2012年度冬学期「刑事訴訟法」7 捜索・差押え(2) ポイント ○逮捕に伴う捜索・差押えが無令状で許される理由は何か? ○その違いによって,捜索・差押えが許される時期,範囲,目 的物等に,果たして,そしてどのような差異が生じることにな るか? 憲法と刑事訴訟法の規定 憲法35条1項 「第33条の場合を除いては,・・・令状がなければ,侵 されない。」 刑訴法220条1項 通常逮捕,現行犯逮捕,緊急逮捕を通じ,被疑者を 「逮捕する場合において必要があるときは,左の処分 をすることができる。・・・ 二 逮捕の現場で差押,捜索又は検証をすること」 逮捕に伴う無令状捜索・差押えの問題点 ○何時,実施できるか? ・逮捕行為に先だって実施することはできるか? ・逮捕が終了し,被疑者が他に連行された後はどうか? ○捜索の範囲はどこまで及ぶか? ・令状による捜索の場合と異なるか? ・被疑者の住居等とそれ以外の場所とで違いはあるか? ○捜索の目的物となるのは何か? ○被疑者の身体の捜索を実施するのは逮捕の現場に限ら れるか? 逮捕に伴う捜索・差押えが無令状で許される理由・趣旨 令状主義の意義 ○正当な理由 根拠不十分な捜索押収 特定の被疑事実に 関連する証拠物等が 当該場所に所在する蓋然性 ○捜索場所・差押え目的 物の特定 捜索場所・差押物が無 限定な一般的捜索,実 施機関が恣意的に選定 ○裁判官による令状発付 実施機関自身が判断 逮捕に伴う捜索・差押えが無令状で許される理由・趣旨 (1) ○逮捕の現場には証拠物等の所在の蓋然性が高いから,裁判 官の令状審査不要とする考え方(蓋然性説,相当説) ⇒捜索の範囲や目的物は,令状による場合と同様。 ♦逮捕により,その蓋然性が急に高くなるといえるか? ♦被疑者の住居等以外でも当然そういえるか? 被疑者は常に証拠物等を携帯していると想定してよいか? ♦当該場所の管理者や性質,被疑事実の性質・内容等の具体 的事情により目的物存在の蓋然性の程度が変わり得ると すると,一般的・類型的に裁判官の令状審査不要とはいえ ない(捜査官の判断に委ねる結果となり,令状主義の趣 旨に反することになる)のでは? 付加的理由の必要? 逮捕に伴う捜索・差押えが無令状で許される理由・趣旨 (2) ○逮捕に伴う権利制約が許される以上,付随的に,より軽度の 権利侵害を認めても不都合はないとする考え方(付随処分説) 1)逮捕のための立ち入りにより住居等の平穏やプライバシー は既に正当に開かれているという考え方 ♦逮捕に必要な限りでプライバシー等の侵害が許されている だけで,それに必要でない範囲も当然に捜索できるというこ とにならないのではないか? ♦実際に逮捕が行われなくても,その要件が存在するというだ けで,付随的な権利侵害が正当化されるか? 逮捕に伴う捜索・差押えが無令状で許される理由・趣旨 (3) 2)身体の自由の拘束という,より重大な権利制約が許される場 合であるから,それより軽度のプライバシー等の侵害も許され るという考え方 ⇒逮捕が可能な場合であれば,逮捕行為と実際に接着していな くても捜索・差押えを実施してよい? ♦身体全体をすべて拘束すること許されるから,その一部で あるプライバシー等に限った制約も可とする論理 ⇒場所についても妥当するか? ♦特に,第三者の住居等の無令状捜索・差押えを正当化でき るか? 逮捕に伴う捜索・差押えが無令状で許される理由・趣旨 (4) ○逮捕への抵抗等を防ぎ,逮捕者・被疑者の安全を確保するとと もに,逮捕によって惹起される罪証隠滅の危険を防止する緊急 の必要性により正当化されるという考え方(緊急処分説) ⇒捜索は,そのような危険の認められる範囲に限られる一方, 証拠物等のほか凶器も目的物となる。 ♦被疑者自身による抵抗等や罪障隠滅の危険に限るか ⇒被逮捕者の直接の支配下(アメリカの判例)? ⇒被疑者の住居の場合のように,問題なく令状が発付されると 考えられる,同一住居内の他の部屋等について,直ちに捜 索することを不可とし,令状請求という無用の手続を踏むこ とを強いるのは不当・非実際的ではないか? ♦被疑者を現場から連れ出してしまえば,捜索・差押えは不可 となるか? ⇒そのためだけに留めておかせるのは,不適切・恣意的? 根 蓋然性説 (相当説) 拠 逮捕行為との先後 被疑事実に関連する証拠物 が存在する蓋然性が極め て高く,令状発付要件をほ とんど充足 逮捕要件が存在すれば,逮 捕行為は不要か? 被逮捕者の支配・管理下に あ る場所のすべて →第三者の住居等の場合 は? 人権の保障上格別の弊害 なし 逮捕要件が存在すれば,逮 捕行為は不要か? 令状による捜索と同一範囲 →逮捕の現場である必然性 は? 第三者の住居等の場合 は? 逮捕行為との接着性 →逮捕が完了した後は不可 か? 被逮捕者による危害行為, 証拠隠滅行為につながる可 能性のある範囲(直接の支 配下)? →第三者による可能性も含 むか? ・身体の自由の制約 >プライバシーの侵害? 付随処分説 緊急処分説 捜索の範囲 ・逮捕行為により当の場所 の平穏等の法益すでに 侵害 →新たな侵害ほとんどな し? 逮捕者らの身体の安全確 保,証拠の隠滅・破壊防 止の緊急の必要 刑訴法222条,102条2項との関係 ○102条1項,2項の要件は,そもそも捜索が許されるために必要 ○その要件の存否は,原則として,令状発付にあたって裁判官が審査 =令状による捜索についても備わっていなければならない要件 ⇒その要件の具備によって,捜索を無令状で行うことが正当化されると いうものではない。 ○逮捕に伴う場合には(そのような事前の審査なしに)無令状で捜索を行う ことが一般的に許されることの理由は何か? ⇒その理由が妥当する範囲=捜索が許される外枠 ⇒その範囲について,102条1項または2項の要件が具体的に備わって はじめて,捜索可となる。 ⇒個々具体的な場面において102条2項の要件があれば,捜索の範囲 が拡張するというわけではない。 拡張するとするのは,捜査官の判断による無令状捜索を許すのに 等しい。 判例百選27事件 ○無令状捜索・差押えが許される趣旨を如何に解しているか? ○客室の捜索を適法とした趣旨 ・被疑者を客室に移動=なお逮捕行為続行中? ・被疑者が客室に移動=現場が拡張? ・ホテルのロビー(共用部分)と客室は一体? 逮捕に伴う被逮捕者の身体・所持品の捜索(1) ○百選29事件 「『逮捕の現場』における捜索,差押えと同視することができ」の趣旨 ・被疑者を連行した警察署も「逮捕の現場」と同視できるとしたもの? ・時間的に接着し,かつ近接した場所で行われた捜索・差押えも,「逮捕の 現場における捜索・差押え」と同視できるとしたもの? ⇒その場で直ちに実施することが適当でないときという限定は必要か? ○原審 「証拠存在の蓋然性,押収の緊急性,必要性は依然として存続」 「被疑者に格別の不利益を与えるおそれはない」から 「逮捕の現場」についてある程度幅を持たせてよい。 ⇒なぜ「ある程度」に限られるのか? 逮捕に伴う被逮捕者の身体・所持品の捜索(2) ○連行も逮捕の継続⇒連行先も逮捕の「現場」とする考え方 ⇒場所の捜索も可能ということになってしまわないか? (ex. 路上で被疑者を逮捕後,被疑者宅に連行し,その住居 内を捜索すること) ○被逮捕者の身体=逮捕の現場とする見方(田宮説) ⇒言葉の通常の意味に反しないか? (刑訴法§220①2号も「逮捕の現場を・・・捜索」としている のではなく,「逮捕の現場で・・・捜索」と規定) 参考文献 ①小林充「逮捕に伴う無令状捜索・差押えの許される 限界」『増補令状基本問題(下)』275頁 ②大澤裕「逮捕に伴う被逮捕者の所持品等の差押え の適法性」法学教室192号100頁
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