この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 第 14 回 臨床血圧脈波研究会 フィーチャリングセッション 2 - ③ 2 型糖尿病患者において血圧変動は臓器障害のリスクになる 福井道明(京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学准教授) 164 名 )の 背 景 は、 年 齢 65 .8 9 .1 歳、 罹 患 期 間 15 .0 背景 10 .5 年、平均収縮期血圧 132 .2 12 .3 mmHg、収縮期血 2 型糖尿病患者において糖尿病合併症の発症・進展を防 圧の変動係数は 8 .1 4 .0。糖尿病の治療(食事療法、経口 ぐためには血糖管理のみならず血圧管理も非常に重要で 血糖降下薬、インスリン)や降圧薬による治療(カルシウ ある。近年、血圧変動と心血管イベントとの関連につい ム拮抗薬、利尿薬、ACE 阻害薬、ARB、α 遮断薬、β 遮 ての報告が散見されるが、2 型糖尿病患者で評価した研究 断薬)も行われている。この対象について重回帰分析を は少ない。そこで本セッションでは、血圧変動(外来・家 行ったところ、収縮期血圧変動は PWV、logUAE で有意 庭血圧)と臓器障害(脈波伝播速度[pulse wave velocity; な独立規定因子となり、収縮期血圧変動は平均収縮期血 PWV]) 、 尿 中 ア ル ブ ミ ン 排 泄 量(urinary albumin 圧や脂質代謝パラメーターなどとは独立して動脈硬化や excretion;UAE) との関連を報告する。 1) 糖尿病腎症と関連していることが示唆された (表 1、2) 。 続いて、後ろ向きコホート研究を紹介する。症例数は 外来血圧 (横断研究とコホート研究) 354 名(男性 218 名、女性 136 名)で、年齢 65 .5 9 .3 歳、 昨今、心血管イベントや臓器障害のリスクファクター 罹 患 期 間 15 .0 10 .7 年、 平 均 の 収 縮 期 血 圧 は 131 .6 として血圧の変動性が注目されている。1 型糖尿病患者で 12.7mmHg、収縮期血圧の変動係数は8.0 4.0。フォロー は外来血圧の変動が糖尿病腎症の発症に関連するとい ア ッ プ 期 間 は 3 .78 0 .7 年 で、UAE は 1 年 間 で 16 .1 う報告はあるが、2 型糖尿病患者ではそのような報告は少 28 .7 mg/g クレアチニン増加。ベースライン時に正常アル ない。そこで、われわれは当院の外来に通院中の 2 型糖尿 ブミン尿であった腎症 1 期の症例は 218 例、フォローアッ 病患者を対象に検討を行った。なお、外来血圧は HEM- プ期間中に 28 例が腎症 2 期以上のアルブミン尿(UAE 906、家庭血圧はHEM-70801C、PWVはColin Waveform 30 mg/g クレアチニン)に進展した。重回帰分析でみると、 Analyzer(form PWV/ABI)にて測定、血圧変動は変動係 UAE の変化量に対する独立した関連因子は平均収縮期血 数(coefficient of variation;CV)で評価した。担がん症 圧と収縮期血圧変動だった。Cox 回帰分析の結果でも、 例、腎機能が血清クレアチニン 2 mg/dL 以上の症例、血 収縮期血圧の変動係数は正常アルブミン尿症例がアルブ 圧データ採取中に降圧薬を変更した症例、観察期間中に ミン尿に進展する有意な独立危険因子であり、ハザード アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(angiotensin II receptor 比は 1 .143 であった。 blocker;ARB) やアンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme;ACE)阻害薬を開始した症例につい 家庭血圧 ては除外した。 続いて家庭血圧の日差変動を規定する因子は何か、わ はじめに、収縮期血圧の変動係数と UAE をみた横断研 れわれのデータを用いて考察したい。診療時に用いてい 究について報告する。対象者 422 名(男性 258 名、女性 る血圧測定装置は HEM-70801 C で、測定は朝と就寝前 表 1 ● logUAE との相関と重回帰分析(文献 1 より引用) r p β p 平均収縮期血圧 0.218 < 0.0001 0.119 0.0318 収縮期血圧の変動係数 0.210 < 0.0001 0.149 0.0072 ヘモグロビン A1c 0.148 0.0027 0.209 0.0002 尿酸 0.279 < 0.0001 0.224 0.0001 交絡因子:年齢、性別、罹病期間、BMI、平均血圧、血圧の変動係 数、ヘモグロビン A1c、総コレステロール、Log(中性 脂肪)、尿酸、喫煙歴、降圧薬内服、スタチン内服 32 表 2 ● PWV との相関と重回帰分析(文献 1 より引用) r p β p 平均収縮期血圧 0.359 < 0.0001 0.119 0.0318 収縮期血圧の変動係数 0.409 < 0.0001 0.149 0.0072 年齢 0.489 0.0027 0.209 0.0002 交絡因子:年齢、性別、罹病期間、BMI、平均血圧、血圧の変動係 数、ヘモグロビン A1c、総コレステロール、Log(中性 脂肪)、尿酸、喫煙歴、降圧薬内服、スタチン内服 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. フィーチャリングセッション フィーチャリングセッション 2 -2 ③ 表 3 ● 2 型糖尿病患者の家庭血圧における血圧変動に影響を与えた因子(多変量線形回帰分析) (文献 2 より引用) 早朝収縮期血圧の変動係数 β 年齢 性別(男性:1、女性:0) 糖尿病罹病期間 BMI p 眠前収縮期血圧の変動係数 β p 0.149 < 0.001 0.084 0.041 − 0.125 0.010 − 0.163 0.001 0.103 0.005 0.120 0.001 0.367 − 0.002 0.958 − 0.035 早朝/眠前心拍数 0.136 < 0.001 0.046 0.217 log 尿中アルブミン排泄量 0.022 0.614 0.039 0.373 0.387 ヘモグロビン A1c 0.016 0.649 − 0.031 トリグリセリド 0.000 0.993 0.004 0.924 喫煙歴(なし vs. 喫煙歴あり) 0.079 0.064 0.088 0.041 (なし vs. 喫煙継続) 0.118 0.005 0.005 0.911 アルコール(なし vs. つきあい程度) 0.008 0.837 − 0.024 0.526 (なし vs. 毎日) − 0.007 0.873 0.110 0.009 カルシウム拮抗薬(なし:0、あり:1) − 0.094 0.024 − 0.045 0.276 RAS 阻害薬(なし:0、あり:1) 0.064 0.131 0.150 < 0.001 利尿薬(なし:0、あり:1) 0.059 0.106 − 0.064 0.080 にそれぞれ 3 回ずつ、測定期間は血圧計貸与から 2 週間と した。 まとめ 対象者は外来患者 858 名(男性 464 名、女性 394 名)で、 外来血圧(visit-to-visit)の変動は尿中アルブミン排泄 平均年齢 65 .3 9 .8 歳、罹患期間は 12 .3 9 .5 年。73 名 量、あるいは PWV と有意な相関を、家庭血圧 (day-by-day) が顕性腎症 (UAE 300 mg/g クレアチニン)を有していた。 の変動は尿中アルブミン排泄量と有意な相関を認めた。 朝の収縮期血圧変動は顕性腎症群で有意に高値であった。 家庭血圧の変動を規定する因子は心拍数、喫煙、カルシ 重回帰分析では収縮期血圧変動は LogUAE、顕性腎症を ウム拮抗薬の使用、年齢、性別、罹病期間であった。 規定する有意な独立因子であった。このことから、2 型糖 これまでわれわれは断面調査や後ろ向きの解析をして 尿病患者の家庭血圧の血圧変動は、顕性腎症に対し既知 きたが、今後は前向き調査あるいは介入研究でデータの の危険因子に独立して関連があることが示された。 裏付けを取る必要があると考えている。外来・家庭血圧 さらに 1 ,114 名(男性 608 名、女性 506 名)、平均年齢 の変動がどの程度なら心血管イベントや糖尿病腎症に至 66 .0 9 .5 歳、罹患期間は 12 .6 9 .7 年の 2 型糖尿病患者 るリスクとなるか、その臨床の指標となるものや外来や の家庭血圧における血圧変動に影響を与えた因子を調査 家庭血圧の変動を直接あるいは間接的に抑制することに したところ、年齢、性別、糖尿病罹病期間に加え、心拍数、 より臓器障害を予防する方法などについて、解明を進め 喫煙、カルシウム拮抗薬使用の有無であった(表 3)2)。 ていきたい。 文献 1) Okada H, et al. Visit-to-visit variability in systolic blood pressure is correlated with diabetic nephropathy and atherosclerosis in patients with type 2 diabetes. Arthrosclerosis 2012 ; 220 : 155 -9 . 2) Ushigome E, et al. Factors affecting variability in home blood pressure in patients with type 2 diabetes: post hoc analysis of a cross-sectional multicenter study. J Hum Hypertens 2014 Feb6[Epub . ahead of print] 33
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