Omron HEM-9000AIで評価した一般日本人における

この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら
Click "Arterial Stiffness" web site for more articles.
英文原著論文紹介 ②高血圧
Distribution of central blood pressure values estimated by Omron
HEM-9000AI in the Japanese general population.
Takase H, Dohi Y, Kimura G.
Hypertens Res 2013; 36: 50-7. PMID: 22895062
Omron HEM-9000 AI で評価した一般日本人における
中心収縮期血圧の分布
髙瀨浩之(JA 静岡厚生連遠州病院内科診療部長)
土肥靖明/木村玄次郎
における中心収縮期血圧値を年代別・血圧カテゴリー別
背景と目的
に 算 出 し た。 血 圧 カ テ ゴ リ ー は 上 腕 血 圧 を 用 い て
最近の臨床研究により、中心血圧は上腕血圧と比べ心
JSH2009 ガイドラインに従った。糖尿病は空腹時血糖
血管イベントや臓器障害とより密接に関連することが明
126 mg/dL 以 上 ま た は 抗 糖 尿 病 薬 服 用、 脂 質 異 常 症 は
らかとなった。従って、中心血圧を使用した高血圧管理
LDL- コレステロール 140 mg/dL 以上、HDL- コレステロー
が望まれるところであるが、基準値を定めるための研究
ル 40 mg/dL 未満、中性脂肪 150 mg/dL 以上または抗脂質
がないことが障害となり、いまだ中心血圧の日常臨床への
異常症薬服用と定義した。
応用には至っていない。近年、わが国では中心収縮期血
結果
圧値を非侵襲的に推定できる自動装置(HEM-9000 AI;オ
ムロンヘルスケア)が開発された。本研究では、この装置
A、B、C 群の平均年齢はそれぞれ 52 .0 12 .1、51 .9
を用いて一般住民の中心収縮期血圧値の分布を検討した。
12 .5、49 .3 12 .0 歳で、C 群が最も若年であった。各群
とも年代が進むに従って上腕収縮期血圧は高値となって
対象と方法
いたが、A、B 群に比べ C 群で上腕収縮期血圧値や加齢に
2009 年 1 月∼ 2011 年 9 月の期間中に遠州病院の人間
よる血圧上昇が少なかった(表 1)。中心収縮期血圧は年齢
ドックを受診し、明らかな心疾患を有しない対象者、連
と強く相関し、年齢の中心血圧に対する影響は心血管危
続 10 ,756 名(男性:6 ,574 名)を登録した。中心収縮期血
険因子を有しない C 群において最も小さかった。また、
圧は、HEM-9000 AI を用いてトノメトリー法で得られた
中心収縮期血圧は上腕収縮期血圧とよく相関しており、
橈骨動脈圧波形と上腕動脈収縮期血圧値から推定した。
血圧カテゴリーの進行(悪化)に伴い、中心収縮期血圧は
全対象者から糖尿病、脂質異常症、高血圧症のいずれか
どの群においても上昇した(表 2)。各群で中心収縮期血圧
に対する内服治療を受けている対象者(3 ,408 名)を除い
を比較すると、至適血圧者と正常血圧者でなる C 群で最
た 7 ,348 名(A 群)
、さらに糖尿病、脂質異常症、現行喫
も低値であった。心血管病危険因子をもたない至適血圧
煙者を除いた 3 ,760 名(B 群)
、そのうち血圧カテゴリーが
者の中心収縮期血圧は 112 .6 19 .2 mmHg(mean 2 SD、
至適血圧および正常血圧の 2 ,672 名
(C 群)を抽出し、各群
n =1 ,975)
、正常血圧者は129 .2 14 .9 mmHg(n = 697)
表 1 ● A ∼ C 群の各年代における中心収縮期血圧と上腕収縮期血圧の分布
Trend across age decades, p < 0 .0001(ANOVA)
* p < 0 .01 vs. 20 ∼ 29 歳、#p < 0 .01 vs. 30 ∼ 39 歳、† p < 0 .01 vs. 40 ∼ 49 歳、‡ p < 0 .01 vs. 50 ∼ 59 歳、§p < 0 .01 vs. 60 ∼ 69 歳
(Scheffe s F-test)
中心収縮期血圧(mmHg, mean ± 2 SD)
A群
(n = 7 ,348)
C群
(n = 2 ,672)
上腕収縮期血圧(mmHg, mean ± SD)
A群
(n = 7 ,348)
B群
(n = 3 ,760)
C群
(n = 2 ,672)
20 ∼ 29 歳 109 .6 ± 27 .0
108 .9 ± 25 .2
107 .5 ± 22 .2
111.1±13 .2
110 .0 ±12 .5
107 .5 ± 9 .9
30 ∼ 39 歳 115 .9 ± 28 .6 *
112 .7 ± 26 .8
109 .9 ± 21.6
113 .9 ±13 .8
110 .0 ±12 .8
107 .3 ±10 .1
40 ∼ 49 歳 122 .8 ± 31.6 *#
120 .3 ± 30 .6 *#
115 .2 ± 20 .8 *#
117 .7 ±14 .8 *#
114 .7 ±14 .2 *#
109 .8 ± 9 .5 #
50 ∼ 59 歳
130 .9 ± 34 .2 *#†
128 .9 ± 32 .8 *#†
120 .8 ± 20 .9 *#†
122 .9 ±16 .1 *#†
120 .8 ±15 .4 *#†
112 .9 ± 9 .5 *#†
60 ∼ 69 歳
135 .3 ± 38 .0 *#†‡
134 .7 ± 37 .4 *#†‡
122 .1± 20 .9 *#†
127 .1±17 .7 *#†‡
126 .5 ±17 .0 *#†‡
114 .5 ± 9 .4 *#†
≧ 70 歳
合計
46
B群
(n = 3 ,760)
139.5±39.0 *#†‡§ 139.3±38.0 *#†‡§ 123 .8 ±19 .1 *#†
131.5 ±17 .9 *#†‡§ 131.0 ±17 .3 *#†‡§ 116 .2 ± 8 .7 *#†‡
127 .8 ± 37 .3
121.6 ±16 .8
125 .8 ± 37 .2
116 .9 ± 23 .2
119 .4 ±16 .6
111.2 ±10 .0
この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら
Click "Arterial Stiffness" web site for more articles.
英文原著論文紹介②
であった。すべての群において、中心収縮期血圧は 30 歳
群では糖尿病、脂質異常症、喫煙者を除外し、あえて高
以上で上腕収縮期血圧よりも高値であったが、20 歳代で
血圧は除外しなかった。しかし、中心血圧は上腕血圧と
は上腕収縮期血圧と同等であった。
独立した予後予測因子である可能性があるため、高血圧
を含め既知の心血管病危険因子をすべて除外した C 群(至
考察
適血圧者と正常血圧者)での検討を追加した。ほぼ正常者
中心収縮期血圧は年齢と上腕収縮期血圧により大きく
である C 群では A、 B 群に比べて中心収縮期血圧が低値で
異なるため、現段階では年齢別・血圧カテゴリー別の基
あり年齢依存性も少ない。従って、中心収縮期血圧の正
準値を用いることが有用であると考えられる。しかし、
常値を議論するうえで、C 群における中心収縮期血圧の分
将来的には、今後の観察研究、介入研究の結果を踏まえ、
布は重要な情報となると考えられる。
より単純な(年齢、上腕血圧により区別しない)基準値が
間接的な中心血圧推定には現在複数の方法が存在する。
実臨床で必要になると考えられる。
結果の解釈にはこれら測定法による中心血圧推定値の違
加齢による中心収縮期血圧の増加は上腕収縮期血圧の
いを考慮する必要がある。また、上腕カフを用いて間接
増加よりも大きい。大動脈スティフネスは年齢依存的に
的に測定された上腕血圧値は、観血的に測定された実際
強まり収縮期血圧の後期成分である反射波を増加させ、
の上腕動脈圧値より低値であることも結果を解釈するう
中心収縮期血圧を増幅する。このため年齢が上腕収縮期
えで重要である。
血圧よりも中心収縮期血圧に強く影響していると考えら
結論
れる。中心収縮期血圧に対する内服薬の影響を除外した A
群と高血圧以外の心血管危険因子である糖尿病、脂質異
今回の結果は各個人のリスク層別化に寄与する。中心
常症、喫煙の影響を除外した B 群では、年齢別または血
血圧基準値の設定は、高血圧の診断および管理における
圧カテゴリー別で解析しても両者の中心収縮期血圧値に
中心血圧の応用の重要な最初のステップであると考えら
大きな相違は認めなかった。
れる。
心血管病危険因子をもたない集団を抽出するために、B
表 2 ● A ∼ C 群の上腕血圧による各血圧カテゴリーにおける中心収縮期血圧と上腕収縮期血圧の分布
Trend across blood pressure categories, p < 0 .0001(ANOVA)
* p < 0 .0001 vs. 至適血圧、#p < 0 .0001 vs. 正常血圧、† p < 0 .0001 vs. 正常高値血圧
(Scheffe s F-test)
中心収縮期血圧(mmHg, mean ± 2 SD)
A群
(n = 7 ,348)
B群
(n = 3 ,760)
C群
(n = 2 ,672)
上腕収縮期血圧(mmHg, mean ± 2 SD)
A群
(n = 7 ,348)
B群
(n = 3 ,760)
C群
(n = 2 ,672)
至適血圧
113 .5 ±18 .6
112 .6 ±19 .2
112 .6 ±19 .2
107 .8 ±15 .4
107 .0 ±15 .8
107 .0 ±15 .8
正常血圧
128 .6 ±14 .6 *
129 .2 ±14 .9 *
129 .2 ±14 .9 *
123 .0 ± 8 .4 *
123 .0 ± 8 .6 *
123 .0 ± 8 .6 *
正常高値血圧
138 .4 ±16 .8 *#
138 .5 ±16 .8 *#
−
132 .0 ±10 .2 *#
131.8 ±10 .0 *#
−
155 .3 ± 27 .9 *#†
155 .5 ± 27 .0 *#†
−
146 .9 ± 23 .8 *#†
146 .4 ± 22 .8 *#†
−
高血圧
47