会社法(2)

第二部 株式会社の諸制度
株式会社は、どのように運営されるのか?
*株式会社の区分は、どうなっているか?
*株式会社には、どのような機関が必要か?
*株主総会は、どうして毎年開かれるのか?
*取締役には、どのような義務と責任があるのか?
*委員会設置会社では誰が業務執行を行うのか?
Akira Uchinuno © Copyright, 2015
2015/5/26
[今回の会社法改正の概要]
• 会社法(現行法)は、平成17年(2005年)に制定以来10年経過
• 2014年6月20日に「会社法の一部を改正する法律(H26年法90号)」が成立
(施行日;平成27年(2015年)5月1日))
(1) 企業統治の強化
① 「監査等委員会設置会社」を追加
*従来の「委員会設置会社」は「指名委員会等設置会社」に名称変更
② 社外取締役及び社外監査役の「社外性」の要件を厳格化
・・・ 親会社・兄弟会社の取締役・使用人等は「社外性」なし
また、配偶者・2親等以内の親族も同様
③ 社外取締役を置かない場合、その理由を株主総会で説明
・・・ 監査役設置会社(公開会社かつ大会社に限る)で、
有価証券報告書提出会社(上場会社)が対象
2015/5/26
(2) 親子会社等に関する改正
① 「親会社等」「子会社等」の定義を新設
② 「多重代表訴訟」制度の導入
・・・ 親会社の株主が子会社の役員等の責任を追及できる
(3) その他
① 「内部統制システムの運用状況」を
「事業報告」の記載事項とした
② 発行可能株式総数は発行済株式数の4倍以内に制限
・・・ 公開会社になる場合、株式併合をする場合、新設合併をする
場合等に明確化
2015/5/26
1.会社の区分
(1) 親会社・子会社の区分
親会社
子会社
議決権の過半数を有し、又は経営を支配してい
る法人
親会社により議決権の過半数を有され、又は経
営を支配されている法人
(2)株式会社の規模区分
大会社
(会社法2条3・4号)
(会社法2条6号)
資本金5億円以上又は負債総額200億円以上
大会社以外(資本金5億円未満かつ負債総額
中小会社 200億円未満)
2015/5/26
(3) 公開会社・非公開会社の区分
公開会社
発行する全部又は一部の株式につき譲渡制限を
していない株式会社
発行する全ての株式につき譲渡制限をしている
非公開会社 会社(=全部譲渡制限会社)
*「譲渡制限」とは、株主が保有株式を他人に譲渡しようとするときは、会社の事
前承認を得なければできないという制度
① 旧会社法の下では、公開会社という言葉は、一般に「株式上場会社」の意味
で使われていた。
② 旧会社法では、発行する全ての株式について譲渡制限をするか否かの選択
しかできなかったので、一般に全部譲渡制限会社は「閉鎖会社」といわれていた。
(同族会社などは、親族や仲間内だけを株主とするため、譲渡制限をする)
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2.株式会社の機関
*株式会社に旧「有限会社」を取り込んだので
・・・会社の実情に合わせ「機関設計」
① 株主意見集約機関
株主総会(*)
(*)印 ; 絶対的設置機関
(以外は、原則として任意設置機関)
② 業務執行機関
取締役(*)、取締役会、特別取締役
会計参与、委員会、執行役
③ 監査機関
監査役、監査役会、会計監査人
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(1)監査役会設置会社の機関
選任・選定
協力・共同
構成
会計監査人
株主意見
集約機関
株主総会
監査役
監査役会
監査
機関
計算書類作成
(取締役と共
同して)
業務執行機関
取締役
会計参与
取締役会
特別取締役
代表取締役
会 社 組
織
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(2) 指名委員会等設置会社の機関
株主総会
[監査機関]
選任
選任
選任
取締役
会計監査人
会計参与
選定
取締役会
選定
監査委員会
選定
報酬委員会
計算書類
作成(執行
指名委員会
役と共同)
選任 選定
代 表 執 行 役 ・ 執 行 役
(監査)
会 社 組 織
1.委員会設置会社では、監査役(監査役会)を設置できない
2.委員会設置会社では、代表取締役を選任できず、執行役の選任を要する
2015/5/26
[参考]
指名委員会等設置会社数 (上場企業)
(2013年11月27日現在 日本取締役協会 調査結果)
東証1部:44社
・イオン(株) ・エーザイ(株) ・エステー(株) ・オリックス(株)
・ソニー(株) ・(株)東芝 ・三菱電機(株) ・コニカミノルタ(株)
・(株)日立製作所(日立Gは、ハイテクノロジー、メディコ、
国際電気、キャピタル、金属、化成、建機、電線も)
・野村ホールディングス(株) ・(株)大和証券グループ本社
・(株)りそなホールディング ・HOYA(株) など
東証2部:3社、マザーズ:2社、JASDAQ:7社、
セントレックス:1社
合計 57社
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「委員会設置会社」数の変遷
(上場企業:約2300社の調査結果)
社
70社
71社
58社
44社
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(3)監査等委員会設置会社の機関
*(1)の監査役が監査等委員に、監査役会が監査等委員会に置換わった形態
選任・選定
協力・共同
構成
会計監査人
株主意見
集約機関
株主総会
監査等委員
監査等委員会
監査
機関
計算書類作成
(取締役と共
同して)
業務執行機関
取締役
会計参与
取締役会
特別取締役
代表取締役
会 社 組
織
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3.株主総会
(1) 意義
• 会社の出資者である株主の意見を集約して、経営
に反映させるための唯一の株主意見集約機関
・・・株主が一堂に会する会議体
株主は、持株数に応じて「議決権」を行使
• 総会に出される議題(目的事項)は、「報告事項」と
「決議事項」に分かれる
*報告事項:業務執行機関から経営結果の報告を受ける
・・・少なくとも毎事業年度終了時に(年1回以上)開催
*決議事項:会社の重要事項を決定する最高議決機関
2015/5/26
(2) 種類
*次の3種類がある
① 定時株主総会(定時総会)
・・・事業年度終了後(いわゆる「決算報告」するため)
一定に時期に開催(年1回開催)
;3月末日決算の会社が圧倒的に多い・・・6月下旬に集中
② 臨時株主総会(臨時総会)
・・・必要がある場合に、随時招集される。
③ 特殊な株主総会
(a) 創立総会(会社設立時に開催)
(b) 種類株主総会(種類株主を招集して開催)
2015/5/26
[参考]
計算書類等
• いわゆる定時総会で決算報告するために作成され
る書類を会社法では「計算書類等」という
計算書類等
事業報告 …
計算書類
事業年度における会社の経営・事
業活動等の状況をまとめた報告書
貸借対照表(B/S)
損益計算書(P/L)
株主資本等計算書
個別注記表
附属明細書
* 計算書類等の記載(記録)事項及びその方法など様式については、「会社
計算規則(法務省令)」に定められている
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(3) 権限(決議事項)
• 株主総会は、会社の最高決議機関
• 「取締役会」があるかどうかで権限が異なる
*取締役会を設置するには取締役3人以上選任する必要が
あり、会社の業務執行の重要事項を決める会議体
[取締役会非設置会社]
• 法定事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会
社に関する一切の事項 (会社法295条1項)
[取締役会設置会社]
• 法定事項及び定款で定めた事項に限定
(同条2項)
2015/5/26
[参考]
株主総会の決議事項 (取締役会設置会社)
*大きくは次の三つに分けられる
① 会社の組織・事業の変更に関する事項 (いわば「会社の
存亡」に係わる事項)
[例] 定款変更、解散、合併・会社分割、等
② 株主が受ける利益に関する事項 (いわゆる株主の「自益
権」に係わる事項)
[例] 株式の併合、募集株式・新株予約権の発行事項、等
③ 会社役員等の選任又は解任及び専横防止に関する事
項 (いわゆる株主の「共益権」に係わる事項)
[例] 取締役・監査役等役員の選任・解任、等
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(4) 決議方法
① 普通決議 (定款の別段の定めを除き、殆どの決議)
定足数 ;議決権総数の過半数の株主の出席
決議要件;出席株主の議決権の過半数で決議
*普通決議の定足数と決議要件は、定款によって加減可
[例] 取締役等の選任・・・定足数を3分の1以上に減
② 特別決議 (株主の権利義務に直接影響する事項)
定足数;議決権総数の過半数の株主の出席
決議要件;出席株主の議決権の3分の2 以上で決議
*特別決議事項は法定(普通決議で決議しても無効)
[例]
定款変更
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4.取締役の義務と責任
(1) 概要
*取締役は、株式会社の「業務執行機関」
*取締役は、監査役や会計参与と共に「役員」
*取締役は、株主総会と共に「絶対的設置機関」
(旧商法では、全ての株式会社は、取締役を3人以上置き、取締役会を
設置する必要があった )
*株式会社は、1人又は2人以上の取締役を必ず置かなけれ
ばならない
*取締役の職務は、「取締役会非設置会社(もともと有限会社だっ
た会社が殆ど)」と「取締役会設置会社」とで、大きく異なる
2015/5/26
(2) 取締役の選任と任期
• 取締役(会計参与、監査役及び会計監査人も同様) は、株主総会
の普通決議により選任される (会社法 329条)
*2人以上の取締役の選任において、株主は、定款に別段
の定めがある場合を除き、「累積投票」によることを請求す
ることができる (同法 342条)
*取締役の任期は、次の通り
原 則
2年以内
非公開会社
定款により最長10年以内まで伸長できる
委員会設置会社
1年以内
2015/5/26
(3) 取締役の義務
• 取締役(他の役員も同様)と会社の関係は、委任に関する規定に従う
ので、その職務遂行において「善管注意義務」を負う
• 取締役は、善管義務を発展させた義務として「忠実義務」を負う(他
の役員は負わない)
*忠実義務;取締役が自分と会社の利害が対立した場合、
会社の利益を優先させる義務 (会社法 355条)
• 取締役は、更に、これを具体的にした義務として、「競業避止義務」
「自己取引回避義務」「利益相反取引回避義務」を負う (同法 356条)
*競業避止;会社と競争関係に立つ取引を避けること
*自己取引;取締役が自己又は第三者のために会社と
直接に取引すること
*利益相反取引;会社と取締役との利益が相反する取引
2015/5/26
(4) 取締役の責任
• 旧法では、取締役の責任は「無過失責任」であった
ので株主代表訴訟の危険にさらされていたが、判
例上、「経営判断の原則」が認められるようになった
*「経営判断の原則」を認めた代表的判例
東京地裁平成5年9月16日判決(判例時報1469号25頁)
「取締役の経営判断により結果的に会社に損害をもたらしたとしても、
その判断の前提になった事実の認識に不注意がなく、その事実に基
づく意思決定が通常の企業人として著しく不合理なものでない場合は、
取締役が必要な注意を怠ったと断定することはできない」
2015/5/26
[参考]
取締役の責任一覧
事 項
責 任
根拠条文
任務懈怠行為
過失責任
423条1項
自己のため
無過失責任
428条1項
損害発生
過失責任(推定)
423条3項
供与者
無過失責任
120条4項但書
その他
過失責任(推定)
同上
過失責任(推定)
462条2項
利益相反取引
利益供与
違法配当
2015/5/26
(5) 違法行為差止と株主代表訴訟
• 取締役の「違法行為差止請求」や取締役に対する「損害賠償請求」は、
本来、会社が行うべきこと
• 特別に、 6ヶ月前から引き続き株式を有する株主は、会社に代わって、
行使することが認められている
① 違法行為差止請求(損害発生予防的手段)
本来は、監査役等が行うべきことであるが、株主が
直接、裁判所に差止請求する
② 株主代表訴訟(事後救済的手段)
株主は、取締役に対して損害賠償訴訟をするよう
会社に請求しても、会社がこの請求の日から60日
以内に訴えを提起しないときに、当該株主自身が
会社を代表して訴えを提起すること
2015/5/26
5.代表取締役と業務執行取締役
(1) 代表取締役
• 取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く)には必ず置かな
ければならない
*取締役会設置には、3人以上の取締役が必要
*公開会社、監査役設置会社、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置
会社には、取締役会の設置義務があるが、これ以外の会社では設置は任意
*取締役会非設置会社では、取締役が会社を代表する
(必ずしも代表取締役を定める必要はない)
*指名委員会等設置会社では「代表執行役」が置かれる
• 取締役の中から取締役会の決議により選任される
*代表取締役を2人以上選任してもよい
• 取締役会の指揮・監督の下で業務執行を行ない、対外的には会社を
代表する機関
2015/5/26
(2) 業務執行取締役
• 業務執行取締役とは、代表取締役以外の取締役であっ
て、取締役会の決議により業務を執行する取締役とし
て選定された者
*特定業務執行の権限は有するが、代表権(会社業務に関する
一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限)を有しない
• 代表取締役と業務執行取締役は、3ヶ月に1回以上、自
己の職務の執行状況を取締役会に報告しなければなら
ない
*代表取締役でない者に、社長、副社長など会社を代表する
権限を有しているような肩書きを使うことを許している会社は
その取締役(表見代表取締役)がした行為について、善意の
第三者に対して責任を負う
2015/5/26
6. 指名委員会等設置会社
• 取締役会設置会社は、定款に定めることにより指名委員会
等設置会社になれる
*指名委員会・監査委員会・報酬委員会の3つの委員会を常設
*旧法では、大会社だけが指名委員会等設置会社になれた
• 各委員会は、取締役会で取締役の中から選定された3人
以上の委員(過半数は社外取締役)で組織 (400条)
*委員(全員が取締役)の過半数は社外取締役
• この会社の取締役には、業務執行権がない
*この会社の業務執行は執行役が行うから、取締役は取締役会
のメンバーとして業務執行の決定の決議に参加するだけ
・・・ 従って、代表取締役は存在しない(選べない)
2015/5/26
• この会社の取締役の任期は、1年
• 取締役会にて、1人又は2人以上の「執行役」を選任しなけ
ればならない (同法402条)
*取締役(監査委員を除く)は、執行役を兼任してもよい
• 執行役を2人以上置く場合は、その中から「代表執行
役」を選定しなければならない (同法420条)
*この会社では、「代表執行役」が社長
• この会社の監査は、業務監査は「監査委員会」が、会計監
査は「会計監査人」が当たる
*この会社には、『会計監査人』の設置義務がある
*監査委員会があるから監査役(会)を置けない (同法327条)
*会計監査人の資格は、公認会計士又は監査法人に限定
2015/5/26
7.監査等委員設置会社
• 改正会社法(2015年5月1日施行)で新たに認められた
• この会社「監査等委員会」は、監査役会設置会社の
「監査役会(監査役3人以上で構成)」や指名委員会等
設置会社の「監査委員会」に相当するもの
*監査等委員(取締役)は、監査を主たる職務とするが、
取締役会から委任を受けた業務執行も行える
• 従って、監査等委員(取締役)は、これ以外の取締役
とは別に、直接、株主総会で選任される
*任期は、監査等委員は2年、これ以外の取締役1年
また、報酬も別々に決められる
2015/5/26
• 監査等委員会設置会社には、監査役(会)を置けない
• 監査等委員会は監査等委員として株主総会で選任さ
れた取締役3人以上で構成
• 監査等委員(取締役)の過半数は、社外取締役でなけれ
ばならない (399条の2第2項、331条6項)
• 監査等委員は、これ以外の取締役の選任・解任等及び報
酬について、株主総会で意見を述べることができる (342
条の2第4、361条6項)
• 監査等委員である取締役は、その会社若しくは子会社の
業務執行取締役若しくは支配人その他の使用人、又は子
会社の会計参与若しくは執行役を兼ねることができない
2015/5/26