被疑者と弁護人の接見交通と 捜査機関による接見指定

2012年度冬学期「刑事訴訟法」10-2
被疑者の権利(2)
ポイント
○弁護人の援助を受ける権利の保障
◇その行使を担保する制度
◇接見交通
・接見交通権の憲法上の位置付けと接見指定制度の趣旨
・接見指定権行使の要件
・接見指定の内容の適否
・起訴後の余罪捜査を理由にする接見指定の可否
○防御の準備のための手続
○権利侵害に対する救済
○弁護人の援助を受ける権利
・弁護人依頼権
憲法34条(身柄拘束された被疑者)
⇒刑訴法30条(すべての被疑者)
・国選弁護人選任請求権
憲法37条3項,刑訴法36条(被告人のみ)
⇒(改正)刑訴法37条の2(重大事件の被疑者)
(被疑者が身柄拘束中の場合)接見交通権
刑訴法39条1項
刑事訴訟法一部改正(2004年)
刑訴法37条の2
・必要的弁護事件(死刑又は無期若しくは長期3年を超える
懲役・禁固に当たる罪)
・勾留状が発せられているか,発せられる場合
・貧困その他の事由により自ら弁護人を選任できないとき
⇒請求により,裁判官が弁護人を選任
・資力申告書の提出,or
・弁護士会への選任申出によっても弁護人選任できな
かったこと
国選弁護人の選任を担保する体制
○総合法律支援法(2004年)
⇒「日本司法支援センター」(通称「法テラス」)の設置
・全国各地に支部
・常勤を含む契約弁護士
⇒捜査・公判にわたる国選弁護人の確保
・裁判官・裁判所の求めに応じて候補者を指名(⇒裁判官・
裁判所による選任),報酬の支払い等
*法律扶助,弁護士過疎対策,被害者援助も
◆逮捕後勾留前の段階については,弁護士会の当番弁護士制度でカヴァー
接見交通についての現行法の制度枠組
○弁護人・弁護人となろうとする者との接見交通とそれ以外の者
との接見交通との異同
〔弁護人等以外との接見交通〕
・刑訴法80条(法令の範囲内で)
⇒監獄法,同施行規則120条以下(立会い等)
・刑訴法81条(接見禁止)⇒207条
逃亡・罪証隠滅のおそれ
〔弁護人等との接見交通〕
・刑訴法39条1項(立会人なく接見)
・同条2項(法令で逃亡・罪障隠滅・戒護に支障のある物の
授受を防ぐ措置)⇒接見室に仕切りを設ける等
・同条3項(捜査機関による接見日時・場所・時間の指定)
接見指定に関する問題点
○指定制度の合憲性 ⇒百選36最高裁大法廷判決
○指定の方式:一般的指定制度(従前)の適法性
⇒通知制度への変更 ・・・参考文献(PDFファイル)参照
○指定権行使の要件・・・「捜査のために必要」の意義
・捜査の必要一般?
or
・現に取調べ中ないしそれに準ずる場合に限る?
○指定の方法
・指定書受取り・持参の要求の適否
○指定内容の適否
・日時,時間
接見指定制度の趣旨と接見指定の要件
○平成11年最高裁大法廷判決〔百選36〕等
「接見交通権の行使と捜査権の行使との間〔の〕合理的な調整」
・捜査の必要一般との比較衡量
⇒罪証隠滅のおそれがあるときも「・・・等により捜査に顕著な支障が生じ
る場合」に当たる(無限定説)
or
・身柄拘束期間の制限があることの故に必要となる調整
⇒身柄を用いた捜査(被疑者の取調べ,実況見分への立会い等)の必要
との調整
・現に取調べ,立会い中の場合に限る(限定説)
or
・間近に予定のある場合も含む(準限定説)
・・・・・最高裁判例
起訴後の余罪捜査と接見指定
○最決昭和41年7月26日・刑集20巻6号728頁(千葉大チフス菌事
件)
「およそ,公訴の提起後は,余罪についての捜査の必要がある場合で
あっても,検察官等は,被告事件の弁護人または弁護人となろうとす
る者に対し,〔接見〕指定権を行使しえない」
○余罪被疑事件についても身柄拘束がなされている場合は?
・被告事件については指定不可,被疑事件については指定可とする考え方
・公訴提起後は接見交通権が絶対的に優位し,指定は不可とする考え方
・接見交通権と接見指定の権限の間に優劣を認めず,具体的状況のもとで
両者の合理的調整を図るべきだとする考え方
○百選39最高裁決定の趣旨
・接見交通権絶対優位説は不採用
・接見交通権と接見指定権とを対等のものとして位置付け,指定の内容
において両者の調整を図ればよいという考え方?
・原審はその考え方
・刑訴法39条3項で「公訴提起前に限り」とされていることが無意
味にならないか?
○被疑者側による防御の準備
・証拠保全
刑訴法179条
⇒裁判官に押収,捜索,検証,証人尋問,鑑定の処分
を請求
権利侵害に対する救済
○当該刑事手続内での救済等
・準抗告・・・百選35
・勾留審査による勾留請求却下
・証拠排除
○当該刑事手続外での救済等
・国家賠償
・懲戒処分
参考文献
①井上正仁「被疑者と弁護人の接見交通」
刑事訴訟法判例百選(第6版)40頁以下
②井上「起訴後の余罪捜査と接見指定」
研修450号3頁以下