Market Flash 2008年と違ってFEDの手足が縛られていない 2016年3月7日(月) 第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 藤代 宏一 TEL 03-5221-4523 【海外経済指標他】~雇用統計:質的改善が進まず、程好い強さ~ ・2月雇用統計によるとNFPは+24.2万人と市場予想(+19.5万人)を大幅に上回った。幾つかの先行指 標がNFPの減速を示唆したので一安心の結果。昨年11-12月分の強さが剥落したため3ヶ月平均は22.8万 人に減速した一方、6ヶ月平均は23.5万人、12ヵ月平均は22.6万人にそれぞれ加速。量的改善はその強さ が維持されている。反対に質的改善に疑問を投げかけるのが平均時給。前月比▲0.1%と予想外に減少して 前年比は+2.2%へと0.3pt減速した。労働参加率が62.9%へと20ヶ月ぶりの水準を取り戻すと同時に失業 率が4.9%と低水準を維持したので、質的改善が進捗していることは事実だが、FEDを利上げに動かす強 さはない。 雇用統計 (NFP変化) (失業率、%) 400 350 3MA 失業率(右) 12MA 300 67 9 66 8 250 7 200 労働参加率・失業率 (%) 10 (%) 19 U6失業率(右) 15 13 65 11 64 9 6 150 7 63 5 100 50 4 11 12 13 14 15 16 17 5 労働参加率 62 05 06 07 08 09 10 11 (備考)Thomson Reutersにより作成 12 3 13 14 15 16 (備考)Thomson Reutersにより作成 ・1月米貿易収支は456.8億㌦の赤字と市場予想に概ね一致。輸出金額が前月比▲1.2%、輸入金額が▲0.4% が共に減少。実質ベースでは輸出が▲2.5%、輸入が+0.2%となり、実質貿易収支の赤字幅は拡大。非石 油関連財輸出は▲2.5%と4ヶ月連続で減少して約4年ぶりの低水準となった。 (10億㌦) -10 米 貿易赤字 -20 -30 -40 -50 -60 -70 -80 00 02 04 06 08 (備考)Thomson Reutersにより作成 10 12 14 16 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】 ・前日の米国株は4日続伸。雇用統計を好感したほか、原油価格の上昇が追い風。雇用統計はNFPが予想 比上振れの一方、賃金の上昇が鈍く、株式市場に支援的。欧州株も概ね堅調。WTI原油は35.92㌦(+ 1.35㌦)で引けた。 ・前日のG10 通貨は資源国通貨(NOK、NZD、AUD、CAD)が総じて買われた一方、CHF、JPYはUSDと同程度の 弱さとなった。USD安・原油高がリスクオンの条件になったとみられ対JPY、CHFでのUSD高は進まず。 USD/JPYは114を挟み一進一退。EUR/USDは1.10近傍での推移となった。 ・前日の米10年金利は1.874%(+4.0bp)で引け。雇用統計発表後に原油高が進むと米債市場は軟調に推移。 米株も一時の下落からプラス圏に再浮上し米債売りを促した。欧州債市場は総じて軟調。ドイツ10年金利 が0.238%(+6.9bp)で引け、イタリア(1.462%、+4.0bp)、スペイン(1.560%、+2.3bp)、ポルト ガル(3.097%、+10.4bp)も金利上昇。3ヶ国加重平均の対独スプレッドはワイドニング。 【国内株式市場・経済指標】 ・日本株はUSD/JPYの上値の重さが意識され米株高に追随できず、小幅安で推移。 ・4日発表の1月豪小売売上高は前月比+0.3%と市場予想(+0.4%)を僅かに下回ったものの、前年比で は+4.0%と高い伸びをキープ。資源価格下落をよそに個人消費は堅調に推移している。なお、1月の予想 比下振れの主因は食料品(▲0.2%、寄与度▲0.1%)の弱さ。除く食料品ベースでは+0.7%と強さが保た れている。 (前年比、%) 豪 小売売上高 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 07 08 09 10 11 12 (備考)Thomson Reutersにより作成 13 14 15 16 【注目点】 ・2月にグローバルリスクオフを経験して以降、現在の状況が2007-08年に酷似しているとの指摘が増えてき た。クレジット・スプレッド悪化とそれを象徴するようなファンドの破綻騒動(2007年:BNPパリバ傘 下のファンドがサブプライムローンで損失、2015年:サード・アベニューがハイ・イールド債とディスト レス債で損失)、欧米銀の収益圧迫という事象は確かに当時を彷彿させる。 ・一方、当時と決定的に異なるのはFEDと原油の関係。当時はFEDの利下げ観測が原油をはじめとする 資源ブーム発生の一因となりインフレ率が急上昇。CRB指数はFEDの利下げを横目に高騰、PCEデ フレータは、リーマン・ブラザーズ破綻の僅か2ヶ月前にあたる2008年7月に4.2%のピークに達した。F EDは資源価格高騰に手足を縛られていた。 ・その点、今回はFEDの利上げ観測がドル高・原油安に拍車をかけており、関係が真逆だ。利上げを休止 すればドル高(特に対資源・新興国通貨)はある程度和らぎ、原油、株価も持ち直しが期待できる。明ら かな資産バブル、インフレの証拠があるなら話は別だが、現状は差しあたって利上げを急ぐ理由がない。 今次局面においてFEDには“待つ”という選択肢があるので、金融政策の自由度が高く、経済をコント ロールする力が当時より優っていると言える。2007-08年とは状況が異なる。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2 PCEデフレータ (前年比、%) 5 (前年比、%) 60 PCEデフレータ 4 40 3 20 2 0 1 -20 0 -1 CRB指数(右) -2 -60 07 08 09 10 11 12 (備考)Thomson Reutersにより作成 <主要株価指数> 日経平均※ NYダウ DAX(独) FTSE100(英) CAC40(仏) <外国為替>※ USD/JPY EUR/USD <長期金利>※ 日本 米国 英国 ドイツ フランス イタリア スペイン <商品> NY原油 NY金 終値 16925.91 17,006.77 9,824.17 6,199.43 4,456.62 (円) 17100 前日比 -88.87 62.87 72.25 68.97 40.54 113.57 1.0995 -40 13 14 15 16 日経平均株価 10:24 現在 17000 16900 16800 (㌦) 17100 -0.20 -0.00 NYダウ平均株価 17000 -0.031 1.874 1.484 0.238 0.580 1.462 1.560 % % % % % % % 0.013 0.040 0.053 0.069 0.043 0.040 0.023 % % % % % % % 16900 16800 114.5 USD/JPY 114.0 113.5 35.92 ㌦ 1270.70 ㌦ 1.35 ㌦ 12.50 ㌦ 113.0 112.5 ※は右上記載時刻における直近値。図中の点線は前日終値。 112.0 (出所)Bloomberg 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3
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