オイラーの等式 - 鶯谷中学・高等学校

鶯谷中学・高等学校
series 高校数学こぼれ話 第 16 話 渡邉泰治
数学科部長
■ オ イ ラ ー の 等 式 e p i +1 =0 は な ぜ そ ん な に 美 し い の か
第 15 話では、「人類の至宝」と賛美されているオイラー(Euler, 1707 - 1783 年)の等式 e pi +1=0 を紹介した。
その評価の観点は、式の見た目の美しさだけではない。それは、人類が長い歴史を通して数学の様々な分野の概念を形
成する上で特徴的な役割を果たしてきた数値 0, 1, p, e, i が融合した、アイデアや概念の集合体であるとの見方にある。
この第 16 話ではオイラーの等式がどのように概念を融合させているのかをみていこう。
● 「 0 」は ど ん な数 か
現在では、0 という数字とその概念はありふれたものであるが、歴史的には紆余曲折した 0 の誕生の物語がある。そ
れらを紐解いていくと、0 が果たしてきた役割が浮き彫りになる。
第一に、位取り記数法において「無い」ものを表す記号としての役割である。これはインドで登場した。0 の発見が
ヨーロッパではなかったことは意外であるが、13 世紀頃にはヨーロッパでもこの記数法が利用されるようになった(詳
細は、吉田洋一著「零の発見」岩波新書を参照されたい)。
第二は、位置の基点としての役割である。すなわち、それは数直線の原点の役を担った。これによって、たとえば 1
と -1 は原点に対して反転させた数というように正の数と負の数が原点に対して反転した位置として理解されるなど、
すべての実数が幾何学的に位置付けられることとなった。
第三は、代数的な演算の構造を決める役割である。たとえば、3+0 =3 なので 0 は加法における単位元(変化させな
い要素)と呼ばれ、また 3+0 -3 1 =0 のように 3 の逆元(たして単位元となる要素)-3 を生成する。
● 「 1 」は ど ん な数 か
1 はもともと自然数の起点を表す数であった。幾何学的な役割として、数直線やデカルト(Descartes, 1596-1650
年)平面上の距離の基準となった。また、代数的な役割としては、0 と同様に演算の構造を決める役割である。たとえ
ば、3 %1 =3 なので 1 は乗法における単位元と呼ばれ、3 %
1
1
=1 のように 3 の逆元 を生成する。
3
3
● 「 p 」 は どん な 数 か p はもともと円の直径と円周の長さの比率として認知されており、角度の基準ではなかった。一方で、三角比は古代
バビロニアや古代ギリシアなどで測る技術として発展し利用されていた。時代は過ぎ 18 世紀頃、三角比は三角関数に
拡張され、単位円周上の点の座標として定義された。このとき、p には一回り 2 p として角度 (ラジアン, radian)と
いう意味が与えられた。p が三角関数の角度の基準となった理由は微積分法の都合、すなわち 、ラジアン単位 を用い
ることで lim
x .0
sin x
=1 となり、微分して 0 sin x 1- =cos x , 0 cos x 1- = -sin x のように簡単になるからである。
x
このように、p は三角関数の周期を規定するとともに、微積分の演算を円滑にする役割も担った。
●「e」
」はどんな数か e はネイピア(Napier, 1550-1617年)数または自然対数の底と呼ばれる。高校数学における e の定義は 2 つある。
第一は、指数関数 f0 x 1 =a x において、 f - 0 0 1 =1 すなわち x =0 での接線の傾きが 1 (あるいは、対数関数 f0 x 1
=log a x において、 f - 0 0 1 =1 すなわち x =1 での接線の傾きが 1)となるような a の値を e と定義する。この結果、
x
x
x
0 e 1 - = e となり、f0 x 1 =e は何回微分しても変わらない(底が e 以外では定数倍だけ変わる)という性質をもった。
8
1
x
x
9 で定義する(これは第一の定義から導出される)。この定義は e という値そのものを算出
1
するものとして存在意義がある。これから、e のもつ意味が 1 +
*
8 9 であることが興味深い。
第二は、e=lim 1 +
x .*
*
このように、e は微分積分において指数関数を扱う場合の基準となる値として認知されている。
虚軸
B ai
-a = a %i 2
●「i」
」 は どん な 数か
高校数学では、i は 虚数単位(imaginary unit)と呼ばれ、2 乗して -1 となるよう
な数のひとつ(他は -i )と定義される。代数的な役割として、複素数 a +bi という新
たな数体系を作り出す機能を果たす。一方、幾何学的な役割として、複素数平面(ガウス
A'
-a
a% i
A
O
a 実軸
図 1 : i の幾何学的役割
平面, Gauss, 1777-1855 年)の虚軸の基準であるとともに、i をかけることが点を原点の周りに 90, 回転させる意味を
もつ。なぜなら、実軸上の点 A 0 a1 に -1 をかけると原点の周りに 180, 回転した位置 A' に移される。ここで-1 =i 2
とみると a に i を 2 回かけたことになるので 、a に i をかけると 180,/ 2=90, 回転し B に移動し、次にB 0 ai1 に i を
かけて A' に移動すると解釈できる(図 1 )。これが虚軸を実軸に垂直にとる理由である。以上が i の役割である。
● e i x =cos x +i sin x をどのように理解するか
f0 x 1 =e ix , g0 x 1 =cos x +i sin x とする。 f0 x 1 は指数関数、 g0 x 1 は三角関数であり、両者は相容れないように見
える。第 19 話では、 f0 x 1 =g0 x 1 をマクローリン展開で理解する方法を紹介したが、ここでは別の見方をしていこう。
まず、f0 0 1 =e 0 =1=cos0 +i sin 0 = g0 0 1 … ① であることを確認しよう。次に、g0 x 1 の導関数を見ていこう。
g -0 x 1 =-sin x + i cos x =i0 cos x + i sin x 1 = ig0 x 1 … ②
② は、g0 x 1 を微分しても定数倍しか変わらないことを意味している。つまり g0 x 1 は指数関数の性質をもっていること
を示している(上述の「e とはどんな数か」を参照)。事実、② 式を微分方程式とみて g0 x 1 を求めると、② より
dg0 x 1
dg
dg
= ig0 x 1 つまり
=idx 積分して = idx ゆえに log g = ix+ C + g0 x 1 =Ae ix
dx
g
g
Q
Q
また ① の g0 0 1 =Ae 0=1 より A =1 なので g0 x 1 =e ix という指数関数であり、次のオイラーの公式を得る。
f0 x 1 =e ix = g0 x 1 =cos x + i sin x … ③
ここで、③ において x =p とすれば、次のオイラーの等式が得られる。 e ip =cos p +i sin p =-1 すなわち e ip +1=0 … ④
また、g0 x 1 =cos x +i sin x が指数関数という見方は、三角関数の加法定理を使っても可能である。つまり、
g0 a1 g0 b1 = 0 cos a +i sin a 10 cos b +i sin b 1 =cos a cos b -sin a sin b + i 0 sin a cos b +cos a sin b 1
=cos 0 a + b 1 + i sin 0 a+ b 1 = g0 a +b 1
であるから、g0 x 1 は a aa b= a a+b という指数法則、すなわち指数関数の公理を満たしている。
この指数関数と三角関数の融合という概念の拡張の意義は大きい。たとえば、 複素数は極形式表現と ③ により
a+ bi =r0 cos h +i sin h 1 =r e ih
のとおり指数表現ができ、ド・モアブル(de Moivre, 1677-1754 年)の定理は次のように理解しやすくなった。
0 cos h + i sin h 1 n =0e ih1 n = e inh=cos nh +i sin nh
このように、複素数と複素関数に関する様々な関係が統一的に扱えるようになった。
以上、特徴的な数 0, 1, p, e, i が果たす役割と、オイラーの公式 ③ と等式 ④ の理解の仕方をみてきた。それぞれの
分野で別々の役割を果たしてきたこれらの数が、 ③ ④ を通して相容れない指数関数と三角関数との仲立ちという新た
な役割を演じ、複素関数という分野を拓いた。