Law and Economics 2 (4) 不法行為の経済分析 今日の講義の目的 (1) 不法行為に基づく損害賠償ルールを理解する (2) 戦略型ゲーム、反応曲線、ナッシュ均衡という 概念を思い出す (3) 損害賠償ルールが資源配分と関連していること を理解する 法と経済学2 1 不法行為(Tort)の例 (1) 隣家の騒音によって被害を受けている(前回講義 でやった例) (2) ボールが球場から飛び出して駐車していた自動車 を傷つけた (3) 自動車事故 (4) 医療過誤 (5) 指導教官がちゃんと指導しなかった(??) (6) テレビが火を噴いて火事になった→第4講 法と経済学2 2 民法第709条 (不法行為の一般的要 件・効果) 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護さ れる利益を侵害した者は、これによって生じた損 害を賠償する責任を負う。 ・故意または過失 ・権利侵害+損害 ・予見可能 ・損害との因果関係 法と経済学2 3 民法717条第1項(土地の工作物等の 占有者及び所有者の責任) 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによ って他人に損害を生じたときは、その工作物の占 有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任 を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止する のに必要な注意をしたときは、所有者がその損害 を賠償しなければならない。→無過失責任ルール (厳格責任ルール) 法と経済学2 4 損害賠償の2つの大きなルール:厳 格責任ルール (1) 厳格責任ルール:加害者の過失の有無によらず 加害者が賠償責任を負う (1') 寄与過失を認めた厳格責任ルール:被害者に過 失があるときのみ加害者は免責 (1'') 2重に寄与過失を認めた厳格責任ルール:被 害者に過失があり、加害者に過失がないときの み加害者は免責 法と経済学2 5 損害賠償の2つの大きなルール:過 失責任ルール (2)過失責任ルール:加害者が過失のあるときのみ 賠償責任を負う (2')寄与過失を認めた過失責任ルール:加害者に過 失があり被害者に過失がないときのみ賠償責任 を負う 法と経済学2 6 厳格責任ルール(strict liability) 被害者の 過失有 被害者の 過失無 加害者の 過失有 賠償責任有 賠償責任有 加害者の 過失無 賠償責任有 賠償責任有 法と経済学2 7 寄与過失を認めた厳格責任ルール 被害者の 過失有 被害者の 過失無 加害者の 過失有 免責 賠償責任有 加害者の 過失無 免責 賠償責任有 法と経済学2 8 2重に寄与過失を認めた厳格責任ルール 被害者の 過失有 被害者の 過失無 加害者の 過失有 賠償責任有 賠償責任有 加害者の 過失無 免責 賠償責任有 法と経済学2 9 過失責任ルール(negligence) 被害者の 過失有 被害者の 過失無 加害者の 過失有 賠償責任有 賠償責任有 加害者の 過失無 免責 免責 法と経済学2 10 寄与過失を認めた過失責任ルール 被害者の 過失有 被害者の 過失無 加害者の 過失有 免責 賠償責任有 加害者の 過失無 免責 免責 法と経済学2 11 賠償責任を認めないルール 被害者の 過失有 被害者の 過失無 加害者の 過失有 免責 免責 加害者の 過失無 免責 免責 法と経済学2 12 モデル 潜在的加害者の事故回避努力X、そのための費用C(X) 潜在的被害者の事故回避努力Y、そのための費用D(Y) 事故確率P(X,Y), それぞれ関数は微分可能で利得関数は凹関数 事故の社会的費用 P(X,Y)L+C(X)+D(Y) これを最小にするXとYをX*,Y*とする。 1階条件(∂P/ ∂X)L+C' =0, (∂P/ ∂Y)L+D' =0 法と経済学2 13 過失があるとは? ・事故回避のために取るべき十分な努力をしていなか った ・事故を完全になくすことはできない。どこまで努力 すれば過失がないと認められるのか? ハードルがとんでもなく高くて実現不可能 ⇒過失責任の体裁を取っていても実質は厳格責任 合理的な努力(なすべき努力) ⇒その努力をする費用<回避できる損失(の期待値) となる努力(ハンドルール) 法と経済学2 14 モデル 潜在的加害者は、賠償金の期待値と自分の注意費用 C(X)の和を最小化するようX∈[0, ∞)を決め、潜在的 被害者は、(L - 賠償金)の期待値と自分の注意費用 D(Y)の和を最小化するようY ∈[0, ∞)を決める(同時 決定)。 法と経済学2 15 最適な努力の誘因 ・潜在的加害者が常に全額を賠償 加害者の損失 P(X,Y)L+C(X)を最小化する 最小化の1階条件(∂P/∂X)L+C' =0 →被害者の努力水準を所与として加害者は最適な努 力をする ・潜在的被害者が常に全額を賠償 被害者の損失 P(X,Y)L+D(Y)を最小化する 最小化の1階条件(∂P/∂Y)L+D' =0 →加害者の努力水準を所与として被害者は最適な努 力をする 法と経済学2 16 双方に常に全額負担させる 最小化の1階条件(∂P/∂X)L+C' =0 最小化の1階条件(∂P/∂Y)L+D' =0 が満たされる ⇒双方が最適な努力をする~効率的な資源配分 法と経済学2 17 双方全額負担 加害者の反応曲線 Y ナッシュ均衡 被害者の反応曲線 Y* 0 法と経済学2 X* X 18 双方に常に全額負担させる事の問題点 (1)そもそもこれでは損害賠償のルールではない (2)訴訟が常に起きない (2a)被害者の泣き寝入り⇒これを予想すれば加 害者は努力しなくなる (2b)被害者と加害者が表沙汰にしないで交渉⇒ これを予想すれば加害者・被害者の努力水準が過 小に 賠償ルールによってどうやって効率的な資源配分を達 成するか? 法と経済学2 19 厳格責任 加害者の反応曲線 Y 効率的な状況 補償ゼロの場合の 被害者の反応曲線 Y* X 0 法と経済学2 X* 被害者の ナッシュ均衡 反応曲線 20 過失認定 X <X* ⇒加害者に過失有り Y <Y* ⇒被害者に過失有り 法と経済学2 21 寄与過失を認めた厳格責任 補償ゼロの場合の被害者の反応曲線 Y 加害者の反応曲線 Y* 0 被害者の 反応曲線 X* X ナッシュ均衡 法と経済学2 22 2重に寄与過失を認めた厳格責任 加害者の反応曲線 Y ナッシュ均衡 被害者の反応曲線 Y* 0 法と経済学2 X* X 23 過失責任 加害者の反応曲線 Y ナッシュ均衡 被害者の反応曲線 Y* 0 法と経済学2 X* X 24 問題:寄与過失を認めた過失責任での 加害者の反応曲線は? 過失責任ルールの下で の加害者の反応曲線 Y 被害者の反応曲線 Y* 0 法と経済学2 X* X 25 問題:寄与過失を認めた過失責任での 被害者の反応曲線は? 過失責任ルールの下で の加害者の反応曲線 Y 被害者の反応曲線 Y* 0 法と経済学2 X* X 26 問題:ナッシュ均衡は? 加害者の反応曲線 Y 被害者の反応曲線 Y* 0 法と経済学2 X* X 27 小括 (1) 4つのルール(寄与過失を認めた厳格責任、2 重に寄与過失を認めた厳格責任、過失責任、寄与 過失を認めた過失責任)で効率的な資源配分が達 成される。 ・結果的には一方のみが全額負担する。負担する者 は事故回避努力をする誘因を持つ。 ・結果的に損害を負担しない者も、効率的な事故回 避努力をしないと負担を強いられるので、負担を 回避するために努力する。 法と経済学2 28 小括 (2) 過失責任なら結果的に被害者が、厳格責任なら 結果的に加害者が損害を負担する。どのルールに するかは所得分配には影響を与える。 (3) 被害者の行動が事故確率に影響を与えなければ 単純な厳格責任でも効率的な資源配分。 法と経済学2 29 過失責任と厳格責任の違い (1) 所得分配・公正性 (2) 裁判が起こるか起こらないか⇒過失責任なら完 備情報の下では裁判、和解交渉は起きない (3) どちらの過失を認定しやすいか? X*は正確に分かるがY*はよく解らない ⇒過失責任の方が効率的な資源配分になりやすい (4) 被害者加害者どちらの方が危険回避的か・どち らの方が保険市場にアクセスしやすいか⇒保険市 場にアクセスしにくい主体に負担させると、リス クプレミアムの分だけ資源配分のロスが大きい 法と経済学2 30 過失相殺 どちらか一方の全額負担ではなく、過失の程度に応 じて双方に負担させる。負担割合は双方の過失の 割合に依存させる ⇒事故回避努力をすれば負担割合が下がるので、そ のスケジュールをうまく設計すれば効率的な努力 を引き出すことができる 法と経済学2 31 民法418条(過失相殺) 債務の不履行に関して債権者に過失があった ときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠 償の責任及びその額を定める。 法と経済学2 32 過失相殺の特徴 (1) 結果的に双方に負担させることが可能で負担の 公正を達成しやすい (2) X=X*でも過失有り、と認定することは可能。単 純な過失責任ルールでこれをやると過大な事故回 避努力をうむ⇒過失相殺ルールの方が過失を認定 しやすい(過失なしとされるハードルが高い) ・日本における過失認定がハンドルールが想定する より厳しい(なかなか無過失と言ってくれない)と しても、過失相殺を前提とする限り非効率的なル ールであるとは言えない 法と経済学2 33 問題 裁判所の損害認定額が実際の損害額より小さいとする (例)思い入れのあるものを壊された →賠償額は市価をベースに算定される (1) 寄与過失を認めた厳格責任ルール (2) 過失責任ルール (3) 過失相殺ルール それぞれのルールで効率的な注意水準X*、Y*を実現で きるかどうか考えよ。 ただし過失の認定基準は加害者はX=X*、被害者は Y=Y*で変化ないとする。 法と経済学2 34
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