大林雅義(滋賀県) - 東北大学

かお・ばやし睦さよし
氏名・(本籍)
大林雅義(滋賀県)
学位の'種類
理学博士
学位記番号
理博第457号
学位授与年月日
昭和50年7月2日
学位授与の要件
学位規則第5条第1項該当
研究科専攻
東北大学大学院理学研究科
(博士課程)物理学第二専攻
学位論文題目
論文審査委員
MnPに於けるdeHaas-vanAlphen効果
(主査)
L
教授糟谷忠雄教授厚井義隆
助教授小松原武美
一
懲
窯
一嵩幽
念隅
第1章序論
第2章実験方法
第3章実験及び解析結果
第4章考察
第5章結論
一26一
次
論文内容要醤
亙序論
本研究は多様なspin相を発現するMnPを用いde}ねas-vanAlphen効果(以下dH
vA効果と記す)の実験的研究を行ったものである。まず,高純度単結晶を作製し,常磁性状態
とspinの状態が磁場変化する£all状態でdRvA効果を初めて観測した。常磁性状態のFer-
mi面は磁場変化,しないが,faη状態では磁場変化する結果が得られ他の物質で従来報告され
ているFermi面の振舞いとは異なった現象を含んでいる。
dBvA効果はFermi面の極値断面積とサイク・ト・ン質量が直接観測できるため種々の物
質で研究され,試料内の磁場が格子の周期で変化する強磁性体金属でも観測され,巨視的な磁場,
即ち磁束密度で解析できることが報告されている。又dHvA効果の実験的研究は主にFermi
面の極値断面積が磁場変化しない場合について行われている。
MnPの結晶構造は所謂MnP型でCurie温度を290,5Kと、し,c軸を容易軸とする強磁性体
であるが,47K以下で磁気モーメントがbc面内にあり,波数vectorがa軸に平行な二重
screw構造に遷移する。screw状態は。軸方向の磁場で常磁状状態へ,又b軸方向の磁場で
fan状態を経て常磁性状態へ遷移する。a軸方向の磁場では100猛()e以上の磁場迄screw
状態は保たれる。これらのspin相の遷移に伴い,電気抵抗,磁気抵抗,等の伝導現象に於い
ても変化が観測され,Fevmi面と磁性の密接な相関が報告され,Fermi面の研究対象物とし
て興味ある磁場体である。特にb軸方向の磁場でscbew状態,faIl状態,及び常磁性状態の
spln相を発見し,{all状態のspinの周期は中性子回折の研究により,磁場変化するこ
とが報告され,Fermi面は磁場変化すると考えられる。
本研究ではMnPを用いFermi面が磁場変化する至an状態でのd狂vA効果の実験的研究
を行うため,dHvA効果が観測できる純良単結晶を作製し,まず常磁性状態の極値断面積を求
め,更にfan状態で観測されたdHvA効果の振動現象は,他の物質で従来報告されている振
動曲線とは異なった新規な現象を含んでおり,dHvA効果の解析及びFermi面について新た
な知見が得られた。
五実験方法
本研究の如く,高純度で格子欠陥や歪み等の少ない純良単結晶を必要とする測定ではBridg一
一27一
man法及びZone胚elting法で作製した単結晶は不適当であったので,気相成長
法により純良単結晶の作製を行った。測定に使用した試料の大きさは直径0.97仰の球形試料で
ある。
測定は磁場変調法で行われた。これは大きな静磁場に小さな変調磁場を重畳し,感知コイルに
生ずるd螺/dtに比例した振動起電力を測定し,績HvA効果を感度良く測定する方法である。
ここで鍛は試料の磁化であり,Mが飽和してない∫an状態で,試料内部の変調磁場が異常に増
大することが考えられるが,変調磁場のenhancementfactorは小さく従来の振動起電
力の表示を適用できることが示された。
用いた試料は小さく,感知コイルの感度を上げるため種々のボビンが製作,検定された。最良
のボビンとして,感知コイルと補償コイルを同心形にして設計製作したボビンが主に便用された。
m実験及び解析結果
。軸方向の磁場では,screw状態はユ.1Kで約3k〔)eで常磁性状態へ遷移する。d琶vA
効果による信号はscrew状態では観測されなかったが,常磁性状態では約50kOe以上二で観
測された。振動の極値の番号nとそれに対応する磁束密度の逆数露『tは広い磁場範囲で直線的に
なり,その傾きから極値断面積は3.23×10-1a、L1,であった。
b軸方向の磁場では常磁性状態で2っの接近したd}豊vA周波数から成る振動が観測され,そ
の平均的な極値断面積は9.05×io-3a.u.であった。
b軸方向の磁場のfan状態では2つの型の振動が観測された。1つの型は4.2Kでも現われ
振動の周期の磁場依存性は磁場の増加と共に減少し,従来観測されているdHvA効果による振
動とは異なった磁場依存性を示し.サ/rク・ト・ソ質量比はO.04∼0.08であった。この振動
を異常振動と呼ぶ。他の型は温度の降下に伴い振幅は急激に増大し,サイク・ト・ア質量比は0.19
であった。この振動を正常振動と呼ぶ。サイク・ト・γ質量比の違いより正常と異常振動は互い
に異なった極値断面積からのdHvA効果による信号と考えられる。正常振動について振動の極
値の番号n対B-1を図示した結果は1つの直線で表わすことができず,極値断面積は磁場変化す
ると考えられる。この解析は考察で述べている。
麗考察
。軸とb軸方向の磁場での常磁性状態では第1表に示される結果が得られた。極値断面積は磁
場変化しないと考えられる。
一28一
第1.表。軸及びb軸磁場の常磁性状態の測定結果
磁場方向極値断面積(a.u.)1)半径(a.u.)MnP逆格子vectorの1/2との割合
。軸3.23×10鞘2LO1×10『1三;36%a亙・32%b,
b軸9,05×10-32)5.37×10『2互;10%Cエ・19%a,
1)極値断面積を円と仮定して半径を求めた結果
2)2つの接近したdHvA周波数の平均的な値
b軸方向のfan状態で観測された振動は極値断面積が磁場変化する信号と考えられる。磁場
変化する極値断面積のdHvA効果は糟谷により考察された。磁場巾でサイク・ト・ン運動をす
る電子の磁場に垂直な面内での閉軌道の面積は量子化され,波数空間内では磁場に比例する。極
値断面積内の量子化された面積の個数(これはLandau準位の数で振動の量子数と呼ぶ)n・
は,極値断面積が磁場変化しないとき,dHvA周波数Fとその振動の磁束密度Bの比F/B窓n。
で近似的に表わされる。極値断面積が磁場変化するとき,その断面積と量子化された面積の競合
により,dHvA効果の振動は出現したり消失したりする。
第1図第2図
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第3図
第4図
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第1図に示す如くdHvA周波数(極値断面積に比例する)は領域夏(B〉B1)と皿(B〉
B3)で一定値S1及びS3であり,領域羅(B1くB〈B3)で直線的S=(S3-S1)
(B3-B1)一1B十So,So=(S王/B1-S3/B3)(1/B1-1/B3)『,に
変化するモデルで考える。B・とB3での振動の量子数をS主/B1=n。1,S3/B3=n。3,
〉〉
とすると領域且で(no1-no3)個の量子化された面積が変化する。So二〇,でnD1=no3
<〈
(複号同順)となり,Soの正,零,負に対しno対B『1を図示した結果は第2図,第3図,第
4図に示す如くなる。So>0では極値断面積の内部から外側へ量子化された面積は出る状態で
あり,So〈0の場合は逆に内部へ入る状態である。これらの場合はdHvA効果の振動は現わ
れる。So=0のとき,極値断面積と量子化された面積の磁場依存性は比例し,dHvA効果の振
動は生じない。第1図でS・〉S3の場合には,磁場の増加に伴い量子化された面積は,極値断
面積の内側から外側へ常に出る場合のみが生ずる。振動の極値の番号n対B辱1の直線の傾きから
求めた極値断面積は零磁場に外挿した面積になり,磁場変化する極値断面積のその磁場での値は
振動の量子数noを用い解析する必要がある。
正常振動に起因する極値断面積は,常磁性状態のそれに連続的に接続すると仮定し,常磁性状
態での振動の量子数から正常振動の量子数が求められた。その結果,極値断面積は磁揚と共に増
加する結果が得られた。第5図に極値断面積の磁化依存性を示す。この図に示される如く,磁化
の増加に伴い極値断面積は増加する。
異常振動は1つの極値断面積から発現する振動として解析され,その磁場の極値断面積ぱ正確
に求められなかったが,磁場と共に複雑に変化す奇結果が得られた。
極値断面積が磁場変化する場合でも,振動のn対B唱1が直線になる場合がある。極値断面積が
磁場変化しないことを確かめない限り,n対B『1の直線の傾きから求めた断面積の値は、その磁
一30一
場に対する正しい値でないことか提唱された。
V結論
本研究に於て,二元化合物磁性体MnPによるdHvA効果が研究され以下に述べる結論が得
られたo
l.MnPの高純度単結晶の作製に成功し,dHvA効果の観測が初めて行われ,Fermi面の
極値断面積が決定された。
2.常磁性状態の樺値断面積は第1表に示す如き結果が得られ,c軸方向の磁場の極値断面積は,
b軸方向の磁場のそれより3.5倍大きい。
3.b軸方向の磁場で発現するfan状態で,2つの型の振動が観測され,正常振動については,
極値断面積は磁場変化し磁化の増加に伴い増加する。又サイク・卜・ソ質量比は0.19であっ
た。
異常振動についても,1つの極値断面積からのdHvA効果による振動として解析され,極
値断面積は複雑な磁場変化する結果が得られた。
第5図
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論文審査の結果の要旨
deHaasvanAlphen効果はFermi面を研究する有効な手段の一つで,Fermi面
の極値断面積とサイク・ト・ン質量が求められるため,古くから非磁性体について盛んに研究さ
れている。一方,磁性体では単体金属で研究されているのみで,化合物磁性体による研究は報告さ
れてない。その理由はdeHaasvanAIphen効果が観測される程純良な単純晶の育成が
困難な点にあった。叉,従来の研究は外磁場中でFermi面が変化しない対象物について行われ,
変化する場合の研究は行われていない。
本研究では・外磁場中で多様なspin相を発現するMnPを用い,deHaasvanAlphen
効果を実験的に研究し,化合物磁性体のFermi面の観測に初めて成功した・又,Fermi面が
外磁場中で変化する場合のdeHaasvanAlphen効果に新しい解析法を提唱し,化合物
磁性体に於けるFermi面の研究に先駆的指針を与えた。
本論文では,まず,deHaasvanAlphen効果の観測可能な気相成長法による単結晶
育成法と磁性体に於ける測定法と解析法の問題点の解明が述べられた。次に,deHaasvan
Aiphen効果の振動現象を磁場変調法により・実験的に研究された。常磁性状態で観測された
振動曲線が従来の解析法で取扱われ,Fermi面の極値断面積が決定された。一方,fan状態
で観測された振動曲線は複雑な振舞いを示し,その温度及び磁場依存性から,正常振動と異常振
動とに分離され,2つの異ったFermi面が観測された。fan状態では外磁場と共にFermi
面が変化するが,そのとき観測されるdeHaasvanAlphen効果による振動曲線の解析
法が本論文で初めて提唱された。
deHaasvanAlphen効果による磁化の振動はLandau準位がFermi準位に交叉
するとき観測される現象で,振動の周波数からFermi面の極値断面積が決定される。しかし,
Fermi面が磁場中で変化する場合に観測される振動曲線の周波数はLandau準位とFemi準位
の相滞的な関係によって発現することが示され,Landau準位の絶対番号を用いてのみFermi
面の極値断面積が正確に決定されることを示した。
上述の考察に基づき,常磁性状態の測定結果からLandau準位の絶対番号が決定され,それを基準にし
てfan状態の正常振動のLandau準位の番号が決定され,外磁場中でFermi面が磁化と共に単調に増
大する結果を得た。一方,異常振動を発現するFemi面は外磁場中で複雑な振舞いを示す結果となった。
以上の如く,本論文により,化合物磁性体で初めてMnPによりdeHaasvanAlphen効果
の振動現象が観測され,これにより,化合物磁性体のFemli面の研究に先駆的指針を与え,更に,
deHaasvanAlphen効果による振動・曲線の解析法の一般解を示したものとして高く評価
されるべきものである。
よって,大林雅義提出の論文は理学博土の学位論文として合格と認める。
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