法と経済学2 (8) ホールドアップとコミットメント 今日の講義の目的 (1) ホールドアップ問題と機会主義的行動の関係を 理解する (2) 機会主義的行動が資源配分の非効率性を生むメ カニズムを理解する (3) コミットメントという概念を理解する 法と経済学2 1 機会主義的行動の例 (1) 収穫のために町で1日だけの労働のために労働 者を大量に集めてくる。1日がかりで農園に連 れて行き、1日働いてもらって収穫を終え、次 の1日で町に返す。3日分の拘束に対する賃金 交渉を行い契約を結ぶ。 (2) 作業の直前労働者が賃上げを要求。 →これを拒否して町に代わりの労働者を探しに行 くと作物が腐ってしまう。高い賃金を払わざる をえない。 法と経済学2 2 機会主義的行動の例 (1) A自動車向けに部品を作るつもりで機械を更新 した。 (2) 部品価格を下げないと買わないとA社が突然要 求した。 →これを拒否してもこの機械では他社向けに部品 を作れないので要求を受け入れざるを得ない。 法と経済学2 3 機会主義的行動の帰結 (1) 収穫のために町で1日だけの労働のために労働者を 集めてくる。1日がかりで農園に連れて行き、1日 の労働で収穫を終え、次の1日で町に返す。3日分 の拘束に対する賃金交渉を行い、契約を結ぶ。 (2) 作業の直前労働者が賃上げを要求。 →これを拒否して町に代わりの労働者を探しに行くと 作物が腐ってしまう。高い賃金を払わざるをえない。 ⇒これを読み込んで農場主は雇用を控える(家族だけで できる規模にする、機械をあえて入れる、作業の集 中を防ぐために他種類の物を作る)。 ⇒農園主・労働者ともに損失を被る。 法と経済学2 4 機会主義的行動の帰結 (1) A自動車向けに部品を作るつもりで機械を更新し た。 (2) 部品価格を下げないと買わないとA社が突然要求 した。 →これを拒否してもこの機械では他社向けに部品を 作れないので要求を受け入れざるを得ない。 ⇒これを読み込むとA社向けにしか使えない投資を躊 躇する。 ⇒結果的には双方に不利益。 法と経済学2 5 機会主義的行動をどう防ぐか? (1) あらかじめ完全な契約を書く。部品の価格・納入 量をBが投資する前に決めておく。賃金を農場に 着く前に決め、働かなかったら賠償金を払うよう 契約に書く(完備契約)。 ⇒実際には上記の完備な契約を書くことは難しい。 法と経済学2 6 機会主義的行動をどう防ぐか? (完備な契約が書けない理由) ・最適な価格・数量は将来の需要状況、原材料価 格、景気動向などに依存するがこれらを全て勘 案して最適な価格、数量をあらかじめ決めるの は困難。 ・労働者が無資力で賠償請求できない。 ・賃金を上げないとまじめに働かない、という状 況に対応できない(まじめに働いたかどうかが立 証可能でないことが多い)。 法と経済学2 7 関係特殊投資 ・関係特殊投資(relation specific investment) 特定の取引関係を前提としてはじめて意味のある投資 (例)トヨタのエンジンに使われる部品を作るための設 備投資(ホンダ向けのエンジンには使えない)。 ・企業特殊的技能(firm specific skill) 特定の企業でしか使えない技術 (例)その企業特有の書類作成能力、企業内の人脈の把 握 企業特殊技能を身につけるための投資は企業特殊投資 であるが、これは関係特殊投資の典型的な例。 法と経済学2 8 過小投資問題 BがAに部品1単位を価格Pで供給。 Aの利益はV - P、Bの利益はP - C(K) - K Kは投資水準。CはKの減少関数。この投資はA以外 の買手には無価値。 完備契約が書けない。→ Pを投資前に決められな い。 Pは投資した後交渉によって決められる。交渉力は 対等。 法と経済学2 9 費用削減投資 C 0 法と経済学2 K 10 最適投資水準 AとBの利得の総和 V- C(K) - K これを最大にするKは? 最大化の1階条件 - C’(K) - 1 =0 ⇔ C’(K) = -1 C’(K) > - 1 ⇒ 固定費用を1増やしたとき可変費用 の減少額は1より小さい⇒過大投資 C’(K) – 1 ⇒ 固定費用を1増やしたとき可変費用の 減少額は1より大きい ⇒ 過小投資 法と経済学2 11 最適投資水準 C -1 0 法と経済学2 K* K 12 交渉過程 威嚇点(Va,Vb)=(0, - K) AはB以外から部品を買えない。BもA以外に部品を 売れない。 Bの投資費用は埋没費用(sunk cost)となっている。 交渉の結果Ua = V – P = 1/2(V - C)⇒P = 1/2(V + C) 交渉の結果を読み込んでBは自分の利得を最大化 Ub = 1/2(V + C(K)) - C(K) - K 問題:利得最大化の1階条件 C‘(K) = ○○ 法と経済学2 13 均衡投資水準 C 過小投資 -2 0 法と経済学2 KE K* K 14 なぜ過小投資になるか 価格が一定なら、生産費用が減少した分だけ自分 の利潤が増える⇒効率的な費用削減努力をする 誘因を持つ ~プライスキャップ制度が効率的な努力を生むメ カニズムと同じ 実際には投資で費用が下がるとAから値引き交渉を 迫られる ⇒費用削減の果実が全て自分に帰属するわけでは ないので費用削減の誘因が過小になる 法と経済学2 15 過小投資の問題をどう防ぐか (1)継続的取引~繰り返しゲ-ムの世界 Aが機会主義的行動をしたら取引を継続しない。 (2)はじめから価格を固定し、事後的に変更しない(契 約の再交渉をしない)ことをコミットする。 ⇒このコミットができないからそもそも苦労している。 (3)Bに100%の交渉力を与えるように契約を工夫す る。⇒BだけでなくAも投資主体ならこのやり方で はだめ。 法と経済学2 16 過小投資問題(双方投資) BがAに部品1単位を価格Pで供給。 Aの利益はV(L) - P - L、 Bの利益はP - C(K) - K L、Kは投資水準。VはLの増加関数、CはKの減少関数。 完備契約が書けない。→Pを投資前に決められない。 Pは投資した後交渉によって決められる。交渉力は対 等。 AはB以外から部品を買えない。BもA以外に部品を売 れない。 法と経済学2 17 価値増進的投資 V 0 法と経済学2 L 18 交渉過程 威嚇点(Va,Vb)=(- L, - K) A、Bの投資費用はともに埋没費用(sunk cost)。 交渉の結果Ua = V – P – L = 1/2(V - C) – L ⇒ P = 1/2(V + C) 交渉の結果を読み込んでBは自分の利得を最大化 Ub = 1/2(V + C(K)) - C(K) - K 利得最大化の1階条件 C’(K)= - ○ 交渉の結果を読み込んでAは自分の利得を最大化 Ua = 1/2(V(L) - C) - L 利得最大化の1階条件 1/2V’(L) -1 = 0 ⇔ V’(L) = △ 法と経済学2 19 均衡投資水準 V 過小投資 1 0 2 法と経済学2 LE L* L 20 なぜ過小投資になるか 価格が一定なら、財の価値が増加した分だけAの 利潤が増える ⇒効率的な投資をする誘因を持つ 実際には交渉でVが上がるとBから値上交渉を迫ら れる ⇒Vの増加の果実が全て自分に帰属するわけではな いので、投資の誘因が過小になる 法と経済学2 21 裁判所の役割とモデルの限界 威嚇点⇒取り引きしない この背後にある前提~事前に契約を書けない 現実には契約は書こうと思えば書くことはできる。 あらかじめ価格や取引数量を書くことはできる。 ⇒でも現実には価格や取引量は事前には分からな い要因に依存している。それらの全ての条件に 依存した理想的な契約は書けない。 法と経済学2 22 裁判所の役割とモデルの限界 しかし、理想的な契約が書けないのは事実だとし てもそこから契約が書けないと仮定するのは論 理の飛躍。もし書ければ裁判所ないしル-ルが大 きな役割を果たすことになる。 →次回特定履行の議論。 法と経済学2 23
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