Financial Trends Tapering騒動再来注意報 2015年2月10日(火) 第一生命経済研究所 経済調査部 藤代 宏一 TEL 03-5221-4523 以下で示すよう1月雇用統計は驚くほど強かった訳だが、それは米経済の強さを印象付けると同時に 「雇用統計が強すぎると」という、2013年央に流行したフレーズを想起させる。目先的なリスクは“FE Dと市場の摩擦”だ。 1月雇用統計でNFP変化は+25.7万人、過去分は合計で14.7万人上方修正とポジティブサプライズ。 3ヶ月平均は33.6万人と2ヶ月連続で30万人の大台を突破、12ヶ月平均も26.0万人と20万人台後半に乗せ ており、ここへ来て一段と改善テンポが速まっている。新規失業保険申請件数の減少一服、ISM雇用判 断指数の軟化など、やや不気味な関連指標が散見されていただけに驚きだ。なお、今回の改定により2014 年の雇用者増は312万人となり、1999年の318万人に肉薄した。 雇用統計 (NFP変化) 十万 400 350 12MA 300 3MA 1.41 (億人) NFP(非農業部門雇用者数) 1.39 1.37 250 1.35 200 1.33 150 1.31 100 1.29 50 11 12 13 14 05 06 07 08 09 10 (備考)Thomson Reutersにより作成 15 11 12 13 14 15 (備考)Thomson Reutersにより作成 失業率は5.71%と0.1%pt上昇。しかしながら、これは労働参加率(62.70%→62.94%)が上向いたこと によるもので寧ろポジティブ(ただし人口推計の年次改定により前月と単純比較ができない点は注意)。 労働参加率が変わらなかった場合の失業率は5.27%と試算される。1月は、失業者数が29.1万人増加した 一方、労働力人口が105.1万人増加し、(家計調査ベースの)就業者数も75.9万人増加した結果、就業率は 59.3%と景気後退後のピークを更新。労働市場の質的改善が見て取れる。 (%) 失業率 (%) 12 10 8 失業率(U6、右) 6 (%) 18 67 15 66 12 労働参加率・就業率 (%) 63 62 65 労働参加率 61 9 64 4 2 0 60 就業率(右) 6 失業率(U3) 64 63 3 59 62 0 05 06 07 08 09 10 11 (備考)Thomson Reutersにより作成。 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 (備考)Thomson Reutersにより作成。 58 12 13 14 15 注目の平均時給は前月比+0.5%、前年比+2.2%と再加速、12月の落ち込みが一過性のものであったこ とを確認すると共に6月利上げ開始シナリオをサポート。FEDは、インフレ率を加速させないための失 業率閾値(NAIRU)を5.2~5.5%と推計し、失業率がこれよりも低下すると賃金インフレが加速するとのロ 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 ジックを重視。失業率が5%台前半に低下すると、昨今のストライキ増加が象徴するよう、労使間の摩擦 が激しくなり、賃金上昇率が加速、それを映じて物価も上昇していくとの見立てだろう。目下の原油安に よりFRBが(最)重要視するPCEデフレータは下押しされている反面、物価の基調に重大な影響を及 ぼす賃金は堅調、利上げは着実に近付いていると判断される。このように1月雇用統計は「量・質」とも 完璧に近い内容で、これは間違いなくFEDに自信を与えたはずだ。 失業率・平均時給 12(失業率、%) 11 (前年比、%) 5 平均時給(右) (前年比、%) 5 3 8 40 CRB指数(右) 3 9 (前年比、%) 60 PCEデフレータ 4 4 10 PCEデフレータ 20 2 0 7 1 2 6 -20 0 5 1 4 -2 0 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 -40 -1 失業率 3 コアPCE -60 07 08 09 10 11 (備考)Thomson Reutersにより作成 14 12 13 14 15 (備考)Thomson Reutersにより作成 “利上げに耐えられるほど強い雇用統計”を受けて、米債市場では利上げを織り込む動きが慌しくなって きた。6日の米債市場では2年金利(+12.4bp、0.64%)と5年金利が(+17.5bp、1.48%)それぞれ大 幅上昇。利上げの織り込みが一気に進んだ格好だ。10年金利こそ旺盛な押し目買いに支えられ何とか1% 台をキープしたものの、6月利上げシナリオが一段と後退しない限り低位安定を保つのは難しそう。直近 の原油価格下落一服も金利上昇要因として意識され易いだろう。 そうしたなか、筆者は足もとの状況が2013年5月頃に酷似してきたことに注目。2013年5月上旬、米10 年金利は1.5%割れが目前に迫るなど米債市場の過熱感が指摘されていたが、4月雇用統計(5月発表)を きっかけに状況が徐々に変化。米金利は上昇を継続し、直近2ヶ月程度の低下を全て吐き出した。その後、 バーナンキ議長(当時)の発言が飛び出し、米債市場は大荒れとなる訳だが、今回も同様の展開が想起さ れる。バーナンキ議長が「今後、数回のFOMCでTaperingを開始する可能性がある」としてQE3の段階的 縮小をあのタイミングで示唆したのは、今後予想される政策変更を早めに予告することで市場のボラティ リティを抑制する意図があったはずだ(実際には上手くいかなかったが)。今回のスケジュールに当ては めると、イエレン議長もそろそろ利上げを示唆する必要があるだろう。6月利上げの基本シナリオが大崩 れしていないのであれば、2月24日の議会証言が利上げを示唆する機会として有力な候補となろう。 その際、市場の反応は2013年当時と同様の展開を見込む。すなわち、米金利上昇、日米株安、USD/JPY下 落の組み合わせだ。USD/JPYは米金利上昇による日米金利差拡大から円安が進むとの見方も多いだろうが、 筆者はリスクオフによってJPYショートポジションが急速に巻き戻される結果、円高が進むと予想。2013年 5月下旬から6月中旬に観測された“リスクオフの円高”が再現されると見込む。中長期的なUSD/JPY上昇 シナリオに変更はないが、短期的なUSD/JPY下落に警戒したい。 (USD/JPY) 104 米10年金利・USD/JPY (%)3 USD/JPY 102 100 2.5 98 96 2 94 92 米10年金利(右) 90 13/03 13/05 13/07 13/09 1.5 13/11 (備考)Thomson Reutersにより作成 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2
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