概論(動脈硬化と認知症・サルコペニア・フレイルとの

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特集:認知症・サルコペニア・フレイルと動脈スティフネスとの関連①
概論(動脈硬化と認知症・サルコペニア・フレイルとの関連)
山田容子(東京大学医学部附属病院老年病科助教)
秋下雅弘(東京大学医学部附属病院老年病科教授)
動脈硬化の進展によって起こる心血管性疾患は、高齢
も当てはまらなければ「健康(頑強)」、1 つか 2 つに当て
者の QOL を下げる代表的な疾患群の 1 つである。動脈硬
はまる場合は「前虚弱」、3 つ以上に該当すると「虚弱」と考
化の進展は認知症の発症とも密接なかかわりをもつ。ま
え る の を 適 切 と し て い る。Fried ら は、Cardiovascular
た、高齢者におけるフレイルの重要な要素としてのサル
Health Study という地域在住高齢者の疫学調査でこの基
コペニアに肥満が合併したサルコペニア肥満は、高齢者
準を用い、健康障害(入院・転倒・生活障害の発生)や死
の主要な肥満形態であるとともに、動脈硬化の進展に伴
亡率が有意に虚弱高齢者で多いことを報告した 1)。
い、心血管性疾患リスクと密接にかかわってくることも
サルコペニアとは
いわれている。
高齢者においては身体機能、臓器予備能、ADL などの
フレイルとは
低下によって虚弱(フレイル)や要介護状態に陥ることが
フレイルとは、frailty の略で、高齢期になり要介護状態
しばしば認められ、その要因として加齢に伴う筋量・筋
に陥る前段階の状態をいう(図 1)
。筋力低下に伴う身体的
力の低下(サルコペニア)が知られている。サルコペニア
脆弱性のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心
とは Rosenberg によって 1989 年に提唱されたもので、ギ
理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を抱える
リシャ語の sarco(肉)と penia(減少)という語を組み合わ
ために早晩要介護となることが予想される状態だが、介
せ た も の で あ る 2)。 サ ル コ ペ ニ ア の 定 義 に つ い て は、
入などによりこれらの脆弱性が回復可能と期待できる状
2010 年に the European Working Group on Sarcopenia
態でもある。フレイルという指標が注目された理由の 1 つ
in Older People(EWGSOP)によるコンセンサスが発表さ
は、年齢とは独立して、健康障害や死亡の予測因子にな
れ、「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけら
るということにある。米国の Fried は、虚弱の特徴として
れる症候群で、身体機能障害、QOL 低下、死のリスクを
現れる徴候は、次の 5 つに集約されることを発表した 1)。
伴うもの」と定められている 3)。同コンセンサスでは、筋
①力が弱くなること、②倦怠感や日常動作がおっくうに
量低下、筋力低下(握力:男性 30 kg 未満,女性 20 kg 未満)
、
なること、③活動性が低下すること、④歩くのが遅くな
身体機能低下(歩行速度 0 .8 m/ 秒以下)から構成される臨
ること、⑤体重が減少すること、である。このうち、1 つ
床的な診断手順が示された。その手順では 65 歳以上の高
図 1 ● フレイル(frail)
の概念
自立/頑健
フレイル
・自立から要介護へと至るさまざまな過程を指す。
・構成要素
①身体的:サルコペニア、ADL 低下
②精神的:認知機能障害、抑うつ
③社会的:独居、経済的困窮
要介護/障害
包括的アプローチが必要
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特集①
図 2 ● エイジングドミノからフレイルを考える
遺伝素因
加齢
炎症
老化要因
加齢適応破綻の第1段階
加齢適応破綻の第2段階
臓器老化
フレイル / 老年病
代謝異常
筋減少
サルコペニア
ホルモン低下
酸化ストレス
Sirt1 低下
テロメア短縮
骨減少
骨粗鬆症
転倒・骨折
老年症候群 / 障害
生活習慣
動脈硬化
脳梗塞
ADL 低下 / 麻痺
A 沈着
β
アルツハイマー病
認知症
寝たきり
齢者を対象として、まず筋量低下が必須条件であり、そ
老年病、老年症候群の間には “ エイジングドミノ ” とでも
れに筋力低下または身体機能低下のどちらかが加われば、
よぶべき階層性が存在することが想定される(図 2)
。
サルコペニアの診断に至る。これに肥満が加わったサル
サルコペニアとフレイルの間には類似点が多く、サル
コペニア肥満では、肥満に伴う活動性の低下に加えて、
コペニアはフレイルの重要かつ中核的な要素とも考えら
動脈硬化の進展も報告されており、心血管死との関連も
れる。こうしたことから、サルコペニアが発症進行した
報告されている 4)。
場合には転倒、歩行速度の低下、活動度の低下、基礎代
謝の低下が生じやすく、フレイルや要介護状態の進行に
エイジングドミノと
認知機能障害・心血管疾患
つながる可能性が高くなる。エイジングドミノの進行に
認知機能障害や心血管疾患の存在は大きな要因となり、
加齢に伴い運動機能、認知機能をはじめとした身体機
これらの病態の基礎には動脈硬化の進展がある。これら
能、生理機能は低下していくことが知られており、食習慣、
の合併は身体・運動機能を低下させるばかりでなく、生
喫煙、飲酒、運動習慣、休養などの生活習慣に起因する
命予後や ADL を規定し、本人や介護者の QOL の低下を招
生活習慣病についても、生活習慣、遺伝的素因、環境因
く場合が少なくない。中年期・前期高齢期における動脈
子などさまざまな要因が相互に作用することが明らかと
硬化の一次予防、二次予防を考慮した包括的アプローチ・
なっている。こうした高齢者における細胞・臓器老化、
対策がいっそう重要になると考えられる。
文献
1)
Fried LP, et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J
Gerontol A Biol Sci Med Sci 2001 ; 56 : M146 -56 .
2)
Rosenberg IH. Epidemiologic and methodologic problems in
determining nutritional status of older persons.(Summary comments).
Am J CIin Nutr 1989 ; 50 : 1231 -3 .
3)
Cruz-Jentoft AJ, Baeyens JP, Bauer JM, et al. Sarcopenia: European
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consensus on definition and diagnosis: Report of the European Working
Group on Sarcopenia in Older People. Age Ageing 2010 ; 39 : 412 -23 .
4) Kato A, et al. Association of abdominal visceral adiposity and thigh
sarcopenia with changes of arteriosclerosis in haemodialysis patients.
Nephrol Dial Transplant 2011 ; 26 : 1967 -76 .