Product Diversification, Entry

法と経済学2 (12)
情報の経済学と上場ルール
今日の講義の目的
(1) モラルハザード、逆淘汰、シグナリングという概
念を思い出す
(2) 会社法、金融商品取引法、上場規則の関係を理解
する
(3) インサイダー取引規制と経済厚生の関係を理解す
る
法と経済学2
1
株式会社に対する法規制
(1) 会社法
(2) 証券取引法(金融商品取引法)~公開会社のみ。
(3) 上場規則~上場会社のみ。市場ごとに異なる部分も
ある。
⇒企業は適用される法律をある程度は選択できる。
・非公開にする ・どこに上場するのかを選ぶ
上に行くほど強行法規性を弱める、あるいは本当に基
本的な事項に限定する必要がある。⇒会社法の任意
法規化~定款で変えられるようにする。
法と経済学2
2
なぜ上場規則は強行法規性が強いの
か?(強くてもいいのか?)
上場規則は一般に強行法規制が強い。
・社外取締役に関する規制(米国)・情報開示・株主分布
なぜ強行法規制が強くてもいいのか?
(1) 市場間の競争(ひどいルールは淘汰される)
(2) 企業が市場を選択できる(非公開も選択できる)
(3) スタンダードパッケージ論~同じ市場に属している
企業のルールが全て同じならいちいち定款を読まなく
ても基本的な性質が分かるから、取引費用を節約
法と経済学2
3
上場規則に関する淘汰 vs 逆淘汰
市場は原理的に複数存在しうるし、実際に存在し
ている→市場間の競争が起こりえる。
(会社法でも同様の競争が起こる可能性がある。企
業が国や州を選ぶケース。)
伝統的な2つの見方
(1) 競争が企業に有利で投資家に不利な悪い規制体
系を生み出す(保護の水準が切り下がる:逆淘汰)
(2) 競争が企業・投資家双方にとって効率的な良い
規制体系を生み出す(悪い市場は淘汰される)
法と経済学2
4
淘汰の優位性
逆淘汰の見方
→約款が消費者にとって最悪の条項ばかりを含む
ようになるという見方と同じメカニズム
~投資家は規則に無関心で企業がそれをよく知っ
ていれば自然とそうなる
しかし、現実には規則に敏感な機関投資家やアナ
リストが存在する
⇒逆淘汰の見方は成立しないケースが多い
法と経済学2
5
競争で効率的な市場が生き残る?
ネットワーク外部性~ネットワークに属する者の数
が増えるとネットワークに属する者の利益が増え
る
(例) 電話、FAX、電子メール・インターネット、
ゲームソフト・ビデオの規格、パソコンのOS、
パソコンソフト
株式市場も同様の性質
多くの企業が上場⇒多くの投資家が注目し流動性が
高まる⇒その市場に上場するメリットが高まる
法と経済学2
6
ネットワーク外部性と淘汰
ネットワーク外部性のある市場の特徴
⇒最も効率的な者が生き残るとは限らない。偶然
や歴史的経緯によって決まることも~生き残る
株式市場が最も効率的という保証はない。
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7
情報の経済学のキーワード
(1) モラルハザード
(2) 逆淘汰(逆選択:Adverse Selection)
(3) シグナリング(Signaling)
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8
情報の非対称性
情報の非対称性(情報の偏在):人によって持っている
情報が違う
Hidden Action: ある人がとった行動が別の人にはわ
からない
(例)事故が起きなかったのは監督者ががんばったか
らか、たまたま運が良かったのかわからない。
Hidden Information:ある人の性質が別の人にわから
ない
(例)事故が起きなかったのは監督者が優秀だからか、
たまたま運が良かったのかわからない。
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9
Hidden Action?
プロジェクトの成否は責任者の過去の経験に依存する。
責任者は自分の経験を知っているが、発注者はそれ
を知らない~Hidden Informationの問題
プロジェクトの成否は責任者の今後の努力に依存する。
責任者は自分の努力の有無を認識しているが、発注
者にはわからない~Hidden Actionの問題
講義が面白いか否かは9月30日までの準備状況に依存。
教員は準備を十分したか否かを知っているが、学生
はそれを知らない~Hidden Informationの問題
講義が面白いか否かは今後の教員の努力に依存。教員
は努力の有無が認識できるが、学生はそれを知らな
い~Hidden Actionの問題
法と経済学2
10
Hidden Information?
法ルールを変える時点では既に人が行動を取った後。で
もどの行動を取ったのか本人は知っているけれど政策
当局は知らない。これを前提に法ルールの設計を考え
る~Hidden Informationの問題
契約を結ぶ時点では既に売手は行動を取った後。でもど
の行動を取ったのか売手は知っているけれど買手は知
らない~Hidden Informationの問題
契約を結ぶ時点では売手はまだ行動を取っていない。契
約が売り手の行動に影響を与える。でも売り手が事後的
にどんな行動を取ったのかは買手にはわからない~
Hidden Actionの問題
法と経済学2
11
情報の非対称性
Hidden Action: →モラルハザード
(例) 固定給だとさぼってしまう。有限責任制のも
とで過度にリスクをとる。保険にはいると事故
回避努力を怠る。経営者が株主の利益を無視し
て保身に走る。
Hidden Information: →逆選択(逆淘汰)
→シグナリング
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12
代理人問題とモラルハザード
代理人問題
依頼人ー代理人
代理人は依頼人の利益のために働く。代理人の行動が
依頼人には分からない。どうやって代理人の適切な
行動を引き出すか?
依頼人ー代理人関係の例
株主ー経営者、債権者ー株主、経営者ー従業員
保険会社ー保険加入者、依頼者ー弁護士
患者ー医者、注文主ー請負業者、製造者ー買手
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モラルハザードの費用負担
固定給だとさぼってしまう。
→給与を所与とすれば、従業員にとって合理的な行
動?
→雇用主はこのモラルハザードを読み込んで(つまり
従業員の生産性が低いことを織り込んで)低い賃金
しか払わない。
⇒最終的には雇用主、従業員双方にとって不利益。
~一生懸命働くことをコミットできればパレート改善の
余地があるが、情報の非対称性のためにこれが単
純な固定報酬契約ではうまくいかない。
法と経済学2
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モラルハザードへの対応
(1)自分で監督する~完全に監視できなくてもある程
度の情報があれば対応策が広がる。
⇒効率賃金仮説、継続的取引
(2)誰かに代理人を監督してもらう。
(例)債権者の代表としてメインバンクが監視、株主の
代わりに社外取締役が経営者を監視
→その監督者のモラルハザードをどう防ぐのか?~
Who monitors the monitors
(3)依頼人と代理人の利害の乖離を小さくするような
incentiveを作り出す契約を結ぶ。
法と経済学2
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incentive契約
努力する程代理人の報酬が増えるようにする。しかし努力し
たかどうかは直接には分からない。
⇒努力と一定の相関を持つ他の指標と報酬をリンク
(例)成功報酬、歩合給、ストックオプション、成果に基づく昇
進
(問題)代理人のリスクが増大~このバランスをどうする
か?
100%の成功報酬(賃貸契約はこのように解釈可能)
⇒収益変動のリスクを全て代理人に負わせることになる~
これは効率的か?
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期待値
くじ1 確率0.5で100、確率0.5で0もらえるくじ
くじ1の収益の期待値~平均的な収益金
0.5×100+0.5×0=50
くじ2 確率1で30もらえるくじ
くじ2の収益の期待値1×30=30
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期待収益最大化仮説
合理的な人間は収益の期待値の最も大きな選択肢を
選ぶ
前の例ならくじ1を選ぶ
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期待収益最大化仮説再考
くじ3~確率0.9で100億円、確率0.1で0円もらえる。
収益の期待値○○億円。
くじ4~確率1で10億円もらえる。収益の期待値〇〇
億円。
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期待収益最大化仮説再考
くじ5~確率0.99で100億円、確率0.01で0円もらえる。
収益の期待値○○億円。
くじ6~確率1で98億円もらえる。収益の期待値〇〇
億円。
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期待効用最大化仮説
人は収益の期待値ではなく、その収益から得られ
る効用の期待値を最大化する。
0.99×U(100)+0.01×U(0)<U(98)ならくじ6を選
ぶ
この効用関数をフォン・ノイマン=モルゲンシュ
タイン型効用関数(NM型効用関数)という
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パターン1
通常の人は所得が増えるほどうれしい(効用が上が
る)が、その上がり方は逓減する。←貧乏なとき
の100万円は金持ちの時の100万円よりうれしい
U
0
法と経済学2
Y
22
問題:パターン1の場合確率1で200得
るくじ1と確率0.5で100、0.5で300得
るくじ2のどちらを選択するか?
U
0
法と経済学2
Y
23
パターン2
貧乏なときの100万円より金持ちの時の100万円がよ
りうれしい
U
0
法と経済学2
Y
24
問題:パターン2の場合確率1で200得る
くじ1と確率0.5で100、確率0.5で300
得るくじ2のどちらを選択するか?
U
0
法と経済学2
Y
25
パターン3
貧乏なときの100万円と金持ちの時の100万円のう
れしさは同じ
U
0
法と経済学2
Y
26
問題:パターン3の場合確率1で200得
るくじ1と確率0.5で100、確率0.5で
300得るくじ2のどちらを選択?
U
0
法と経済学2
Y
27
問題
確率1で200得られるくじ7と確率0.4で100、確率
0.6で300もらえるくじ8のどちらかを選択できる
とき、ある人はくじ8を選択した。このとき次
の文章の中が正しいか誤りであるか考えよ。
(a) この人は必ず危険愛好者であるはずである(危
険中立者でも危険回避者でもない)
法と経済学2
28
問題
確率1で200得られるくじ7と確率0.4で100、確率
0.6で300もらえるくじ8をあわせて10枚もらうこ
とができる。このとき、ある人はくじ8を6枚、
くじ7を4枚もらうことにした。このときこの人
は危険愛好者であるか、危険中立者あるか、危
険回避者であるか。
ただし仮にくじ8を複数枚もらった場合、その全て
が当たりかその全てがはずれかのいずれかとな
る。
法と経済学2
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問題
確率1で200得られるくじ7と確率0.4で100、確率
0.6で300もらえるくじ8をあわせて10枚もらうこ
とができる。
ただし仮にくじ8を複数枚もらった場合、その全
てが当たりかその全てがはずれかのいずれかと
なる。
10枚全てくじ7にしたときの収益の期待値は?
法と経済学2
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問題
確率1で200得られるくじ7と確率0.4で100、確率
0.6で300もらえるくじ8をあわせて10枚もらう
ことができる。
ただし仮にくじ8を複数枚もらった場合、その全
てが当たりかその全てがはずれかのいずれかと
なる。
10枚全てくじ8にしたときの収益の期待値は?
法と経済学2
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問題
確率1で200得られるくじ7と確率0.4で100、確率
0.6で300もらえるくじ8をあわせて10枚もらうこ
とができる。
ただし仮にくじ8を複数枚もらった場合、その全て
が当たりかその全てがはずれかのいずれかとな
る。
5枚くじ8、5枚くじ7にしたときの収益の期待値
は?
法と経済学2
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問題
確率1で200得られるくじ7と確率0.4で100、確率
0.6で300もらえるくじ8をあわせて10枚もらうこ
とができる。
ただし仮にくじ8を複数枚もらった場合、その全
てが当たりかその全てがはずれかのいずれかと
なる。
危険中立者はくじ8を何枚もらうことになるか?
法と経済学2
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問題
確率1で200得られるくじ7と確率0.4で100、確率
0.6で300もらえるくじ8をあわせて10枚もらうこ
とができる。このとき、ある人はくじ8を6枚、
くじ7を4枚もらうことにした。このときこの人
は危険愛好者であるか、危険中立者あるか、危
険回避者であるか。
ただし仮にくじ8を複数枚もらった場合、その全て
が当たりかその全てがはずれかのいずれかとな
る。
法と経済学2
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通常は人は危険回避的か危険中立
的であると仮定
(理由)
・多くの人は保険に入る
・リスクの高い金融商品の期待収益率は高い
法と経済学2
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リスク・プレミアム
リスク・プレミアム:人がリスクを引き受けるとき
に要求する収益の上乗せ~リスクの費用
選択肢5 確率qで100、確率1 - qで0の収益
選択肢6 確率1でYの収益
選択肢5と6が無差別になるYをYC(確実同値額)と
する
リスク・プレミアム
100q(選択肢5の収益の期待値)- YC
~リスクを取る時どれだけ期待収益が高くないとだ
めかを表している
法と経済学2
36
リスク・プレミアム
確率0.5でY2円、確率0.5で0円もらえるくじのリス
ク・プレミアム
U
リスク・プレミアム
確実同値額
0
法と経済学2
0.5Y2
Y2
Y
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問題:確実同値額を図示せよ
確率0.9でY2円、確率0.1で0円もらえるくじの確
実同値額
U
0
法と経済学2
0.9Y2 Y2
Y
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問題:リスク・プレミアムを図示せよ
確率0.9でY2円、確率0.1で0円もらえるくじのリス
ク・プレミアム
U
0
法と経済学2
0.9Y2 Y2
Y
39
危険愛好者、危険中立者の
リスク・プレミアム
危険愛好者のリスク・プレミアムは?
リスクを取りたがっているので負になる
危険中立者のリスク・プレミアムは?
法と経済学2
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incentive契約
100%の成功報酬、依頼人の利益は固定、リスクは全て
代理人がかぶる(デフォルトがないとすれば借入契約、
賃貸契約はこの形態に近い)
→代理人は努力する誘因を持つ
→代理人の危険回避度が依頼人のそれよりうんと小さ
ければ合理的
逆に依頼人の危険回避度が小さく代理人のそれが大き
い場合には、危険にともなう社会全体の費用を増や
す。
(問題) 代理人のリスクが増大~このバランスをどうす
るか?
法と経済学2
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リスク分担
代理人が危険回避的であれば100%の成功報酬はリス
クに伴う費用を過大にする可能性がある。
(例1) 株主(依頼人)は分散投資によってリスクを軽減で
きる。経営者(代理人)は複数の企業の経営によって
収益を分散することが相対的に難しい
(例2) 経営者(依頼人)が多くの営業要員(代理人)を雇っ
ている。営業員は担当地区のライバルの能力に応じ
て売り上げにリスクを伴うが、経営者は大数の法則
が働いてリスクを軽減できる
→依頼人の方がリスクを負う費用が小さい
こういう場合どういう契約が効率的か?
法と経済学2
42
成功報酬、成果賃金
H(大成功)
M(そこそこ)
L(失敗)
努力する
0.8
0.1
0.1
努力しない
0.1
0.1
0.8
比
8
1
1/8
比の高い状態でより高い報酬
WH>WM>WL:成功度に応じて報酬
法と経済学2
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成功報酬、成果賃金
H(大成功)
M(そこそこ)
L(失敗)
0.8
0.1
0.1
努力しない 0.5
0.4
0.1
努力する
比
8/5
努力していればまずMにはならないが、努力によって
Lの確率は減らせない
法と経済学2
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グレシャムの法則
グレシャムの法則:悪貨は良貨を駆逐する
金貨~金の含有量が違うものが混じっている
→できるだけ良質な貨幣を手元に置きたがる
→流通するのは悪貨ばかりになる
逆淘汰:グレシャムの法則の一般化~市場には品質の
悪いものばかりが生き残る。
通常の淘汰:品質の良いものが生き残る←良いものが
悪いものと同じ価格で売られていたら悪いものを買う
人はいなくなる~これは消費者がよいものと悪いもの
を区別できることが前提。
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逆淘汰
品質は売手だけが知っている。
良い物の費用の方が高い→消費者は品質を区別でき
なければ同じ価格で買う~低品質品の過大評価、高
品質品の過小評価
高品質品の方が費用が高ければ、高品質品の供給者
から順に市場から退出→最も低い品質の財の供給者
が最後まで市場に残ることになる
逆淘汰の世界での悪循環:価格低下→高品質品の供
給者から退出→市場での平均的な品質が低下→価
格が更に低下→高品質品の供給者がますます減る
→価格がますます低下→ひどい物だけが残る
法と経済学2
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複数均衡の可能性
(低品質均衡)消費者は低品質のものしかないと決めつ
ける→価格は低くなる→本当に低品質のものしか生き
残らない→消費者の予想したとおりの結果
(共存均衡)消費者は低品質のものも高品質のものもあ
ると予想→価格は平均的な品質に対応したものに→そ
の価格なら高品質品の供給者も生き残ることができる
→消費者の予想したとおりの結果
複数均衡が起こる条件
高品質、低品質が混じった時の価格
>高品質の費用>低品質のみの時の価格
法と経済学2
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逆淘汰への対応
・強制保険
・評判・信用のメカニズム←繰り返しゲーム
・シグナリング:自分の品質を直接は伝えられない
(直接伝えられるケースの議論:情報開示の議論)
→自分の選択行動を通じて間接的に自分の情報を相
手に伝える
⇒これが更なる社会的な費用をうむ可能性がある
法と経済学2
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シグナリング
高品質と低品質の供給者
高品質の供給者が何らかの行動を取って、間接的に自
分の品質を消費者に伝える。
→低品質の供給者もそれをまねる誘因
→まねる誘因のない行動でないと無意味
⇒低品質供給者にとって高品質供給者よりも高い費用
がかかる行動でないとシグナルとして役に立たない
シグナリングの例(1)学歴(2)広告・宣伝、Introductory
Price(3)技術を要する飾り・機能を付ける(4)製品保
証:無償修理期間を長くする、無償修理に応じる条
件を緩くする(5)個人保証(後述)
法と経済学2
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金融市場における情報の偏在の例
(1) モラルハザード
・経営者が株主の利益に反する行動を取る
・借手がより危険なプロジェクトを選ぶ
・借手が危険回避の努力を怠る
・機関投資家が投資対象に対してモニタリングを怠る
(2) 逆淘汰
・借入市場において悪い情報を持つ者が残る
・保険市場で事故率の高い者が加入する
・消費者に不利な約款の商品だけが生き残る
・インサイダー取引⇒後述
法と経済学2
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金融市場における情報の偏在の例
(3) シグナリング
・個人保証⇒すぐに議論する
・メインバンク、政府系金融機関の貸出
~いわゆる呼び水効果
・補償率、補償条件を抑えた保険契約
・配当(第10講)
法と経済学2
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シグナリング?モラルハザード?
モラルハザード防止のためとも、シグナリングとも理
解できる現象がある。
(例) 金融取引における個人保証
日本では零細企業が借入れるとき、経営者本人あるい
は家族・親族の個人保証を求められることが多い
→過大なリスクを経営者に負わせ、経営者の再起を妨
げる悪い慣習←法律で規制すべきという議論
「銀行が交渉力の弱い経営者にリスクを押しつける」
という理解は浅薄⇒製造物責任の回参照
しかし明らかにリスクの配分という観点からは非効率
的な契約⇒何でこんな契約を結ぶのか?
法と経済学2
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なぜ個人保証を付けるのか
(1)利息制限法ないし出資法による金利の規制がありこ
れ以上金利を上げられない。したがって、本来は銀行
が取るリスクを借り手に負わせて実効金利を上げる。
→これが正しいとすると金利は個人保証を付けた借り手
共通に上限金利になっていないとおかしい。
~現実にはそうなっていない。
(2)借手のモラルハザードを防ぐ。
(3)借手が自らの倒産確率に関して貸手にシグナルを送
る。
法と経済学2
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モラルハザードと個人保証
個人保証のない状態
リスク回避のための努力が過小になる可能性(モラ
ルハザード)
(理屈は前回議論した通り)
→個人保証があるとこのモラルハザードの問題を緩
和することができる
→結果的に金利を下げられる
法律でこれを禁止すると
→モラルハザードを見越して金利が上がるかそもそ
も借りられなくなる~経済効率性の低下
法と経済学2
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シグナリングと個人保証
事業にリスクの差がある。借手は自分の事業のリス
クを知っているが貸手は知らない。→優良な借手
の資金調達費用は(過大、過小)、不良な借手の
それは(過大、過小)になる
法と経済学2
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シグナリングと個人保証
個人保証によって優良な借手は自分がリスクの小さ
な借手であることを貸手に伝えられる(シグナリン
グ)
~シグナリングの私的な誘因は一般に過大(第4講製
造物責任の議論参照)
⇒法律で個人保証を禁じることが経済厚生を改善す
る可能性がある。←必ず改善するわけではない。
法と経済学2
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シグナリングと自己実現的期待
優良な借り手も個人保証は断ると皆が信じている社
会では、個人保証を断る損失が小さい。→皆が本
当に断る
優良な借り手は個人保証は断らないと皆が信じてい
る社会では、個人保証を断る損失が大きい。→皆
が本当に断らない。
⇒予想がそれに対応した結果を生み出してしまう。
個々の優良な借り手の行動が別の優良な借り手の経
済厚生に影響を与える(外部性)
シグナリングを禁止すると全ての経済主体の厚生が
改善する可能性も
法と経済学2
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偏見と差別
黒人は生産性が低いという偏見→低い給与しか払わ
ない→能力に自信のある黒人は就職しない(ス
ポーツ選手など個々の能力がよりアピールしやす
い職を選ぶ)→逆淘汰の結果能力の低い黒人だけ
が就職→実際に就職した人の中では白人の方が生
産性が高い~自己実現的な偏見
全ての人に等しく機会を与えれば、単なる偏見で
あったことがわかるのに、これを意図的にしない
と社会が改善する機会を失う
人種差別禁止・男女差別禁止が経済効率性を高める
こともあり得る。
法と経済学2
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インサイダー取引規制
(一定の要件を満たす)内部者が内部情報を使って有
価証券を売買することを規制する
比較的新しい法律である証券取引法の中でも特に新
しい規制
なぜインサイダー取引を規制するのか?
・内部情報で利益を上げるのはそれにアクセスでき
ない一般投資家に損失を与えることになり不公正
だから
・インサイダー取引が株式市場において逆淘汰の問
題を引き起こし、経済厚生を損なうから
法と経済学2
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インサイダー取引と逆淘汰
買手=一般投資家
今売手が株を売却しようとしている。純粋に公開情報
に基づいた行動かもしれないが、内部情報に基づく
行動(内部者でbad newsを知ったから売ろうとして
いる)かもしれない。両者を区別できない
→インサイダー取引がないと確信しているときに比べ
て(低い、高い)価格でしか買おうとしない。
法と経済学2
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インサイダー取引と逆淘汰
売手=一般投資家
今買手が株を購入しようとしている。純粋に公開情
報に基づいた行動かもしれないが、内部情報に基
づく行動(内部者でgood newsを知ったから買おう
としている)か区別できない
→インサイダー取引がないと確信しているときに比
べて(低い、高い)価格でしか売ろうとしない。
法と経済学2
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インサイダー取引とモラルハザード
インサイダー取引規制が経営者のモラルハザードを
ひどくすると主張する者もいた。
インサイダー取引規制がない。→経営者は経営努力
をして経営を改善し、その情報を開示する前に株
を買い、公開した後で売却すれば利益を得られる
→経営改善の誘因を高める(所有と経営の分離か
ら生じるモラルハザードの問題を減らすことがで
きる)→経済効率性を高める
この議論は全くナンセンス
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インサイダー取引とモラルハザード
・経営者はインサイダー取引規制がなければ(株の空
売によって)株価を下げても利益を得られる。
←売る方のインサイダー取引だけ規制すればよい。
→株価を一旦下げて元に戻せば同じ事。売る方だけ
規制しても問題の解決にならない
・ストックオプション等で同じ効果が得られる。イ
ンサイダー取引の方が優れているという利点はない。
~インサイダー取引が経済厚生を高めるという議論
はナンセンス
法と経済学2
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まとめ
・強行法規性の強い条項はルールの競争メカニズム
の働く上場規則に任せ、会社法は任意法規化すると
いう考え方がある。
・株式市場間の競争は効率的なルールを普及させる
有力な手段となるが、非効率的なルールが生き残る
可能性もある。
・モラルハザード防止に役立つルールはシグナリン
グの機能を果たしていることがあり得る。どちらが
重要かによって経済厚生上の意味は全く異なる。
・インサイダー取引規制は公正の観点からだけでな
く効率性の観点からも必要な規制である。
法と経済学2
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