◆ はじめに ◆ みなさん,こんにちは。マセマの馬場 敬之(ばば けいし)です。これまで発 刊した大学物理学『キャンパス・ゼミ』シリーズは多くの方々にご愛読頂き,大 学物理学学習の新たなスタンダードとして定着してきたようです 。 そして,今回 新たに「電磁気学キャンパス・ゼミ(改訂1) 」を上梓することが出来て,心よ り嬉しく思っています。 これから解説する“電磁気学”は, クーロン,アンペール,ファラデー,マクスウェ ルらによって創始され,体系化されました。 ファラデーの業績は電気力線や磁力線の考案,電磁誘導の法則の発見などなど …,枚挙に暇がありません。しかし,貧しい家に生まれた彼はデイヴィーに見出 されるまで製本屋の店員として働いていたため,数学的な教育をほとんど受けら れませんでした。そのため,彼の数百にも及ぶ素晴らしい論文の中に1つの微分 方程式も登場していないといいます。 対照的に,マクスウェルは応用数学の天才的な達人で,様々な電磁気学の現象 を数学的に記述して,4つのマクスウェルの方程式にまとめたことはあまりにも 有名な話です。 そう…,このマクスウェルの方程式: (Ⅰ)div D = ρ (Ⅱ)div B = 0 (Ⅳ)rot E = − ∂∂B t を導き,その意味を理解し,そしてこれを使いこなしていくことが,大学の電磁 (Ⅲ)rot H = i + ∂∂D t 気学の主要テーマなのです。 洗練された理論というものは,見た目にはシンプルで美しいものです。しかし, これを本当に理解するには,ガウスの発散定理やストークスの定理などのベクト ル解析の知識,および偏微分方程式の解法などなど…,様々な数学的な知識が要 求されます。何 故 な ら, マ ク ス ウ ェ ル の 方 程 式 は こ れ ら ベ ク ト ル 解 析 の 言 葉 で 記 述 さ れ て お り, ま た こ れ を 解 こ う と す る と ,ラ プ ラ ス の 方 程 式 な ど の 偏 微 分 方 程 式 が 現 れ る か ら で す。 こ れ が 電 磁 気 学 を マ ス タ ー し よ う と す る 方 々 が ,途中で諦めてしまう主な原因 な の で す 。 2 そうはならないよう,この実り豊かで魅力的な電磁気学をどなたでもマスター できるよう,電磁気学のイメージと数学的な解説のバランスの良い参考書を作る ため,共著者の高杉 豊 先生と日夜検討に検討を重ねながら,この「電磁気学キャ ンパス・ゼミ(改訂1) 」を書き上げました。数学専門の出版社だからこそ,読 者の目線に立った日本一分かりやすい電磁気学の参考書ができたと,秘かに自負 しています。読者の皆様のご批評をお待ちしております。 この「電磁気学キャンパス・ゼミ(改訂1)」は,全体が5章から構成されており, 各章をさらにそれぞれ10∼20ページ程度のテーマに分けているので,非常に 読みやすいはずです。電磁気学は難しいものだと思っている方も,まず1回この 本を流し読みすることをお勧めします。初めは難しい公式の証明などは飛ばして も構いません。勾配ベクトル,発散,回転,ガウスの発散定理,ストークスの定 理,電場(電束密度) ,磁場(磁束密度) ,静電エネルギー,磁場のエネルギー, 電気双極子,アンペールの法則,ビオ - サバールの法則,ベクトル・ポテンシャル, 電磁誘導の法則,さまざまな回路,マクスウェルの方程式,波動方程式,ダラン ベールの解,電磁波などなど…,次々と専門的な内容が目に飛び込んできますが, 不思議と違和感なく読みこなしていけるはずです。この通し読みだけなら,おそ らく2週間もあれば十分のはずです。これで電磁気学の全体像をつかむ事が大切 なのです。 1回通し読みが終わりましたら,後は各テーマの詳しい解説文を精読して,例 題を実際に自分で解きながら,勉強を進めていって下さい。 この精読が終わりましたならば,後は自分で納得がいくまで何度でも繰り返し 練習することです。この反復練習により本物の実践力が身に付き,「電磁気学も 自分自身の言葉で自在に語れる」ようになるのです。こうなれば,「電磁気学の 単位も,大学院の入試も,共に楽勝のはずです!」 この 「 電磁気学キャンパス・ゼミ(改訂1)」により,皆さんが奥深くて面白 い本格的な物理学の世界に開眼されることを心より願ってやみません。 今回,この「電磁気学キャンパス・ゼミ(改訂1)」の制作に,マセマのメンバー の久池井 茂 先生,印藤 治 氏,滝本 隆 氏,野村 直美 氏,滝本 修二 氏, 野村 大輔 氏,瀬口 訓仁 氏が大いに活躍をして下さいました。ここに心より謝意 を表します。 ( 今 回 の 改 訂 1 で は , 磁 場 と ベ ク ト ル・ ポ テ ン シャルを積分形で書き換えました。 ) けいし マセマ代表 馬場 敬之 高杉 豊 3 ◆ 目 次 ◆ 講義1 電磁気学のプロローグ § 1. 電磁気学のプロローグ …………………………………………8 § 2. スカラー場とベクトル場 ……………………………………18 § 3. ベクトル解析の基本(I)………………………………………28 § 4. ベクトル解析の基本(II) ………………………………………40 ● 電磁気学のプロローグ 公式エッセンス ………………………48 講義2 静電場 § 1. クーロンの法則からマクスウェルの方程式へ ………………50 § 2. 電位と電場 ………………………………………………………64 § 3. 導体 ……………………………………………………………80 § 4. コンデンサー …………………………………………………94 § 5. 誘電体 …………………………………………………………110 ● 講義3 静電場 公式エッセンス ………………………………………126 定常電流と磁場 § 1. 定常電流が作る磁場 …………………………………………128 § 2. ビオ - サバールの法則とベクトル・ポテンシャル ………140 § 3. アンペールの力とローレンツ力 ……………………………160 ● 4 定常電流と磁場 公式エッセンス ……………………………172 講義4 時間変化する電磁場 § 1. アンペール - マクスウェルの法則 …………………………174 § 2. 電磁誘導の法則 ………………………………………………180 § 3. さまざまな回路 ………………………………………………196 ● 講義5 時間変化する電磁場 公式エッセンス ………………………214 マクスウェルの方程式と電磁波 § 1. 波動方程式 ……………………………………………………216 § 2. ダランベールの解 ……………………………………………222 § 3. 電磁波 …………………………………………………………232 ● マクスウェルの方程式と電磁波 公式エッセンス …………243 ◆ Term・Index(索引) ……………………………………………………244 5 §3.電磁波 さァ,前回までの講義で準備も整ったので,マクスウェルの方程式と, 電 場 と 磁 場 の 波 動 方 程 式 を 解 い て, 電 磁 波 が 生 じ る こ と を 示 し て み よ う 。 もちろん,一般論として解くと計算が繁雑になるので,ここでは本質が分 か り や す く な る よ う に, 単 純 化 し た モ デ ル ( 1 次 元 波 動 方 程 式 ) を解いて い く こ と にする。 そ の 結 果, 電 場 の 波 動 と 磁 場 の 波 動 が 互 い に 直 交 す る こ と , お よ び こ の 2 つの波動が完全に同じ形状になることなど,面白い電磁波の性質が次々 と 明 ら か になっていく。楽しみにして く れ 。 さらに,電磁波が真空中を伝播していくことにより,電場と磁場のエネ ル ギ ー の 流れが生じる。ここでは, “ ポ イ ン テ ィ ン グ・ベ ク ト ル ”も 含 め て , 詳 し く 解 説しよう。 ● 電磁波を求めてみよう ! 電 磁 波 を 求めるためのマクスウェルの 方 程 式 : ( ⅰ) div E = 0 …………… ( * 1 ) ´ 具体的には, E 1x + E 2y + E 3z = 0 ( ⅱ) div H = 0 …………… ( * 2 ) ´ 具体的には, H 1 x + H 2y + H 3z = 0 ´ ( ⅲ) rot H = ε 0 ∂∂E t ……… ( * 3 ) ( ⅳ) rot E = − μ 0 ∂∂H t …… ( * 4 ) ´ を 用 い て , { E と磁場 H の波動方程式: ∂ 2E Δ E = ε 0μ 0 …… ( * f 0 ) 電場 Δ H = ε 0μ 0 ∂ t2 ∂ 2 H …… ( * g ) を導 い た 。 0 ∂ t2 こ こ で ,ε 0μ 0 は速度の 2 乗の逆数の単 位 [ s /m 2 2 ] をもち,かつ,これが 1 ε 0μ 0 = 2 ( c:光速 ( 約 3 × 1 0 8 ( m /s ))) と な る こ と が 実 験 的 に 分 か っ て い る c の で , ( * f 0 ) , ( * g 0 ) を次のように表す こ と が で き る 。 232 ● マクスウェルの方程式と電磁波 ΔE= 2 2 1 ∂ E 1 ∂ H …… ( * f 0 ) ´ Δ H = 2 … … ( * g 0) ´ c ∂ t2 c2 ∂ t2 具体的には次の 3 つの方程式を表す。 具体的には次の 3 つの方程式を表す。 1 E 1xx + E 1yy + E 1zz = 2・E 1tt … … ① c 1 E 2xx + E 2yy + E 2zz = 2・E 2tt … … ② c 1 E 3xx + E 3yy + E 3zz = 2・E 3tt … … ③ c 1 H 1x x + H 1y y + H 1z z = 2・H 1t t …… ( a ) c 1 H 2x x + H 2y y + H 2z z = 2・H 2t t …… ( b ) c 1 H 3x x + H 3y y + H 3z z = 2・H 3t t …… ( c ) c E と磁場 H は ,共 に 4 つの変数 x ,y ,z ,t の関数,すな わ ち E ( x ,y ,z ,t ) ,H ( x ,y ,z ,t ) と な る ん だ け れ ど, こ こ で は モ デ ル を 単 純 化 し て , E も H も 共 に x と t 以上が,電磁波を求めるための方程式なんだね。本来,電場 4 4 4 の み の 2 変 数関数,すなわち, { E ( x ,t ) = [ E 1 ( x ,t ) , E 2 ( x ,t ) , E 3 ( x ,t ) ] … …④ H ( x ,t ) = [ H 1 ( x ,t ) , H 2 ( x ,t ) , H 3 ( x ,t ) ] … … ⑤ と し て , こ れから解いていくことにしよう 。 こ れ は , 後 に 明 ら か に な る ん だ け れ ど, yz 平 面 と 平 行 な 平 面 上 で 電 荷 を 変 動 さ せ た ときにできる電磁波の平面波モ デ ル に な る ん だ よ 。 こ こ で , ( * f 0) ´ と ( * g 0) ´ の E と H の 2 つの波動方程式が与えられて い る け れ ど ,これらは互いに独立に存在す る わ け で は な い 。 (*1)´ ∼ (*4)´ 4 4 4 4 4 の マ ク ス ウ ェ ル の 方 程 式 に よ り, 密 接 な 関 係 を も っ て い る こ と に 気 を 付 け よ う 。 で は ,解いていくよ ! まず,E と H が, ④ と ⑤ で示すように x と t の 2 変 数 関 数 な の で , ( ⅰ)( * 1 ) ´ より, E 1 x + E 2y + E 3 z = 0 ∴ ∂∂Ex 1 = 0 … … ⑥ と な る 。 ∂ E2 =0 ∂y ∂ E3 =0 ∂z E 2 , E 3 も x と t のみの関数より, y や z で偏微分すると 0 になる。 ( ⅱ)( * 2 ) ´ より, H 1 x + H 2y + H 3 z = 0 ∴ ∂∂Hx 1 = 0 … … ⑦ と な る 。 ∂ H2 =0 ∂y ∂ H3 =0 ∂z H 2 , H 3 も x と t のみの関数より, y や z で偏微分すると 0 になる。 233
© Copyright 2024 ExpyDoc