非肥満男性における重症閉塞性睡眠時無呼吸は左室

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英文原著論文紹介 ⑦心血管
Severe obstructive sleep apnea impairs left ventricular diastolic
function in non-obese men.
Usui Y, Takata Y, Inoue Y, Tomiyama H, Kurohane S, Hashimura Y, Kato K, Saruhara H, Asano K,
Shiina K, Yamashina A
Sleep Med 2013; 14: 155-9. PMID: 21377928
非肥満男性における重症閉塞性睡眠時無呼吸は左室拡張能を
低下させる
臼井靖博(東京医科大学病院循環器内科兼任講師)
高田佳史/井上雄一/冨山博史/黒羽根彩子/橋村雄城/加藤浩太/猿原大和/浅野毅弘/
椎名一紀/山科 章
背景
閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea;OSA)
は虚血性心疾患、心不全、脳血管障害など心血管疾患の
重要なリスク因子であることが報告されている。一方、
リン抵抗性、PWV など左室拡張能に影響する因子と独立
した因子であるかについて検討した。
結果
病態に左室拡張不全の関与が示唆されている、収縮能の
二群間において、年齢、BMI、左室駆出率、左房径、
保 た れ た 心 不 全(heart failure with preserved ejection
左室心筋重量係数(left ventricular mass index;LVMI)
、
fraction;HFpEF)においても、収縮能の低下した心不全
相対的壁厚(relative wall thickness;RWT)などに有意差
(heart failure with reduced ejection fraction;HFrEF)
を認めなかった。baPWV は重症群で有意に高値であった
同様、OSA が高頻度に認められることが知られている。
(1344 .7 215 .6 vs. 1484 .1 280 .0 cm/sec, p = 0 .03)
。
これまでの報告をまとめると、OSA の左室拡張能への影
重症群における E/A 比は、軽症・中等症群に比較して
響は controversial であるが、OSA 患者に高頻度に合併す
有 意 に 低 値 で あ っ た(1 .11 0 .41 vs. 1 .52 0 .41 , p =
る高血圧、心肥大、インスリン抵抗性、肥満といった左
0 .0001)。同様に、Ea も重症群で有意に低値であった
室拡張能に影響する因子が、研究ごとに差があることに
起因すると考えられた。
目的
(9 .0 2 .0 vs. 11 .7 2 .7 cm/sec, p = 0 .001)
。
AHI は E/A 比と有意な負の相関を認めた(r =­0 .47 , p
= 0 .0001)
(図 1)が、RWT、LVMI、baPWV とは相関を
認めなかった。一方、LVMI、baPWV は E/A 比と有意な
心血管リスクを有さない非肥満 OSA 症例における、OSA
負の相関を認めた。
と左室拡張能との直接的な関連について検討すること。
重回帰分析において、重症 OSA は年齢、インスリン抵
方法・対象
OSA が疑われ、終夜睡眠ポリソムノグラフィを施行し、
無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index;AHI) 5 回 /
時 間 の OSA と 診 断 さ れ た、body mass index(BMI)
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重回帰分析により、OSA が血圧、左室肥大形態、インス
抗性、血圧、左室肥大形態および baPWV で補正後も E/A
比の独立した規定因子であった(β =­0 .23 , p = 0 .001)
(表 1)。
考察
27 .5 kg/m2 で、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙歴、
本研究は、欧米に比較して非肥満 OSA の割合が高いわ
心血管疾患の既往のない男性 74 例を対象とした。全例に
が国の特徴を踏まえ、さらに心血管リスクをもたない症
経胸壁心エコー、上腕­足首間脈波伝播速度(brachial-
例を対象とすることで、重症 OSA の左室拡張能への直接
ankle pulse wave velocity;baPWV)を施行した。左室
的な影響を検討することが可能であったと思われる。ま
拡張能の指標として、ドプラ法による左室流入速波形(E/A
た、軽症・中等症、重症 OSA の二群間で、左室肥大形態
比)
、および組織ドプラ法における僧房弁輪速度(Ea)を用
に有意差がないにもかかわらず、重症 OSA 群で左室拡張
いた。
能の有意な低下を認めたことから、左室の morphological
対象を OSA の重症度により、軽症・中等症群(5 AHI
な変化をきたす以前から、重症 OSA が左室拡張を障害し
< 30 / 時間)と重症群(AHI 30 / 時間)の二群に分類し、
ていることが示唆された。
比較を行った。さらに AHI と拡張指標との相関、さらに
OSA の直接的な左室拡張能障害の病態生理学的機序は
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英文原著論文紹介⑦
明らかではないが、無呼吸時の胸腔内圧の著しい陰圧化、
と、 早 期 の CPAP 導 入 は、 左 室 拡 張 障 害 の 進 展 予 防、
すなわち transmural pressure の増大による左心系負荷増
HFpEF の発症抑制に寄与するかもしれない。
大、あるいは静脈還流量増大による右室拡大による心室
結論
中隔の左室側への圧排、さらには中心動脈圧の上昇など
が考えられる。
重症 OSA は、肥満およびそれに伴う心血管リスク、左
本 研 究 結 果 と、OSA に 対 す る 持 続 陽 圧 換 気 療 法
室肥大形態、arterial stiffness とは独立して左室拡張能に
(continuous positive airway pressure;CPAP)が軽度の
直接的な影響を及ぼす可能性が示唆された。
左室拡張障害の改善を示した過去の研究報告を踏まえる
図 1 ● AHI と E/A 比の相関 2.5
r=−0.47, p=0.0001
E/A 比
2.0
1.5
1.0
0.5
0
10
20
30
40
50
60
70(回 / 時間)
AHI
表 1 ● E/A 比に対する重回帰分析
単回帰
重回帰
r
p値
β
p値
年齢
− 0 .72
0 .0001
− 0 .63
0 .0001
BMI
− 0 .21
0 .08
収縮期血圧
− 0 .38
0 .001
拡張期血圧
− 0 .5
0 .0001
HOMA 指数
− 0 .26
0 .03
− 0 .20
0 .007
baPWV
− 0 .57
0 .0001
LVMI
− 0 .31
0 .008
RWT
− 0 .53
0 .0001
重症 OSA
− 0 .47
0 .0001
− 0 .23
0 .003
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