優秀賞 私の茶道 文化学園大学三年(東京都) 楠田 千 尋 グバンが襲ってきて目が覚める。あ、こういうことだったのか。 茶道を始めたきっかけは、友達が始めたことだった。始めてくれ てありがとう。話を聞いて興味を持った。和菓子食べたさに茶道体 験に参加した。何度か通ううちにやってみたくなった。割稽古を覚 えていくのが楽しくなり、学校の宿題もまともにやってこなかった のに、家で帛紗を捌いた。道具もないのにリビングや自室でエアー お点前をした。それがまた楽しくなり、一つ、一つ、出来ていく。 達成感が積み重なっていく。出来た。出来た。出来ない、出来ない、 た。心地よい、あくまで心地よい緊張感、静かに楽しむ心、五感が お点前が始まった途端、空気が変わる。初めの頃は少し怖いよう な緊張感しか感じなかったのに、それが、だんだんと、変わってき ほんの少し、異世界だったものと書き直そうか迷った。しかし異 世界のままにした。きっとこれが本音なのだ。 が出来たのは、何がしかの流れがあってのことだと思う。 らいないものがある。その中で、茶道という異世界に踏み入ること 人に会うことは出来ない。同様にそれが文化であっても、知ってす のだ。世界の全てを知ることは不可能だし、一生かけても日本中の きもので、適したものであると信じている。出会いは素晴らしいも ている。だから、たまたまたどり着いた茶道だけれど、私がやるべ る。運が良い。よく当たる。職場や学校などでの出会いにも恵まれ 点前の成長は互いに関わりあっていて、お点前を通して自分の成長 る舞いを知り、お稽古によって自分の内面を見る。自らの成長とお の上達によって内面が磨かれる。女性らしくありながら機能的な振 いたいがそこには人格が現れる。すなわち全てが美しい女性は内側 それから、女であること。これには強い誇りをもっていて、主張 したい気持ちをいつも抱えている。何故かはわからない。女性の身 持ち良かったのだ。いつまでも埋もれていたいほどだった。 物選びがあんなに楽しかったのだ。日本の色彩に囲まれることが気 なのだ。だから和菓子も余計に好きなのだ。だから成人式の為の着 なんて、と頭では思ったりもする。でも、なんだかんだ日本が好き そうしてお稽古をしていくうちに、私のお稽古を後押しするもの に気付いた。アイデンティティへの執着である。住んでいると日本 出来ない、出来た。そして、わかった、になっていく。 開いていくこと。初めはわからなかったのに。そう思えばむしろ、 を目で見ることができる。 「道」なら何でも良かったのかもしれない。それでも私は茶道に出 会った。それには意味があると思う。私はついている、とよく感じ お茶の世界に入れば入るほど、そこはより異世界になっていくのか 成長するには時間がかかる。とりわけ私という人間においてはそ から美しい。美しいお点前は優れた人格から生まれる。またお点前 体は美しい。女性の仕草も美しい。醸し出す雰囲気も、美しいと言 もしれない。お茶の席から世界に広がっていく。ときたま小さなビッ うだ。高校を卒業するころから、常にそう思ってきた。自分は人よ り内面の成長が遅れている。それ故に焦りと危機感があった。何か、 何かしなければと思いながらお茶を始めて一年ほど経ったころ、久 しぶりに本を読みはじめた。途絶えていた読書習慣が戻ってきた。 小説だけでないのが昔との違いである。そこから多様な人の考えを 学び始めた。非日常的なコミュニティーに飛び込んでみたりもした。 そして、お点前が変わってきた。自分の成長を感じた。 成長は、他者との関わりと一人の時間における考察によると考え ている。特に外観においては思考や感情の表し方を選択することが 大きな割合を占めるが、茶道にはこの両方が含まれている。茶道は 謎に包まれた小宇宙であり、お稽古の全体は小さな社会である。学 者たちは、原始宇宙のミクロから宇宙の果てまで研究する。よく見 えているのは、地球サイズの星ばかり。お茶でもそうで、小さな視 点も俯瞰もなかなか見えず、見えるのはただ目の前のお茶ばかりで ある。考えるほどに考えごとが増える。また、お稽古の場では横の 繋がりも縦も斜めも存在し、現実の生活に備えられる。日常生活の ためのお稽古なんてそうできる場は無い。こんなものをずっと求め ていた。 最近は人を指導する機会が出てきた。先生が指導担当として任命 してくれたことがありがたかった。慌ててお稽古の指南書を購入し た。責任感の芽生えに気付いた。衝撃だった。今まで自分は責任感 もなくお茶に取り組んでいたのか。また新たに壁が見えてきた。多 少尻込みしながらも、また乗り越えてやろうという意気込みである。 茶道は、寛容だ。誰のことも受け入れるし新しい型を拒むことは ない。茶道と私が馴染むころには、日頃の振る舞いが変わっている だろう。まず謙虚に、成長し続けたい。茶道とともに、進んでいく。
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