◎急性心腎症候群について 急性心腎症候群の概念、病態、診断、治療、 予後について、文献を併せてご教示ください。 ︵青森県・内科︶ 病態 低心拍出があれば腎血流は低下し、腎前性 の機序により急性腎障害が発症することはよく 知られている。それ以外に、低酸素血症、中心 静脈圧や腹圧上昇に伴う腎うっ血、レニン・ア ンジオテンシン・アルドステロン系賦活化やバ ソプレシン過剰分泌によるナトリウム・水貯留、 様々な要因が急性腎障害を引き起こすと言われ 血管内皮障害に伴うサイトカイン放出など、 概念 ている。また、医原性の機序も忘れてはならな 回答 日本医科大学武蔵小杉病院 循環器内科・集中治療室 教授・部長 佐藤直樹 急性腎障害の定義を入院後の血清クレアチ い。酸素化改善の遅れ、薬剤投与による過度の の定義および分類が利用されている。最も新し 急性心不全における腎障害は、急性腎障害 診断 血圧低下、過剰な利尿薬投与などである。 ニン値が0・3㎎ / 以上の上昇とした場合、 急性心不全患者の約3割の患者において急性腎 障害を認めると言われている。そのため、急性 期においても心腎症候群が注目されるようにな った。 らにより、心腎症候群の明確な分類が Ronco 提唱され、急性心不全から急性腎障害は1型、 い Kidney Disease Improving Global Outcomes ︵KDIGO︶を紹介すると、その定義は、 〝入 院7日以内に血清クレアチニン値が %以上増 (1167) CLINICIAN Ê14 NO. 634 53 逆は3型と分類される。本稿では1型について 解説する。 50 dL 1) 加、あるいは、2日以内に血清クレアチニン値 が0・3㎎ / 以上の増加、あるいは、乏尿〟 で の課題である。 低心拍出状態では、拍出維持 尿量により、ステージ1、2、3と分類されて 腎保護作用を期待しうる薬剤選択として、血 現在治験進行中の serelaxin が注目されている。 いずれにしても、図に示すように心腎のバラン 圧を低下させない用量のカルペリチド、利尿薬 体液貯 いる。今後は、尿細管機能評価のバイオマーカ う。 のための容量負荷改善あるいは強心薬投与を行 3) としては水利尿薬であるトルバプタン、そして、 心原性肺水腫、 される。それぞれの病態に応じた心腎保護治療 が望まれる。 心原性肺水腫においては、第一に適切な 過度の血圧低下をきたさないように低用量から 酸素化を行う。血管拡張薬を使用する場合は、 究であるATTENDレジストリーから、入院 らうっ血解除が必要とされている。ただし、臓 が遷延すると障害が進行することから、早期か 駆出率、血圧、脳性ナトリウム利尿ペプチド等 規定因子としての重要性は、年齢、性別、左室 上不良であることが示されている。また、予後 2 開始する。 体液貯留に関しては、臓器うっ血 器うっ血をどのように評価し治療するかは今後 4) 時 推 定 糸 球 体 濾 過 量 が 50mL/min/1.73m 以下 の場合の院内予後は、そうでない場合の2倍以 予後規定因子である。日本の急性心不全疫学研 急性心不全予後において、腎機能は重要な 予後 スをうまく調整して的確な管理が望まれる。 3) 治療 急性心不全は、 2) 留︵溢水︶ 、 低心拍出の3つの主病態に分類 1) ーも含めた急性腎障害の定義が望まれている。 ある。さらに、重症度も血清クレアチニン値と dL 3) 2) 54 CLINICIAN Ê14 NO. 634 (1168) 2) 1) 心疾患 正常腎 正常心 文献 Ronco C, et al : Cardio-renal syndromes : report from the consensus conference of the acute dialysis quality initiative. Eur Heart J, 31, 703-711 (2010) は様々な研究で検証されている。 腎機能悪化が予後の重要な規定因子であること によっても影響を受けない。さらに、入院後の 4) Kidney Disease Improving Global Outcomes (KDIGO) Group : KDIGO clinical practice guideline for acute kidney injury. Kidney Int, Suppl 2, 1-138 (2012) Ronco C, et al :Cardiorenal syndrome type 1 : pathophysiological crosstalk leading to combined heart and kidney dysfunction in the setting of acutely decompensated heart failure. J Am Coll Cardiol, 60, 1031-1042 (2012) Inohara T, et al : Prognostic impact of renal dysfunction does not differ according to the clinical profiles of patients : Insight from the acute decompensated heart failure syndromes (ATTEND) registry. PLOS ONE, (2014) (in press) (1169) CLINICIAN Ê14 NO. 634 55 十分な水分摂取 容量負荷 利尿薬 限外濾過 1) 2) 3) 4) 高 血圧 低 急性 非代償状態 至適状態 容量不足 有効循環血液量不足 過剰 体液バランス 不足 高血圧 末梢浮腫 酸素化障害 臓器うっ血 腎障害 低血圧 頻脈 臓器低灌流 乏尿 治療域 心腎症候群危険度 心腎の病態のバランスによって決まる治療域 (文献3より一部改変)
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