海岸水理学後半 浅海域での波の変形

海岸水理学 後半
浅海域での波の変形
担当 後野
目次
波の変形
1
1.1
平面 2 次元波動場
1. 平面 2 次元波動場を考える
=⇒ (必要な場合を除き) 流体内は微小振幅波理論で表現
• 波向き θ は決まっている
=⇒ 波向き方向に波は直進する
• 水深の変化は穏やかである。
=⇒ 実際の水底勾配 (1/10 ∼ 1/300)
=⇒ 一定水深の微小振幅波理論を近似的に適用する
1.1.1
y
波向きベクトル
Ly
L
θ
Lx
x
波峰線
波向きベクトル
波向きはベクトルで表示されるべきです。ではどの物理量で
波向きを表示するか?
波長 L を考えてみましょう。左の図のように平面波動場に
x − y 座標を定め, 波の峰の位置を描く (波峰線を描く) と波は
この線に垂直な方向に進みます。
図中の太い矢印が波長ベクトル L です。
同じ位置から描かれている細い矢印はそれぞれ波長の x, y 成
分です。なぜなら, x, y 方向に峰と峰の長さを測れば波長ベク
トルのそれぞれの成分になる (なって欲しい) のですが... おか
しいですね?
1
波数をベクトル (k = (kx , ky )) としてみましょう。波数ベク
トルの大きさは
|k| =
y
Ly
k
L
Lx
2π
L
成分を書くと
θ
(kx , ky ) = (
x
波峰線
2π
2π
cos θ ,
sin θ )
L
L
となります。
波数ベクトルの成分から, 細い矢印で示した見掛けの波長を計算すると
L
L
,
)
(Lx , Ly ) = (
cos θ sin θ
波向きは波数ベクトル k で表示されるべきです。
水位変動 η (x, y,t) の表示
: 位置ベクトル x = (x, y) を使うと
η (x, y,t) = a cos(k · x − σ t) = a cos(kx x + ky y − σ t)
波速ベクトル C の定義?⇐= 波速も当然ベクトルのはず
σk
C=
k k
1.1.2
定常波動場
2. 定常波動場を仮定する。
=⇒ 波の周期・波高・波長が時間的に変化しない
• 波向き θ , 水深 h, 波高 H, 波長 L は場所によって変化
• 周期 T , 角周波数 σ は時間的にも場所的にも変化しない。
=⇒ なぜ周期 T , 角周波数 σ だけが場所によって変化しない?
3. 波数 k(= |k|) は分散関係式で定められる。
σ 2 = gk tanh kh
1.1.3
波数の保存則
x 軸の方向に進んでいる波に対して, 波数の保存を考え
る。まず, x と x + ∆x の区間で微小時間 ∆t の間に増加
する波の数は区間の中央の点 (x + 1/2∆x) の波長 L(x +
1/2∆x,t) を用いて
∆x
∆x
−
L(x + 1/2∆x,t + ∆t) L(x + 1/2∆x,t)
C
x
x+∆x
x
と表せる。
x = x のところから波が進入し, x = x + δ x から出て行くので, ∆t 秒間に外部から進入する波の数は
∆t
∆t
−
T (x) T (x + ∆x)
波が合体したり, 分裂したりしないと考えると, 上の二つの物理量は一致するはず
1
1
∂
L + T =0
∂t
∂x
∂
角周波数 σ と波数 k を用いると
∂k ∂σ
+
=0
∂t
∂x
今考えているのは定常な波動場なので, 波数 k(波長 L)) は時間的に変化しない。
よって,
1.1.4
∂σ
= 0 すなわち, 角周波数 σ (周期 T ) は場所的にも変化せず一定
∂x
まとめ
1. 平面 2 次元波動場を考える =⇒ (必要な場合を除き) 流体内は微小振幅波理論で表現
• 波向き θ は波峰線に垂直 =⇒ 波数ベクトル k = (kx , ky ) が示す方向
η (x, y,t) = a cos(k · x − σ t) = a cos(kx x + ky y − σ t)
C=
σk
k k
• 水深の変化は穏やか =⇒ 一定水深の微小振幅波理論を近似的に適用
2. 定常波動場を仮定する。
=⇒ 波の周期・波高・波長が時間的に変化しない
• 波向き θ , 水深 h, 波高 H, 波長 L は場所によって変化
• 周期 T , 角周波数 σ は時間的にも場所的にも変化しない。
3. 波数 k(= |k|) は分散関係式で定められる。
σ 2 = gk tanh kh
1.2
基本的な波の変形
• 水深が分っている海岸域を考える。
• 沖側から海岸へ向かって波がやって来る。これを入射波と呼ぶ。
• 深海波の状態で波の周期 T (角周波数 σ ), 入射角度 θ が与えられる。
• 同じ波が長時間続き, 海岸付近は定常波動場になる。
⇐= 20分∼30分程度で定常波動場になる。 実際の海でも20分∼30分程度は同じよう
な波がやって来る。
=⇒ 定常波動場の仮定は実海域でも適用可能
• 周期 T (角周波数 σ ) は波数の保存則により, 沖側から波打ち際まで一定
• 波数 k(= |k|) は分散関係式より定まるので, 波数 k, 波長 L, 波速 C(方向は不明, 絶対値のみ) は
水深だけで求められる。
• 浅くなるにつれて, 波長は短く (波数は大きく), 波速は遅くなっていく。
• 波高と波向きについては不明??
1.3
浅水変形
仮定 =⇒ 波向き θ が一定と仮定する
C
HI
x
HII
(E Cg)
II
(E Cg)
I
hI
II
hII
1. 波の進んでいく方向の適当な位置で断面 I と II
を選ぶ。断面 I と II で囲まれた領域について
エネルギーの保存を考える。
2. 定常波動場なので任意点での波の持つ平均的
なエネルギーは時間的に変化しない
I
断面 I では領域の外部から単位時間 単位幅 (紙面に垂直方向) 当たり平均的に波のもつエネルギー
が (ECg )I だけ流入する。断面 II では領域の外部から (ECg )II だけ流出する。これ以外に波のエネル
ギーの流入出はないので, 対象とする (断面 I と II で囲まれた) 領域のエネルギーが時間的に変化し
ないためには
(ECg )I = (ECg )II
(1)
1
となるべき。波の平均的なエネルギー E = ρ gH 2 を用いて表すと
8
1
1
ρ gHI2 (Cg )I = ρ gHII2 (Cg )II
8
8
断面 I と II はどの水深でも良いので,
断面 I =⇒ 深海波となる十分深いところ
断面 II =⇒ 浅海域の任意点
H
HII
=
は
とすると 波高の比
HI
Ho
Ks =
H
=
Ho
Cgo
=
Cg
Co
2Cg
(2)
浅水変形
波高は水深とともに変化する =⇒ 浅水変形と言う。
深海波の波高 Ho に対する任意点での波高 H の比 Ho /H
1.4
⇒ 浅水係数 Ks
屈折 −−−スネルの法則
波向き線
θ1
h1
C1
b
波向き線
間隔
B
ステップ
波峰線
D
A
C
h2
C2
θ2
水深がステップ状に変化する水域を考え
る。ステップは直線的に設けられており, 深
い側が水深 h1 , 浅い側が水深 h2 。 水深が一
定の海域では波は直進し, 沖側 (h1 ) ではス
テップに対して角度 θ1 で入射する。
水深が小さくなると波速は遅くなるので,
C1 > C2 になっている。
波の進行方向を示す線を波向き線, 波の
峰の位置を示す線を波峰線とよぶ。波向き
線と波峰線は互いに垂直に交わる。ステッ
プの方向に水深は変化しないので, すべて
の波向き線は平行。
これから, 波の峰に注目し, 沖側から波の峰が進んで来る様子を考えてみよう。
1. 沖側から来る波の峰が点 A に達したとき, 隣の波向き線上の峰は点 B にある。
2. 点 A の峰はこの後浅い領域に入り波速が遅くなり, 点 B の峰は元の波速のまま進む。
3. 点 B の峰がステップ (点 D) に達するとき, 点 A の峰は点 C に達している。スネルの法則 (2)
4. 峰が点 B から点 D に至るまでの時間は
隣の波峰線上で峰が点 A から点 B に至るま
での時間と同じ。
5. これを式で表すと
θ1
h1
C1
b1
B
BD AC
=
C1
C2
D
A
C
6. AC = AD sin θ2 と BD = AD sin θ1 の関係
を用いるとスネルの法則が得られる。
h2
C2
b2
sin θ1 sin θ2
=
C1
C2
θ2
7. 幾何学的な関係として AD cos θ1 = AB と AD cos θ2 = CD が成り立つ。
8. AB と CD をそれぞれ 波向き線の間隔 b1 , b2 で表し, AD を消去すると 次式が得られる。
b1
b2
=
cos θ1 cos θ2
1.5
屈折 −−−エネルギー保存
θ1
h1
C1
b1
B
D
A
C
h2
C2
b2
θ2
エネルギー保存の確認のために領域 ACDB
を考える。
1. 波が屈折しても波は波向き線方向に進む
2. 波の持つエネルギーは波向き線方向に伝
達される
⇐= 伝達エネルギーの方向は水平流速成
分の方向
3. 波向き線を横切るようなエネルギーの伝
達はない
4. 領域 ACDB へ流入するエネルギーは辺 AB を通過するものだけ
E1Cg1 b1
5. 領域 ACDB から流出するエネルギーは辺 CD を通過するものだけ
E2Cg2 b2
6. 定常波動場を考えているので, 流入エネルギーと流出エネルギーは同じ値
E1Cg1 b1 = E2Cg2 b2
7. 実際の水底を考え, 断面 AB を深海波の位置まで移動させ, エネルギーを波高で表示
Ho2Cgo bo = H 2Cgb 屈折 −−−エネルギー保存 (2)
浅水変形と同様に波高の比 H/Ho を求める
θ1
h1
C1
b1
H
=
Ho
B
D
A
C
h2
C2
b2
θ2
Co
2Cg
bo
b
ここで, Kr = bo /b を屈折係数 (refrection
coefficient) と呼ぶ。 これを使うと屈折によ
る波高の変化は次式で計算できる。
H
= Ks Kr
Ho
・実際の海では限りなく小さなステップが連続して海底を作っている (と考えれる)
・ステップを示す線は等深線 (等高線と同じ意味) と同じ線 (または平行な線) を示す
・浅い方へ進む波の波峰線は等深線と平行な方向に屈折 −波向き線は垂直な方向に
・深い方へ進む波は逆方向へ屈折
・浅い方へ屈折すると波向き線間隔が広がる