Law and Economics 2 (7) Bargaining Game and Nash Bargaining Solution 今日の講義の目的 (1) 協力ゲーム(Cooperative Game)という考え方を 理解する (2) ナッシュ交渉解(Nash Bargaining Solution)とい う概念を理解する (3) 交渉力と割引率の関係を理解する 法と経済学2 1 非協力ゲームの例(囚人のジレンマ) C D C (3,3) (0,4) D (4,0) (1,1) 問題:ナッシュ均衡は? 法と経済学2 2 囚人のジレンマと協調 現実には囚人のジレンマの状況でも協調行動がし ばしば見られる。なぜか? (1) 人間は合理的でない (2) Playerの利得が第3者に分かる金銭的な(経済的 な)利益のみに依存していない。→囚人のジレン マの状況になっていない。 (3) 短期的な利益を犠牲にしても長期的な利益のた めに協調する→繰り返しゲーム 法と経済学2 3 (2)の発想:囚人のジレンマ修正版 C D C (3,3) (0,2) D (2,0) (1,1) 問題:ナッシュ均衡は? 法と経済学2 4 (3)の発想:繰り返しゲーム 同じゲームが将来にわたって長期的に繰り返される。 →将来の利益のために短期的な利益を犠牲にする可 能性がある (有限繰返ゲーム)繰り返しの回数が有限 (無限繰返ゲーム)繰り返しの回数が無限 法と経済学2 5 有限繰り返しゲーム 同じゲームをN回繰り返す。 各回ごとに利得が発生。 各Playerは、そのN回分の合計を最大化するよう に行動する。 これ以降囚人のジレンマゲームが繰り返される状 況のみを考える。 法と経済学2 6 後方帰納法 第N期→将来はないから当然双方Dを取る 第N-1期→1期だけ将来はあるが、今期の行動と次期 の行動は無関係。従って今期の利得のみを最大化 する⇒当然双方Dを取る 第N-2期→2期将来はあるが、今期の行動と次期の行 動、次-期の行動は無関係。従って今期の利得のみ を最大化する⇒当然双方Dを取る ・・・ 第1期⇒同じ理由で双方Dを取る ~Nがどんなに大きくても協調できない 法と経済学2 7 どんな場合に協調できるか? (1) 不完備情報ゲ-ム→合理的でない振りをする誘因 (2) ステージゲームでナッシュ均衡が複数ある。 →より劣る均衡をpunishmentとして使う (3) 無限繰り返しゲ-ム 法と経済学2 8 どんな場合に協調できるか? A B C A (5,5) (0,0) (0,6) B (0,0) (4,4) (0,0) C (6,0) (0,0) (1,1) 問題:ナッシュ均衡は? 法と経済学2 9 2期繰り返したら? A B C A (5,5) (0,0) (0,6) B (0,0) (4,4) (0,0) C (6,0) (0,0) (1,1) 以下の状況は部分ゲーム完全均衡として実現できる 第1期は(A,A), 第2期は、第1期に(A,A)が実現したら (B,B), それ以外なら(C,C) 法と経済学2 10 無限繰り返しゲーム 同じゲームを無限回繰り返す。 各回ごとに利得が発生。 その割引現在価値を最大化する 今期の利得+δ(次期の利得)+δ2(次-期の利得)+δ3 (次-期の利得)+... δ∈(0,1):割引因子 法と経済学2 11 割引因子の意味 (1) 利子率を反映 δ=1/(1+r) r:利子率 (2) 主観的割引率を反映:将来をどれぐらい軽視する かの指標、その主体がどれぐらい忍耐強いかを表 す指標(忍耐強いほどδは大きい) (3) ゲ-ムが次の期まで続く確率δ ⇒実際には無限にゲ-ムが続く確率はほぼゼロでも かまわない~見かけほど非現実的な状況ではない 法と経済学2 12 部分ゲーム完全均衡 以下の戦略はδ≧1/2である限り、部分ゲ-ム完全均 衡となる。 各playerはそれ以前に2人とも一度もDを取ってい ないときCを取り、これ以外の場合にはDを取る。 法と経済学2 13 部分ゲーム完全均衡であることの確 認 今まで2人とも一度もDを取っていないとする。 ライバルの戦略を所与として、自分が(前のシート の)戦略に従うと利得は3/(1-δ)。 戦略を変えてDを取ると4+δ/(1-δ) 。 3/(1-δ)≧4+δ/(1-δ)⇔ δ≧1/3 ~将来がそれなりに重要であれば協調行動を取る 誘因がある。 法と経済学2 14 繰り返しゲームのロジックが使われる 例 ・国際協調、国際法 ・継続的取引、効率賃金仮説 ・定期市 ・ソフトロー、慣習 ・カルテル、談合 法と経済学2 15 これ以外の部分ゲーム完全均衡 以下の戦略はδによらず、部分ゲーム完全均衡となる。 各playerは常にDを取り続ける。 ⇒長期的な関係にあれば常に協調が実現するわけで はない。 法と経済学2 16 非協力ゲームの例(囚人のジレンマ) C D C (3,3) (-1,4) D (4,-1) (0,0) 問題:無限繰り返しゲ-ムを考えよ。 両者が永遠にCをとる状況が均衡になる条件を求めよ 法と経済学2 17 非協力ゲームの例(囚人のジレンマ) C D C (3,3) (-1,6) D (6,-1) (0,0) 問題:無限繰り返しゲームを考えよ。 両者が永遠にCをとる状況が均衡になる条件を求めよ 法と経済学2 18 どんなときに協調が難しいか? (1) 情報のギャップ (2) Player間の非対称性、格差(単なる異質性では ない) (3) 衰退産業 (4) 将来の新規参入の可能性 (5) 需要規模の変動 法と経済学2 23 非協力ゲーム(noncooperative game) 各人が自分の利得を最大化するように行動 →協力できるのは、(ライバルの戦略を所与として) 協力行動が自己の利得を最大化するときのみ ⇒非協力ゲ-ムは常に協力できない状況を記述する ゲームではなく、誘因もないのに協力できること を前提としないゲ-ムのこと 法と経済学2 20 協力ゲーム(cooperative game) 協力を前提としたゲーム ⇒協力を前提としてしまったら後は何を分析するの か? ⇒協力の結果得られた果実がどのように分配される かという問題が残っている 法と経済学2 21 問題の例 登場人物AとB。 2人が協調しなければAは5の利得、Bは10の利得を 得る。 2人が協調すれば2人あわせて25の利得を得る。 ⇒協調の結果25の利得を、2人でどう分けることに なるか? 法と経済学2 22 ナッシュ交渉解 登場人物AとB。 2人が協調しなければAはVaの利得、BはVbの利得を 得る。(Va,Vb)を威嚇点(threat point)という。 2人が協調すれば2人あわせてYの利得を得る。 ⇒協調の結果Aの利得Ua、Bの利得Ubはどうなるか? ナッシュ交渉解 (Nash Bargaining Solution) Ua=0.5(Y-Va-Vb)+Va Ub=0.5(Y-Va-Vb)+Vb ⇒二人が協調して得られる利益を折半する。 法と経済学2 23 ナッシュ交渉解 問題 Bは10のコストで部品を作り、Aは10のコスト で組み立てて30で売ることが出来る。BはAに売れ ないと利益ゼロ。Aは部品を内製化することもでき る。このとき総費用は25。 ナッシュ交渉解でのAとBの利得は? 法と経済学2 24 一般化ナッシュ交渉解 登場人物AとB。 2人が協調しなければAはVaの利得、BはVbの利得を 得る。2人が協調すれば2人あわせてYの利得を得る。 ⇒協調の結果Aの利得Ua、Bの利得Ubはどうなるか? 一般化ナッシュ交渉解(Generalized Nash Bargaining Solution) Ua=α(Y-Va-Vb)+Va Ub=(1- α)(Y-Va-Vb)+Vb α:Aの交渉力(bargaining power)を表す。これが大きい ほどAの交渉力が強い(Bの交渉力が弱い)。 法と経済学2 25 交渉力に関する2つのストーリー 組み立てメーカーAと部品メーカーB。 ストーリー1・Bは10のコストで部品を作り、Aは 10のコストで組み立てて40で売ることが出来る Aの交渉力α→1 ⇒Aの利益→20 ストーリー2・Bは10のコストで部品を作り、Aは 10のコストで組み立てて30で売ることが出来る。 Aは部品を内製化することもできる。このとき総 費用は20+ε Aの交渉力α=0.5、 ε→0 ⇒Aの利益→20 2つのストーリーは本質的に同じ。 法と経済学2 26 交渉力に関する仮定 経済学の論文では当事者の交渉力が等しいと仮定す ることが多い 大国と小国の交渉、元請けと下請けの交渉、雇用 者と労働者の交渉、貸し主と借り主の交渉 両者の交渉力が等しいなんて仮定は非現実的でナン センス←これはたいていは誤解 ストーリー2のように交渉力が対等でも威嚇点にお ける利得の関係によっては一方は弱い立場に立た される状況を記述できる 法と経済学2 27 交渉力に関する仮定 逆に経済学の論文では一方の交渉力がゼロと仮定す ることも時々ある ストーリー2のように威嚇点における利得の関係に よっては一方は弱い立場に立たされる状況を、い ちいち威嚇点の状況を記述しないで簡単にAが 100%の交渉力を持つと記述しているだけのこと が多い 法と経済学2 28 非協力ゲームに基づく交渉のモデル化 登場人物、AとB。全体で1の利益をわける。交渉がまと まらなければともにゼロの利得 ⇒ナッシュ交渉解ならともに0.5の利得。 Aが先にAの取分をBに提案し、Bが受け入れたらゲー ム終了。Bが受け入れなければ今度はBがAの取分 を提案。Aが受け入れたらゲーム終了。Aが受け入れ なければ今度はAがBの取分を提案。 player iの割引因子(discount factor) δi∈(0,1)(i=A,B) 法と経済学2 29 割引因子の意味 (1) 利子率を反映 δ=1/(1+r) r:利子率 (2) 主観的割引率を反映:将来をどれぐらい軽視するか の指標、あるいはその主体がどれぐらい忍耐強いか を表す指標(忍耐強いほどδは大きい) (3) 状況が変わって1の利益が得られなくなってしま う確率 ⇒基本的には繰り返しゲームで学んだδの解釈と同じ 法と経済学2 30 均衡解(3期モデル) Aが提案し、Bが提案し、Aが提案してまとまらなけれ ばゲ-ム終了とする。 後方帰納法で解く。 第3期 Ya=1. 第2期 Aは拒否すると次の期1の利得。今期δの利得 がなければ拒否⇒Bの提案はYa=δ 第1期 Bは拒否すると次の期1-δの利得。今期δ(1-δ) の利得がなければ拒否⇒Aの提案はYa=1-δ(1-δ)=1δ+δ2 法と経済学2 31 非協調ゲ-ムの解(5期モデル) Aが提案し、Bが提案し、Aが提案、Bが提案し、Aが提 案してまとまらなければゲ-ム終了とする。後方帰納 法で解く。 第5期 Ya=1. 第4期 Aは拒否すると次の期1の利得。今期δの利得 がなければ拒否⇒Bの提案はYa= δ 第3期 Bは拒否すると次の期1-δの利得。今期δ(1-δ) の利得がなければ拒否⇒Aの提案はYa=1-δ( 1-δ)= 1-δ+δ2 法と経済学2 32 非協調ゲ-ムの解(5期モデル) 第2期 Aは拒否すると次の期1-δ(1-δ)の利得。今 期δ(1-δ(1-δ))の利得がなければ拒否⇒Bの提案 はYa= δ(1-δ(1-δ)) 第1期 Bは拒否すると次の期1- δ(1-δ(1-δ))の利 得。今期δ(1-δ(1-δ(1-δ)))の利得がなければ拒 否⇒Aの提案はYa= 1-δ(1-δ(1-δ ( 1-δ)))=1 -δ+δ2-δ3+δ4 法と経済学2 33 非協調ゲ-ムの解(n期モデル) Aが提案し、Bが提案し、Aが提案、。。。、Bが 提案し、Aが提案してまとまらなければゲ-ム終了 とする(合計n期。n奇数)。後方帰納法で解く。 第n期 Ya=1. 第n-1期 Bの提案はYa=δ 第n-2期 Aの提案はYa= 1-δ+δ2 第n-3期 Bの提案はYa=δ(1-δ(1-δ)) 第n-4期 Aの提案はYa=1-δ+δ2 - δ3+δ4 法と経済学2 34 非協力ゲ-ムの解(n期モデル) Aが提案し、Bが提案し、Aが提案、。。。、Bが提 案し、Aが提案してまとまらなければゲ-ム終了と する(合計n期。n奇数)。後方帰納法で解く。 第1期 Aの提案はYa=1-δ+δ2-δ3+δ4 -δ5+δ6-...+δn-1 n→∞ Ya→1/(1+ δ) δ→1 Ya→1/2~ナッシュ交渉解と同じ ⇒ナッシュ交渉解の非協力ゲ-ムによる基礎付け 法と経済学2 35 均衡解(無限期間バ-ジョン) 今期はAが提案。まとまらなければ来期はBが提案。 均衡においてAがYa=xの提案で交渉がまとまると する。Off pathでBはYa=yの提案をし、交渉がま とまるとする。このとき x=1-yかつ1-x=δ(1-y)となるはず。この連立 方程式を解くとx=1/(1+δ)となる。 法と経済学2 36 非協力ゲームの解の特徴 ・nが小さくδが1に近い ⇒最後に提案できる者がかなり有利 ・もしAとBの割引因子が違っていたら? ⇒割引因子の小さい方(より忍耐強くない方)の取り 分が小さくなる ~交渉が長引くとBに不利になる状況ではBは実質 的に交渉力を失ってしまう 法と経済学2 37 割引因子と交渉力の例: バックホ-事件 ・即時取得~動産は原則として占有した時点で所有 権が発生 ・盗品の場合には例外規定が 法と経済学2 38 登場人物 丙 今の占有者 乙 甲 元の所有者 公の市場から購入 法と経済学2 39 関連する法律の整理 丙が平穏かつ公然に占有をはじめ、善意無過失なら、 丙は即時にこの動産の所有権を取得し、その結果 甲は所有権を失う(民法192条:即時取得)。 甲は乙に対して債務不履行あるいは不法行為に基づい て損害賠償請求をする権利(民法415条あるいは709 条)または不当利得の返還を請求する権利(民法704 条)を有する。 盗難ないし遺失の日から2年間は、甲は丙に対してこ の動産の引き渡しを請求できる(民法193条)。 丙が一定の要件を満たす時、甲はその取得に対して丙 の取得価格を補償しなければならない(民法194条)。 法と経済学2 40 バックホー事件 (1) 甲がバックホー(農業機械)を盗まれる。 (2) 甲が盗まれたバックホ-を丙が使っているのを発見。 丙は乙から購入。乙は行方不明。 (3) 甲が丙を訴える。 1審:甲は取得価格を丙に払え。丙は訴えが提起され てから現在までの使用料を甲に支払え。 2審:1審と同じ。使用料の単価は減額。 丙は返さないと今後も使用料⇒たまらず甲に返却。 最高裁:使用料の支払不要。甲は丙の取得価格を支払 え。 法と経済学2 41 バックホー事件での最高裁の判断 (1) 下級審の判例変更~使用料不要 (2) 大審院の判例変更 (従来の判例) 丙が任意に甲に盗品を引き渡したら丙 は甲に対して取得価格の補償を請求できない もしこの最高裁判決がなかったら 丙は返却しないと時間がたつにつれどんどん損害が 増える。 ⇒実質的に丙の交渉力を著しく損ねる。 ⇒194条による盗品取得者の保護を有名無実化する。 法と経済学2 42 交渉力のコントロ-ル 裁判所が決めるル-ル⇒当事者の交渉力に影響 (例)バックホー事件 当事者間の交渉で同じ事ができないか? (例)遅延損害金の設定。これを十分に大きく設定すれ ば遅延損害金の発生する当事者の交渉力を弱めら れる ⇒第9講、特定履行の回に議論する 法と経済学2 43 Shapley value bargaining solution 当事者が3人以上いたら交渉解はどうなるのか? ナッシュ交渉解をそのまま使う Ua=1/3(Y-Va-Vb -Vc)+Va 問題点 3人集まらないと協調できないならこれでいいかも しれない。しかし2人集まればある程度の利得が あげられるときには、その程度に依存して交渉の 結果得られる利得も変わるはず ⇒シャプレバリュー交渉解 法と経済学2 44 シャプレバリュー交渉解 Ua=1/6{2(Y-Vbc)+(Vab-Vb)+(Vac-Vc)+2Va} Vij: iとjのペアで得られる利得 3人をランダムに並べる。新たに加わった人が追加 的な利益を全て取る。その利益の期待値がシャプレ バリュー。 Ub=1/6{2(Y-Vac)+(Vab-Va)+(Vbc-Vc)+2Vb} Uc=1/6{2(Y-Vab)+(Vac-Va)+(Vbc-Vb)+2Vc} 法と経済学2 45 シャプレバリュー交渉解の使用例 ・組立メーカーは複数の部品メーカーを使い分ける ・政府と複数の民間企業が交渉 ・企業が立地に関して複数の自治体を天秤にかける ・3党体制(あるいはそれ以上の政党数)での連立交渉 ・多国間交渉、多国間協定 ・売手市場、買手市場の労働市場 法と経済学2 46 問題 A,B,CとPlayerは3人。3人組むと12の利益。A1人 なら3の利益。B,C単独ではゼロの利益。2人が組 んでも利益を増やすことは出来ない。 問題:シャプレバリュー交渉解を計算しなさい。A,B,C の利得は? 法と経済学2 47 問題 A,B,CとPlayerは3人。3人組むと15の利益。A,Cと も1人なら3の利益。B1人なら0の利益。AとCが 組んでも6の利益。A,B あるいはB,Cの2人が組む と12の利益。 問題:シャプレバリュー交渉解を計算しなさい。A,B,C の利得は? 法と経済学2 48
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