自 白

2012年度冬学期「刑事訴訟法」15
自 白
ポイント
○自白の証拠能力(自白法則)
・証拠能力否定の法的根拠
・証拠能力否定の実質的根拠
・3つの異なった考え方の異同
・それぞれの考え方に立った場合の証拠能力の判定方法
・その適用
○補強証拠
・補強法則の趣旨・存在理由
・補強証拠としての適格
・補強を必要とする範囲
・共犯者の自白と補強証拠の要否
自白の証拠能力: 自白法則
○憲法38条2項
①強制,拷問,脅迫による自白
②不当に長く抑留・拘禁された後の自白
○ 刑訴法319条1項
①,②
+
③任意にされたものでない疑いのある自白
検察官に挙証責任
不任意自白排除の根拠
○虚偽排除説
⇒その自白どおりの事実が判明したときは?
ex. 自白どおりの場所で被害者の遺体や犯行に用いられた凶器が
発見された場合
⇒当の自白自体と派生証拠(ex.凶器)それぞれの証拠能力は?
○人権擁護説・・・黙秘権侵害の効果
⇒約束や利益誘導などにより誘発された自白の場合,自由意思
(任意)により供述したものではないか?
○違法排除説
⇒仮に,任意性を奪うような取調べ方法=違法とはいえても,
違法な手続により得られた自白=直ちに,言葉の通常の意味
での「任意性」がないとまではいえないのではないか?
ex. 違法な身柄拘束中になされた自白
自白の証拠能力が問題とされる場合の例(1)
1.任意性に疑いがある自白
a.「強制,拷問又は脅迫」にはあたらないものの,何らかの物理
的又は心理的圧迫が加えられた場合
・連日連夜の執ような取調べ
・精神的・肉体的に疲労困ぱいした被疑者に対する強圧的取調べ
・手錠をかけたままの取調べ⇒反証のない限り任意の供述期待できないものと
推定,あるいは特別の事情のない限り任意性を否定
b.被疑者の心身の状況に問題がある場合
・ほとんど睡眠がとれないまま長時間の取調べを受けた場合
・睡気と疲労の著しい状態や激痛を伴う病状にある被疑者について格段の配慮
を示すことなく取調べがなされた場合
c.約束による自白
・自白すれば起訴猶予にする旨の検察官の約束
・自白すれば釈放するという趣旨に理解されうる捜査官の言葉
・罰金ですます旨の暗示
・近親者に弁護費用を持参さず旨の約束
d. 偽計による自白
・切り違え尋問により,共犯として逮捕中の妻が自白したと誤信させた場合
・現場から指紋が検出された,同棲していた女性がすべて供述したなどの虚
偽の事実を告げ,さらに,近親者に対して罪証隠滅の罪で強制捜査が考
慮されていると誤信させた場合
2.違法な手続で獲得された自白
a.黙秘権告知義務違反
b.弁護人選任権の侵害
c.弁護人との接見交通権の侵害
古い判例は,直ちに任意性を
失わせるものではないとする。
d. 違法な身柄拘束
・令状主義の精神を没却するような重大な違法のある場合
・違法な別件逮捕・勾留 or 余罪取調べの場合
約束・欺罔(偽計)による自白
○任意性否定の理由は何か?
・提示された利益を得るために迎合して虚偽の供述をするおそれ?
⇒欺罔でも同じ?
・本来供述する意思のない被疑者を供述させるに至らしめること?
⇒供述の自由を侵害したことになるか?
◇欺罔により供述させること(←約束の不履行)が問題?
⇒約束が守られれば任意性認められる?
・約束をすること自体が違法?
⇒何故違法か?その根拠は?
◇欺罔することが違法?
⇒約束が守られれば任意性認められる?
自白の補強証拠
○憲法38条3項,刑訴法319条2項
*証拠能力の制限ではない。証拠能力があり,それ自体としては信用性があると
認められる場合であっても,妥当する。
○その趣旨は何か?
・捜査過程における自白追求偏重の是正?
・不当な取調べによる誤った自白のおそれ?
⇒公判廷の自白には妥当しない(当初の最高裁判例)?
⇒319条2項の明文に反する。
・任意になされ,それ自体としては信用できるように見える自白であっても,
虚偽のおそれがある(ex.身代り犯の場合)ため?
・架空の事実を犯罪としてでっち上げられる危険の回避?
補強証拠としての適格
○補強証拠となりうるのは自白から独立の証拠
⇒本人が行った他の自白・不利益な供述は不可
当の自白の内容をただコピーしたに過ぎないもの(ex. 当の
自白に基づいて作成・提出された被害届)も不可
⇒当の刑事手続より前に,それとは全く無関係に本人が行った供述は?
*判例は,そのような供述は真実性と信用性が極めて高く,独立の証拠価
値があるから,補強証拠となり得るとしているが,異論も
補強証拠による補強の範囲・程度
○自白の真実性を示すものであることが必要で,かつそれで足り
るとする説
○罪体説
「罪体(corpus delicti)」(犯罪の客観的部分)について,その存在を示すも
のであることが必要で,かつそれで足りるとする。
⇒両者の具体的差異は?
・犯罪の客観的部分の一部について補強証拠がない場合
・犯罪の主観的要素(故意,目的等)についての補強証拠の要否
・犯人性(被告人が当該犯罪の犯人であること)については?