日生殖医会誌53巻4号 144(268) 16 精液所見からみた男性不妊症治療の効果についての検討 ○近藤 宣幸1,島 博基1,堀内 功2,小森 慎二2,香山 浩二2 兵庫医科大学泌尿器科1,兵庫医科大学産科婦人科2 【目的】男性不妊症外来において精液検査は基本であり,特に治療効果の判定に有用である.今回,代表的な男性不妊症治 療法の治療効果を患者の精液所見から比較検討した.【方法】1999年7月開設以来,2008年5月までの当科の男性不妊専門 外来を挙児希望で初診した患者は342例であった.このうち,無精子症および沈渣が必要な高度乏精子症,運動率0%の精 子無力症を除いた患者の治療法をA群:非内分泌薬物,B群:内分泌薬物(hCG−hMGあるいはクロミッド療法),C群: 精索静脈瘤手術,に分類し,初診時と各治療後の射精あたりの総運動精子数(濃度×運動率×精液量)の最高値を比較した. 【結果】各群の独立した効果判定のためにA,B群の同時併用例や有効な直前治療への追加例を除くと,95例(25∼49歳, 平均346歳)に対する計132治療回数(A群61回,B群39回,C群32回)を集計し得た.全体の初診時総運動精子数は, 42.1±527(×106)(mean±SD)であった.A,B,C群の治療前の総運動精子数は,各々,482±5&6,477±73β,334±34.1, 治療後は,552±43.0,653±6α9,677±522(×106)であり,いずれの群も初診時より有意に上昇し,特にC群において 顕著(p<0.0001)であったが,治療後の各群間に有意差は認めなかった.A,B,C群の治療後の総運動精子数の増加は, 各々,346±3α8,472±41.3,43.6±34.9(x106)であったが,各群問に有意差は認めなかった.【結論】精液所見に基づく 治療効果判定においては,各治療法が有意な総運動精子数の改善をもたらすことが確認された.しかし各治療法の改善度に は有意差は認めなかった.ART時代の男性不妊症においても,精液所見の向上を求めて適切な治療をする意義が再確認さ れた. 17 停留精巣患者におけるMD−TESEの検討 ○岡田 弘1,寺井 一隆1,佐藤 両1,芦沢 好夫1,八木 宏1,狩野 宗英1,新井 学1,吉田 淳2, 辰巳 賢一3,塩谷 雅英4,越田 光伸5,志馬 裕明5,丸山 修6 濁協医科大学越谷病院泌尿器科1,木場公園クリニック2,梅ヶ丘産婦人科3,英ウィメンズクリニック4,越田クリニック5, 社会保険蒲田総合病院泌尿器科6 【目的】思春期以降の停留精巣患者精巣からの精子回収の可否を検討する【対象】(A群)両側停留精巣患者5例,(B群)片 側萎縮精巣で片側停留精巣患者3例,(C群)外科的単精巣の停留精巣患者2例.全て3回以上の精液検査で無精子であっ た.年齢27歳から37歳(中央値3α5歳).【方法】患者背景を調査した上で,精巣固定時に停留精巣に対して,顕微鏡下精 巣精子採取術(microdissection TESE;MD−TESE)を行った.精子回収可能であれば,これを凍結保存してICSIに用いた. 精子回収できなかった場合は,精巣固定してから1年以上経った時点で,再度MD−TESEを行った.【結果】精巣固定時の MD−TESEでA群の1例(外ソケイ輪部),B群の1例(外ソケイ輪部)で精子回収可能であった.精巣固定後1年以上経 過した時点での,再MD−TESEでは,A群の2例(外ソケイ輪部1例:ソケイ管内1例),B群の1例(ソケイ管内),C群 の1例(外ソケイ輪部)で精子回収可能であった.【考察】外ソケイ輪部の停留精巣では,精巣固定した精巣組織中に精子 形成部位が残存している症例があり,MD−TESEで精子回収可能であった.初回のMD−TESEで精子回収が出来なかった 場合でも,精巣固定して1年後以上経過すると,精子形成が回復する例が存在した.思春期以降の停留精巣患者では,無精 子症の場合は精巣固定時にMD−TESEを行い,精子回収が不能であっても,精巣固定後一定期聞後に再度MD−TESEを行 う事が有用である. 18 閉塞性無精子症を疑わせる非閉塞性無精子症に対するMD−TESEの検討 ○辻村 晃1,山本 圭介1,福原慎一郎1,平井 利明1,植田 知博1,中山 治郎L,木内 寛1,高尾 徹也1, 宮川 康1,山中 幹基2,高田 晋吾3,奥山 明彦1 大阪大学医学部泌尿器科1,健保連大阪中央病院泌尿器科2,大阪警察病院泌尿器科3 近年,非閉塞性無精子症(non−obstructive azoospermia:NOA)に対する治療として,その精子採取率の高さから顕微鏡下 精巣内精子採取術(microdissection testicular spem extraction:MD−TESE)TESE(MD−TESE)が注目されている.NOA に対するMD−TESEの精子採取率は精巣組織の障害程度により異なるものの,我々の成績同様,概ね40−60%程度とされ, 同時に閉塞性無精子症(obstructive azoospemia:OA)に対するTESEの精子採取率は100%と考えられている.一般に 術前でのNOAとOAの判別は,精巣容量や内分泌学的所見,特に血中FSH値によりなされることが多い.今回,我々は OAを思わせる特徴を有する症例に対するMD−TESEにつき,検討を加えた.対象は当科でMD−TESEを施行したNOA 患者のうち,少なくともどちらか一方の精巣容量が13m1以上であった57例.精子採取が可能であった症例は34例で,精 子採取率は5%%であった.さらに,この57例のうち血中FSH値も正常範囲内であった症例は22例(3&6%)認められ た.これら22例のうち,精子採取が可能であった症例は16例(727%)であった.したがって,精巣容量,血中FSH値か らOAを疑わせた症例のうち,MD−TESEにより精子が採取できなかった症例は6例(273%)認められた.6例の平均年 齢は31.8歳で,血中テストステロン値も1例を除き正常範囲内であった.組織学的には4例がSertoli cell only syndrome であり,残り2例がmaturation arrestであった.1例はOAとして他院でTESEを施行されるも精子が採取できなかった 既往を有していた.これらの症例につき,検討を加える予定である.
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