2万円回復記念レポート 『1Q97』

Global Market Outlook
2万円回復記念レポート
『1Q97』
2015年4月13日(月)
第一生命経済研究所 経済調査部
藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
日経平均は2万円の大台を回復。実に15年ぶりの快挙であり金融市場にとって記念すべきことだ。2万円
回復まで15年以上も時間を要してしまったことは実に残念だが、リーマンショック後の数年間に日経平均の
1万円割れが常態化したことを踏まえれば、今次局面のラリーは劇的な進歩と評価できよう。
今次サイクルにおける日本株のカタリストは、円安による企業収益嵩上げ効果も去ることながら、デフレ
脱却とそれによって成し遂げられる名目ベースの経済成長、すなわち名目GDPの拡大だ。日本の名目GD
Pが事実上のピークを付けたのは 97 年4月の消費増税直前である 1-3 月期、つまり『1Q97』だが、それ
以降は趨勢的に縮小し、それに伴い日本株も停滞してきた。しかしながらアベノミクス開始以降の名目GD
Pはインフレ率上昇を追い風に拡大基調を強めており、直近では既往ピークを僅か6%下回るに過ぎない水
準を回復している。年率2%(実質成長1%、インフレ率1%)の成長が3年続けば、既往ピークを更新す
る計算だ。決して不可能なシナリオではなかろう。このように『1Q97』への回帰が現実味を帯びている
のであれば、それに先んじて株価が当時の水準を回復することに違和感はなくなる。
(兆円)
名目GDP・日本株
540
1000
日本 名目GDP
520
500
名目GDP
TOPIX
100
480
460
440
2015年1Q以降を
2%成長で延伸
420
10
55
60
65
70
75
80
85
90
95
00
05
10
15
400
90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18
(備考)Thomson Reutersにより作成
(備考)内閣府、IMF、Bloombergにより作成。1970年1Q=100,対数表示
14年以降のGDPはIMF予測
アベノミクス開始以降の経済指標に目を向けると“○○年ぶり高水準”が目立つ。そうしたなかで注目
されるのが企業向けサービス価格指数(CSPI)。CSPIは90年代前半以降、ほぼ全ての期間におい
て前年比マイナスとなっていたが、2013年央にマイナス圏を脱出した後は安定的に上昇基調を拡大し、目
下のところ22年ぶりの上昇率になっている。企業物価(CGPI)が財物価を対象にするのに対してCS
PIはその名のとおり企業段階でのサービス価格を集計したもので広告、不動産(テナント料)、運輸、
情報通信、リース・レンタルなどが対象となる。そのためCGPIが為替・原油価格変動の影響をダイレ
クトに受けるのに対してCSPIはそれらの影響が及びにくく、国内経済の需給逼迫度合いがより色濃く
反映される。故にCSPIはディマンドプル型のインフレを計測するのに適しており、実際、需給ギャッ
プと密接に連動する(決定係数0.72)。非常に地味な統計で市場参加者の注目を浴びることはまず無いが、
昨今のように原油価格が大幅に変動し、財物価を撹乱している局面においては重要視すべきだろう。ここ
から判断すると、少なくとも企業間取引の段階ではデフレがかなり払拭されつつあると評価できる。なお、
こうした論点は日銀ボードメンバーの間でも注目されており、実際、3月会合の議事要旨(4/13発表)で
は「ある委員は、物価の持続的な上昇のためには、緩やかな物価上昇を意識した賃金設定とサービス価格
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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の持続的な上昇が必要であるとの見方を示した。別のある委員は、物価の先行きをみていくうえで、改定
頻度が少ないサービス価格が4月に引き上げられるか注目していると述べた」との記載があった。
企業向けサービス価格指数(除く国際運輸)
(前年比、%)
(%)
8
4
需給ギャップ・企業向けサービス価格 (前年比、%)
4
6
3
3
4
2
需給ギャップ
(2期先行)
2
1
0
0
-4
-2
-6
-3
-8
-4
-10
1
0
-2
-1
2
-1
-2
R²=0.72
企業向けサービス価格(右)
-3
-4
85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15
90
95
00
05
10
15
(備考)Thomson Reutersより作成 消費増税は当方で調整 3MA
(備考)Thomson Reutersにより作成
もう一つ注目されるのは日本企業のマージン改善。日銀短観ベースでは大企業全産業の売上高経常利益率
が5.47%と既往最高を更新しており、EPSの更なる上昇を強固にサポートしている。こうしたマージン改
善には既往の円安・原油安も大きく寄与しているが、日本企業の構造改革すなわち、不採算部門のスピンオ
フや輸出市場における高付加価値化を通じた経営戦略が奏功した部分も大きいだろう。輸出製品の高付加価
値化は、品質調整(ヘドニック)済みの輸出物価(日銀算出)とそうした調整を施していない輸出価格(財務
省貿易統計ベース)を比較することである程度、定量的な測定が可能になる。輸出物価の(輸出価格に対す
る)相対的低下は高付加価値を示すからだ。そこからは2000年代を通じて高付加価値化が推し進められてき
た姿が見て取れる。低価格戦略に見切りを付け、マージン低下を犠牲にしてまでもシェア拡大を追わなくな
ったということだろう。輸出が著しく増加していないにも拘らず、日本企業の収益が既往最高を更新できる
理由の一つだ。
(EPS)
売上高経常利益率・EPS(TOPIX)
120
輸出価格÷輸出物価
(%)
5.5
100
1.1
5
80
4.5
1
4
60
3.5
40
20
1.2
6
0.9
3
TOPIX
予想EPS
売上高経常利益率
(日銀短観、大企業全産業、右)
0
90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12
(備考)Thomson Reutersにより作成。予想EPS:12ヶ月先
2.5
0.8
2
0.7
1.5
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(備考)Thomson Reutersにより作成
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企業の収益力という観点から最も注目すべきはROEだ。最近では議決権行使助言最大手が、過去5年平
均のROEが5%を下回る企業について、その株主に取締役選任議案に反対するよう勧告するなど、投資家
の目も厳しくなっているが、企業側もROE目標を経営計画に明記するなどして重要な課題に位置づけてい
る。そうしたなか、TOPIX 構成銘柄のROEは9%程度まで高まっており、一般に株主要求リターンの標準
値とされる8%を凌駕している。日本株にはROEが8%を超えると、それ以降は急激にROEとPBRの
相関が強まるという傾向があるが、それはROEが8%に満たない銘柄はスクリーニングの初期段階で投資
対象から除外されてしまうため、資本効率が少々改善したところでPBR(≒株価)が切り上がらないとい
うことだろう。逆に言えば、r>8を満たす現在の状態では業績改善が直ちに株価に織り込まれるということ
だ。なお、ROE8%割れはPBR1倍割れに整合する水準でもある。やはり、ROEの8%超えは株価上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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昇にとって不可欠と言える。
目先的には 2015-16 年年度業績を見据えたROE10%が重要なターゲットとなろう。ROE10%が達成さ
れた場合、それに符合するPBRは凡そ 1.5 倍で現時点のBPS(1150 程度)を基に計算すると TOPIX は
1730、足もとのNT倍率を用いて日経平均に引き直した場合は 22000 円レベルが目安となる。上述した資本
効率の改善を踏まえると十分に達成可能なレベルだ。これとは別に中長期的な視点として、ROEが欧米企
業並みの 15%まで上昇した場合の株価水準を計算する意味もあろう。それに符号するPBRは凡そ 2.2 倍で
TOPIX は 2530、日経平均は 32000 円となる。日本固有のデフレという足かせが外れ、株主重視姿勢が欧米企
業並みに強まった時、日経平均の3万円回復が現実味を帯びるだろう。
ROE・PBR
2.5
(PBR)
2
1.5
1
0.5
(ROE、%)
0
2
4
6
8
10
12
(備考)Thomson Reutersにより作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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