B45 高齢者健康支援のための把握力計測技術の開発 有明高専 ○柳原 聖, 川嵜義則 , 東京大学 土屋健介 Development of New Measuring Technology of Grasping Power for a Person of Advanced Age Ariake National College of Technology Kiyoshi Yanagihara, Yoshinori Kawasaki, and the University of Tokyo Kensuke Tsuchiya New measuring method of grasping power for advanced people has been proposed to support their healthy life. This method employs hand-held dynamometer system to measure grasping power dynamically without any strong physical stresses on the subject. In order to confirm the efficiency of the proposed method, the subjects who were selected from 5 years old to 80 yeas old were examined with the developed system. The experimental results demonstrate the efficiency of the proposed method, and that it can not affect on the blood pressure of the subjects. 1. はじめに 著者らの一部が所属する有明高専は福岡県大牟田市にある. 大牟田市は高齢化率が 20% を超えており全国でも有数の高齢 社会を迎えている. したがって高齢者の健やかな生活を支援す ることは地域の大きな課題となっている. 個人の健康を示す指標としては体力測定がある. 文部科学省 が平成 12 年にとりまとめた新体力テスト 1)によると,高齢者 (65 歳以上)の体力測定においては,被験者の安全を考慮して 図1 スメドレー式による握力計(竹井機器工業(株)製) ADL(Activity of Daily Living)テストが用いられている.この テストの評価項目の一つとして握力測定がある. 握力の測定に 98 Low おいては,機器の使い易さなどからスメドレー式(図 1)の握 Before After 98 力計が利用されている.しかし,この握力測定法においては最 大筋力を発揮する際に極度の筋緊張が生じてしまい, 被験者に 152 よっては危険を伴う可能性がある.そこで,本研究において High 170 は, 物を把握する力を被験者に負担をかけずに手軽に計測でき る手法を検討する. 0 2. 握力計測の被験者への負担 50 100 150 200 Blood pressure mmHg スメドレー式握力計を利用した高齢者の握力計測において, (a) 80 歳男性 その身体的負担を表した一例を図 2 に示す.ここでは,80 歳 男性と38歳男性を被験者の握力計測直前直後の血圧の変化を 70 Low 示している.図から 38 歳男性被験者においては計測後の大き Before After 69 な血圧の変化は認められないが,80 代男性においては最高血 圧が握力計測後に上昇し, 握力試験で生じた身体的負担が試験 後も持続されてしまっていることがわかる. 117 High 117 したがって,高齢者の健康管理を支援するためには,より身 体に負担をかけない軽い負荷による握力計測法が望まれる. そ 0 こで,本研究ではハンドヘルドダイナモメータに注目し,その 発電特性を利用して物を把握するための動力 (以降把握力とす る. )を計測することを考えた. 3. ハンドヘルドダイナモメータによる把握力計測法の提案 提案する測定装置の概要を図 3 に示す.本実験においては (株)ウィリアムテレコム製のハンドヘルドダイナモメータを 改造して利用した.このダイナモメータにはストローク量 20mmのレバーが付いており,被験者がレバー部を思い切り握 ると,慣性モーメント 3・10-4N・m のロータが回転し,その回 転数に応じた電圧を生じさせられる. 50 100 150 Blood pressure mmHg (b) 38 歳男性 図 2 握力測定前後の被験者の血圧変化 であるから, ダイナモメータを利用すれば被験者の物を把握す る筋パワーに比例した電圧が得られることになる. 得られた電 圧波形は PC で記録し解析した.測定は 5 歳から 80 歳までの男 女に行い, 測定は被験者に測定開始を知らせると同時に出力電 圧の記録を行った.なお,今回の装置で把握力を計測するため には,レバーを動かすために最小で 560gf の握力が必要であ る. 慣性モーメントIのロータをトルクをTで角速度ωで回転さ せると,そのときの動力 P は, 4. 実験結果 得られた把握動力(以降把握力とする. )の一例を図 4 に示 P=T・ω =I・ω・(d ω /dt) (1) す.計測開始から約 0.3 秒ほど遅れて電圧が上昇し,その後下 2007 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集 −157− B45 Time to respomse 25 Reaction Voltage V 20 15 10 5 0 図 3 実験装置の概要 0 100 200 300 降に転じていることがわかる.この0.3秒までの時間が被験者 40 込むと,ロータには動力が伝達されない構造になっている.こ 35 30 この装置により 5 歳から 80 歳までの被験者の握力計による 握力とダイナモメータ最大出力電圧の相関を調べたものが図5 になる.図より良好な相関が得られており,本実験装置で得ら れる最大出力電圧から, 被験者の最大握力を推定することが可 Peak voltage V ダイナモメータはレバーストローク20mmまでレバーを握り 的な抵抗に応じて減速しはじめ,出力も次第に減ってゆく. 25 20 15 10 5 0 0 能である. 10 20 30 40 50 60 Grasping force Kgf 図5より筋力と出力電圧との相関が得られたことから,出力 電圧の過渡状態は,被験者の筋力の出力特性,すなわち筋パ 600 図 4 計測結果の一例(75 歳女性) タが加速されるために加速度に応じて出力が得られる. ロータは蓄えられた慣性力のみで自転し, ダイナモ内部の機械 500 Time ms の反射能力を示すことになる.そして,筋パワーに応じてロー のため被験者がレバーを握り込みローターの加速を終えると, 400 図 5 握力計計測値とダイナモメータ出力電圧の相関 ワーを示すことになる. このとき電力の立ち上がりから最大値 までの傾きが急峻であればあるほど, とっさの時に何かを掴む 能力が高いと考えられる.図 6 は 5 歳から 75 歳までの 5 名の 5F left 7F right 女性被験者の出力電圧の立ち上がり係数をまとめたものであ る.図中項目の数字は被験者の年齢を表し,F は女性を意味す る.把握力計測は両手左右で行い,それぞれの係数をRight,Left で示している.図より 75 歳女性の把握力は 11歳女性と同程度 であることがわかる.ちなみに,両者の体重は 11 歳女性が 11F 34F 75F 21kgf に対して 75 歳女性は 50kgf である.よって,11 歳女性よ りも,75 歳女性のほうがとっさの場合に手すりなどを掴み損 ねて転倒事故に至る可能性が高いと考えられる. 0 50 100 150 Coeeficient 200 V/s 図 6 年代別出力電圧の傾き(女性) 5. 提案した計測法の安全性の検証 最後に, 本報で提案した本計測法が被験者に与える負担を検 証する.図7は実験直前直後の被験者の血圧を示したものであ Before After Low る.75 歳女性,80 歳男性のいずれにおいても大きな血圧の変 化はなく,負担が少ない計測法であることが示された. 6. おわりに 高齢者に身体的負担をかけずに, 物を掴む力を簡便に計測す High るためにハンドヘルドダイナモメータを利用した把握力計測法 0 を開発した.得られた結果を下記に記す. 50 100 150 200 Blood pressure mmHg (1)ハンドヘルドダイナモメータの出力電圧と被験者の握力 (a)80 歳男性の場合(図 2(a)と同一被験者) は良好な相関を示し,出力電圧から握力を推定できる. (2)提案した計測法で,物を掴むための筋力のみならず筋パ Before After Low ワーの動的な変化を把握することができる. (3)レバー操作の負荷が560gfと小さいため高齢者への身体的 負担がない. High 参考文献 1)新体力テスト - 有意義な活用のために -,文部科学省,ぎょ うせい.2006 年. 謝辞 実験にご協力いただいたグループホームふれあいの皆様に感謝 申し上げます. 2007 年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集 −158− 0 50 100 150 200 Blood pressure mmHg (b)75 歳女性の場合 図 7 提案した計測法の血圧への影響 250
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