Market Flash 漸く鎮火の兆し ただし3月までは警戒体制維持 2016年1月12日(火) 第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 藤代 宏一 TEL 03-5221-4523 【海外経済指標他】~雇用統計:量はポジティブサプライズ~ ・12月雇用統計によるとNFPは+29.2万人と市場予想(+20.0万人)を大幅に上回ったうえ、過去分も5.0 万人上方修正された。3ヶ月平均値は28.4万人に急加速して夏場の月の減速を完全に取り戻した。ポジテ ィブ・サプライズである。失業率は5.0%と3ヶ月連続で同水準に留まったが、労働参加率(62.51%→ 62.65%)は7ヶ月ぶりの水準に上昇しており、雇用の質的改善を示唆。一方、雇用の質的改善がなお緩慢 であることを浮き彫りにしたのが平均時給の上昇モメンタムの鈍さ。平均時給は前月比横ばい(小数点2 以下ではマイナス)となり、市場予想(+0.2%)を下回った。前年比伸び率は+2.5%に加速したが、こ れはベースエフェクトによるもの。1月分の前年比が+2.5%を確保するためには、前月比+0.6%以上と いう非常に高い伸びが必要となる。1月の前年比伸び率は減速する可能性が高く、この点は3月FOMC の利上げ見送りを支持する材料として意識されるだろう。もっとも、雇用の量的改善がFEDや市場参加 者の予想以上のペースで進む一方、平均時給が伸び悩むという構図は過去2年程度続いており、今回に限 ったことではない。この間もFEDが着々と引き締め方向に舵を切ってきた経緯を踏まえると、このタイ ミングでFEDが様子見姿勢に転じるとは考えにくい。FEDは雇用の量的改善を評価して金融政策の正 常化を進めると考えられる。 米 米 雇用統計 (NFP変化) 失業率・平均時給 (前年比、%) 11(失業率、%) 400 10 3MA 350 5 12MA 平均時給(右) 4 9 300 8 250 3 7 200 2 6 150 5 100 4 50 3 11 12 13 14 15 1 失業率 0 94 16 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 (備考)Thomson Reutersにより作成 (備考)Thomson Reutersにより作成 【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】 ・前日の米国株は小幅ながら反発。8日は強めの雇用統計を受けて当初は堅調に推移していたが、ほどなく して上げ幅を縮小すると結局は安値引け。週間の下落幅は1078㌦と2008年10月以来7年3ヶ月ぶりの大き さ。11日は中国株急落(▲5.3%)を嫌気したものの、値ごろ感から買い戻し優勢。一方、WTI原油は下 落が止まらず6日続落して31.41㌦(▲1.75㌦)で引けた。 ・前日のG10 通貨はAUD、NZDが買い戻された一方、EUR、JPYが売られた。リスクオフが一服するなか、調達 通貨が軟調で相対的高金利通貨が堅調。USD/JPYは117後半まで切り返し、EUR/USDは1.09割れた。 ・前日の米10年金利は2.175%(+6.0bp)で引け。株式市場の下落が一服するなか、8日の雇用統計が見直 され3月の追加利上げが意識されたとみられる。欧州債市場は総じて軟調。独10年金利が0.541%(+ 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 2.7bp)で引けた、イタリア(1.585%、+5.7bp)、スペイン(1.801%、+9.1bp)も金利上昇。対独スプ レッドはワイドニング。 【国内株式市場・経済指標・注目点】 ・日本株は前週末の欧米株安を引き継いで軟調に寄り付いた。 ・8日発表の11月毎月勤労統計によると現金給与総額は前年比±0.0%と10月(+0.7%)から急減速。最重 要項目の所定内給与(+0.3%→+0.5%)が加速しているため、さほど悲観視すべきではないかもしれな いが、所定外給与(+1.8%→+1.1%)が減速したほか、特別給与(+18.2%→▲8.6%)も減少に転じた。 結果的に雇用者が受け取る給料は増加していない。この1年の動きから判断して、企業は月例給与を引き 上げる反面、賞与を削ることで一人当たり賃金を抑制している可能性があるだろう。マクロ賃金(一人当 たり賃金×常用雇用者数)が前年比+2.1%(3ヶ月平均では+2.5%)と堅調なので所得環境は改善して いるのは事実だが、一人当たりの賃金が持続的に増加しないことには賃金上昇の持続性ひいてはデフレ脱 却に疑問符が付く。 名目賃金(所定内給与) 1 (%) 0.5 0 -0.5 -1 -1.5 -2 05 06 07 08 09 10 (備考)Thomson Reutersにより作成 11 12 13 14 15 16 ・9日発表の12月中国CPIは前年比+1.6%と11月から0.1%pt加速。食料品(+2.3%→+2.7%)の加速 が牽引役となったものの、コアCPIは+1.5%と低空飛行が続いた。他方、PPIは▲5.9%と11月から 変わらず。資源安、過剰投資による需給の緩みが企業段階における物価下落の背景にある。 ・11日発表の12月豪ANZ求人広告件数は前月比▲0.1%、前年比+10.0%。前月比では5ヶ月ぶりにマイナ ス、前年比では過去数ヶ月から3%ほど伸びが鈍化した。豪雇用統計は10・11月に2ヶ月連続でポジティ ブ・サプライズとなっていたが、12月以降はその反動に注意が必要。 (前年比、%) 中国 (前年比、%) 豪 雇用者数 求人広告件数 物価統計 (前年比、%) 5 10 60 CPI 4 5 3 40 求人広告件数(右) 2 0 0 1 -5 雇用者数 -1 -10 05 06 07 08 09 10 11 (備考)Thomson Reutersにより作成 -20 0 PPI 12 13 14 05 06 07 08 09 10 11 12 (備考)Thomson Reutersにより作成 15 20 -40 -60 13 14 15 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2 ・12月米雇用統計はNFPが市場予想を大幅に上振れたにも拘らず、楽観的なムードは長続きしなかった。 平均時給の伸びが予想外に鈍く、年4回の利上げに疑問を呈する一方で、NFPの増加ペースが予想を上 回るという組み合わせは、本来ならば市場参加者のリスクテイク志向を強く後押しする。それにも拘らず、 投資家センチメントが修復されなかったのは、ISM製造業の50割れが示すよう景気回復期待が削がれる なかでFEDが年4回の利上げシナリオを崩していないため、2回或いは3回の利上げを予想していた市 場参加者のリスクテイク志向が削がれているからだろう。市場は「景気減速懸念+金融引き締め観測」と いうバランスの悪い状態にある。こうした傾向は年4回の利上げに懐疑的な見方をする市場参加者が減少 するとみられる3月FOMCまで続く可能性があるだろう。筆者は3月FOMCでFEDが追加利上げに 踏み切るほか、年4回の利上げシナリオを上書きすると予想。 そうなれば、市場全体に年4回の利上げシ ナリオが浸透することで、金融政策の不透明感が後退すると期待される。それまでは様々な悪材料に視線 が向かいがちになると覚悟しておいた方が良さそうだ。中国経済の減速懸念、原油安、ドル高による米企 業収益の悪化懸念、ハイ・イールド債下落などがそれにあたる。 <主要株価指数> 日経平均※ NYダウ DAX(独) FTSE100(英) CAC40(仏) <外国為替>※ USD/JPY EUR/USD <長期金利>※ 日本 米国 英国 ドイツ フランス イタリア スペイン <商品> NY原油 NY金 終値 17404.81 16,398.57 9,825.07 5,871.83 4,312.74 (円) 17800 17700 17600 17500 17400 17300 前日比 -293.15 52.12 -24.27 -40.61 -21.02 117.56 1.0864 (㌦) 16500 -0.20 0.00 日経平均株価 9:22 現在 NYダウ平均株価 16400 0.230 2.175 1.777 0.541 0.920 1.585 1.801 % % % % % % % 31.41 ㌦ 1096.20 ㌦ 0.001 0.060 0.007 0.027 0.040 0.057 0.091 % % % % % % % 16300 16200 USD/JPY 118.5 -1.75 ㌦ -1.70 ㌦ 117.5 ※は右上記載時刻における直近値。図中の点線は前日終値。 116.5 (出所)Bloomberg 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3
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