上級刑事訴訟法

2012年度冬学期「刑事訴訟法」2
職務質問・所持品検査
ポイント
○職務質問のための停止行為の限界
○職務質問のために必要な他の措置の許否
○職務質問に伴う所持品検査
法的根拠
要件・限界
職務質問のための停止
○警職法2条1項(停止させて質問)
3項(刑事訴訟に関する法律の規定によらない
限り,身柄拘束,答弁強要は不可)
停止=任意,身柄拘束に及んではならない。
東京高判昭和49年9月30日・刑裁月報6巻9号960頁
×静止を余儀なくさせる有形的動作・威嚇
×説得の域を超えた長時間の留め置き
⇒それに当たると「身柄拘束」?
or 任意の限界超え違法?
Cf. 東京高判昭和52年10月31日
・刑裁月報9巻9=10号675頁
自動車の停止
・最(一)決昭和53年9月22日・刑集32巻6号1774頁
・最高裁平成6年決定(百選2)
⇒いずれも①職務質問要件+②道交法上の危険防止措置の
必要,を正当化の理由に
⇒②の要因がない場合は?
Cf.東京高判昭和54年7月9日・判例時報948号126頁
職務質問のための任意同行
○警職法2条2項(同行)
⇒これも「身柄拘束」に及んだり,意に反することは不可
=任意同行
取調べのための任意同行(刑訴法197条1項)に類似
⇒次回
職務質問のために必要な他の措置の許否
最(一)決平成15年5月26日・刑集57巻5号620頁
・ホテルの経営者から,不審な行動をし覚せい剤使用の疑いもある男が宿
泊している旨の通報を受けて,その男が宿泊している客室に赴いた警
察官が職務質問をしようとしたところ,その男が客室の内ドアを少し開
だけで,慌てて閉めたので,その男が内側から押さえているドアを警察
官が押し開け,足を踏み入れて閉鎖を防止したこと
⇒職務質問を継続し得る状況を確保するための措置であり,職務質問に
付随するものとして適法
所持品検査: 関連規定
○警職法には直接の規定なし
2条4項(被逮捕者についての凶器所持の有無の点検)
○銃刀法24条の2
「 警察官は、銃砲刀剣類等を携帯し,又は運搬していると
疑うに足りる相当な理由のある者が,異常な挙動その他周
囲の事情から合理的に判断して他人の生命又は身体に危
害を及ぼすおそれがあると認められる場合においては,銃
砲刀剣類等であると疑われる物を提示させ,又はそれが隠
されていると疑われる物を開示させて調べることができる。」
警職法の一部を改正する法律案
(1958年10月20日内閣提出第27号)
第2条に第3項として次の規定を追加
「警察官は,第1項の質問に際し,異常な挙動その他周囲の
事情から合理的に判断して何らかの罪を犯し,又は犯そうと
していると疑うに足りる相当な理由のある者が,凶器その他
人の生命又は身体に危害を加えることのできる物件・・・を所
持していると疑うに足りる相当な理由があると認められるとき
は,その者が身につけ,又は携えている所持品を提示させて
調べることができる。」
米子銀行強盗事件最高裁判決(百選4)の要点
1)所持品検査・・・口頭の質問に密接に関連,必要・有効
⇒職務質問に付随して許される場合がある。
2)所持品検査において,
①捜索に至らない程度の行為は,
②強制にわたらない限り,
相手方の承諾がなくても,許される場合がある。
3)権利侵害を伴う⇒必要性・緊急性,侵害される個人の権利と公
共の利益との権衡などを考慮し,具体的状況の下において
③相当と認められる限度で許される。
所持品検査の限界(1)
①捜索に至らない
・「捜索に類する」,「捜索に等しい」という評価の意味
・判断基準は?
Cf.最(三)決平成7年9月30日・刑集40巻5号703頁
最高裁(第一小法廷)昭和53年判決(大阪覚せい剤事件百選94)
東京高判昭和47年11月30日・高刑集25巻6号682頁
⇒捜査の過程で同様の検査が行われた場合,捜索に当た
ることにならないか?
・梱包物のX線検査を強制処分としての「検証」に当たるとした最高裁
判例(百選33)
所持品検査の限界(2)
②強制にわたらない
・捜索に至らないこととは独立の要件?
・捜索には至らないが,強制にわたるというのは,どのような
場合か?
⇒例えば,対象者が携行していたバッグに覆い被さって開披を拒むの
で,警察官が実力でその抵抗を排除してバッグを取り上げ,チャッ
クを開けて中を一瞥すること?
所持品検査の限界(3)
③相当性
必要性・緊急性
公共の利益
権利侵害
⇒具体的事案に応じた限界設定
・凶器所持の疑いの有無により左右されるか?
⇒捜査における任意処分の限界と同様の判断枠組み?
アメリカの判例法との比較
【アメリカ】
合衆国憲法修正4条(unreasonable search and seizureの禁止)
⇒判例(Terry v. Ohio, 392 U.S. 1 (1968))
○stop and friskも「捜索・押収」
○しかし,警察官の安全確保という正当な目的,侵害の程度軽度・短時間
・reasonable suspicion(逮捕や通常の捜索・押収のために必要な
probable causeよりは弱く,そのような疑いを抱いても不合理で
ないといえる具体的事実があれば足りる。)があるとき
・凶器所持の有無を確かめるため
・令状によらなくても
・(第一次的には)着衣の外側のpat downが許される(unreasonableではない)
【日
本】
憲法35条・33条(堅い令状主義)
⇒「捜索・押収」に当たると「正当な理由」および令状が必要
明示的な法律上の根拠規定も不存在
⇒判例による許容性の基準
参考文献
①酒巻匡「行政警察活動と捜査(1)(2)」
法学教室285号47頁,286号55頁以下
②金谷利廣「所持品検査の限界」
新関雅夫ほか『増補令状基本問題(下)』290頁以下
③大澤裕=辻裕教「ホテルの客室における職務質問と
それに付随する所持品検査」
法学教室308号76頁以下