市場調査部レポート - マネースクウェア・ジャパン

2016 年 2 月 12 日(金)発行 No.089
市場調査部レポート
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ウィークリー・アウトルック
ドル円は政策対応が求められる水準?
【概観】 ドル円は政策対応が求められる水準?
10-11 日のイエレン FRB 議長の議会証言を受けて、ドル円が大きく下落しました。ただ、ドルの実効レート
は 2 月 4 日の安値をわずかに下回っているだけです。一方で、ドル円は一時 111 円前後まで下落、4 日の
安値(116.50 円)を大きく下回ってきました。
2 月に入って、通貨の騰落率をみると、円の全面高であり、ドルの全面安です。ただ、円の次に強かった
ユーロでも対円では 3%近く下落しており、今局面は「ドル安」より「円高」の度合いが強いように思われます。
各通貨の対円騰落率(1/29-2/11)
ユーロ
NZドル
英ポンド
トルコリラ
南アランド
豪ドル
カナダドル
米ドル
-8.0
-6.0
-4.0
-2.0
出所:Bloombergより作成
0.0
(%)
円の実効レートは 2014 年 8 月以来の水準まで上昇しています。つまり、為替レートに限定すれば、日銀
のマイナス金利導入だけでなく、黒田バズーカ第 2 弾(ハロウィーン緩和)の効果も消滅したことになります
(ドル円でみれば 110 円割れがバズーカ第 2 弾前の水準です)。
円実効レート
黒田バズーカ第 1 弾
黒田バズーカ第 2 弾
出所:Bloomberg より作成
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これ以上の「円高」は日本経済に打撃となる可能性が高まるでしょう。ある証券アナリストによれば「(一
部の輸出企業は)115 円までの円高は耐えられるが、それ以上の円高になれば業績はかなり厳しい」とのこ
とでした。ある為替ストラテジストはマイナス金利導入直後に「すぐに次があるかもしれない」と語っていました。
その可能性は高まっていそうです。
安倍政権が消費税増税を先送りするとの憶測も囁かれはじめています。さすがにすぐに介入というわけで
はないでしょうが、日本サイドに何らかの対応が必要な「円高」になりつつあるように思われます。
来週はまず、春節明けの上海株式市場がどう再開するか。株価が急落するようであれば、世界的な株
安のスパイラルが続くかもしれません。米国の経済指標は 1 月の鉱工業生産など製造業関連が中心であり、
引き続き低迷が予想されます。FOMC 議事録も公表されますが、今週イエレン議長が最新の状況について
判断を示しているので、新味はないかもしれません。日本の 10-12 月期 GDP は 2 四半期ぶりのマイナスが
予想されており、その通りの結果となれば、2017 年 4 月の消費税再増税の先送りの議論が浮上するかもし
れません。<チーフアナリスト 西田明弘>
【米ドル】 米利下げ・マイナス金利観測は時期尚早か
10-11 日の議会証言で、イエレン議長は「(昨年 12 月の利上げ以降、)多くのことが起こった」と認め、
「株価の下落、ジャンク債の利回り上昇、ドル高などの金融情勢は、従来に比べて経済成長をサポートしにく
くなっている。そうした状況が続くなら、経済見通しを悪化させるだろう」と語りました。
イエレン議長は追加利上げに慎重な姿勢を強調する一方で、「次の一手が利下げとなるような経済停滞
の可能性が高いと考えたことはない。利下げの可能性が極めて高くなるほどの経済見通しの変更はまだ起
きていない」とも語りました。
また、議長は、議員からの質問に答えて「2010 年にマイナス金利を検討したが、あまり効果はないと判
断した」と回答。そのうえで、「他国での導入実績を踏まえて、再度検討している」と認めました。ただ、これは
導入の是非の検討ではなく、あくまでも技術的な検討の域を出ていないとみられます。
なお、11 月時点の政策金利(FF レート)先物に基づいた確率は、年内据え置きが 85%、利上げが 11%、
利下げが 4%となっています。<西田>
【ユーロ】 低いインフレ率とユーロ圏内の景況感格差が重石に
ECB 理事会メンバーのバイトマン独連銀総裁は、3 月の ECB 理事会ではインフレが議題になるとし「今年の
インフレ率見通しは大幅に引き下げられる必要があるだろう」と述べました。ECB が昨年 12 月に示した経済
見通しでは、今年のインフレ率は約 1.0%となっていました。
その一方で同氏は「中国経済が急減速するとは予想していない」とし、中国発のリスクオフに過剰に反応
することに対して、警戒感を示しました。同じく ECB 理事会メンバーのビルロワドガロー仏連銀総裁は「(欧州
経済は) しっかりとした回復の最中にある」との認識を示すなど、独、仏などユーロ圏経済をリードする国々は、
最近見られている市場の混乱の影響を比較的避けているようです。
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ただギリシャ、ポルトガルなど経済基盤の弱い国々では、財政再建が滞っているとの観測が台頭しており、
局所的に景気・経済の揺れが生じています。
依然として低いインフレ率と、ユーロ圏諸国間の景況感格差が、今後もユーロの重石になるとみられます。
足もとのリスクオフの高まりから、ユーロ/米ドルは昨年 10 月以来の一時 1.13 ドル台乗せとなったものの、当
面の上値節目とみられる 1.15 ドルを大きく超えるのは、難しそうです。<シニアアナリスト 山岸永幸>
【ポンド】 利上げ観測後退も、金融緩和は必要にない状況
ブロードベント BOE(英中銀)副総裁は 5 日、「低インフレが賃金の伸びに影響を及ぼしている兆候が幾分あ
る」とし、「当局者は政策金利引き上げを急いでいない」と述べました。前日の 4 日に、カーニーBOE 総裁が
「次の金利変更は利上げになるだろう」と発言し、ポンドが買われた直後だっただけに、その後ポンドは下げに
転じました。
英 MPC(金融政策委員会)は、賃金の伸びの低調さに懸念を示す一方、「賃金デフレが生じている兆しは
ない」としており、賃金の伸びが英国の利上げを遅らせているものの、金融緩和が必要な状況にはないと捉
えているようです。年内利上げの可能性をめぐり、ポンドが揺れる状態がしばらく続きそうです。<山岸>
【豪ドル】 対円は再度 77 円台半ばを試す?
18 日(木)に 1 月の豪雇用統計が発表されます。労働市場の順調な回復を背景に、RBA(豪中銀)は政
策金利の 2.00%据え置きを続けています。
2 日の政策会合の声明では、「今後、新たな情報に基づいて、理事会は最近の労働市場の改善が継続
するかどうか、最近の金融市場の混乱が世界や国内の需要の弱まりの前兆なのかどうかを判断する」と表
明。そのうえで、「継続的な低インフレは、需要を支えるための一段の政策緩和(=利下げ)余地をもたらす
可能性がある」との見解が示されました。
雇用統計が堅調な結果になれば、市場に根強い RBA の追加利下げ観測が後退するとみられます。そう
なれば、豪ドルにとってプラス材料となりそうです。
ただ、市場ではリスクオフが強まっています。雇用統計が堅調な結果になったとしても、豪ドルは上値が重
い展開になるかもしれません。豪ドル/円は 11 日安値の 77.50 円割れを再度試す可能性があります。
<アナリスト 八代和也>
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【NZ ドル】 対円は下押し圧力がかかりやすい状況
16 日(火)に乳製品電子オークション(GDT)が開催されます。RBNZ(NZ 中銀)は乳製品価格の動向を
注視しており、昨年実施した 4 回の利下げは、乳製品価格下落による経済見通しの悪化が一因でした。
乳製品価格が再び下落し始めています。2 日に開催されたオークションで、乳製品国際価格の指標とな
る GDT 価格指数は 656 と、前回 1 月 19 日の 708 から低下。昨年 9 月 1 日以来の低水準となりました。
NZX 乳製品先物取引所の粉ミルク先物価格は、前回の GDT 前に比べてやや値を下げており、GDT 価格
指数は 16 日のオークションで一段と下落する可能性があります。乳製品価格の下落は、RBNZ への利下げ
圧力の増大につながり、NZ ドルにとってマイナス材料です。
GDT 価格指数が 16 日のオークションで上昇すれば、NZ ドルの下支え要因となりそうですが、ただ世界的
な株安や原油安を背景に、市場では再びリスクオフが強まっています。GDT の結果によって強弱の違いは
出そうですが、NZ ドルには下押し圧力が加わりやすいとみられます。NZ ドル/円は 11 日安値の 73.10 円に
向かう可能性があります。<八代>
【トルコリラ、南アランド】 リスクオフが強まるなか、下値模索の展開か
世界的な株安や原油安を背景に、リスクオフに伴う円買い圧力が強まったことで、11 日にトルコリラ/
円は過去最安値を更新、南アランド/円も一時 7 円を割り込みました。来週は、月曜日(15 日)にトルコの
11 月失業率、水曜日(17 日)に南アフリカの 1 月 CPI(消費者物価指数)が発表されます。
ただし、現在の市場の関心は、原油価格や世界の株価動向に向いています。他の高金利通貨と同様
に、トルコリラや南アランドは、それぞれの経済指標よりも、原油や株価を背景としたリスク意識の変化の影
響をより受けやすいとみられます。原油安が再び進行し、日本をはじめ株式市場が再び不安定化してき
たことを考えると、トルコリラ/円や南アランド/円は下値模索の展開になる可能性があります。<八代>
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来週の主要経済指標・イベント
2月15日 8:50 【日】GDP速報値 前期比(10-12月期)
【日】GDP速報値 前期比年率換算(10-12月期)
当社予想 市場予想
-0.1%
-0.2%
-0.4%
-0.7%
前回値
0.3%
1.0%
貿易収支の改善は成長率を小幅押し上げたとみられるものの、個人消費や住宅投資は
冴えなかった模様。マイナス成長となれば2四半期ぶりのこととなる。
10:30 【中】春節明けの上海株式市場再開
2月16日 18:30 【英】消費者物価指数 前年比(1月)
0.1%
0.3%
0.2%
12月分は原油価格が安定、航空運賃の上昇率アップなどで、2015年1月以来の高い伸
びとなった。しかし1月は原油価格が一段と下落したことから、CPIの伸びも鈍化か。
22:30 【米】ニューヨーク連銀製造業景気指数(2月)
2月17日 23:15 【米】鉱工業生産 前月比(1月)
2月18日 9:30 【豪】雇用者数変化(1月)
【豪】失業率(1月)
-12.00
0.0%
2.0万人
5.8%
-10.00
0.4%
1.4万人
5.8%
-19.37
-0.4%
-0.1万人
5.8%
RBAは政策金利据え置きを決定した2月2日の声明で、労働市場と金融市場を注視する
姿勢を示した。雇用統計が堅調な結果になれば、RBAの追加利下げ観測の後退につな
がるとみられる。
22:30 【米】フィラデルフィア連銀景気指数(2月)
-5.0
-2.9
-3.5
同指数は1月まで5か月連続マイナス。ISM製造業指数でも製造業活動の縮小が示唆さ
れている。
28:00 【米】FOMC議事録公表(1月26-27日開催分)
2月10-11日の議会証言でイエレン議長が最新の判断を示したため、議事録はある程度
陳腐化している。ただ、どのような少数意見があったかは興味深い。
2月19日 22:30 【米】消費者物価コア指数 前年比(1月)
2.0%
2.1%
2.1%
ドル実効レートの上昇は続いており、輸入価格の下落圧力が全体の物価を押し下げるも
のとみられる。ただし、消費者物価コアのベースではFRBの目標に達している。
2月20日
【米】ネバダ州党員集会(民主党)
【米】サウスカロライナ州予備選(共和党)
市場予想はBloomberg、2月12日10:00現在。発表日時は日本時間。
2016年8月までの金融政策の市場予想
政策金利% 利下げ 現状維持 利上げ
米国
0.25-0.50
7%
87%
6%
英国
0.50
53%
46%
1%
NZ
2.50
69%
31%
0%
カナダ
0.50
63%
37%
0%
ユーロ圏
0.05 100%
0%
0%
豪州
2.00
71%
29%
0%
OIS(翌日物金利スワップ)を用いた確率。2月11日時点
出所:Bloombergより作成
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<執筆者>
西田 明弘(にしだ あきひろ)
市場調査部 チーフアナリスト マーケット全般、米ドル、円担当
1984 年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを
経て、三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテ
ジストとして高い評価を得る。2012 年 9 月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市
場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2J の WEB サイトで「市場調査部レポート」、
「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑
誌など様々なメディアに出演し、活躍中。
山岸 永幸(やまぎし ながゆき)
市場調査部 シニアアナリスト ユーロ、ポンド、カナダドル担当
1986 年、ユニバーサル証券(現、三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券)入社後、株式ス
トラテジスト、アナリスト、チャーチスト、先物トレーダーなど株式業務全般に携わる。
1987 年に出向先の大和証券で「一目均衡表」に出会って以降、28 年間にわたり、均
衡表と実践的な活用法を探究。2012 年春マネースクウェア・ジャパンに入社。セミナ
ー講師として多数の顧客にノウハウを伝えるとともに、多数のレポートを配信。また、
様々なメディアに出演し、活躍中。
八代 和也(やしろ かずや)
市場調査部 アナリスト 豪ドル、NZドル、トルコリラ、南アランド担当
2001 年、ひまわり証券入社後、コールセンター、為替関連の市況ニュースの配信、レ
ポートの執筆など FX 業務に携わる。2011 年 12 月、マネースクウェア・ジャパンに入
社。市場調査部に所属し、豪ドルや NZ ドルといったオセアニア通貨にフォーカスした
「オセアニア・レポート」を執筆している。FX に携わり 13 年。
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株式会社マネースクウェア・ジャパン(M2J)
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関東財務局長(金商)第 2797 号
【加入協会】 日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
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