きぐちじん 氏名(本籍) 菊池仁(宮城県) 学位の種類 医学博士 学位記番号 医第642号 学位授与年月日 昭和45年2月20日 学位授一与の要件 学位規則第5条第2項該当 最終学歴 昭和34年3月 福島県立医科大学医学部卒業 学位論文題目 糖尿病患者のアキレス腱反射 (主査) 一215一 教授鳥 飼龍 教授中 村 生隆 論文審査委員教授山形敵一 論文内容要旨 1研究目的 糖尿病にみられる神経障害について,近年,糖尿病自体の病態と関連して理解されようとしてい る。私はそこで糖尿病発症早期に高頻度にみられるアキレス腱反射異常を,アキレス腱反射持続時 { 間を測定することにより定量的に捉え,糖尿病の各病態との関連性Kついて分析した。 亜方法及び対象 lil淀装置はL卿sonの原法による電磁変換機構を応用{.,描記されたアキレス腱反射(AR) 曲線のSD間隔を測定し,アキレス腱反射持続時間(ARD)とした。検査対象は、健常者io7 倒(男67,女58)糖尿病患者501例(男165,女稲6)について実施した。潰lj定時間は 早朝空腹時室温で行なったo H成績及び考按 尭.健常者のARD1)健常者107例の平均ARD250土乙e皿soc(SD)を正常範囲と 定めた。右K対する左のARDの差の平均が男'1.ろ土1.8m6ec(S日),女2.7±2.5mβec (SE)であることから,本研究は右ARDを記録測定した。2)性差は男249土5m8ec,女 257土4m6ec(S田)で女性がやや遅延していたが,有意差はみられなかった。ろ)年令は50 才を境とし5D才以上.のARDは50才以下のもののARDより遅延する傾向がみられたが,有意 差はなかった0 2.糖尿病、患者のARDの糖尿病愚者501例のAR欠如率は52%であった。通常の万法 でAR陰性とされた症例のうら,腱反射測定装遣による記録では,14%が陽性であった。これは 肉眼的匠反射欠如とされたものに10∼i5%は陽性のものが含まれる可能性を示すものである。 2〕空腹時血糖値(FBS)が200mg、/dl以上の群のARDの平均値は5↑2mSeC,AR欠' った。FBSが100mg/dユ以下の群の△RD274皿s臼。,AR欠如率26%であり,FBS の高値のものκAR工)の遅延,AR欠如率の高いことが認められた。5)罹病期間が5年以上にな るとAR欠如率は40%以上と高ぐなり,5年以上の群のARDの遅延を認めた。すなわら糖尿病 の搬病期間が・長くなるにつれてAR欠如率は上昇しARDは遅延する04)糖尿病のコントロール 不良群のARDは505ms臼cAR欠如率56笏であった。これはやや不良群のARD289m8ec κ対して有意であり,良群のARi)2ア6皿8巳。との間Kも有意差がみられた05).インスリン 絵口治療剤など染物療法を行飯っている群のARDは遅延を示し,食事療法群のそれは正常範囲に あっノと。ズフレホニーノレ尿素斉ll泥穿療者のムRDをみると,3勾三以.上才台療をr続けたもの拓こARDの∫屋延 一214一 塾津 如率50%,FBS151∼200mg/d⊥の群ではARD284m6ec,AR欠如率66%であ がみられ,AR・欠如は5年以上治療群に多かった。6)Tri・osorわ溢e6㌻による甲状腺機能と の間には関連性がみられなかった。7)ケトーシスを伴なって発症した若年者糖尿病患者2症例で は,ARDり遅延と運動神経伝導速度(MNev)の低下が,ケトーシスの消失と糖尿病状態の改善 につれて正常化した。これは代謝異常により神経機能障害が現われるが,可逆性であることを示す ものである。8)蛋白尿陽性者のARDは525皿8gc,AR欠如率48%,腎生検で結節型糸球 体硬化症を有するものU例は全例ARは欠如し,びまん型を呈した群のAR欠如率57%,ARD ろ20皿s8c,軽度に糸球体に変化がみられた群では,AR欠如率20%,ARD295m8ecであ 多 った。これに対し腎生検で異常を認めなかった群のARD260m8eC,AR欠如率は14%であ ったoWag臼ngr分i類にしたがった網膜症盈∼V度の群のAR欠如率は75%,ARDはろ20 皿6砲。であ1り,1∼H度の群のAR欠如率40%,ARD290m8ecであった。網膜症を認めない 群のAR欠如率は19%,ARDは269m8臼。であった。したがって血管病変が神経障害の成 因に積極的に関与している因子の一つであることを示唆する成績と考えられ,このような症例の神 経障害の治療は困難であることが予想される。9)常に高脂血症を呈した群のARDは506m日日c AR欠如率52%であ軌血液脂質正常群ではARD275m88c.AR欠如率15%であった。脂 質分割のうら高コレステ自一ル血症,高燐脂質血症を呈するもののARDは正常なものに対して有 意に遅延していた。高脂血症は,直接には神経系の代謝異常として,間接には神経栄養血管硬化症 の成因に関与していることが予想される。10)自覚的になんらの神経症状を有し群のARDは引6 m8臼。,AR欠如率48%,MNCV'50皿/6eeであるのに対し,自覚的神経症状のない群の ARDは261msec,想欠如率は15%.MNeV57m/8ecであった。又ARDが280 m8ecより遅延している群のMNevは55m/8ec,AR欠如者のMNevは52m/sec,ARD が2801n86cより短縮している群のMNeVは57m/s8cであり,各群のMNeV間にはそれぞ れ有意差が認められた。自覚的神経症状と他覚的神経機能異常は平行して認められた。 5.ARD測定の意義①糖尿病患者のアキレス腱に連続して充分な刺激を与えても各刺激'. に対して反射が起らないことがある。この現象は反射の不応期の延長によるものであり,健常者に はみられず,神経障害を有するものにのみみられることから神経障害の早期診断の1助になる。 2)糖尿病患者と健常者に509ブドウ糖負荷試験を行ない,血糖値の上昇に応じてARDが遅延 することを認めた。健常者に果糖509経口投与しても血糖の上昇は軽度であるが,尿性ブドウ酸 の血中濃度が上昇するにつれてARDは著明に遅延した。またインスリン6単位皮注を行なった糖 艶 尿病患者のARDは,注射50分後までは注射前ARDに対し有意に遅延したが,60分後から血 糖の降下と共に短縮し,420分で最も短縮し,180分後まで持続した。この短縮も前借に対し 有意であった。これは血糖値の急激な上昇,或いは低下による代謝の変化によって,神経機能にも 変化が起ることを示すものである。 一'215一 審査結果の警旨 若者は糖尿病発症早期より高頭度にみられるアキレス腱反尉異常を,アキレス腱反射持続時間を 測定することにより定連泊観て捉え,傭尿病の各病態との塵1連性について分析する目'的で.,Law一 鋤nの.原法による電磁変換楼携を応用し,借記されたアキレス腱反射曲線のSD間隔を謝寇し, (男165,女156)について早朝空腹時室温で検査し,、次の精果を得ていろ。 タ アキレス腱反、ゴ寸持続博聞(ARD)とし,健常者107例(男67.女58)糖尿病、曝者301例 すなわち(1}糖尿病患者のアキレス腱に連続して充分な刺激を与えても各刺激に対して反射が起こ らないことがある。この現象は反射の不応期の延長によるものであり健常者にはみられず,神経障 害を有するものにのみみられることから神経障害の早期診断の1助になる。121糖尿病、慰者と健常 者に50gブドウ糖負荷試1換を行ない,血糊≦iの上昇に応じてARDが遅延することを認めた。健 常者に果糖509経口投与してもσ且棚の上昇は軽度であるが・隼性ブドウ設の血中濃度が上昇する につれてARDぱ蓋明に遅延した。またインスリン6単位皮注を行をつた糖尿病患者のARDは注 射50分後までは注射前ARDに対し有意に遅延したが60分後から血糖の降下とともに矩1補し. 120分で最も短縮し,180分後まで持続した。この短縮も醸j値に対し有意であった。これは血 潮直の急激な上昇,或いは低下による代謝の変化によって,神経薩能にも変化が起ることを示すと 主張している。 したがって本論文は学位を授一与するに値するものと認める。 …総 〉 一216一
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