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2016/07/27
江守 哲 氏 相場展望レポート(
相場展望レポート(2016 年 8 月)
ドル円(98 円~108 円)
ドル円は日米金融政策の内容次第で変動することになろう。英国の欧州連合(EU)離脱決定後、
ドル円は 100 円を割り込むなど、円高圧力にさらされた。しかし、その後はさすがに売られすぎ
たことへの反動で戻りを試したが、6 月の米雇用統計をきっかけに乱高下する中、再び 100 円割
れ目前まで売られた。その後は徐々に水準を戻したが、その背景にあったのが、参院選の大勝で
勢いづいた安倍首相が主導する景気刺激策への期待と、ヘリコプターマネー(ヘリマネ)と呼ば
れる財政バラマキ政策への期待であった。市場の期待感が大いに高まったことで、ドル円は一時
107 円台半ばまで値を戻すなど、この流れが続くかが焦点になっている。市場の流れを維持する
ためには、日銀による追加緩和策が不可欠だが、28・29 日に実施される金融政策決定会合におい
て、市場が想定していないような緩和策を導入することが、円安基調の継続には不可欠である。
しかし、そのような追加策が実行されるとみる市場関係者は少ない。また、これまでの日銀政策
の市場への効果を疑問視する声が少なくないだけに、中途半端な政策はむしろ市場の失望を誘う
だけにとどまることになろう。
市場では、日銀の追加策について、上場投資信託(ETF)の買い入れ額の増額や、マイナス金利
の拡大などが想定されているが、この程度では市場にはサプライズにはならない。また、黒田日
銀総裁が否定するように、ヘリコプターマネーの導入は現状の法の下では不可能であり、現実性
に乏しいのが実態である。安倍首相は参院選での勝利を受けて、国民のお墨付きを得たと認識し
ている可能性があり、少なくとも景気刺激策用の財政支出の拡大を財務省に認めさせることにな
ろう。財政拡大が経済拡大に直結するようであれば、これを好感する形で株価が上昇し、ドル円
も上値を試す可能性は十分にある。しかし、菅官房長官が「赤字国債は発行しない」としている
ことから、壮大な財政出動に対する市場の失望リスクは決して小さくない。
このように、財政出動の拡大がそれほど簡単な話ではないことだけは確かである。市場がこれほ
どまでに財政出動とヘリマネに期待感を膨らませていることや、それを契機に円安基調に転じた
ことを考慮すれば、市場の期待が裏切られた場合の反動はきわめて大きくなろう。
一方、26・27 日開催予定の FOMC では利上げは見送られよう。6 月の堅調な雇用統計や高騰す
る商業用不動産価格を背景に、本来であれば利上げを検討すべきであると考えられる。しかし、
根本的にドル安を志向している米国が、英国の EU 離脱決定を契機とした欧州通貨安・ドル高を
加速させるような政策を取るとは考えにくい。利上げは場合によっては、年内中は見送られる可
能性もあろう。ドルは対欧州通貨で上昇しているものの、欧州通貨の対円相場の下落により、結
果としてドル円の上値も重くなっている。このように考えると、外部要因の面からは、円高基調
を払拭するのはかなり難しいだろう。このような状況の中で、日銀の政策内容が失望を誘うよう
なものになれば、ドル円は再び 100 円割れを試すことになろう。逆に政策内容が市場予想を大き
く凌駕するほどのものになれば、円安基調がより鮮明になると考えられる。
円安基調への転換には、少なくとも 108 円の水準は必要であろう。さらに言えば、110 円を超え
るようだと、さらに円安が加速しよう。逆に、市場の失望から 104 円を割り込むようであれば、
円高再開となろう。つまり、104 円と 110 円を明確に抜けたほうに動くことになる。29 日にも次
の方向性が出るだろう。ただし、現時点では市場の期待に沿う政策発動は難しいと考えられ、ド
ル円は下方向への圧力にさらされることになろう。また夏場は円高方向に動きやすいと考える市
場関係者は少なくない。この点にも注意が必要である。
ユーロ円(111 円~119 円)
英国の EU 離脱をきっかけとしたユーロドルの下落基調が、ユーロ円を押し下げることになろう。
ユーロドルが下落する一方、ドル円が持ち直したことから、ユーロ円一時 110 円台にまで急落し
ていたものの、その後は反発している。その結果、7 月後半は 116 円から 118 円の膠着相場にな
る場面もあった。英国の EU 離脱決定を受けたポンド安がユーロドルを押し下げる一方、ドル円
が日本政府による財政出動への期待から上昇したが、この綱引きの結果が 7 月後半のレンジ相場
形成の背景にある。しかし、日米の金融政策決定を背景に、ユーロ円も方向性が出てくるだろう。
ユーロドルおよび円相場を取り巻く環境を考慮すれば、ユーロ円は現時点では下値リスクが高い
と考えるのが妥当であろう。ポンド安の動きを見る限り、ユーロドルがさらに売られる可能性は
依然として大きいと考えられる。この結果、クロス円であるユーロ円に直接的に売り圧力が掛か
ることになる。その上に、ドル円が再び円高方向に進めば、ユーロ円は直近のレンジ下限である
116 円を割り込み、再び終値ベースでの安値である 111 円を目指すことになろう。ユーロ円が中
長期的な上昇相場に回帰するには 120 円超えが必要と考えられる。この水準にまで戻すには、米
国の力強い景気回復や日本の財政・金融による景気支援策が市場の高い評価を受けることが最低
条件である。しかし、現時点ではこれらの材料が示現する可能性は低いとみられ、ユーロ円は引
き続き上値の重い展開が想定されよう。
ユーロドル(1.05 ドル~1.11 ドル)
英国の EU 離脱決定により、ユーロドルはきわめて強い売り圧力にさらされている。
EU からの離脱の動きが加速するとの懸念も根強く、欧州の枠組みの大幅な再編につながるリス
クも指摘されている。7 月 22 日時点では、1.10 ドルを割り込んでおり、英国の EU 離脱決定後の
終値ベースでの安値を更新している。イングランド銀行(BOE=中央銀行)は利下げを見送り、
これによりポンド高が進む場面があったものの、その後は再び下落圧力にさらされている。
基本的な欧州通貨安の流れが変わることは当面ないものと考えられる。英国と EU との様々な交
渉は長期化する見通しであり、その方向性については不透明である。また英国への投資が細るこ
とも想定され、ポンド安が加速するようだと、ユーロドルもその影響を受けるだろう。
一方、デフレに苦しむ EU にとっては、通貨安はまさに「干天の慈雨」ともいえる。これまで積
極的に緩和策を行い、ユーロ安を梃子にしたデフレ脱却をもくろんでいた ECB にとっては、ユー
ロ安は望んでいたことであろう。ユーロ安を背景にデフレ脱却と景気回復が進み、米国もドル安
を志向していることを考慮すれば、いずれユーロは対ドルで反転しよう。しかし、その時期はか
なり先になろう。ECB は追加緩和策の可能性を常にちらつかせながらも、市場ではその手段は限
られているとみられている。9 月にも利下げの可能性があるとみられているが、その間に株価が
安定するなど外部要因に変化がなければ、早い段階でユーロ安に歯止めがかかる可能性もあろう。
ただし、その動きは早くて 9 月以降になるものと考えられる。
豪ドル円(75 円~82 円)
豪ドルは世界的な市場の落ち着きなどから買い戻され、
7 月中旬までは順調に水準を切り上げた。
しかし、欧州通貨が再び下値を試し始めると手仕舞い売りが出始め、1 豪ドル=0.77 ドルを超え
られずに下落に転じた。豪ドル円もドル円の上昇と豪ドル/米ドルの上昇を受けて、81 円台を回
復する場面もあったが、その後は豪ドルの下落を背景に再び 80 円を割り込んでいる。
7 月 5 日に開催された豪州準備銀行(RBA)の定例理事会では、市場予想通り、政策金利は 1.75%
で据え置かれた。今後は第 2 四半期の消費者物価指数の内容へ注目が集まるであろうが、RBA の
インフレ見通しは段階ごとに引き下げられており、今後も豪ドルには下押し圧力が掛かりやすい
ものと考えられる。すぐに利下げが実施される可能性は低いとみられているが、現状で利下げが
決定されるようだと、豪ドル/米ドルは重要なサポートである 0.74 ドルを割り込み、長期的な下
落基調に入る可能性が高まろう。
その場合には、直近安値の 0.72 ドル程度までの下げが想定されよう。豪ドルに影響を与える中国
経済の動きに大きな変化は見られない。直近の経済指標は比較的良好だが、これが豪ドルを大き
く押し下げる要因にはなっていない。ただし、直近の原油相場が軟調に推移していることや、中
国向け鉄鉱石価格が高値から下落に転じている点には注意が必要であろう。豪ドル円は 7 月中旬
に 82 円を超えられなかったことで、方向としては下落に向かう可能性が高まっている。78.50 円
を割り込むと、直近安値水準の 75 円を試すことになろう。上昇トレンドへの回帰には、80.50 円
から 82 円超えが必要だが、現時点ではこの水準を超えるような材料は見当たらない。外部要因を
考慮すれば、下値を試す可能性が高いと考えられる。
江守 哲(えもり てつ)氏 プロフィール
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は 25 年超。
現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)
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