2012年度冬学期「刑事訴訟法」18 違法収集証拠 ポイント ○違法収集証拠排除の根拠 ・理論的根拠 ・法的根拠 ○違法収集証拠排除の基準 ・最高裁昭和53年判決(判例25-1) ・違法な手続と証拠との関係 ○派生証拠の証拠能力 ・違法承継論 ・「毒樹の果実」の法理 違法収集証拠排除の根拠 ○学説 ◇権利侵害の救済 ⇒当の証拠が訴訟上使用されることによって被告人が蒙る不利益から免れさせ ることをもって違法な収集行為によって生じた権利侵害の代償とするというの は正当か?原状回復や損害賠償の方法によるのが筋ではないか? ◇適正手続の保障 ⇒証拠収集手続の違法が当然にその結果である証拠の使用を違法にするとは いえない⇒その使用が直ちに適正手続の保障に反するということにはならな いのではないか?《証拠の収集過程に明白かつ著しい違法があり,そのため に手続全体が不適正なものになる場合に限られる?》 ◇司法の無瑕性(integrity,廉潔性) ⇒違法な手続により収集された証拠の使用を認めることにより裁判所がその違 法手続を是認したとの印象を与えることと,重要な証拠の使用を認めないこと により明らかに有罪と思われる者を放免することのいずれが,国民の信頼を より損ねることになるか?《較量的判断?》 ◇違法捜査の抑止 ⇒抑止を必要とするほどの実態があるか?違法の質・程度を問わず妥当する理 由付けか?《較量的判断?》 違法収集証拠排除法則:百選94判例 ○憲法・刑訴法には規定なし⇒刑訴法の解釈による⇒刑訴法1条の見地か らの検討が必要 ○「証拠物の押収等の手続に,・・・令状主義の精神を没却するような重大な 違法があり, これを証拠として許容することが,将来における違法な捜査の抑制の見 地からして相当でないと認められる場合」 ⇒証拠能力なし ・証拠排除の根拠としていかなる考え方を採用したものか? ・憲法ではなく刑訴法の解釈の問題と位置づけた理由は?それは正当か? ・「重大な違法」と「違法捜査の抑制の見地からして相当でない」という 2つの要因は重畳的・加重的関係 or 競合的・併行関係? 違法収集証拠排除の基準と判断要因 ○百選94判例による判断基準 ◇令状主義の精神を没却するような重大な違法 ◇証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地か ら不相当 ○その事案における判断要因 ①手続違反の程度 ・職務質問・所持品検査の要件(必要性・緊急性)の存否 ・適法な手続からの逸脱の程度 ・対象者の反対意思の明確性 ・強制的要素の有無 ②手続違反の有意性の有無 ・令状主義潜脱の意図の有無 その後の裁判例に見られる判断要因 ①手続違反の程度 同行・所持品検査等の要件の存否,強制力行使・強制の有無,強制処 分の利用可能性(手順選択の過誤か否か),権利侵害の直接性・時間, 対象者の反対意思の明確性 ②手続違反の有意性の有無 手続違反の意図の有無,令状主義軽視の態度の有無 ③手続の違法と証拠の獲得との因果性の強弱 ×当の証拠が適法な手続でも獲得され得ていたと考えられる場合 ×違法な手続が証拠の獲得にとって付随的な意義しか持たないか,無 関係な場合(ex.捜索への立会手続の過誤,証拠の獲得と無関係な暴行) ④手続の違法の状況 違反の偶発性,緊急やむを得ずなされたものか否か(ex.対象者の突発的 行動に対する反射的対応) ⑤事件の重大性・証拠の重要性 ⇒考慮要因とすること正当か? 派生証拠(1) ○百選95判例等: ⇒①先行する手続の違法が後続の採尿手続に引き継がれるか否か 「同一目的」「直接利用」 「直接利用」「引き続きなされた」 ②引き継がれる場合,違法の程度等を考慮して証拠の許否を判定 ☆主に,違法な任意同行による実質的な身柄拘束中ないしそれに引き続く逮 捕・勾留中もしくは違法な逮捕・勾留中に,被疑者から任意提出された尿の 鑑定結果の証拠能力が問題となった事案で使用 ⇒ ・「毒樹の果実」の法理との異同? ・判断枠組としての当否? 派生証拠(2) ○百選96判例 違法手続との関連性の程度 ⇒密接に関連する場合は証拠排除 密接でない場合は,他の要因との総合判断により証拠の許否を判定 アメリカにおける「毒樹の果実」法理とその例外 ○《but for》の関係⇒原則として排除 ○例外 1)“attenuated connection”(結びつきの希薄化)⇒証拠として許容 ex. 違法逮捕⇒釈放後,自ら任意に出頭して取調べに応じて自白 2)「独立入手源(independent source)」の例外 ex. 違法な電話傍受によりXが違法なインサイダー取引をしている のではないかとの疑い生じる⇒その情報を得た担当部局で 内偵,関係者の取調べ等の捜査を尽くした結果,インサイ ダー取引の証拠を得る。 3)「不可避的発見(inevitable discovery)」の例外 当の証拠が適法な手続によって必ず発見されていたであろうと いえる場合⇒たまたま違法手続が介在し,それによって発見され たに過ぎない=そのような証拠を得るために捜査機関が同種の違 法手続を再び行う誘因となるおそれは小さい 参考文献 ①大谷直人「違法に収集した証拠」 刑事訴訟法の争点(第3版)194頁 ②佐藤文哉「違法収集証拠排除の新局面」 法学教室275号38頁 〔より詳しくは〕 ③井上正仁『刑事訴訟における証拠排除』366頁以下及び544 頁以下 ④川出敏裕「いわゆる『毒樹の果実論』の意義と妥当範囲」 『松尾浩也先生古稀祝賀論文集下巻』513頁
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