2015 年 8 月 21 日(金)発行 No.071 市場調査部レポート 0 ウィークリー・アウトルック 【アウトルック】 【高金利通貨】 上海株下落も「未達感」、米ドル/円への波及に注意 トルコリラ/円は一段安の可能性あり、反発のカギは? 【アウトルック】 上海株下落も「未達感」、米ドル/円への波及に注意 来週の注目通貨ペア: 米ドル/円↓ 米国発の材料が乏しいなか、リスクオフ気運の高まりで米ドル安・円高が加速か。 <材料>消費者信頼感、新築住宅販売(25 日)、PCE コアデフレーター(28 日) ユーロ/米ドル↑ 米ドル下落でユーロ/米ドルは上値追いの可能性。 <材料>独 GDP 改定値(25 日)、独 CPI(28 日) トルコリラ/円↓ 「中国発のリスクオフ」は新興国通貨への影響大。 <材料>組閣期限(23 日)、中国株や資源価格の動向 ◆↑↓→は筆者が予想する相場の方向性(あくまで予想であり、方向性を保証するものではありません) 今週のレビュー:上海株大幅安でリスクオフ台頭 今週の為替相場は、上海株の大幅下落をうけて、週後半は米ドル安・円高に振れる場面がありました。 米ドル/円は、「人民元ショック」一巡で市場の関心が再び米国の利上げに向かったことから、週初小動き。 しかし上海株の大幅下落でリスク回避の円高が進行、一時 123.33 円まで下落しました。ユーロは、週前半 こそ米ドル高をうけて軟調に推移しましたが、週後半に米ドルが崩れると強含みの推移となりました。ポンド/ 円は、英 7 月 CPI やコア PPI が市場予想を上回ったことから、18 日には一時 195.22 円と 8 月 6 日高値に 並ぶ水準に。ただ、週後半は原油安の影響もあり、伸び悩みました。 豪ドルは、特に材料のないなか、上海株下落による中国景気減速懸念から対米ドル、対円とも弱含みで 推移しました。NZ ドルは、乳製品国際価格の指標となる GDT 価格指数が 14.8%上昇したことをうけて、対 米ドル、対円ともに上昇しました。カナダドル/円は、WTI 原油先物が一段安、節目の 40 ドルに迫ったことか ら下落。19 日は一時 94 円ちょうどと、3 月 31 日以来の安値水準となりました。 トルコリラは、ダウトオール首相が組閣権限を返上したことや、イスタンブール中心部にあるドルマバフチェ 宮殿入口付近で銃撃戦が発生したことから、対米ドルで過去最安値を更新。対円でも一時 41.12 円と、 2012 年 1 月以来の安値を記録しました。南アランドは、資源価格の下落による資源国通貨下落につれて、 一時 9.53 円と、昨年 10 月以来の安値水準となりました。 1 Copyright © 2015 MONEY SQUARE JAPAN, INC. All rights reserved. This Report is for Authorized Recipients Only and Not for Public Distribution. 来週のプレビュー: 上海株下落も「未達感」、米ドル/円への波及に注意 先週の「人民元ショック」に続き、今週は「上海株ショック」が市場を大きく揺らしました。 上海総合指数は人民元相場の落ち着きをうけて、7 月 27 日以来となる 4,000 ポイント台を一時回復する 場面がみられました。しかし、18 日の上海株式市場は前日比マイナス 6%を超える下げとなりました。 翌 19 日は一時大幅に続落したあと、午後の取引では、「国家隊」と呼ばれる中国政府系ファンドが買い支 えに動くとの思惑が広がり、大引けは前日比プラスとなりました。しかし翌 20 日は、前日比 3%を超える大幅 な下げに見舞われました。 上海総合指数の日足一目均衡表では、直近ピークである 6 月 12 日高値 5,178 ポイントを付けたあと、 先行スパン上限を割り込む(6 月 26 日、4,330 ポイント)までの値幅が、848 ポイント。その後、先行スパン下 限を終値で割り込んだ水準が 4,053 ポイントとすると下値のメドは 4,053 – 848 = 3,205 ポイントとなります。 直近ボトム(底)は 7 月 9 日安値 3,373 ポイントで、「下げ未達感」が残る水準といえるでしょう。 上海総合指数 (日足、2015/6/4~8/20) (出所:QUICK) 直近 21 日に中国 8 月財新製造業 PMI が発表され、市場予想の 48.2 に対し、47.1 と下振れしたため、 上海株が下げ足を速める場面がみられました。来週以降も、上海株に大きな揺れが生じる可能性が考えら れます。 上海株の揺れは、日経平均ほか世界の株価に影響を与えるだけでなく、為替市場、とくに中国経済との 関連が深い豪ドルの揺れに繋がる公算が大きく、より一層の注意が必要でしょう。 2 Copyright © 2015 MONEY SQUARE JAPAN, INC. All rights reserved. This Report is for Authorized Recipients Only and Not for Public Distribution. 上海株の下げにつれて、日経平均も下落。直近 21 日 10 時時点で、一時 19,638 円と、2 万円大台を 割り込み、7 月 9 日以来の安値水準に下落しています。 日経平均の下落は、「日本株買い・米ドル/円買い」といったパッケージ取引によって連動性が高まった、 米ドル/円の下落に繋がる可能性が考えられます。先日の「人民元ショック」で、パッケージ取引のポジション 解消が進み、日本株や米ドル/円の巻き戻し(解消売り)が大量に出てくる可能性は低下したと推測されます が、残ったポジションの解消や、日本株売りによる「イメージ先行」の米ドル売り・円買いが進む可能性も考え られます。 また、9 月以降は米国系ファンドの決算が相次ぎ、「決算売り(利益確定)」による米国株の下落、ならびに 米国系ファンドに投資した資金や利益金を日本へ送金する動き(レパトリエーション)が活発化することで円高 へと振れ易くなる可能性についても、留意する必要がありそうです。 今週も、注目度の高い経済指標やイベントはみられず、2 日のベージュブック、3 日の ECB 会合、4 日の 米雇用統計とビッグイベントが集中する来週まで、様子見姿勢が強まる公算が大きいと推測されます。 材料が乏しいなか、上海株、日経平均などアジア株式の揺れ、原油など資源価格の動向が為替市場に 影響を与えるとみられます。加えて、ISIS(イスラム国)への空爆激化や、その報復とみられるテロの活発化に 揺れるトルコなど、地政学リスクの高まりもリスクオフを高める要因となりそうです。 (シニアアナリスト 山岸永幸) 【高金利通貨】 トルコリラ/円は一段安の可能性あり、反発のカギは? トルコリラは 20 日、対円で一時 41 円台前半まで下落し、2012 年 1 月以来の安値を記録。対米ドルで は過去最安値を更新しました。 トルコリラ安の要因は、大きな流れとして FRB(米連邦準備理事会)の利上げが近づいているとみられるこ とや、中国経済への懸念を背景に、新興国通貨が全般的に売られていることが挙げられます。トルコリラは それらに加えて、以下の独自の悪材料があることで、強い下押し圧力にさらされています。 (1)トルコが先月、イスラム国とクルド労働者党の拠点への空爆を開始したことで、地政学リスクが高まって いること。 (2)国内でテロが頻発しているほか、19 日にイスタンブール中心部にあるドルマバフチェ宮殿付近で銃撃戦 が発生するなど、治安が悪化していること。 (3)連立協議が失敗したことで、政治空白が長期化する可能性があること。 (4)トルコ中銀が今週火曜日の政策会合で、政策金利を 7.50%に据え置いたこと。一部に利上げ期待があ ったことから、失望感を誘いました。 3 Copyright © 2015 MONEY SQUARE JAPAN, INC. All rights reserved. This Report is for Authorized Recipients Only and Not for Public Distribution. ◆一段安の可能性あり◆ イスラム国などとの戦いは長期化する可能性があり、地政学リスクは今後も残りそうです。 連立協議については、23 日が期限です。それまでに新政権が樹立されなければ、大統領は再選挙を要 請することが可能です。与党 AKP(公正発展党)は 13 日に CHP(共和人民党)、17 日に NHP(民族主義者 行動党)と連立協議を行いましたが、いずれも決裂しました。AKP を率いるダウトオール首相は 18 日、組閣 を断念することを表明。それを受けて、エルドアン大統領は再選挙を行う意向を示しました。再選挙は 10 月 または 11 月に実施される見通しで、一部報道によると 11 月 1 日や 22 日が有力と伝えられています。 再選挙が行われたとしても、AKP が過半数を獲得できるとは限らず、今回と同様の事態に陥る可能性も あります。政治空白は長期化する恐れがあります。このような状況では、トルコリラに下押し圧力が加わりや すいと考えられます。トルコリラ/円は、2011 年 10 月につけた最安値 40.28 円が下値のメドとなりそうですが、 40 円を割り込む可能性も考えておく必要があるかもしれません。 トルコリラ/円(月足) 出所:M2J FX Chart Square ◆反発のカギを握るのはトルコ中銀?◆ トルコリラが本格的に反発するためには、トルコ中銀の利上げが必要かもしれません。トルコ中銀は昨年 1 月、アルゼンチン・ショックをきっかけとした新興国通貨売りによって、当時対米ドルで過去最安値を記録し たトルコリラを防衛するため、政策金利を 4.5%から 10%へ、5.50%の大幅な利上げを実施したことがありま す。 トルコ中銀の利上げを受けて、トルコリラ安は一服。6 月にかけて対ドル、対円で緩やかに上昇しまし た。 4 Copyright © 2015 MONEY SQUARE JAPAN, INC. All rights reserved. This Report is for Authorized Recipients Only and Not for Public Distribution. トルコ中銀の政策金利 出所:Bloomberg 米ドル/トルコリラ(日足) トルコリラ/円(日足) 出所:Bloomberg ただ、現在は再選挙など政治の不透明感が強く、地政学リスクも高まっている状況です。トルコ中銀は金 融政策の変更に慎重になるとみられます。ただ、市場も利上げは難しいとみていますので、もしトルコ中銀が 利上げに踏み切った場合のサプライズは大きくなりそうです。その場合は、トルコリラは大幅に反発するかもし れません。 (アナリスト 八代和也) 5 Copyright © 2015 MONEY SQUARE JAPAN, INC. All rights reserved. This Report is for Authorized Recipients Only and Not for Public Distribution. 来週の主要経済指標・イベント 当社予想 92.0 8月25日 23:00 【米】消費者信頼感指数(8月) 市場予想 93.0 前回値 90.9 7月は昨年9月以来の低水準だった。雇用や所得環境は良好ながら、株価の軟調もあって、反 発は小幅か。 8月26日 21:30 【米】耐久財受注 前月比(7月) -0.8% -0.4% 3.4% 6月に急増した航空機受注は7月に大幅減少した模様。ドル高やエネルギー産業の設備投資 減少も受注の抑制要因。 8月27日 【米】ジャクソンホール・シンポジウム(~29日まで) カンザスシティ連銀が主催する年次シンポジウム。今年のテーマは「インフレのダイナミクスと 金融政策」。イエレン議長は欠席の予定 21:30 【米】GDP改定値 前期比年率(4-6月期) 3.0% 3.2% 2.3% 速報値の後に発表された6月の経済指標(在庫投資など)は4-6月期GDPは上方修正されそ う。 8月28日 8:30 【日】消費者物価指数 前年比(7月) 【日】消費者物価コア指数 前年比(7月) 【日】消費者物価コアコア指数 前年比(7月) 0.3% 0.0% 0.7% 0.2% -0.1% 0.6% 0.4% 0.1% 0.6% エネルギー価格の下落が、消費者物価を下押しした模様。黒田日銀総裁は、物価が年後半に 顕著に加速するとの見通しを提示したが、短期間での2%目標到達は相当に難しそう。 21:30 【米】PCEコアデフレーター 前年比(7月) 1.3% 1.3% 1.3% CPI(消費者物価)コアは7月に前年比1.8%だったが、FRBが重視するPCE(個人消費支出)コ アはそれを大きく下回る公算が大きく、FRBが利上げを急がない理由となっている。 市場予想はBloomberg、8月21日10:00現在。発表日時は日本時間。 2016年2月までの金融政策の市場予想 政策金利% 利下げ 現状維持 利上げ 米国 0-0.25 0% 33% 67% 英国 0.50 11% 60% 29% NZ 3.00 96% 4% 0% カナダ 0.50 53% 45% 2% ユーロ圏 0.05 73% 27% 0% 豪州 2.00 52% 48% 0% OIS(翌日物金利スワップ)を用いた確率。8月20日時点 出所:Bloombergより作成 6 Copyright © 2015 MONEY SQUARE JAPAN, INC. All rights reserved. This Report is for Authorized Recipients Only and Not for Public Distribution. <執筆者> 山岸 永幸(やまぎし ながゆき) 市場調査部 シニアアナリスト 1986 年、ユニバーサル証券(現、三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券)入社後、株式ス トラテジスト、アナリスト、チャーチスト、先物トレーダーなど株式業務全般に携わる。 1987 年に出向先の大和証券で「一目均衡表」に出会って以降、28 年間にわたり、均 衡表と実践的な活用法を探究。2012 年春マネースクウェア・ジャパンに入社。セミナ ー講師として多数の顧客にノウハウを伝えるとともに、多数のレポートを配信。また、 様々なメディアに出演し、活躍中。 八代 和也(やしろ かずや) 市場調査部 アナリスト 2001 年、ひまわり証券入社後、コールセンター、為替関連の市況ニュースの配信、レ ポートの執筆など FX 業務に携わる。2011 年 12 月、マネースクウェア・ジャパンに入 社。市場調査部に所属し、豪ドルや NZ ドルといったオセアニア通貨にフォーカスした 「オセアニア・レポート」を執筆している。FX に携わり 11 年。 7 Copyright © 2015 MONEY SQUARE JAPAN, INC. All rights reserved. This Report is for Authorized Recipients Only and Not for Public Distribution. 本資料ご使用上の留意点 本資料は当社が信頼できると考えるデータをもとに作成されておりますが、機械作業上データに誤りが発生する可能性もあり、 当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。ここに示したすべての内容は、当社の作成時点での判断を示し ているに過ぎません。本資料は、お客様への情報提供のみを目的としたものであり、特定の取引の勧誘を目的としたものでは ありません。また、投資等に関するアドバイスを含んでおりません。当社は、本資料の論旨と一致しない他のレポートを発行し ている、或いは今後発行する可能性があります。本資料の利用に際してはお客様御自身でご判断くださいますようお願い申し 上げます。 お取引に関しての注意事項 ●取引開始にあたっては契約締結前書面をよくお読みになり、リスク・取引等の内容をご理解いただいた上で、ご自身の判断 にてお願いいたします。当社の外国為替証拠金取引は、元本および収益が保証されているものではありません。また、取引総 代金に比較して少額の資金でお取引を行うため、多額の利益となることもありますが、通貨価格の変動や金利動向の変化に より預託した資金以上の損失が生じる可能性があります。 また、外貨事情の急変、外国為替市場の閉鎖等、不可抗力と認められる事由により外国為替取引が不能となる可能性があ ります。 ●取引手数料は価格上乗せ方式で、新規および決済取引のそれぞれに必要となります。手数料額は 1,000 通貨単位当たり 10~100 円(対ドル通貨は 0.1~1 ドル)で、通貨ペア及び諸条件により異なります。 ●当社が提示するレートには、買値と売値に差(スプレッド)があります。流動性が低くなる場合や、天変地異、戦争等による相 場の急激な変動が生じた場合、スプレッドが広がることがあります。 ●取引に必要な証拠金額は、個人のお客様の場合取引総代金の 4%、法人のお客様の場合取引総代金の 2%となります。 当資料に関するお問い合わせは、下記へお願いします。 カスタマーデスク 0120-455-512 (9:00~22:00 土日を除く) 株式会社マネースクウェア・ジャパン(M2J) 金融商品取引業 関東財務局長(金商)第 2797 号 (加入協会) 一般社団法人金融先物取引業協会 8 Copyright © 2015 MONEY SQUARE JAPAN, INC. 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