社会の認識 「社会科学的発想・法」 第05回 2009年11月04日 今日の資料=A4・5枚 http://www.juris.hokudai.ac.jp/~aizawa/ 3. 事故法の経済分析 2 3.43 (補)懲罰的(損害)賠償について 通常の損害賠償:生じた損失を埋め合わせる (損害の填補・補償) 懲罰的賠償 民事訴訟で原告(被害者)が被告(加害者)に対し金 銭の支払いを求めるという点では「損害賠償」 だが、実際に生じた損失額を超えて請求 目的:悪質な行為に対する制裁、同様の行為の 抑止 英米法に特有の制度。日本にはない 3 損害を、システマチックに、過小に評価する ⇒Xの執る予防水準は過小に システマチックに、過大に評価する⇒Xの執る予防水準は 過剰に 4 損害賠償制度というのは、損害をシステマ チックに過小評価してしまうものなのでは? 被害者は加害者を発見できないかも 被害者は訴訟を起こせないかも 被害者は訴訟に勝てないかも →加害者は填補的賠償を免れる可能性がある →過小抑止になってしまうのでは →最適抑止のためには、単なる補償を超えた支 払いを命じる必要があるのでは 5 賠償を命じられる確率を e とすると 潜在的加害者の私的費用関数 IPCe(x) = w・x + e・L・p(x) ≦ w・x + L・p(x) ∵0 ≦ e ≦ 1 →過小評価のブレをなくすためには、賠償額を 1/e倍する必要 6 評価 政策論としては、あり得る 実際の懲罰的賠償制度の説明としては不十分 特に必要な場面は厳格責任ルールの場合だが… 過失責任ルールの場合は… 実際の制度のalternativeな説明 日本にはない、ことの意味 民刑峻別論、の意義と限界 7 8 3.5 “双方向”事故の場合 これまでの前提:Xのみが事故の予防措置(x) を講じることができる e.g., 飛行機事故、手術ミス だが、(潜在的)被害者Yが(も)事故の予防措 置(y)を講じることができる場合も多い e.g., (多くの)交通事故 SC(x,y) = w1・x + w2・y + L・p(x,y) 9 3.51 責任なしルールの“裏” 10 3.52 厳格責任ルールの“裏” 11 3.53 “双方向型”事故と過失責任ルール 過失判断基準 x での、事故費用の負担の分 割 < x =過失あり=加害者が負担 x ≦ x =過失なし=被害者が負担 x 12 Xの予防費用:低0; 中4; 高8 Yの予防費用:低0; 中3; 高6 Yの注意水準 事故発生確率 Xの注意 水準 低 中 高 低 20% 15% 13% 中 15% 10% 8% 高 13% 8% 6% 13 過失責任ルール下での費用負担 各当事者の 期待費用 (X, Y) Xの 注意 水準 Yの注意水準 低 中 高 低 20 0 15 3 13 6 中 4 15 4 13 4 14 高 8 13 8 11 8 14 14 過失責任ルール=事故費用の負担の分割 =(潜在的)被害者は自らが損害をかぶる(他に 転嫁できない)可能性がある →潜在的被害者には自らの予防措置を最適化す るインセンティヴがある 15 ナッシュ均衡 他のアクターの戦略を所与とした場合、どのア クターも自分の戦略を変更することによってよ り高い利得を得ることができない戦略の組み 合わせ ∴いずれのアクターも自らの行動を変更しよう としない ※ナッシュ均衡の社会状態が、望ましい状態 とは限らない! 16 「囚人のジレンマ」ゲーム Yの行動 (戦略) X、Yの 利得 Xの 行動 (戦略) C D A 5 5 0 7 B 7 0 1 1 17 →過失責任ルールの下においては、各アク ターが要求される水準の予防措置を執ること がナッシュ均衡となる ∴要求される注意水準を社会的に最適な水準 に設定することにより、いずれの関係アクター も社会的に最適な予防措置を執る 18 何らかの形で、事故の費用の負担を分割でき ればよい →他のルールの可能性 寄与過失の抗弁 過失相殺 民法722条2項 (損害賠償の方法及び過失相殺) 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮 して、損害賠償の額を定めることができる。 19 寄与過失の抗弁つき厳格責任 各当事者の 期待費用 (X, Y) Xの 注意 水準 Yの注意水準 低 中 高 低 0 20 15 3 13 6 中 4 15 14 3 12 6 高 8 13 16 3 14 6 20 過失相殺の抗弁つき過失責任ルール 各当事者の 期待費用 (X, Y) Xの 注意 水準 Yの注意水準 低 中 高 低 10 10 15 3 13 6 中 4 15 4 13 4 14 高 8 13 8 11 8 14 21 (参考)製造物責任法6条 (民法 の適用) 製造物の欠陥による製造業者等の損害賠償の責 任については、この法律の規定によるほか、民法 …の規定による。 =民法722条2項も準用 =過失相殺の抗弁つき厳格責任ルール 22 3.6 行為の「量」 これまでの前提:Xの行う行為の量は一定 だが、同じだけの注意を払いながら行為する のだとすれば、より多く同じ行為をするX1のほ うがより高い確率で事故に遭遇するだろう 以下 行為からの“効用”を計算に入れる 個々の行為においては最適な予防措置を執る 23 3.61 厳格責任ルールと行為の“量” 0 効用の 合計 0 1 40 3 10 27 2 60 6 20 34 3 69 9 30 30 4 71 12 40 19 5 70 15 50 5 行為の “量” 予防費用 事故の期 待費用 合計 0 0 0 24 3.62 過失責任ルールと行為の“量” 0 効用の 合計 0 1 40 3 (10) 37 2 60 6 (20) 54 3 69 9 (30) 60 4 71 12 (40) 59 5 70 15 (50) 55 行為の “量” 予防費用 事故の期 私的効用 待費用 合計 0 (0) 0 25 厳格責任ルールの下では行為の“量”も最適 化される 過失責任ルールの下では行為の“量”が過剰 になる ∵要求される予防水準の設定に際しては行為の “量”は(原則)計算に入っていない ∵行為の“量”を計算に入れるのは困難 26 3.63 “双方型”事故の場合 過失責任ルール (潜在的)加害者側(X):過剰な“量”の行為をしが ち (潜在的)被害者側(Y):厳格責任ルール的に行 動→行為の“量”も最適化 厳格責任ルール+寄与過失の抗弁つき (潜在的)加害者側(X):行為の“量”も最適化 (潜在的)被害者側(Y):過失責任ルール的に行 動→過剰な“量”の行為をしがち 27 3.7 小括 モデル型思考 幾つかの仮定を置いて、社会関係をモデル化し てみる →モデルの挙動を確認する →これにより説明できる部分、説明できない部分 シンプルなモデルから、複雑なモデルへ 説明と規範/政策論 28
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