この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 第 14 回 臨床血圧脈波研究会 ランチョンセミナー 高血圧臨床における血圧変動性 星出 聡(自治医科大学内科学講座・循環器内科部門准教授) このところ、外来血圧(診察室血圧)を用いた血圧変動 性の重要性が相次いで報告されている。だが、その一方で、 血圧変動を考慮する必要性 血圧変動性が心血管リスクにはならないという報告も散 血圧変動性が着目された背景にあるのは、家庭血圧計 見されているように、本領域はいまだ混沌とし、議論の や ABPM の普及である。ABPM で血圧の日内変動を捉え 余地が多いところでもある。本セッションでは、血圧変 る と、 健 常 な 人 な ら 血 圧 は 昼 間 が 高 く 夜 間 は 下 が る 動性について臨床面、研究面から総括していきたい。 血圧変動性とは (dippers)。 一 方、 夜 間 に 血 圧 が 極 端 に 下 が る ケ ー ス (extreme-dippers)、 あ ま り 下 が ら な い ケ ー ス(nondippers)、夜間の血圧が上昇するケース(risers)も存在す 臨床の場において、血圧の変動は日常的に経験するこ る。 わ れ わ れ の 実 施 し た 調 査 で は、risers や extreme- との 1 つである。 dippers のような血圧変動が顕著な集団では、24 時間の この血圧の変動性は短期血圧変動性、中期血圧変動性、 血圧レベルで補正しても脳卒中のリスクが高くなっていた。 長期血圧変動性に分けられる。短期血圧変動性は 24 時間 この日内変動を別の角度から注目したのが図12)である。 血圧計(ambulatory blood pressure monitoring;ABPM) これは Tilt 試験によるもので、臥位から head-up tilting を用いた変化で、血圧日内変動やモーニングサージの評 を行ったところ extreme-dippers 群は起立で血圧が上昇 価をすることができる。中期血圧変動性は day-by-day し、 起 立 性 高 血 圧 の 様 相 を 示 し た。 一 方、dippers と variability として家庭血圧で、長期血圧変動性は visit-to- non-dippers の血圧の状況は変わらず、risers は起立で血 visit variability として外来血圧での評価が可能とされて 圧が下がった。これはわれわれの施設で実施したものだ いる。さらに、外来時の血圧変動性も細かく分類されて が、家庭血圧を用いて起立時の血圧を測ってもらっても、 いる。Rothwell の報告 1)では、複数外来を受診したとき やはり同じ状態を呈していた。 の変動、降圧薬を変えたときに起こる変動などが挙げら では、この起立性高血圧という病態が実際に存在する れているが、こうした変動を臨床現場でどう評価すれば のか。これについて次のような作用機序が考えられてい よいか分かっていない。 る。まず、起立によって下肢への静脈うっ滞が増加し心 また、評価の方法として標準偏差(standard deviation; 拍出量が低下する。通常はそこで血圧は上昇するが、交 SD)や標準偏差を平均の血圧で割った CV(coefficient of 感神経活動の亢進などがあると血中カテコールアミンが variation;SD/mean) 、時間を考慮した血圧変動性の ARV 増加し細動脈が収縮する。この結果、血圧が上がる、と (average real variability)を始め、RSD(residual standard いう仕組みである。2 型糖尿病患者には起立性高血圧が多 deviation) 、VIM(variation independent of mean)など いという報告もあり、また起立性の血圧変動と虚血性脳 が報告されているが、それが果たして本当に血圧変動性 卒中のサブタイプをみた海外スタディでは、起立時に高 を表しているのかは、いまだ明らかになっていない。な 血圧が認められる例ではラクナ梗塞の発症頻度が高まる かには集団が変わったり、治療介入があったりすると変 という報告も出ている 3)。 わるおそれがあるものもあり、血圧の変動を反映してい そこで、われわれは以前、起立性高血圧が交感神経活 る可能性はあるものの、臨床で使う指標としては適して 動の過剰な亢進に関与しているであろうという仮説のもと、 いないものも多い。このように血圧変動については、臨 比較試験(JMS-1 study)を実施した。まず、家庭血圧によ 床よりも研究に重きが置かれている傾向がある。もちろ る起立性血圧変動の状態から、起立性低血圧 (OHYPO) 群、 んそれも有用だが、やはり臨床に応用できる評価法を示 起立性正常血圧(ONT 群)、起立性高血圧(OHT 群)の 3 群 す必要があると考えている。 に分け、さらにそれらをコントロール群と交感神経α 遮断 薬(ドキサゾシン)の投与群に分けて、半年間にわたって 経過観察を行いながら起立時の血圧変化を追った。その 16 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. ランチョンセミナー 図 1 ● 血圧日内変動異常と起立性血圧変動異常(文献 2 より引用) (mmHg) 160 臥位 head-up tilting 開始 150 収縮期血圧 extreme-dippers dipper+non-dippers 140 risers 130 120 0 5 10 15 20 25 30 35(分) 経過 結果、コントロール群ではいずれもベースラインから大 そこで家庭血圧で評価する方法を探るべく、われわれ きな変化をきたすことはなかったが、交感神経 α 遮断薬 は 家 庭 血 圧 を ベ ー ス に し た 追 跡 研 究 Japan Morning の投与群では、起立性高血圧の群で血圧の上昇が抑制さ Surge Home BP(J-HOP)Study を実施している。現在、 れ、起立性低血圧においてはあまり低下がみられなかっ 日本全国からリスクの高い患者 4 ,310 人について調査を た。また本試験では、ベースラインと半年後の 2 回、高血 開始しており、時期をみて報告する場をもちたいと思う。 圧性臓器障害の指標となる尿中アルブミンを測定し、起 次に、モーニングサージへの対処について述べる。モー 立性血圧変動低下度との関連をみたところ有意差をもっ ニングサージを抑える方法の 1 つに交感神経の抑制があ 4) て関与を示していた (図 2) 。 る。われわれは過去に、朝に過剰に亢進する交感神経を さらに起立性高血圧と起立性低血圧、起立性正常血圧 抑えることが早朝の血圧レベルの低下にどれくらい寄与 の各群について、ABPM で評価したプロファイルをみる するかをみる臨床研究を実施した。家庭血圧で早朝の血 と、睡眠時と覚醒時の血圧においては 3 群で差はなかった 圧レベルが高い被験者を、コントロール群と交感神経遮 が、早朝の血圧では起立性高血圧の群で有意に血圧レベ 断薬の就寝前投与群に分けて観察したところ、投与群で ルが高いことが明らかになった。 早朝血圧が低下し臓器障害においても抑制効果がみられ モーニングサージへの対応 2014 年 4 月に改定された高血圧診療ガイドライン 2014 (JSH2014)では、家庭血圧計が普及している背景を踏ま え、まずは外来血圧(診察室血圧)で評価し、次に家庭血 た(図 3)5)。この結果から、朝の血圧が高い患者に就寝前 に交感神経遮断薬を投与するのは、1 つの方法として有用 であると考えている。 日間変動性と心血管死亡率 圧で白衣高血圧や仮面高血圧をスクリーニングし、その 続いて、日間変動性についての意味を考えてみたい。 うえで必要な患者に ABPM を行うという診断手順が明記 コホート研究の大迫研究では、日間変動性において家 されている。しかしながら、ABPM の重要性は理解され 庭血圧の変動が大きいほど心血管死亡率が高いことが示 てはいるものの、専用の測定装置がなかったり患者の同 されている。では、この日間変動性を小さくする治療に 意が得られなかったりして、臨床の場で普及させるには はどういうものがあるか。われわれのグループにいる ハードルが高い。ガイドラインでは、起床時と就寝時の Matsui6)の臨床研究を紹介する。この研究ではアンジオテ 血圧を測定するようになっているが、起立性高血圧との ンシンⅡ受容体拮抗薬(angiotensin Ⅱ receptor blocker; 関連深いモーニングサージは ABPM で評価するしかなく、 ARB)のオルメサルタンの投与で血圧コントロールが不良 早朝と就寝時の血圧の差をもってモーニングサージを特 だ っ た 患 者 を、 カ ル シ ウ ム 拮 抗 薬(calcium channel 定するデータは今のところない。 blocker;CCB)のアゼルニジピンを追加投与した群と利 17 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 図 2 ● 家庭血圧で評価した起立性血圧変動の推移と臓器障害への影響(JMS-1 study) (文献 4 より引用) コントロール群(n=302) (mmHg) 15 * 起立時血圧変化 10 * ** 5 起立性低血圧(OHYPO)群 起立性正常血圧(ONT)群 *** 起立性高血圧(OHT)群 *** 0 −5 ** −10 *** −15 * −20 −25 0 1 3 4 2 フォローアップ 5 6 (カ月) 起立時収縮期血圧変動低下度 坐位収縮期血圧低下度 α 遮断薬投与 0 カ月坐位収縮期血圧 ドキサゾシン治療群(n=303) (mmHg) 15 起立時血圧変化 10 β 係数 0.13 0.35 − 0.14 0.16 p値 < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 *** 5 *** 0 *** *** *** *** −5 * −10 ** ** *** *** −15 *** −20 −25 尿中アルブミン排泄の低下度に対する 家庭血圧で評価した起立性血圧変動の低下度 0 1 * 3 4 2 フォローアップ 5 6 (カ月) p 値については、各群での 0 カ月時と各月の t 検定の値を示す。 * p<0.05、**p<0.005、***p<0.001 尿薬を追加投与した群に分けて、半年間フォローした。 神経の活性があることは広く知られている事実である。 サブ解析として家庭血圧における血圧変動でみたところ、 交感神経の亢進の程度を測定するのは難しいが、ノロエ 朝と夜の平均血圧では降圧結果に差はみられなかったが、 ピネフリンレベルや筋交感神経で評価をすると、やはり 日間変動性は ARB + CCB のほうが抑制されていた。この 高血圧患者は交感神経の活性が亢進している。extreme- ことから、日間変動性を考慮するのであれば、ARB と dippers や risers のような日内変動異常、モーニングサー CCB の併用が有用であるという可能性が示唆された。 ジ、日間変動、起立性高血圧はいずれも、交感神経の亢 日間変動性と起立性高血圧 18 進が顕著になったときの表現系として出てくるのではな いか。われわれは目下、そのような仮説を立て研究を進 最後に、日間変動性と起立性高血圧の関連を考察する。 めている最中である。 JMS-1 study で実施した家庭血圧の日間変動性と起立性 血圧において交感神経がここまで注目されるように 高血圧の関係をみた。起立性高血圧については定義がな なった背景にあるのは、腎デナベーションであろう。腎 いため、家庭血圧の血圧変動から起立時に血圧の上昇が 動脈の周りには交感神経がらせん状に走り、これが治療 認められたケースを起立性高血圧とした。起立性低血圧 抵抗性の高血圧に関与しているといわれている。腎デナ (OHYPO)群、起立性正常血圧(ONT)群、起立性高血圧 ベーションではこの交感神経を焼灼することで、血圧を (OHT)群に分け日間変動をみたところ、朝の起立性の血 コントロールするが、最近の RCT では腎デナベーション 圧変動が正常な群に比べて、上昇あるいは低下している の有効性について、プライマリエンドポイントである外 群では関連性が有意差をもって認められた。一方、夜も 来血圧では有意差がなかったという結果が報告されてい 朝と同じような傾向はあったものの、有意差は認められ る。これには患者選択などの問題が指摘されているが、 なかった。 治療抵抗性高血圧は外来血圧に加え家庭血圧や ABPM で 起立性高血圧に交感神経の亢進が関与していることは、 も評価すべきであり、交感神経の亢進が関連している血 すでにお伝えしたとおりだが、元来、高血圧患者は交感 圧変動が大きいケースでは腎デナベーションが有効であ この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. ランチョンセミナー 図 3 ● 交感神経抑制と早朝血圧レベル低下(JMS-1 study) (文献 5 より引用) (mmHg) 155 p<0.01 p=0.001 p<0.001 p<0.001 p<0.001 p<0.001 早朝血圧 150 145 収縮期血圧の差 8.9mmHg p<0.001 140 135 130 0 カ月 1 カ月 (mmHg) 眠前血圧 2 カ月 3 カ月 4 カ月 5 カ月 6 カ月 p<0.05 p=0.002 p=0.001 p<0.001 p<0.001 140 収縮期血圧の差 4.8mmHg p<0.001 135 130 4.1mmHg 0 カ月 1 カ月 投与群に投与した ドキサ 薬剤 ゾシン 1mg 2 カ月 3 カ月 4 カ月 5 カ月 6 カ月 β 遮断薬 ドキサ ゾシン 2mg ドキサ ゾシン 4mg コントロール群(change in UAE:0.0mg/ クレアチニン) 投与群(change in UAE:−3.4mg/ クレアチニン) る可能性が高い。 ついてはまだまだ研究、議論の余地を残すところである。 いずれにしても冒頭で述べたように、血圧の変動性に さらなる知見の集積を図っていきたい。 文献 1) Rothwell PM, et al. Effects of beta blockers and calcium-channel blockers on within-individual variability in blood pressure and risk of stroke. Lancet Neurol 2010 ; 9 : 469 -80 . 2) Kario K, et al. Relationship between extreme dippers and orthostatic hypertension in elderly hypertensive patients. Hypertension 1998 ; 31 : 77 -82 . 3) Fessel J, et al. Orthostatic hypertension: when pressor reflexes overcompensate. Nat Clin Pract Nephrol 2006 ; 2 : 424 -31 . 4) Hoshide S, et al. Orthostatic hypertension: home blood pressure monitoring for detection and assessment of treatment with doxazosin. Hypertens Res 2012 ; 35 : 100 -6 . 5) Kario K, et al. An alpha-adrenergic blocker titrated by self-measured blood pressure recordings lowered blood pressure and microalbuminuria in patients with morning hypertension: the Japan Morning Surge-1 Study. J Hypertens 2008 ; 26 : 1257 -65 . 6) Matsui Y, et al. Combined effect of angiotensin II receptor blocker and either a calcium channel blocker or diuretic on day-by-day variability of home blood pressure: the Japan Combined Treatment With Olmesartan and a Calcium-Channel Blocker Versus Olmesartan and Diuretics Randomized Efficacy Study. Hypertension 2012 ; 59 : 1132 -8 . 19
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