脊柱側弯変形を伴う大腿骨頚部骨折術後の一症例 ―身体アライメントに

脊柱側弯変形を伴う大腿骨頚部骨折術後の一症例
―身体アライメントに着目して―
外旋筋群を大転子に縫合。
坂本郁子
【理学療法評価
8/26~31】
初期評価時、術創部周囲の柔軟性低下と圧
痛を認めた。中殿筋、大殿筋、外側広筋、大
腿筋膜張筋、腸脛靭帯に圧痛および柔軟性低
~key words~
下を認め、外側広筋、大腿筋膜張筋には収縮
大腿骨頚部骨折、側弯、身体アライメント
時痛、伸張痛も認めた。さらに、左大転子周
【はじめに】
囲に荷重時痛を認めた。
脊柱側弯変形を伴った大腿骨転子間骨折術
関節可動域は、左股関節屈曲 110°伸展-
後患者を担当した。開始当初、患部周囲の疼
10°内転 20°外転 10°外旋 20°であった。
痛と左下肢支持性低下のため、T 杖歩行監視
また、体幹右側屈の可動性は左側屈に比べ低
レベルであった。そこで患部の治療と体幹機
下していた。筋力(以下 MMT)は、左股関節
能に着目してアプローチを行ったところ、歩
屈曲 4、伸展 4、外転 3+、膝関節屈曲 4+、伸
行左立脚時の安定性が向上し、独歩が可能と
展 4+であった。
なったので報告する。
【症例紹介】
脊柱は、胸椎部に右凸、腰椎部に左凸の側
弯を認めた。座位姿勢は、体幹および頭部の
84 歳女性。H21 年6月に左大腿骨転子間骨
左傾斜を認め、座圧が右に変位していた(図
折に対し、観血的骨接合術(HAI-nail)を施行
1)。また、左側への重心移動で体幹の立ち直
し、屋内T杖自立レベルで自宅に退院した。
りが低下していた。この時、左腹斜筋の筋収
しかし、H22 年1月から左股部痛出現。3月
縮が著しく低下していた。
に X-P にてラグスクリューのカットアウトを
立位でも、座位同様の脊柱側弯を認め、右
認めたが、再手術を拒否し経過観察となった。
側に重心が変位していた。荷重量は、安静立
5月には、カットアウトおよび骨頭圧潰の増
位にて右 25kg、左 10kg であった。
悪を認め、さらに両下腿蜂窩織炎を併発して
片脚立位は、上肢支持なしで右は可能であ
いた。両下腿蜂窩織炎の治療を優先し、手術
ったが、左は困難であり、上肢支持を外すと
可能となるまでの約2ヵ月間、左下肢は完全
体幹の右側傾斜及び骨盤右下制を認めた。こ
免荷となった。H22 年7月 21 日左股関節人
の際、左大転子付近に疼痛が生じた。
工骨頭置換術を施行し、8月 25 日に当院転院、
歩行は、T杖監視レベルであった。左立脚
理学療法を開始した。
期に骨盤の左側方移動が少なく、トレンデレ
【手術所見】
ンブルク徴候を示し、体幹と頭部の左側傾斜
人工骨頭置換術:後方アプローチ。大腿筋膜
を認めた。独歩は、左立脚期に左大転子付近
切開。大殿筋を縦切開。梨状筋・大腿方形筋
に疼痛が生じるため、困難であった。
を大転子から切離。関節包縦切部のみ縫合。
【治療と経過】
手術侵襲により柔軟性が低下した術創部周
患部に疼痛があり、左下肢の支持性が乏しく、
囲および外側広筋、大腿筋膜張筋、大殿筋に
T 杖歩行監視レベルであった。疼痛が持続し
対して物理療法と徒手療法を行った。股関節
ていた原因として、2度の手術により軟部組
可動域制限に対して可動域訓練、筋力低下に
織の侵襲が大きかったことが考えられる。左
対して荷重位、非荷重位での筋力強化を行っ
下肢の支持性を向上目的に、疼痛抑制と関節
た。
可動域拡大、筋力強化を行ったが、歩行の安
訓練を開始して 2 週間後、大腿筋膜張筋の
定化には繋がらなかった。そこで、体幹への
圧痛および荷重時痛は残存したが、その他の
アプローチを行い、身体アライメントの修正
圧痛、収縮時痛、伸張痛は改善した。関節可
を試みた。
動域は、左股関節伸展 0°、外転 25°に拡大
一般的に、脊柱変形のある高齢者の身体ア
した。筋力は、左股関節外転が MMT4-と、
ライメント修正は困難であると考えられてい
わずかな向上を認めた。歩行では、左立脚期
る。しかし、本症例は、体幹腹側の柔軟性向
の左重心移動は増加したが、体幹左傾斜が大
上と腹斜筋筋力強化、体幹エロンゲーション
きく、T 杖歩行が以前より不安定となった。
を促しながらの重心移動練習等を行うことで、
さらに歩行時の疼痛は改善しなかった。
座位および立位姿勢の改善を認めた。さらに、
そこで訓練開始2週間後から、身体アライ
歩行左立脚期にみられた頭部および体幹の傾
メントの正中化を目的に、体幹へのアプロー
斜が軽減し、骨盤の左側方移動と体幹の立ち
チを開始した。具体的には、側臥位において
直りがみられ、左立脚期の安定性が向上した。
左体幹側部軟部組織の伸張、左腹斜筋ストレ
とくに、左外転筋力の著しい向上がみられな
ッチ、骨盤下制運動、左腹斜筋の筋力強化を
かったことから、左立脚期に左下肢安定性が
行った。また、座位では骨盤の前傾運動およ
向上したことに関して、体幹機能の改善が大
び左側方リーチによる体幹のエロンゲーショ
きく関与していると考えられる。
ンを行った。立位でも、左リーチ動作による
以上のことから、脊柱変形を伴う大腿骨頚
左体幹部の伸張と左下肢への荷重練習をした。
部骨折患者において、まずは術後早期に患部
その結果、訓練開始3週間後には、体幹の
の筋、軟部組織の柔軟性向上を図ることが必
可動性が治療前に比べやや向上した。座位姿
要だが、それと同時に、身体アライメントを
勢は、体幹、頭部の左側傾斜が軽減し(図 2)
、
含めた体幹機能にも着目し、評価、アプロー
左側への重心移動で体幹の立ち直りを認める
チすることが重要であると考える。
ようになった。左片脚立位は、上肢支持なし
で可能となり、この際疼痛は出現しなかった。
歩行は、左立脚期の骨盤左側方移動が増加し、
トレンデレンブルク徴候および体幹、頭部の
左傾斜が減少した。そして治療開始から6週
間後には、疼痛なく独歩が可能となった。
【考
察】
本症例は、術後約1ヶ月経過していたが、
図1.治療前
図2.治療後