高血圧治療は画一緩和ガイドラインから 主治医が考える個別療法へ

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高血圧治療は画一緩和ガイドラインから
主治医が考える個別療法へ
苅尾七臣(自治医科大学内科学講座・循環器内科部門主任教授)
2013 年にヨーロッパ高血圧学会・心臓病学会高血圧治
害の 2 要素を評価し、リスクを相乗的に考える(図 1)4)。
療ガイドライン、2014 年 4 月に日本高血圧学会が新ガイ
現 在、 臨 床 応 用 さ れ て い る 血 管 評 価 検 査 に は、FMD、
ドライン・JSH2014 を発表し、ここに国内外のすべての
PWV・CAVI、AI などがある。詳細は、日本循環器学会
高血圧治療ガイドラインの改訂が終了した。これらの大
が最近発表した「血管機能の非侵襲的評価法に関するガイ
きな特徴は、これまでのより厳格な降圧一辺倒から、降
ドライン」を参照いただきたい 5)。
圧規制を緩和した点にある。降圧治療目標の上限を高齢
近年、緩和されたガイドラインによる個々のリスク因
者 で は 150 mmHg に 引 き 上 げ た り、 糖 尿 病 患 者 で は
子の画一的管理に代わり、これからの循環器アテローム
140 mmHg に引き上げたりしているガイドラインもある。
血栓疾患や認知症、心不全、慢性腎臓病などの加齢疾患
薬剤選択についても、高血圧治療の有用性は、降圧薬ク
の抑制には、より早期から血管と血圧変動性を評価し、
ラス間の違いよりも、大半が降圧自体により決まる点が
そのリスクを相乗的にとらえ、より早期から主治医が個
強調されている。これを考えずに解釈すれば、降圧薬は
人の病態に責任をもった最良の包括リスク管理を行うこ
何でもよく、降圧レベルもやや甘めの治療でいいのでは
とが重要であると考える。
ないかという人も出てくることが危惧される。
血圧は加齢を反映した健康長寿のマスターバイオマー
カーである。血圧は多様な生活習慣や環境要因により変
動するストレス指標でもあり、メカニカルな拍動性スト
レスにより動脈壁の動脈硬化を進展させ、プラークがあ
る部位においては破綻を引き起こし、心血管イベントの
トリガーともなるリスク因子でもある。かつ、血圧はこ
れまでの臨床研究においても、その上昇が指数関数的に
心血管イベントを増大させ、逆にその低下によりリスク
も減少するエビデンスが最も明確に示されているリスク
因子である。
図 1 ● 全身血行動態アテローム血栓症候群
(SHATS)
の
進展−心血管イベントと臓器不全に対する血行動
態ストレスと血管障害の相乗的リスク増大−
(文献 4 より引用)
SHATS:systemic hemodynamic atherothrombotic syndrome, FMD:内
皮依存性血管拡張反応 , PWV:脈波伝搬速度 , IMT:頸動脈内膜中膜肥厚 ,
AI:増幅係数(augmentation index)
リスク
SHATS
臓器 認知機能障害
不全 心不全
腎不全
血管 血行動態
障害 ストレス
近年、血圧は家庭血圧の普及と IT を用いた血圧管理シ
心血管イベント
ステムの実用化により、患者自身がいつでも測定でき、
その情報が一元管理できることになった。血圧の平均値
相乗的
リスク増大
は同一でも、その変動性と血圧波形には個別性が出る。
IMT
血圧変動とその波形解析から、個人の循環リスクをどう
読み取るかが重要である。血圧変動性は血管障害と密接
に関連しており、そのリスクは血管病変の進行した患者
臓器
障害
高血圧
FMD
でこそより大きくなる。われわれは、この血圧変動性と
大動脈
伸展性↓
血管障害の悪循環とリスクの相乗的増大を示す病態を
早朝高血圧
中心血圧/AI
血圧変動性↑
全 身 血 行 動 態 ア テ ロ ー ム 血 栓 症 候 群 (systemic
hemodynamic atherothrombotic syndrome;SHATS)
治療抵抗性
高血圧
PWV
若年
成人
高齢者
加齢
とよんでいる 1 -4)。SHATS のリスクは、血圧変動と血管障
文献
1) Kario K. Proposal of a new strategy for ambulatory blood pressure
profile-based management of resistant hypertension in the era of renal
denervation. Hypertens Res 2013 ; 36 : 478 -84 .
2) Kario K. Orthostatic hypertension-a new haemodynamic cardiovascular
risk factor. Nat Rev Nephrol 2013 ; 9 : 726 -38 .
3) Kario K. Morning surge in blood pressure-A phenotype of systemic
hemodynamic atherothrombotic syndrome(SHATS). Am J Hypertens
2014 , in press.
4) Kario K. Systemic hemodynamic atherothrombotic syndrome
(SHATS)
:
A blind spot in the current management of hypertension. Intern J
Hypertens 2014 , in press.
5) 山科 章(班長). 血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン . 日
本循環器学会 , 2014 .
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