30 ⑶ 証明力を争う証拠(弾劾証拠,328) ex.証人Aが法廷で「犯人はX

⑶
証明力を争う証拠(弾劾証拠,328)
ex.証人Aが法廷で「犯人はXだ」と証言し,同じ証人Aが法廷外で「犯人はXではない」と供述し
ている場合
≪論点≫「証明力を争う証拠」(328)の範囲~「証拠」の範囲
判例 (最判平 18.11.7)=自己矛盾供述に限るとする説(限定説)
→非伝聞について証拠能力が認められることを注意的に規定したもの
∵自己矛盾の供述はその供述の存在自体によって証言の証明力がその分減退し,弾劾目的が達成され
る
∵証明力を減殺するために他人の供述を使用できるのは,その供述の内容が真実であることが前提と
なるから,証拠能力の無い証拠により裁判所の心証が形成されることになる
→伝聞法則が骨抜きとなるおそれ
片面的構成説
→検察官請求証拠は自己矛盾供述に限られるが,被告人側はそれ以外の証拠も無制限で提出できる
と解する見解
純粋補助事実を特別に扱う説(自由な証明説)
→328 条は,純粋補助事実以外の事実に関して,自己矛盾の供述に限る旨を規定したものであって,
純粋補助事実は自由な証明の対象であるから伝聞法則の適用がなく許容されると解する見解
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【判例】
事案:
最判平 18.11.7
被告人が内妻と共謀の上,内妻の連れ子に掛けた保険金取得などを目的として,被告人において
家屋内の車庫に放火し,家屋を全焼させて同児を焼死させたが,保険金の詐取は未遂に終わった。
被告人は,第1審公判段階から放火はしていないなどと主張した。検察側は,近隣住民Aの証人尋
問請求をし,Aは,火災発生後被告人に消火器を貸していないし,被告人がAの消火器で消火活動
をしているのは見ていないと証言した。
弁護人はAの証人尋問後,被告人に消火器を貸していない旨のA証言を弾劾するため,消防吏員
K作成に係る「聞込み状況書」
(本件書証)を証拠請求し,検察官の不同意意見を受けて,刑訴法 328
条による証拠採用を求めた。本件書証には,KがAから,被告人に消火器を貸した旨聞き取った内
容が記載されており,その内容はAが被告人に消火器を貸したか否かという点に関して上記A証言
と矛盾するものであった。
なお,本件書証には,Kの署名・押印はあるものの,Aの署名・押印は無い。
決旨:
「刑訴法 328 条は,公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述が,別の機会
にしたその者の供述と矛盾する場合に,矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより,公
判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のもの(①)
であり,別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については,刑訴法が定める厳格な証明
を要する趣旨である(②)と解するのが相当である。」
「そうすると,刑訴法 328 条により許容される証拠は,信用性を争う供述をした者のそれと矛盾
する内容の供述が,同人の供述書,供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。),
同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分
に限られるというべきである。」
「本件書証は,……Aの供述を録取した書面であるが,同書面には同人の署名押印がないから上
記の供述を録取した書面に当たらず,これと同視し得る事情もないから,刑訴法 328 条が許容する
証拠には当たらない……。」
<ポイント>
a
下線部①について
限定説を明らかにしたもの
→拠請求者によって扱いを異にする旨を判示しておらず,むしろ,本件事案が被告人側からの証拠
請求であったことからして,片面的構成説も排斥している
→ただし,
「刑訴法 328 条により許容される証拠は,……」としていることから,自由な証明説は排
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斥されていない
b
下線部②について
供述録取書に含まれる二重の伝聞過程のうち,供述録取者がこれを書面化して伝える書面による供
述過程は 328 条では払拭できない
→供述者の署名押印(ないしこれに代り得るもの)が備わっていない限り,結局供述録取書全体に
ついて伝聞法則による制限が外れないことを意味するもの
→自己矛盾供述の存在については刑訴法が定める厳格な証明を要すると解している
※ここでいう,署名・押印の意味について,本判決の調査官解説は,321 条1項柱書における「署名・
押印」を要求したものと理解しているが,
「供述を録取した書面」は,そこに記載された(録取さ
れた)供述(原供述)の内容の真実性を推認するために用いられるものが想定されているとして,
他の根拠により要求されたものだと解する見解がある(例えば,198 条ⅣⅤ)
c
本件書証はKの「供述書」なのか,Aの「供述録取書」なのか?
原審はKの「供述書」であるとみて,
「刑訴法 328 条により許容される証拠は,現に証明力を争おう
とする供述をした者の当該供述とは矛盾する供述又はこれを記載した書面に限られると解すベきとこ
ろ,……K作成の聞込み状況書は,Kの供述を記載した書面(Kの供述書)であるから,同条により許
容される証拠には該当しないことは明らかである。」と判示をした。
→これに対して,最高裁は,限定説を前提として,
「本件書証は,……Aの供述を録取した書面である
が,同書面には同人の署名押印がないから上記の供述を録取した書面に当たらず,これと同視し得
る事情もないから,刑訴法 328 条が許容する証拠には当たらない……」とした。
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≪論点≫「証明力を争う証拠」(328)の範囲~「証明力を争う」の意義
・問題の所在=証明力を減殺させる場合は当然として,増強する場合,回復する場合(公判廷での供述が
自己矛盾供述で弾劾された後,弾劾された側は公判供述と一致する供述を提出した場合)
を含むか
裁判例 =増強証拠は含まれないが,回復証拠は含まれるとする(福岡高判昭 30.2.28,東京高判昭
54.2.7 など)
∵増強証拠まで含むとすると,証明力の弱い供述を同一趣旨の証明力の強い供述で補強するものであ
るから,本来証拠能力のない証拠により裁判官に心証を形成させることになってしまう
∵「争う」とする文言
↓ただし
回復証拠の提出は弾劾証拠に対する弾劾(再弾劾)であり結果的にもとの供述の証明力が回復される
のであるから,「証明力を争う」に含まれるといえる
(批判)一度言ったことよりも二度言ったことの方が正しいという経験則は成立しない
≪論点≫「証明力を争う証拠」(328)の範囲~作成期間
・問題の所在=「前の供述」(321Ⅰ②後段)である必要があるか
判例 =否定説(最判昭43.10.25)
→「後の供述」であっても証拠能力肯定
∵条文に制限がない
∵そもそも伝聞ではない
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【STEP3】その中にさらに供述証拠が含まれていないか(独立した伝聞証拠にならないか)を検討する
含まれていれば,再伝聞の問題ならないかを検討する(伝聞・非伝聞の区別),独立した伝聞証拠に
なる場合は,324 条を類推する
※ここでも,供述書なのか供述録取書なのかが問題となる場合があるから注意
例題:(新)司法試験平成 20 年度刑事系科目第2問(刑事訴訟法)
①:甲の供述部分の伝聞性の有無
最終的な立証命題(構成要件該当事実)=覚せい剤所持の事実,所持の認識(故意),営利目的
※甲宅から覚せい剤が発見された当時,甲宅に複数人が在宅していたことを考えると,直ちに「甲が」
所持していたとみることはできない(ex.誰かが持ち込んだ可能性がある)から,覚せい剤所持の事
実も立証命題になる
1
立証趣旨「Wが平成 20 年1月 14 日に甲方で本件覚せい剤を発見して甲と会話した状況」
覚せい剤所持の事実,所持の認識(故意),営利目的の存在との関係が問題となる
【覚せい剤所持の事実】
Wがポーチの中を見ていると,甲が「それに触るな。」と言って,Wからそのポーチを取り上げたこと
それ自体で,甲が当該ポーチをその支配下に置いていたこと(占有・所持していたこと)が推認される
→立証趣旨=要証事実
→内容の真実性が問題とならないから,非伝聞
【所持の認識(故意),営利目的の存在】
A説
Wが「何なの,それ?」と聞いたことに対して,甲が,「おまえがいた店にも連れていったことの
あるY組の乙から覚せい剤 50 グラムを 250 万円で譲ってもらった。うちの組では,これまで,0.1
グラムを 1 万 5000 円で売ってきたんだ。だれにも言うなよ。」と発言したことそれ自体で,甲が,ポ
ーチの中の白色粉末が覚せい剤であると認識していたこと,営利目的で覚せい剤を所持していたこと
の間接事実となる(精神状態供述の一種。Wが「何なの,それ?」という発言をする前に,甲が,
「それに触るな。」と言って,Wからポーチを取り上げており,ここからも甲の発言が真摯になされ
ていたことが推認される)。
→立証趣旨=要証事実
→内容の真実性が問題とならないから非伝聞
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B説
甲の発言内容が真実でなければ,この会話状況そのものには意味はない(ただ単に,恋人同士が会
話している状況があるだけ)
→このように考えると,立証趣旨≠要証事実となる(要証事実は,立証趣旨②③と同じく本件覚せい
剤を甲が乙から入手した状況及びX組が過去に覚せい剤を密売した際の売却価格)
→324 条1項類推・322 条1項の適用
2
立証趣旨「本件覚せい剤を甲が乙から入手した状況及びX組が過去に覚せい剤を密売した際の売却価
格」との関係
覚せい剤所持の認識(故意),営利目的の存在との関係が問題となる
⑴
「本件覚せい剤を甲が乙から入手した状況」→甲が覚せい剤であることを認識しつつ,乙から覚せ
い剤を譲り受けたこと→覚せい剤所持の認識あり
⑵
「本件覚せい剤を甲が乙から入手した状況及びX組が過去に覚せい剤を密売した際の売却価格」→
甲が乙から覚せい剤 50 グラムを 250 万円で譲り受けたこと,X組では,0.1 グラムを1万 5000 円で
売却してきたこと→差額の 500 万円を利益として取得する意思があったこと→営利目的あり
⑴⑵いずれの場合も,立証趣旨=要証事実であり,甲の供述内容の真実性が問題となるから伝聞になる
→324 条1項類推・322 条1項の適用
※
過去に覚せい剤を密売した際の価格→今回甲がその価格で売却する認識であったことを推認→入手
価格との差額である 500 万円を利益として取得する意思があったこと→営利目的ありという推認過程
→過去に覚せい剤を密売した際の価格と今回の売却価格が同じであることの担保は?一種の悪性格立
証では?
【法務省発表の出題趣旨】
設問1は,覚せい剤の営利目的所持事件を素材として,被告人甲との会話内容等が記載されたW作
成のノートにつき,要証事実との関係での証拠能力を問うことにより,刑事訴訟法において最も基本
的な法準則の一つである「伝聞法則」の正確な理解と具体的事実への適用能力を試すものである。
法解釈の部分では,検察官の立証趣旨を踏まえた要証事実の分析を前提にして(立証趣旨から想定
される要証事実は,いずれもWが知覚・記憶してノートに記載した事実の真実性を前提とするもので
あるから,これが「伝聞証拠」,すなわち刑事訴訟法第320条第1項の定める「公判期日における供
述に代えて書面を証拠と」する場合であることは明瞭である。),伝聞法則の例外となる規定を的確に
選択した上,その規定に係る各要件を検討することが必要である。各要件を指摘,記述するだけでは,
本事例への法適用を前提とした法解釈として不十分であることは言うまでもない。とりわけ,本事例
で問題になる「特に信用すべき情況」の意義・解釈等については的確に論じなければならない。例え
ば,本件ノートを刑事訴訟法第321条第1項第3号に該当する書面であると考えた場合には,証拠
能力の要件要素である「特に信用すべき情況」の理論的意味に留意しつつ,その存否につき,供述の
内容そのものを直接に判断するのではなく,供述に付随する外部的な情況を主たる考慮事情として判
断しなければならず,また,他の供述と比較するのではなく,その供述自体にかかわる絶対的な判断
が要求されていることなどを論述することが必要である。また,本件ノートに記載された被告人甲の
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発言内容の真実性を要証事実とする場合には,
「再伝聞」が問題になるので,その構造を正確に分析し
てその旨を指摘しなければならないことはもとより,それを許容するか否かの結論だけでなく,その
文理上の根拠や実質的な考慮等をも的確に論じることが求められている(本事例は,公判期日におけ
る供述に代えて用いられる,被告人以外の者Wが作成した「供述書」に,被告人甲の供述を内容とす
る記述がある場合である。)。
事例への法適用の部分では,自らが論じた伝聞法則の例外となる規定や再伝聞の解釈等に従って,
事例中に現れた具体的事実を的確に抽出,分析し,個々の事実が持つ法的な意味を的確に示して論じ
ることが求められている。例えば,供述に付随する外部的な情況にかかわる具体的事実を抽出,分析
する際には,個人の日記と解されるノートに,1週間に3日ないし5日程度の割合で,出来事やその
感想等がその経過順に記載されていることや,空白の行やページが無かったことなどという具体的事
実を指摘した上で,Wがその日にあった出来事をその都度記載している事情等が認められることを論
じたり,また,鍵が掛けられていた机の引き出しの中から本件ノートが発見されたことなどという具
体的事実を指摘した上で,ノートを他人に見せることを予定しておらず,うそを記載する理由がない
ことなどを論じたりすることが必要である。つまり,具体的事実を事例中からただ書き写して羅列す
れば足りるものではなく,個々の事実が持つ意味を的確に分析して論じなければならない。
【法務省発表の採点実感(抜粋)】
設問1については,自己の知覚・記憶した事柄を記載したもので,その記載内容の真実性がかかわ
る要証事実との関係で「伝聞証拠」以外の何物でもない本件ノートを「非伝聞」とする不可解な答案
があった。最も基本的な事項である伝聞法則の具体的理解の定着が望まれるところである。また,本
件ノートが刑事訴訟法(以下「法」という。)第321条第1項第3号の書面に該当するのか,それと
も法第323条第3号の書面に該当するのかに関する検討は比較的良くできていたものの,それぞれ
の要件要素である「特に信用すべき情況」に関する法解釈がなされていない答案が少なからずあり,
法解釈の出来不出来に差があるという印象を受けた。これもまた前回のヒアリングで指摘したところ
であるが,何らかの誤解により法科大学院の教育で法解釈論の部分が軽視されているのではないかと
いう印象は,未だに今回の試験でも受けているところである。また,前記のとおり要証事実との関係
では「伝聞証拠」である本件ノートに記載された被告人の発言内容の真実性を要証事実とする場合に
は,
「再伝聞」が問題になるので,そのような法律問題であることを的確に記載する必要がある。しか
し,検察官の立証趣旨を考慮することなく独自の要証事実を前提にして論述をしたり,要証事実を前
提にすることなく本件ノートについての伝聞法則の適用の有無を検討している答案も散見された。
法適用に関しては,事例に含まれている供述に付随する外部的な情況にかかわる具体的事実を抽出・
分析することが肝要であり,相当数の答案が問題文にある必要かつ十分な具体的事実を抽出できてい
た。これは法科大学院教育の良い成果と思われる。ただ,更に踏み込んで個々の事実が持つ意味,例
えば,その日にあった出来事をその都度記載しているとか本件ノートを他人に見せることを予定して
おらずうそを記載する理由がないことなどについても検討している答案は少数であり,学習に際して
は,具体的事実の抽出能力に加えて,その事実が持つ法的意味を意識して分析する能力の体得が望ま
れるところである。
なお,日記を「供述書」に当たらないとする答案や,明文規定があるにもかかわらずその意味の理
解が不十分であるために法第321条第1項の「供述書」にも供述者の署名押印が必要であるとする
答案が散見された。基本的事項の正確・着実な理解が望まれるところである。
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