第48回日本理学療法学術大会(名古屋) P-A基礎-139 自在曲線定規を用いた胸椎可動性および胸腰椎アライメント計測の妥当性 仲澤 一也 1), 石川 大輔 1), 鴇田 拓也 1), 小熊 大士 2) 1) 札幌円山整形外科病院 リハビリテーション科 , 2) 札幌円山整形外科病院 整形外科 key words 自在曲線定規・妥当性・胸椎アライメント 【目的】 近年、高齢者の脊柱後彎変形や可動性低下と QOL との関連が報告されており、簡便な脊柱アライメントや可動性の定量的評 価法が求められている。これまでに脊柱のアライメントや可動性を評価する手法として、X 線画像、デジタルカメラ、スパイ ナルマウス、および自在曲線定規などを用いた計測が報告されており、X 線画像と比較することにより妥当性が求められて いる。自在曲線定規は一般に安価であり、臨床で簡便に用いる事ができる計測法であるが、その妥当性に関する報告は特に胸 椎について少ない。 本研究の目的は、胸椎および腰椎のアライメントおよび胸椎可動性を、「自在曲線定規を用いて計測する方法」と「X 線画像 から求める方法」で比較することにより、自在曲線定規を用いた計測法の妥当性を検討すること、である。 【方法】 対象は、健常成人男性 15 名であり、年齢 23 〜 46 歳(中央値 33 歳)、平均身長 173.1cm(160 〜 180cm)、平均体重 73.3kg(58 〜 93kg)であった。 計測姿勢は、胸椎の中間位・屈曲位・伸展位の 3 姿勢とし、いずれも矢状面上で耳孔と大転子が同一垂線上となる様に規定した。 自在曲線定規を用いた計測では、市販の 60cm 長のものを用いた。予め 2 名の検者による触診にて C7 および Th12 棘突起さ らに L5-S1 間をマーキングした。その後、C7 〜 Th12 棘突起〜 L5/S1 間の脊柱カーブおよび各ランドマーク位置を方眼紙に トレースし、Milne らの方法を一部改変し C7 〜 Th12 棘突起間より胸椎後彎角を求めθ a1 とし、Th12 〜 L5/S1 間より腰椎 前彎角を求めθ a2 とした。 X 線計測では、スロットラジオグラフィーにて矢状面全脊椎撮影を行い、デジタル画像処理ソフト上で C7 椎体下面と Th12 椎体下面の延長線のなす角よりθ b1 を求め、Th12 椎体下面と L5 椎体下面の延長線よりθ b2 を求めた。 さらに、それぞれの計測法における胸椎の屈曲位と伸展位の差から胸椎屈曲伸展可動域θ a3 およびθ b3 を求めた。 胸椎後彎角の角度算出は、自在曲線定規および X 線において、それぞれ別の同一検者が行った。また、X 線画像撮影は放射線 技師 1 名が行った。 統計処理として、胸椎中間・屈曲・伸展の各姿勢における胸椎後彎角θ a1 とθ b1 の間、中間位における腰椎前彎角θ a2 お よびθ b2 の間、および胸椎屈曲伸展可動域θ a3 とθ b3 の間において、それぞれ Pearson の積率相関係数を求めた。有意水 準は 5% 未満とした。 【説明と同意】 本研究の実施には、札幌円山整形外科病院倫理委員会の了承を得た。また、ヘルシンキ宣言に則り作成した説明書および同意 書を用いて、事前に対象者へ目的や進行、結果の取り扱いなどについて十分説明を行い、同意が得られた者のみを対象とした。 【結果】 胸椎後彎角に関して、胸椎の中間位、屈曲位、伸展位におけるθ a1 とθ b1 の相関係数 r は、それぞれ 0.73、0.59、0.80 であった。 腰椎前彎角θ a2 とθ b2 では相関係数 r が 0.56、胸椎の屈曲伸展可動域θ a3 とθ b3 では 0.68 であった。いずれも有意な相関 が認められた。 【考察】 本研究結果より、胸椎後彎角の計測において、自在曲線定規と X 線像による計測の間に moderate から substantial な相関が認 められ、自在曲線定規による胸椎後彎角計測の妥当性が示されたと考える。 過去の研究として、de Oliveira ら(2012)は我々同様に胸椎および腰椎の自然立位における後彎角および前彎角を X 線画像 と自在曲線定規にて評価し、相関係数が胸椎 0.72、腰椎 0.60 であったと報告しており、我々の結果と同等であった。一方、 Bryan ら(1989)は腰椎前彎角について同様の比較を行い、相関係数が 0.30 と低い値であったと報告している。これは、胸椎 の方が体表から後彎角を計測しやすい部位である可能性や、今回の調査で 2 名により触診したため、ランドマークがより正 確であったこと、姿勢を大転子と耳孔を基準に規定した事などが理由であると考えられる。 また、今回規定した方法で計測した胸椎の屈曲伸展可動域においても 0.68 という相関係数が得られ、胸椎可動性においても 有効な評価法となり得ることが示唆された。しかし、胸椎屈曲位での相関はやや低く、屈曲位の測定姿勢も含め、更に臨床的 に簡便かつ妥当性の高い計測方法へ調整することが望まれる。 【理学療法学研究としての意義】 自在曲線定規を用いることで、簡便に胸腰椎アライメントや胸椎可動性の評価が妥当性を持って行え、X 線画像による評価 が難しい場面での脊柱アライメントの評価ツールとして有用であると考えられる。
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