1170 ドル~1.1400 ドル)
イエレン FRB 議長の講演を受けた利上げ観測の高まりがドル高を誘発している。これを受けて、
ユーロドルは 8 月につけた 1.1365 ドルの高値から下落する展開にある。ただし、8 月 26 日時点
では、長期上昇トレンドが位置する 1.12 ドル前後で推移しており、明確に上昇基調が転換したわ
けではない。今後は 9 月 2 日の米雇用統計の内容を確認したうえで、FRB の政策方向を織り込む
ことになる。市場予想からよほど大きく下方乖離しない限り、9 月利上げを織り込む可能性が高
い。その時点でドルの上昇はいったん収束し、ユーロドルも安値家訓から反発することになろう。
1.12 ドルを下放れた場合でも、1.1170 ドルを維持できれば、ダブルボトム形成から反発しやすく
なろう。米国は今年に入ってからドル安志向を鮮明にしている。目先の利上げ観測と ECB の追加
緩和策の可能性から、一般的にはユーロドルは下げやすいと考える向きが多い。しかし、デフレ
通貨であるユーロは結果的に上昇しやすい素地がある。米利上げを織り込めば織り込むほど、ド
ルの上値は重くなり、結果的にユーロドルが上昇しやすくなるだろう。
豪ドル円(75 円~78.50 円)
豪ドル円は引き続きレンジ内での推移となろう。豪ドル/米ドルは 0.775 米ドルが重い一方で、
下値は 0.75 米ドルとレンジ内での推移が続いている。
0.7475 米ドルには強固なサポートがあり、
ここが現時点での下値のめどと考えられる。米利上げ観測が高まる中、目先は下値を試しやすい
ものの、利上げを織り込む過程で下値は徐々に固くなり、0.7450 米ドルをサポートする形で再び
反発に転じるだろう。8 月 2 日に開催された豪州準備銀行(RBA)の定例理事会では、市場の予
想通り、政策金利は 0.25%引き下げられ、1.50%となった。利下げは 5 月以来だった。声明では
「インフレ率が引き続き弱いことが確認された」としており、利下げはインフレ率の弱さであっ
たことを示した。RBA がコア CPI として見ているトリム(刈込平均)CPI は、4-6 月期で前年
同期比 1.7%の上昇だった。インフレ率は持ち直す兆候が見られていないもようであり、今後も利
下げに対する警戒が残るだろう。一方、声明では「全体的に景気は緩やかなペースで加速してい
る」としており、景気の底堅さに自信を示している。そのため、追加利下げの余地はあるものの、
早計な利下げは見送られるものと考えられ、豪ドルの底割れの可能性は低いと考えられる。これ
らから、豪ドル円は底堅い豪ドル/米ドルと軟調なドル円を背景に、最終的には下方向への転換
が見られるだろう。目先は 76 円がサポートとなり、78.50 円近辺までの上昇の可能性がある。し
かし、これを超えるのは難しく、結局は反落して再び 76 円割れを試すことになろう。76 円を割
り込むと次のサポートが 75 円までないことから、最大でこの水準までの調整は念頭に入れておき
たい。
江守 哲(えもり てつ)氏 プロフィール
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は 25 年超。
現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)
■ご留意いただきたい事項
マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証するも
のではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を
推奨し、勧誘するものではございません。当社が有価証券の価格の上昇又は下落について断定的判断を提供するこ
とはありません。
本レポートに掲載される内容は、コメント執筆時における筆者の見解・予測であり、当社の意見や予測をあらわすもの
ではありません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがござ
います。
当画面でご案内している内容は、当社でお取扱している商品・サービス等に関連する場合がありますが、投資判断の
参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。
当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかか
る最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。
本レポートの内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布
することはできません。
当社でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等に
は価格の変動・金利の変動・為替の変動等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。また、発行
者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそ
れがあります。信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠
金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が
生じるおそれがあります。
なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」
をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。
マネックス証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第165号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会