洪水時における由良川河口砂州の動態制御に関する研究

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
学生発表アブストラクト №303
洪水時における由良川河口砂州の動態制御に関する研究
明石工業高等専門学校 建築・都市システム工学専攻 ‫ۑ‬越智 尊晴
明石工業高等専門学校 都市システム工学科
ࠉ 神田 佳一
舞鶴工業高等専門学校 建設システム工学科
ࠉ三輪 浩
イドログラフ(観測水位より換算)を示したものである.
1.はじめに
京都府北部を流れ,若狭湾に流入する由良川では,2004
右岸側の砂州面積の変遷を見ると,短期的には夏期の出水
年の台風 23 号以降,図-1 のように河岸両岸から発達して
により大きく減少し,冬期には砂州面積が漸増しているこ
いた砂州が右岸側に集中し,開口部は左岸側に偏奇してい
とがわかる.これは高波浪による漂砂量の増加によると考
る.このため,左岸側の浸食が進行し護岸が流出するなど,
えられる.
隣接する海岸施設に影響があり,河川防災上の問題が発生
3.洪水時の砂州動態に関する模型実験
している.本研究では,河口砂州の地形変動を,河川流量
洪水に伴う河口砂州の詳細な変形特性を把握するととも
や冬期波浪との関連について経年的特性から把握する.そ
に,砂州の制御法として砂州対岸に水制を設置した場合の
して,移動床模型実験や 2 次元河床変動モデルを用いた数
値解析によって洪水時の砂州の挙動を明らかにするととも
砂州形状の変化について,現地河道を模した大型実験水路
を用いた移動床実験を行った.実験に用いた水路を図-3 に,
実験条件を表-1 に示す.実験水路は,長 8.75m,幅 2.88m
に,水制工による河口砂州の制御効果についても同様の方
の水平床長方形断面水路である.水路上流端から 3~5m の
法で検討する.
左岸側には,2011 年の測量結果に基づいて,その平面形状
2.砂州面積の経時変化
を台形として近似した河口砂州模型を設置した.砂州の高
洪水や波浪が河口砂州の形状変化に及ぼす影響を検討す
さは 0.02m とし,砂州模型終端より下流端に向かって
るために,河口砂州の地形測量を GPS により継続的に実施
i=1/20 の 海 底 斜 面 を 設 定 し て い る . 河 床 材 料 は 密 度
した.図-2 は,2010 年 4 月から 2014 年 4 月までの河口砂
州面積の経時変化,経ヶ岬(河口より北方約 30km)におけ
1.47g/cm3 及び平均粒径 1.3mm の石炭粉としている.水制
は表-1 のように長さを変更し,河川上流側に流下方向から
60°で設置した.
る有義波高及び福知山(河口より上流約 37km)におけるハ
表-1 実験・解析条件
(a)2001 年
流量
Q(l/s)
現地流量
3
QC(m /s)
通水時間
下流端
水制長
水位
T(min)
L(m)
hd(m)
(b)2006 年
RunA
10.8
2,900
20
0.143
None
RunB
10.7
2,900
20
0.147
0.3
RunC
10.0
2,800
20
0.139
0.6
図-1 2004 年洪水前後の由良川河口形状
図-3 実験模型概要図
図-2 河口砂州面積,有義波高,河川流量の経時変化
- 247 -
(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
学生発表アブストラクト №303
RunA
RunB
RunB
RunC
RunC
図-4 通水後の河床位コンター図
RunA
RunA
RunB
RunC
図-5 通水中の流速ベクトル図
図-6 数値計算結果(再現計算)
実験後の河床位のコンター図を図-4 に示す.図-4 より,
水制を設置しない場合,砂州先端部が流出しており,砂州
開口部では洗掘が見られるが,砂州全体として流出は発生
していない.0.3m の水制を設置した場合,河口砂州の先
端部の浸食が促進されていることがわかる.また,流路が
砂州先端部へ向くことによって,開口部の洗掘が緩和され
ている.水制長をより大きい 0.6m にした場合,砂州の流
出が促進されている.開口幅が広がるのみでなく,砂州全
図-7 数値計算結果(水位・流量と体積の関係)
体に渡って流出している.砂州開口部においては,より浸
補正を考慮した式が用いられている.なお,砂州及び河床
食が小さくなっている.また,水制の周辺において弧状の
の材料は,密度や粒径といった諸量を実験で用いたものと
浸食が発生している.
同様としている.図-6 の解析の結果より,水制を設置しな
同様の実験において,通水中の表面流速ベクトル図を図-5
い場合,開口部への流路の集中,開口部での洗掘は比較的
に示す.水制がない場合には,開口部で大きな流速が発生
よく再現できている.開口部での浸食位置について,実験
していることがわかる.30cm の水制を設置した場合,開口
では砂州の下流側で発生しているの対し,解析では上流側
部での流速が低減されていることがわかる.また,砂州近
傍で大きな流速が発生しており,これが砂州の浸食を促進
に発生している.水制を設置した場合,30cm の水制につい
ては浸食状況,流速の発達がよく再現できている.水制長
60cm の場合開口部の拡がりは再現されているが,砂州全体
していることがわかる.水制長 60cm の場合,大きな流速
において越流,浸食する様子の再現について検討が必要で
が横断方向に広い範囲で発生しており,砂州の浸食状況と
ある.
図-7 に比較的再現性の高かった水制 30cm の場合につい
一致する.
て,水位と流量を変化させた場合の,砂州体積の変化を示
4.数値解析
次に,実験の検証のために平面二次元河床変動計算を行
す.下流端水位が小さく,流量が大きいほど,砂州が流出
い,水制工設置の効果を検証した.解析には,iRIC 研究会
していることがわかる.また,下流端水位が十分に大きい
(International River Interface Corporative)によって開
場合には,通水後の体積はほぼ一定値となる.
発され,インターネット上で公開されている汎用ソルバー
5.まとめ
の Nays2D を用いた.基礎式は,平面 2 次元の連続式と運
動方程式及び流砂の連続式である. 以上の基礎式を一般座
標系に変換してプログラムが構築されている. 移流項の離
本研究では,由良川の河口砂州について模型実験と数値
解析を行い,水制による制御効果を検討した.水制に砂州
散化には CIP 法,乱流場ではゼロ方程式モデルが適用され,
の浸食促進効果があり,水制設置時の流量の増大,下流端
掃流砂量式として芦田・道上式に長谷川による斜面勾配の
水位の低下が体積の浸食に影響することを明らかにした.
- 248 -